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3 お供えして

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「ほら、配膳手伝って!」
「はぁい……」

 わざとこんこんを腕に抱っこしたまま食事の席に行ったのに、やはりお母さんはこんこんをスルーしている。
 やはり見えてないのだ、と確信した。
 こんこんを片手で抱えて、お箸やお茶碗を運んでいるので手伝いをしにくい。そっとこんこんを床の上におけば、こんこんは、興味深そうに部屋の中を歩き始めた。
 そのうちテーブルに飛び乗ったかと思えば、その上の食器の合間を上手に歩きまわり、再度、床に飛び下りてキッチンの方に行ってしまった。
 友達の家の猫のように、棚の上においてあるグラスや調味料をけ倒して歩いたりしないのを賢いなぁ、器用だなぁと感心して見守ってしまった。

 そういえば、こんこんは何食べるんだろう……餌には何をあげたらいいのかな、と思っていたら戻ってきて、テーブルの上にのると、しっぽを立てたまま、くるくる、くるくると回っている。
 何をしているんだろうと思いつつ見ていたら、こんこんは納豆パックが気になるのか、しきりに白い発泡スチロールを叩いている。

「こんこん、食べたいの?」

 こんこんのために納豆を1パック開いてあげたけれど、こんこんは困ったように「みぅー」とまるで猫のように小さく鳴きながら雄介をつぶらな瞳で見ている。

(オソナエシテ!オソナエシテ!)

 ふわりと妙な風のようなものがこんこんから出ている。
 しかし、その音の意味がわからない。

「おそなえって……お供え?」

 どういう意味だろう。
 こんこんはもどかしそうに、雄介を見るだけだ。

「雄介、どうしたの?」
「あ、うん……」

 お母さんはけげんそうな顔をして納豆を開いたきり動かない雄介を見ている。
 こんこんがどうしてほしいのか、雄介にはわからない。
 こんこんが可哀想で申し訳なくなってきて、雄介は泣きたい気分になった。しかし、雄介がなんとかするしかない。お母さんにはこんこんが見えないみたいなのだから。

 お供え……。

 雄介の通っていた幼稚園はミッション系で、小学生に上がっても日曜日に教会学校に通っていた時期がある。
 その礼拝の最後に献金の讃美歌を歌うのだが、その歌の中に捧げものをそなえるという言葉があった。

 つまり、神様にお供えしろということだろうか。
 納豆を? よりによって納豆を?
 ……よくわからないが、やってみればいいだけだ。

「神様、納豆をどうぞ」

 手を合わせて祈るポーズをとると、こんこんは嬉しそうにむー、と声を上げた。

 すると、納豆から青く光る何かがあらわれ、それはそのまますうっとこんこんの口元に入っていく。

「あら、食事のお祈りするなんて珍しいわね」

 わかっていないお母さんは、祈りのポーズをとっている雄介を見てニコニコしている。そして、お母さんもいただきます、と手を合わせると食べ始めた。

 一方雄介の方は「今のなに!?」と納豆パックを凝視していた。

 今の青い光はなんだろう。納豆を突っついても、それはいつもの納豆だ。
 
「どうしたの? 食べないの?」

 お母さんに言われるが、手の中の納豆を食べて平気かわからない。しかし、雄介はおそるおそるはしを持つ。そして一口納豆を食べてみるが、いつもと変わらない気がする。

 こんこんを見れば、今度は興味深そうにとんかつやご飯などを見ている。


「ぼ、僕のご飯もお供えします……」

 そう手を合わせて口の中でもごもごと言ったので、きっと外目からは「いただきます」と言ってるように思えただろう。

 こんこんは嬉しそうに、また食べ物から出て来た青い光を吸っている。

 味噌汁から食べ始めたけれど、その味はいつも通りのお母さんのご飯の味だった。
 そのとんかつは肉が分厚く下味がしっかりしているから、ソースをかけずにレモンだけかけるのが雄介の好みだ。
 じゅわっと染み出る脂をキャベツの千切りと一緒に食べる。
 その千切りはお店で食べるものよりいささか太めでごわごわしてて噛み応えがあるし、お母さんの味噌汁は色々な野菜がこれでもかと入っていて汁が少なくて、しょっぱめだ。

 間違いなく、変わらない我が家の味。

 ……さっきのはなんだったのだろう。

 食べ物から何かが出るなんて初めて見た。でも、大事なことはそのことではないと思う。

「こんこん、おなかいっぱいになった?」
「ぬぅ?」

 雄介はこんこんの丸っこい体をぎゅっと抱きしめた。ほにょっとしてて暖かくて、毛並みが頬に触れるとすべすべして心地よい。こうしてみれば、普通の動物のようなのに。

 でも、こんこんは変わっている。

 どこか違うということは、明らかだった。
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