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第十二話 脅されている?

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「僕の方も調べてみたのだけれど、なんでリンダのパパがヘンリーなんかと婚約したのか、明確な理由がわからないんだよな」

 調査書なのだろうか。先ほどとは違った紙切れを取り出して、ロナードが唇をへの字に曲げている。
 自分と同い年だというのに色々な事業を打ち立て、商社を運営しているロナードは、人脈もそれを扱う能力も自分と一線を画していて、どこか遠い存在にも見えてくるのに。
 体を前後にゆーらゆーらと揺らし、考え込む時の癖は子供の時のままだ。

「マルタス侯爵家って元々そんな目立った実績もないし、持ってる事業のための提携もそれほど大規模ではない。元々、侯爵がそんな野心的な性格ではないしさ。アナルトー家からしたら侯爵家の家格くらいしか旨味がない。そこで思ったんだが……君の父親、もしかして脅されているんじゃないか?」

 真剣な顔をしていうロナードに、その発想はなかったと驚きに息をのんだ。

「脅迫……確かにうちの父は目的のためには少々強引なことをする人だから、その可能性はあるわね」
「調べれば調べるほど、おかしいからそういう風にしか思えなくて」

 そういうと、はぁ、とロナードはため息をつく。

「言っちゃなんだけどさ、リンダって僕らの年代の男子には結婚相手として人気あったわけよ。アナルトー伯爵家自体の序列も上位、しかもあと数年したら筆頭になれるだろうと目されている勢いのある家だしさ。父親は宮中でも有力者だし、跡継ぎである君の兄も優秀。それだけでも縁を繋ぎたい美味しい存在なんだよ。それだけでなく、伯爵令嬢本人だって友人の欲目を差っ引いても、顔立ちだって悪くないし、頭もいいし、気立てもいいし、なにより健康。そんな優良物件な娘を持ってて、やり手のはずのリンダのパパさんはなんでよりによってあんな不良債権掴むんだ? 婿を見る目がないとしても、政略結婚させるならもっといいとこあるでしょ」

 欲目を差っ引いてと言いながらも、壮絶に曇っている気がしないでもないが、褒められるのは悪い気はしない。言うべきか迷いつつも、少しは情報になるだろうかと思い切って口を開いた。

「あのね……もしかしたら、なのだけれど、私のお父様の趣味が関わっているかもしれないのよねえ……前、言ってたのとはちょっと違う形かもしれないのだけれど」
「趣味? どんな?」
「……ちょっと、人には言いにくい趣味」

 ごめんなさい、やはりやっぱり言えなくて口を濁してしまう。
 それを聞いてますます怪しんだのか、ロナードは顔をしかめている。

「え、もしかして誰かを拷問して、その泣きわめくのを聞くのが趣味だとか?」
「なんでそうなるのよ! そんなわけないでしょ!」
「実はロリコンで美少女や美幼女を誘拐してくるとか……」
「それも違うから! 単なる物のコレクターだから!」

 誰かに迷惑をかけるような趣味ではない、とそこだけは頑強に否定すれば「なーんだ」と気の抜けるような声が聞こえた。

「それならいいんじゃない? 人を困らせない趣味なら」

 興味をなくしたようなロナードの様子に、アレックスも追従するかのように頷いた。

「人に言えない趣味なんてどうせエロかグロかのどっちかだろ。別に言わなくてもいいぞ」

 当たっている。エロの方に入る趣味だろう。実際のところ、そういうのに不慣れなリンダ視点からしたら、あまりにもどぎついのはグロにも見えてしまうのだけれど。

「となったら、結婚はもしかしたら同好の士の結束を強めるためとか、そういう線もあるかもな」
「そうね、しかもお父様の人の耳を憚るようなその趣味でも、お父様はその界隈では第一人者らしいの。お母様から聞いたのだけれどね」
「つまり君のその情報は、リンダのママさんから聞いていると?」
「ええ、父の趣味を私が知ってることは、父には内緒よ」

 私が頷きながらそういうと、ロナードはふんふん、と頷いている。

「じゃあさ、君のパパの趣味は、とある物のコレクターってことだったよね。なんか1つ持ち出せない?」
「どうだろ……無理じゃないかな」

 物を持ちだしてバレたら、真っ先に疑われるのは母だろうし、家族しか知らない秘密の部屋から盗難なんて疑ってくれと言っているようなものだ。

「じゃあ、銘が入っているものはある? 名前、形状……そんな感じで特徴的なもの」
「あ、それならあるわね」

 絵や本ばかりのコレクションなのだから、タイトルや名前が入っている。それでいいのではないだろうか。
 絵の内容については訊いてこないでほしいものだ。 

「なら、いくつか目ぼしいものの形、大きさ、名前やタイトル、作者とかを調べてきてくれないか?」
「いいけど、どうするの?」
「オークションにかけよう。アナルトー伯爵家のコレクションの一部を」

 ……またもや自分の予想を越えるような言葉が出てきた。
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