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14 俺ってそうなの!?

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「なんかこいつ相手に計画がどーとか、あの方とか言ってたけど、お前、わかってたの?」

 縛り上げた相手を植え込みの陰に隠しながらセンシが質問をすれば、ローレルは首を振る。

「いや、さっぱりわかってねーよ。でも計画とかこんな中を歩けているとかっていう言い方から、ここを普通に歩けるのは特別なんだろー。それならやっぱ魔術師関与してんだろーなって思ったから魔術師のふりして、私兵ならトップダウンだろうから偉そうにして逆ギレしたら勝手に相手がへりくだった」

 思わせぶりにしたら、いい感じに想像してくれたみたいだけど、俺のこと、誰と思ってんのかわかんねー、と笑うローレルに、センシは呆れた顔をしていたが、その度胸の良さに内心舌を巻いていた。

 しかし、迂闊に褒めすぎればこの護衛対象は調子にのって、もっと危ない橋を渡るかもしれない。

「そうか。偉い偉い」

 だからそう、どうでもよさそうに褒めておくにとどめることにした。

「もっと褒めろよー」
 
 そんなセンシの態度にローレルは口を尖らせる。その顔は、まだ十代の少年だった。

 歩きながらセンシは、そういえば、と首を傾げる。

「でもこんな中を歩けるってどういう意味だ? 俺も普通に歩けてるだろ? なんかそれって偉いの?」

 どんな魔術がかかっているんだ? と不思議そうなセンシにローレルは何を当たり前なことを、という顔をしている。

「お前魔力に耐性あるじゃん。アリクもだけど」

「え、そうだったの!?」

 驚きの顔を見せるセンシにローレルの方が驚いた。

「知らなかったのか? だから俺の護衛に選ばれたんだと思ってたんだけど。お前、外国人かハーフかなんかだろ? 純粋なこの国の人間じゃないだろ?」

 亜麻色や金色の髪が多い人間の中で、センシの黒い髪と瞳の色を見ればきっと南の方の血が混じっているんだろうな、とは思っていた。
 そこはそれ、繊細な話題になりそうで今まで聞かずにいたのもあったし、忘れていたというのもあった。

 しかしセンシの態度はローレルの思いやりが不要なものと思わせた。

「俺ってそうなの!?」

 と、なぜか目を見開いて全力で驚いている。

「なんでお前が驚いてんだよ!」

「いや、マジで知らねえし」

「じゃ、先祖返りかなんかか? 珍しいよな」

 俺ってすげーと自分に感心しているセンシに、今度はローレルの方が面倒くさくなって、はいはい、といなす。
 そして不意に真面目な顔をして周囲を見渡した。

「魔術がしかけられた陣がどこかにあるんだよ。いわゆる空気に触れるような場所でないと発動できないから、素人が見ても変な模様がいきなりあるなぁって感じにそれってわかるはずなんだけど……問題は探すエリアが無駄に広すぎるんだよな、王宮ここが」

 核となる陣を置くとしたらどこが適しているのだろう。
 こういうのは人海戦術であたるのがいいだろうけれど、人手が足りない分、可能性が高いところを推理して、当たりをつけていくしかないだろう。

 しかし。

「あー、頭いてぇ……」

「大丈夫か?」

 普段だったらもうとっくに寝ている時間だ。先ほど少し休んだとはいえ、肉体労働をこなし、接客業をこなした後にこれだ。今日は徹夜作業だろう。
 緊張感で眠くはないが、疲労はひどく、頭も体も重かった。そんなローレルを、センシは心配そうに見つめる。

「俺はこの姿だったら仲間と思われてるだろうから、ちょっと様子見がてら見回りをしてくるよ。お前はさっきの馬小屋で寝てろ。その恰好なら万が一そこで見つかっても侍女が閉じ込められているって思われるだけだろうしさ」

「んー、わかった」
 
 センシはローレルが素直に馬小屋の方に戻っていくのを見送ってから、まるで影に溶け込むかのようにそこから去っていく。

 庭園内を警戒している人間は、王宮から逆方面になる馬小屋周囲はあまり警戒していない。
 元々馬小屋は臭うので王宮から遠い場所に存在している。
 だからこそ、この辺りは人がいなくて、皆が当たり前のように通過していくのだ。
 無力化の魔法陣が完璧であればあるほど油断が強くなり、庭園は見晴らしもいいため、ここに人を配置する必要がない。それがわかったため逆手にとって、ローレルたちは陣取っていたのだが。

 ――だからこそ、ローレルも油断してしまったようだった。

「むぐぅっ!」

 唐突に誰かに後ろから抱き着かれ、片手で口を塞がれる。

 センシを呼ぼうにも別行動を始めたばかりなので、彼がどこに行ったかもわからない。それどころか大騒ぎをして他の敵も来たら万事休すだ。

 体を抱きかかえられて抱きしめられ、ローレルはまるっきり身動きが取れなくなった。

 自分が男だと思われているのか、女だと思われているのか、そのどちらかで問題が変わる。

 女だと思われていて乱暴目的ならまだしも、男だと分かっての行為なら、自分が王子だとばれている可能性があるわけだから、相手を殺す勢いで抵抗しなくてはならない。

 どうしよう、と残り少ない魔力を振り絞るべきか、一瞬迷った。

 その時、どこかで嗅ぎなれた男物の香水の匂いがただよい、同時に聞き覚えのある声が聞こえた。

「落ち着いてください、殿下! 私です!」

 その声は……。

「アリク!?」

 どうやら正解は、男でも女でもなく、「ローレルだ」と思われていたようだ――。

 ローレルは首を振ってアリクを睨みつける。

「~~~お前~~~っ よくも……っ!!」

 ここで会ったが百年目。状況も考えずにアリクに対して奪われた金と髪の毛の怒りをあらわにしようとしたが。

「静かにしてください!」

 アリクはまたローレルの口を手でふさぐ。
 顔の下半分をがぼっとその手でわし掴みにされれば、ほとんどアイアンクロー状態だ。鼻と口を覆われているためローレルは息がしにくいがアリクも必死なため、呼吸を断っていることに気づいていない。
 しーっ、しーっと言ってるのに対して、死の恐怖を感じていたローレルは慌てて頷き、ようやく無駄な抵抗を諦めた。

「ぷはっ……はーっはーっ……お前、意外と力強いんだな……」

 手を離してもらっても頬骨の辺りがまだじんじんしている。ローレルは恨めしそうな目でアリクを睨んだ。

「すみません、必死だったもので……」

 アリクの眼鏡の下のハシバミ色の目が困ったような色を湛えていたが、とりあえず怒るのは後回しだ。

「いいから、こっちにこい。話を聞く」

 ローレルは無言でアリクの先に立って歩き、馬小屋の中に引き込んだ。
 しかし、ずっとローレルが黙ったままであるのを不安に思ったのか、アリクの方がおそるおそる話しかけてくる。

「殿下、どうされたんですか? 何を考えてるんですか?」

「……いや、女の子が手籠めにされるの当たり前だなって……」

「は?」

「男の俺でも力でお前を振りほどけなかったんだぜ? 大人の男が本気で女の子を襲おうとしたら絶対抵抗できねーよ……。俺、今度から女の子の味方するわ。男ってサイテー」

「……この状況でそんな呑気な感想出してくるの貴方くらいですよ」

 頭痛をこらえたような顔をしたアリクは、眼鏡を外すと目頭をもんでいた。
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