【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません

すだもみぢ

文字の大きさ
上 下
8 / 15

第八話 悪女はどちらかしら

しおりを挟む
「お兄様はどちらからそのお話を聞いてきたんですか?」
「マルスに訊かれたんだよ! 俺も初耳だったんだけれど」
「……お父様、本当に私が婚約破棄されてたことを、誰にも黙っててくれていたのですね」

 のんびりと私が言うと、え?そうなの?と兄が慌てている。

「父様には話してて、なんで俺に教えてくれなかったんだよ。母様は知ってるのか?! しかも、セリス殿下が男爵令嬢と恋仲で、彼女が王太子妃になるってのは……」
「そちらも本当ですよ。あとお母様は多分ご存知ないでしょう」

 マルスというのはお兄様とお友達の、ティモシー侯爵の長男のお名前だったような。兄の友人で何度か家にまでお越しいただいたような気もするが家名と名前くらいしかわからず、人となりはさっぱり覚えていない

 まず市井の方から噂が流れるように操作をしたのだけれど、もう貴族の方にも話しが伝わったのか。
 我が家のメイドに命じて下流貴族の家のメイドに話すようには仕向けていたけれど、ティモシー侯爵の家に繋がりのあるメイドはいないはずだから、あっという間に伝播したと思った方がよさそうだ。

 噂が流れるのが思ったより順調のようだ。
元々貴族社会は噂が流れるのが早いし、いい意味でも悪い意味でも有名人である私とエレーナ嬢が話の中心なのだから、話題性はばっちりだったのだろう。



 セリス様とエレーナ様のことが、遅かれ早かれ噂になるだろうことは、セリス様から二人の出会いを伺ったあの日から見えていた。
 二人の最初の出会いだったという森での狩猟。
 狩猟は危険なので一人では行われない。二人の出会いには目撃者がいたはずなのだ。
 セリス様とエレーナ嬢の関係が流れ始めた頃、ダリオ男爵に経済的な制裁を与えると同時に、こちらからも用意をしていた噂を流し始めた。

 セリス殿下は心変わりをされて、あんなに仲がよろしかったラナ公爵令嬢を捨てて王太子妃にエレーナ男爵令嬢を迎えるようだ。
 エレーナ男爵令嬢は王太子妃の座を狙っていて、ラナ公爵令嬢を追い落とそうとしている悪女である。
 ダリオ男爵家はエレーナ男爵令嬢のセリス殿下からの寵愛を受けていることを嵩に、ガリータ公爵にも失礼なことをしている。
 心労がたたりラナ公爵令嬢は今、家に引きこもって病に伏せっているようだ……などなど。 

 
 徹底してラナ公爵令嬢可哀想、セリス様がひどい、というところをとにかくアピールしている。
 一度流れた噂を押さえることはできないし、それなら逆に利用して世論をこちらに味方をつければいい。
 エレーナ様の評判よりむしろ、セリス様の評判を徹底的に落とすのが目的だ。


 ヒントはクロード様が既に与えてくれていたから、大物を釣り上げるために餌を撒く。
 この餌に食いつかせるターゲットはただ一人だけ。
 それを待つために、罠を仕掛けていくのだ。

 まったく……。
 エレーナ嬢を悪女としているけれど、悪女はいったいどちらなのだろうと我ながら思ってしまう。

 しかし、権力だけでなく言葉の力も含めて、力は使うべき時に使わないと意味がないのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。

五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」 婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。 愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー? それって最高じゃないですか。 ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。 この作品は 「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。 どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜

早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。

妾を正妃にするから婚約破棄してくれないかと言われました。

五月ふう
恋愛
妾を正妃にしたいから、婚約破棄してくれないか?王は、身を粉にして王のために働いていたウィリにそう言った。ウィリには、もう帰る場所がないのに。

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子
恋愛
 貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。  彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。  「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。  登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。   ※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

処理中です...