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第一章

第十六話 後日談

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――その後。

 異世界での能力は、相変わらず使うことができるというメリットを最大限まで活かし、スティアが俺の名前で働きだした。
 本当のところは買いそろえたパソコンの能力を引き出し、それに働かせているのだけれど。電気代もものすごいけれど、収入がそれを格段に上回っている。
 お金ならあげるから傍にいてほしい、と駄目人間製造的なことを言われたけれど、彼のヒモのようになるのも嫌だったので、それならとスティアの仕事で、機械ではできない対人部分を俺が引き受けることにした。
 俺の負担はかなり低いのだけれど、スティアはスティアでその事に感じるものがあったらしい。

「ボク、機械のために世界を変えようと思っていました……でも、人と機械、一緒に生きることの方が大事なんですね」

 そうしんみりと言われた。

「誰かと一緒にいることを知らなかったから、あんなことに手を貸したのだけれど」

 そういうと、俺に抱き着いてきて、今はもう大丈夫だと笑う。
 彼がいなくなった双銀の鎮魂歌。あの世界はあれからどうなったのだろう。あの小説を二度と開くこともなく、アニメも見ることがなくなったのでわからない。

「蒼一郎、これなんですか?」
「毎日頑張っているスティアにご褒美。今日からうちの仲間だよ」

 部屋の端に鎮座しているのは届いたばかりの新しいマッサージ機だ。
 あの日、高すぎて買えないと思ったものを、まさか買う日が来るなんて。買えるということより、買おうという発想自体がなかった。
 スティアのおかげで家電=家族の発想になっているのだ。

「えっと……貴方の名前はルピナス、でいいかな?」

 スティアが嬉しそうに、設置されたマッサージ機を撫でまわしている。
 製品名をそのまま名前にするネーミングセンスを咎める人はこの家にはいない。
 さっそく、彼がビィ……と歌を歌えば、電源ボタンを押していないのに、それは勝手に起動を始める。

 スティアと過ごし始めて学んだこと。
 スティアの能力は機械に命を吹き込むようなもの、に近いらしい。
 スティアの力を借りたら、機械の性能はとてもよくなるし、それに壊れ始めた時とかに便利で、調子が悪くなると自己申告してくれるから修理するのも楽だったりする。

 元の能力を基本とし、それを上回る力や体を与えたりすることも可能だ。
 歌で操ったものがスティアの意志に忠実なのは、機械がスティアのことを愛しているから。
 好きな相手に優しくする気持ちはわかる。
 それに近い形で、機械たちは俺の言うこともきいてくれる。
 それはスティアが俺を信じてくれているので、スティアの味方なら大丈夫だろうという関係になっているようだ。
 おかげで家中の家電製品はことごとくスティアを通して、俺のお友達だ。

「じゃあ、さっそく【調整】しないとね。スティアはまず座ろうか。……ルピナス、スティアの背中のマッサージしてあげて?……どう?痛くない?」

 ルピナスにスティアを座らせれば、今買える最高モデルだけあって、スティアの小柄な体がすっぽりと黒いマッサージ機に入り込んでしまう。
 凝り具合や筋肉の柔らかさなどを覚えて、人に合わせて調整が効くという賢いマッサージ機だ。
 まだ若いスティアがマッサージ機にお世話になる必要はないかもしれないが、この先とても必要になっていくだろう。
 マッサージチェアに座ったスティアに覆いかぶさるように自分も乗り込むと、スティアの服の前ボタンを、ぷつん、ぷつん、と外していく。
 二人の人間が乗っかっているが、この製品の耐重量は120キロ近く。余裕で受け止められるはずだ。

「スティアは、背筋のすぐ脇と、あと、脇の下のところが感じるんだよ……。ルピナスはスティアの背中の愛撫をよろしくね」

 何気ない顔をして、彼の服をそのまま脱がしていく。ズボンのボタンを外してチャックを下ろして。下着越しに弱い箇所にキスをして、ルピナスにレクチャーをしていく。

「蒼一郎? 何をしてるんです?」

 きっとスティアは何をされているのかわからないだろう。そしてその目的も。
 ルピナスはスティアの足を掴むと、それを開かせるようにして、まるで産婦人科の診察椅子のような形をとる。
 こういう応用もできるんだ、と感心しながら、スティアのとらされているいやらしい格好を見つめた。

「え? え!?」

 困惑しているスティアに、とてもいい笑顔を浮かべてみせる。

「前に俺にルンバを使ったことあったよね。お返しだよ。……大丈夫。俺以外にスティアを抱かせるつもりないし、機械姦でも許さない」

 賢いルピナスは、スティアのこの行動は喜んでいるのだと判断しているようで、俺の命令にも諾々と従ってくれる。
 スティアが本当にイヤだったら彼の命令の方が上なのだから、ルピナスに命じればいいのに、そうしないということは、そういうことなのだろう。
 もっとも、そんな余計なことを言うスティアの唇は、唇でふさぐのだけれど。
 オロオロしているように足元でくるくる回っているルンバには、安心させるように微笑みかけて。

「大丈夫だよ。みんなにスティアは愛されているけれど、俺が一番スティアが好きなのだから」
「当たり前です……っ」

 愛されていることを当たり前と思っているスティア。そのことが彼が過去を払拭していると察せて、意地悪からではなく心の底から喜びの笑いが沸き上がった。

「さぁて、さっそく気持ちいいことしようか~」
「蒼一郎のおバカ~っ ああん、やぁ……っ」

 彼の潤んだ目は欲を浮かべていて、そして俺のお仕置きを本気で嫌がっていないのがわかる表情で。それから俺も恋人に愛されていることを実感する。

 君に出会えて、こうして側にいられるだけで、もう何もいらない。


 ――ああ、幸せだ。神様どうもありがとう。





(了)
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