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第三話 事業を手放しておきました
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「離婚についてのことは法律家の方を交えてお話しましょうね。大丈夫ですわ、旦那様の希望通りになるでしょう。それよりも旦那様にいくつか報告しないといけないことがあるんですのよ」
あ、先にお食事にいたしますか? 気づかなくてごめんなさいね、と妻はどうしましょうというように両手で頬を挟んでいる。
済ませてきたからいい、と首を振ると、そうですか、とにこっと子供のようにあどけない笑顔を見せた。
「旦那様がお帰りにならない間、赤字になっていた事業を含めて、いくつかのものを売却いたしましたの。おかげでこの伯爵家の収入は、足を引っ張られていた事業から解き放たれて、上向きになっておりますわ」
「それはいい。よくやってくれた、ありがとう」
結婚して最初にしたことは、ローデリアに伯爵領の仕事を仕込むことだった。
元々数字に強かったこの妻は、すぐに仕事を覚え、どんどんと斬新な意見とアイディアを出し、伯爵夫人として采配を振るってくれた。
そのおかげで自分は安心して任せて出かけることができるようになったものだった。
「ところで、何の事業を手放したんだ?」
「水道事業と塩と酒の事業と直接領の耕作権ですね」
「なんだと、水道は手放してはダメだ!!」
彼女がこともなげに言った内容に驚いて、思わず立ち上がった。
そして執事に命じて、帳簿を持ってこいと命じた。
執事がなぜか動かず、もう一度命じようとしたところローデリアが「旦那様のおっしゃる通りに」と言うと、ようやく執務室に取りに行く。どうしたのだろう、耳が悪くなったのだろうか。
はっきりいって水道事業は儲からない。儲からないからこそ、領主である伯爵家がしなければいけないことだった。
落札した商人が儲からないと撤退した後に、整備されなくなった水道をもう一度維持管理するのは至難の業だ。朽ち果てた水道管の配置からを一からやり直しになったりしたら、膨大な金がまたかかるのだ。
かといって放置するわけにはいかない。水は人間が生きる上で絶対に必要なものだからだ。
その事は、テロドア侯爵である父から伯爵領を引き継ぐ時に、しつこいほど念を押されたものだった。
「なんでそんな勝手なことをしたんだ!」
「だって旦那様は私に一任してくださったじゃないですか。相談しようにも旦那様はお帰りにならないし」
ころころと笑う妻は、事の重大さがわかってないと頭を抱えたくなった。
「私は伯爵代理として委任された身ですから。旦那様がいない時にはなんでもできちゃうんですよ? ご安心ください。ちゃんと正しく入札にして、そして一番高くお金を払ってくれたところにお任せいたしましたから」
帳簿を確認するが、相場より高い値段で販売しているのにはほっとした。
しかし、落札している事業者の名前がまるで知らないところなので、大丈夫なのだろうか、と不安になる。
「とりあえず、ここから買い戻すようにしろ。いや、赤字経営で音を上げてから買い戻す方が得策かもしれないな……」
「水道事業など、放置でよいではないですか。旦那様は私に教えてくださいましたよね。大事なのは貴族の誇りである、と。旦那様は平民のことはお嫌いのようですから、粉引き用の水車も潰して、領民の私有地の区画整理を執り行ってる最中ですの」
「なんでそんなことをしているんだ?! 暴動が起きたらどうする」
「だって、旦那様には不要だったようですから。暴動なんか起きても大丈夫ですよね?」
「そんなわけはないだろう!?」
「私、知ってるんですのよ。旦那様は、このおうちが嫌いなのですよね? だから考えました。貴族である旦那様は大嫌いなこのうちから離れ、そしてお嫌いなお仕事もしないですむ方法を」
ローデリアは無邪気に笑っていた。
「私が、このおうちも、旦那様のお仕事も、もらってあげることにしましたの。喜んでくださいましね、旦那様」
あ、先にお食事にいたしますか? 気づかなくてごめんなさいね、と妻はどうしましょうというように両手で頬を挟んでいる。
済ませてきたからいい、と首を振ると、そうですか、とにこっと子供のようにあどけない笑顔を見せた。
「旦那様がお帰りにならない間、赤字になっていた事業を含めて、いくつかのものを売却いたしましたの。おかげでこの伯爵家の収入は、足を引っ張られていた事業から解き放たれて、上向きになっておりますわ」
「それはいい。よくやってくれた、ありがとう」
結婚して最初にしたことは、ローデリアに伯爵領の仕事を仕込むことだった。
元々数字に強かったこの妻は、すぐに仕事を覚え、どんどんと斬新な意見とアイディアを出し、伯爵夫人として采配を振るってくれた。
そのおかげで自分は安心して任せて出かけることができるようになったものだった。
「ところで、何の事業を手放したんだ?」
「水道事業と塩と酒の事業と直接領の耕作権ですね」
「なんだと、水道は手放してはダメだ!!」
彼女がこともなげに言った内容に驚いて、思わず立ち上がった。
そして執事に命じて、帳簿を持ってこいと命じた。
執事がなぜか動かず、もう一度命じようとしたところローデリアが「旦那様のおっしゃる通りに」と言うと、ようやく執務室に取りに行く。どうしたのだろう、耳が悪くなったのだろうか。
はっきりいって水道事業は儲からない。儲からないからこそ、領主である伯爵家がしなければいけないことだった。
落札した商人が儲からないと撤退した後に、整備されなくなった水道をもう一度維持管理するのは至難の業だ。朽ち果てた水道管の配置からを一からやり直しになったりしたら、膨大な金がまたかかるのだ。
かといって放置するわけにはいかない。水は人間が生きる上で絶対に必要なものだからだ。
その事は、テロドア侯爵である父から伯爵領を引き継ぐ時に、しつこいほど念を押されたものだった。
「なんでそんな勝手なことをしたんだ!」
「だって旦那様は私に一任してくださったじゃないですか。相談しようにも旦那様はお帰りにならないし」
ころころと笑う妻は、事の重大さがわかってないと頭を抱えたくなった。
「私は伯爵代理として委任された身ですから。旦那様がいない時にはなんでもできちゃうんですよ? ご安心ください。ちゃんと正しく入札にして、そして一番高くお金を払ってくれたところにお任せいたしましたから」
帳簿を確認するが、相場より高い値段で販売しているのにはほっとした。
しかし、落札している事業者の名前がまるで知らないところなので、大丈夫なのだろうか、と不安になる。
「とりあえず、ここから買い戻すようにしろ。いや、赤字経営で音を上げてから買い戻す方が得策かもしれないな……」
「水道事業など、放置でよいではないですか。旦那様は私に教えてくださいましたよね。大事なのは貴族の誇りである、と。旦那様は平民のことはお嫌いのようですから、粉引き用の水車も潰して、領民の私有地の区画整理を執り行ってる最中ですの」
「なんでそんなことをしているんだ?! 暴動が起きたらどうする」
「だって、旦那様には不要だったようですから。暴動なんか起きても大丈夫ですよね?」
「そんなわけはないだろう!?」
「私、知ってるんですのよ。旦那様は、このおうちが嫌いなのですよね? だから考えました。貴族である旦那様は大嫌いなこのうちから離れ、そしてお嫌いなお仕事もしないですむ方法を」
ローデリアは無邪気に笑っていた。
「私が、このおうちも、旦那様のお仕事も、もらってあげることにしましたの。喜んでくださいましね、旦那様」
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