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33話 皆が期待するハワード・ロック
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「! てめぇ、ちょっとは空気読めよ!」
ここで出てくんのか、あの野郎! くそ、ネロ!
『当然出てくるとも。完全なる形に作り上げた芸術、それを破壊する時こそが、もっとも美しく、儚い最高の瞬間なのだから』
急いでネロに手を伸ばしたが、遅かったぜ。
ネロの背後に人影が浮かぶなり、腕が胴を貫いた。腹を貫通されたネロは、そのまま倒れちまう。
「ね、ネロぉっ!」
「怪我人は黙ってろ、俺が行く! ブレイズ、そいつら守ってろ!」
「え、ええ!」
くそ、間に合え!
『大丈夫、もうこの子に用はない。抜け殻は喜んで返してあげよう』
ネロから腕を抜くなり、投げつけてきやがった。俺じゃなかったらキャッチ出来なかったぞこんにゃろ。
「ネロ、生きてるか? おい! 死んだら殺すぞこら!」
「せ、んせい……僕は、僕、は……なんて、事を……!」
息はあるな。それに、どうやら自分を取り戻したみてぇだ。でもって、威圧感も消えちまってる。
「どうりで威圧感が増したはずだ。ずっとてめぇが、後ろに居たんならな」
『君もやはり人の子か。かつての仲間が産んだ子供、疑いを向けられない情の深さ。それが君の弱点だよ、ハワード・ロック』
ネロから魔力を奪い取って、人影が実体化した。
長い銀髪に、全身黒のタイツヤロー。そして俺と同じ腕を持つ……俺が唯一苦戦した魔王。
『さぁ、我が名を呼んでくれたまえ。我が唯一認めた、最も美しき人間。ハワード・ロックよ』
「自己紹介くらい自分でしやがれ、だがそうだな、たまにはてめぇの遊びにつきあってやる。……久しぶりだな、ルシフェル」
やっとラスボスの登場だ、俺が魔界で出会い、右腕を奪った魔王、堕天魔王ルシフェル!
こいつが、この事件の全ての黒幕だ。
『おお……なんて、なんて麗しい響き! 君ほど強く、逞しき人間から紡がれるその言の葉全てが、私にとって福音たる物だ!』
「気持ち悪ぃんだよ、馬鹿。こっちはイラついてんだぜ? 俺を出し抜いて、散々っぱら暴れまわってよぉ。むかつくぜ、腹の底からな」
『これは失礼した。だが怒る君も素敵だ、マイステディ』
随分紳士的に手を振り、会釈をする。相変らず、キザな奴だ。
「ルシフェル……師匠が、倒した……魔王……」
『醜き弱者は黙ってもらおう』
カインに向けて槍を飛ばすか。そう言う所も変わってねぇな。って事でキャッチだ。
「気が早ぇよ、まずは水でも飲んで落ち着け。バイキングでいきなり肉料理山盛りにしてくんのは、マナー的にもどうかと思うしな!」
ルシフェルに高威力の水魔法をぶちかます。普通の魔物や魔王なら、一撃でバラバラになる魔法だ。
だが、奴には効かなかった。
『それは失礼した。しかし、随分と威力が低くはないかな? 普段の君なら、私の体を半壊させるだろうに』
水が無くなるなり、しれっと出てくるルシフェル。やっぱこいつは誤魔化せねぇか。
『もしや、思いのほか魔力を奪われているとか? 違うかい?』
「昨日飲みすぎて二日酔いなだけさ。ほっとけ」
ウィットにとんだジョークで隠しても、無理だよなぁ。
ネロに思った以上、持って行かれちまったからな。道中の戦闘をブレイズ達に任せてたのも、それが理由よ。
「先生、うち達に戦わせてた理由……そげなこつ……!」
『黙るがよい弱者。何度も言わせるな、我は醜い弱者が大嫌いなのだ』
今度はレヴィに攻撃する気か? おいおい勘弁してくれ。
「社会科見学に来た将来有望の学生だぜ、そんな目くじら立てんなよ!」
ルシフェルが攻撃する前に潰してやるか。じゃねぇとレヴィが死ぬからな。
「お前の相手は、俺がしてやる。お望み通りのワルツを踊ってやろうじゃねぇか、ルシフェル!」
『そうだ! そのために我は蘇ったのだよ、ハワード!』
俺とぶつかり合いながら、ルシフェルは語りまくったよ。自分が蘇った理由をな。
『君と戦い続けたあの一ヵ月、まるで夢のような幻想的な日々……あれは今でも、忘れられない! どんな魔王も、人間も! まともに我と切り結べる者はいなかった! 君だけが唯一なのだよ! 我が力に撃ち負けない、最高に強い存在は! だから我は望んだ、もう一度君と愛し合いたいと! だからやられる直前、影武者を出して逃れた。だが弱ったせいで、人間界に迷い込んでしまってね……だが、君は戻ってきた! 我にもう一度、会うために! なんと、なんと喜ばしい事か! 我が最愛の人と今一度出会えた、これほど喜ばしい物はないではないか!』
「はっ、随分と熱烈な告白してくるじゃねぇか。それが、ネロをそそのかした理由かよ」
『勿論だ! 我のためによく尽くしてくれたよ。何しろ君に負けて、校舎裏で泣いているのを見かけてねぇ。同じ君に負けた者だ、利用するのは至極容易い! 軽い言葉かけで簡単に乗ってくれたよ。力を渇望する、幼い子供を誘うのは一興ではあったね』
「……じゃ、ネロからてめぇを求めたってわけじゃねぇのか」
そう言う事だよな、カイン。言質は取ったぜ。
「少し気がかりな事があったんでな、その言葉が聞けて嬉しいよ。おかげで、心置きなく暴れる事が出来るぜ」
『それは良きことだ。さぁ、戦おうハワード! だがその前に、人間達には退場してもらいたいものだな。我は君と、永遠に戦い続けたいのだ。だから君と戦う前に、この世界の人類には、消えて貰わねばならない』
「おいおい! そりゃ極端じゃねぇか? 俺だけを狙えばいいだろう」
『いいや駄目だ! 戦いとは、アートでなければならない。限りなく無駄を削ぎ落し、極限まで磨き上げた、美の集大成! それこそが戦いという物なのだ!』
「だったらなんでネロを操った」
『勿論演出のためだ。すぐに結論で終わってしまっては美しくない、アートとはそこに至るまでの過程が重要なのだ! だがその過程が終わった今、余計な物は要らない。この世界には! 君と我のみが居て! 初めて美しいアートへと昇華するのだ! それが分からん君ではなかろう、ハワード・ロック!』
「ゴメン理解できねぇや。何しろ俺様は、もうとっくに綺麗なアートを手にしてるんでね。そいつに真っ黒な絵の具を重ね塗りされるのは、我慢ならねぇな」
残った力は、ちょっと分が悪いな。ただ、勝てないわけじゃねぇ。
必ず勝つさ、俺は。なぜって? 決まってんだろ。
「ってわけで、テメェらは邪魔だ。ここから先は……俺のプライベートタイムだ」
壁をぶっ壊して、脱出口を作る。旧勇者パーティは動けねぇだろうが、新勇者パーティならどうにかなるだろ。
「おいガキども、そこの老害達連れて脱出しろ。お前らならそいつら連れて行けるだろ?」
「なっ、先生!?」
「何を、しよっとか!?」
「決まってんだろ、鬼退治だ」
こいつの相手が出来るのは、俺しか居ねぇ。だったらお前らは、邪魔だ。
「師、匠……やめてくれ、これじゃ、昔と同じだ……また、貴方が……消えてしまう……! そんなの、俺……絶対、嫌だ! 嫌だ!」
「うるせぇな馬鹿弟子。ぴーぴー喚くな」
歳考えろカイン、てめぇはもう三十も後半だろ? 妻子持ちだろ? そいつがみっともなく泣くんじゃねぇよ。
「ハワード、さん……許さないから……また、私達を置いて、居なくなるなんて……!」
「僕達だって、あの頃のままじゃない、なのに……どうして、動けないんだ……!」
「あのな! なんで今生の別れみたいなことになってんだ? 大げさすぎんだよお前ら」
お前らがそうであるように、俺もあの頃のままじゃねぇ。むしろそん時よりも、遥かに強いぜ。俺もな!
「ブレイズ、ディジェ、レヴィ。言わなくても分かるよな。そんでもって、言わなくても分かってくれるよな。……ネロ、助けてやるぜ。お前から、全てのしがらみを取ってな」
「……先生……!」
「……行きましょう皆さん。私達は、邪魔だわ」
「離せ、ブレイズ……! 俺は、師匠を……師匠を!」
「大丈夫たい、皆さん。先生は、大丈夫でしゅ。だって、先生は先生やから」
「だけど……ハワードさん……!」
「くっそぉ……また、また僕達は……!」
「何言ってんだよ、親父。俺達のハワード先生は、絶対負けない。だから……」
『帰ってきて! 必ず! 皆の所へ!』
「おーよ、だから、大人しく待ってな。親愛なる家族ども」
今回は大人しく帰ってくれたな、それでいい。そうじゃなくちゃ、俺もガチでやりあえねぇ。
さぁて、気張るとするか。俺に期待してくれる連中のためにな。
『さぁ、邪魔者は居なくなったな。では、楽しもうじゃないか。我と君の、甘美なる舞踏会を!』
「うるせぇ、黙れよ」
言ったろ、勝てないわけじゃねぇって。勝つんだよ、俺は!
ルシフェルと二人だけの塔の中、前触れもなく始まるダンスパーティ。互いの身を切り、打ち砕き、魔法で激しく世界が揺れる、この世ならざる舞い。
何人たりとも割り込めねぇ激闘に、ルシフェルはご満悦のようだが……生憎俺はてめぇを楽しませるために踊ってるわけじゃねぇ。
『どうしたハワード、ステップが弛んでいるぞ! そぉら!』
「ぐはっ!」
とはいえ、やっぱこいつ、強ぇわ。俺の一瞬のスキを突いて喰らった、超火力の魔法攻撃。俺ですら意識が飛んで、全身が軋みを上げる。
その一撃をきっかけに、防戦一方になっちまう。やっぱ、ネロに奪われた分が響いているな。ちょっと苦しいぜ。あ、腰が落ちた。
『せやぁっ!』
体が脱力した瞬間に、重い一撃が入った。俺とした事が、無様に転がり、倒れちまう。
こりゃあ、久しぶりのピンチだな……体が、痛ぇや。ちょっと動くのも億劫だぜ。こんだけボロボロになったの、いつ以来だ?
へへ、けどなぁ……それでも俺、勝っちゃうんだよなぁ。だってよぉ、俺はよぉ……。
『やはり君と踊るのはとても楽しいな。それ故に分からない事がある。どうして君はそうまで他人のために戦う事が出来る? あの小僧を通して見ていたよ、君の暮らしぶりを。
普段の君は粗暴で、女ったらしで、金銭面もだらしのない、自分勝手な男にしか見えない。なのになぜ、そうまで他人を想う事が出来る。一体どっちが本当の君だ。あまりに自分勝手にふるまう君、人を慈しむ心を持つ君。どう考えても相反するだろう。それが全く、理解できないのだ』
「……何言ってんだよ、そこまできちんと見てんのに、どうして俺を、理解できてないのかねぇ」
もしかして、読者諸君も分かってないのかな。俺の事。
あのなぁ、そんな「お前はなんだ?」なんて哲学的な事ぐだぐだ聞くんじゃねぇよ。そんなに難しい事じゃねぇだろうが。
「そんなもん……俺がハワード・ロックだからに決まってんだろうが!」
俺は俺以外を表現できねぇ、読者諸君が見てきた全てが、俺の全てだ! それ以外の答えがあるのか? ねぇだろ!
「だから俺は、勝つんだよ。絶対無敵最強賢者に負けは許されねぇ。じゃねぇと、寂しがって泣き喚く奴らが居る。俺が俺であるために、あいつらの中の俺が、最高の俺であるために! 俺は最強の大賢者、ハワード・ロックで居なきゃならねぇんだ!」
感謝するぜ、読者諸君。お前らのお陰で、力が湧いてきた。
お前らも、負ける俺なんか見たくねぇよな? 勝ち続ける俺じゃないと、嫌だよな!
俺に期待してくれて、ここまで見続けてきたお前らも、もう一人の登場人物だ! 諸君の前では、カッコいい俺であり続けたいのさ!
「俺の表現する俺を期待している連中に、ダサい姿は見せられねぇし見せたくねぇ! だからよルシフェル……勝つぜ俺は! この魔王の右腕で……大事なモンを全部守り抜く! 一つたりともてめぇなんかにゃ渡さねぇ! 俺は……ハワードは! 世界一欲張りな男だからな!」
『ははははは! ならば我はそれ以上の欲張りだ、君を奪い、我がものとしよう! ハワード!』
遺言はそれでいいのか、ルシフェル。
もう次の一撃で、全部が終わるんだからな。
『さぁ、もっと踊ろう、もっと、もっとぉ!』
「残念だが、フィナーレだ」
魔王の右腕で、ルシフェルを刺し貫く。この右腕は、元々お前の物だろう?
なら、こういう使い方、出来るんじゃねぇか?
「お前の全てを、奪ってやる」
右腕に、魔王ルシフェルを吸収していく。封印じゃねぇ、同化でもねぇ。ルシフェルその物を、俺の力に取り込んでやるのさ。
こいつ自身の腕だからこそできる物。魔力の波長が合っているなら、こいつを魔力に変える事くらい、余裕だぜ。
『なっ、や、やめろ、やめろ!? 何をしているのだ、ハワード!?』
「喜べよ、お前の大好きな俺様の一部になるだけだ。言っただろ? 俺は世界一欲張りな男だとな! 殺すなんざ勿体ねぇ! お前を骨の髄まで喰らい尽くして……俺は勝つんだ! そして戻るんだ! 大事な家族が、待っている場所へ!」
あの時とは、俺も違う。
あの時俺は、力がなかった。カイン達と別れるしか、魔王を倒す方法が思い浮かばなかった。……守るべき人達に、無用な涙を流してしまった。
だからこそ、同じ過ちは繰り返さない。大切な人達の悲しむ涙なんか、見るのはごめんだ。見るならば、再会の喜びって涙を分かち合う方がいいだろう!
それが、俺が最強であり続ける理由なのだから!
『嫌だ、消えたくない、消えたくない! 我は、まだ、まだ! 踊り足りな、あ、ぁぁぁぁあぁぁ!』
「消えちまえ、過去の亡霊!」
ルシフェルの姿が消え去った。俺の中に溶けて、消滅したんだ。
「……どうだい、読者諸君。少しはお前らの期待に、応えられたかい?」
応えられてないと思った諸君にゃ、申し訳ねぇな。応えられたと思った諸君は、ありがとさん。これが、俺の表現する俺なんだ。
カッコ悪いのも、不格好なのも、不器用なのも。お前らが見てきた全ての俺をひっくるめて、ハワード・ロックってわけなのさ。
ここで出てくんのか、あの野郎! くそ、ネロ!
『当然出てくるとも。完全なる形に作り上げた芸術、それを破壊する時こそが、もっとも美しく、儚い最高の瞬間なのだから』
急いでネロに手を伸ばしたが、遅かったぜ。
ネロの背後に人影が浮かぶなり、腕が胴を貫いた。腹を貫通されたネロは、そのまま倒れちまう。
「ね、ネロぉっ!」
「怪我人は黙ってろ、俺が行く! ブレイズ、そいつら守ってろ!」
「え、ええ!」
くそ、間に合え!
『大丈夫、もうこの子に用はない。抜け殻は喜んで返してあげよう』
ネロから腕を抜くなり、投げつけてきやがった。俺じゃなかったらキャッチ出来なかったぞこんにゃろ。
「ネロ、生きてるか? おい! 死んだら殺すぞこら!」
「せ、んせい……僕は、僕、は……なんて、事を……!」
息はあるな。それに、どうやら自分を取り戻したみてぇだ。でもって、威圧感も消えちまってる。
「どうりで威圧感が増したはずだ。ずっとてめぇが、後ろに居たんならな」
『君もやはり人の子か。かつての仲間が産んだ子供、疑いを向けられない情の深さ。それが君の弱点だよ、ハワード・ロック』
ネロから魔力を奪い取って、人影が実体化した。
長い銀髪に、全身黒のタイツヤロー。そして俺と同じ腕を持つ……俺が唯一苦戦した魔王。
『さぁ、我が名を呼んでくれたまえ。我が唯一認めた、最も美しき人間。ハワード・ロックよ』
「自己紹介くらい自分でしやがれ、だがそうだな、たまにはてめぇの遊びにつきあってやる。……久しぶりだな、ルシフェル」
やっとラスボスの登場だ、俺が魔界で出会い、右腕を奪った魔王、堕天魔王ルシフェル!
こいつが、この事件の全ての黒幕だ。
『おお……なんて、なんて麗しい響き! 君ほど強く、逞しき人間から紡がれるその言の葉全てが、私にとって福音たる物だ!』
「気持ち悪ぃんだよ、馬鹿。こっちはイラついてんだぜ? 俺を出し抜いて、散々っぱら暴れまわってよぉ。むかつくぜ、腹の底からな」
『これは失礼した。だが怒る君も素敵だ、マイステディ』
随分紳士的に手を振り、会釈をする。相変らず、キザな奴だ。
「ルシフェル……師匠が、倒した……魔王……」
『醜き弱者は黙ってもらおう』
カインに向けて槍を飛ばすか。そう言う所も変わってねぇな。って事でキャッチだ。
「気が早ぇよ、まずは水でも飲んで落ち着け。バイキングでいきなり肉料理山盛りにしてくんのは、マナー的にもどうかと思うしな!」
ルシフェルに高威力の水魔法をぶちかます。普通の魔物や魔王なら、一撃でバラバラになる魔法だ。
だが、奴には効かなかった。
『それは失礼した。しかし、随分と威力が低くはないかな? 普段の君なら、私の体を半壊させるだろうに』
水が無くなるなり、しれっと出てくるルシフェル。やっぱこいつは誤魔化せねぇか。
『もしや、思いのほか魔力を奪われているとか? 違うかい?』
「昨日飲みすぎて二日酔いなだけさ。ほっとけ」
ウィットにとんだジョークで隠しても、無理だよなぁ。
ネロに思った以上、持って行かれちまったからな。道中の戦闘をブレイズ達に任せてたのも、それが理由よ。
「先生、うち達に戦わせてた理由……そげなこつ……!」
『黙るがよい弱者。何度も言わせるな、我は醜い弱者が大嫌いなのだ』
今度はレヴィに攻撃する気か? おいおい勘弁してくれ。
「社会科見学に来た将来有望の学生だぜ、そんな目くじら立てんなよ!」
ルシフェルが攻撃する前に潰してやるか。じゃねぇとレヴィが死ぬからな。
「お前の相手は、俺がしてやる。お望み通りのワルツを踊ってやろうじゃねぇか、ルシフェル!」
『そうだ! そのために我は蘇ったのだよ、ハワード!』
俺とぶつかり合いながら、ルシフェルは語りまくったよ。自分が蘇った理由をな。
『君と戦い続けたあの一ヵ月、まるで夢のような幻想的な日々……あれは今でも、忘れられない! どんな魔王も、人間も! まともに我と切り結べる者はいなかった! 君だけが唯一なのだよ! 我が力に撃ち負けない、最高に強い存在は! だから我は望んだ、もう一度君と愛し合いたいと! だからやられる直前、影武者を出して逃れた。だが弱ったせいで、人間界に迷い込んでしまってね……だが、君は戻ってきた! 我にもう一度、会うために! なんと、なんと喜ばしい事か! 我が最愛の人と今一度出会えた、これほど喜ばしい物はないではないか!』
「はっ、随分と熱烈な告白してくるじゃねぇか。それが、ネロをそそのかした理由かよ」
『勿論だ! 我のためによく尽くしてくれたよ。何しろ君に負けて、校舎裏で泣いているのを見かけてねぇ。同じ君に負けた者だ、利用するのは至極容易い! 軽い言葉かけで簡単に乗ってくれたよ。力を渇望する、幼い子供を誘うのは一興ではあったね』
「……じゃ、ネロからてめぇを求めたってわけじゃねぇのか」
そう言う事だよな、カイン。言質は取ったぜ。
「少し気がかりな事があったんでな、その言葉が聞けて嬉しいよ。おかげで、心置きなく暴れる事が出来るぜ」
『それは良きことだ。さぁ、戦おうハワード! だがその前に、人間達には退場してもらいたいものだな。我は君と、永遠に戦い続けたいのだ。だから君と戦う前に、この世界の人類には、消えて貰わねばならない』
「おいおい! そりゃ極端じゃねぇか? 俺だけを狙えばいいだろう」
『いいや駄目だ! 戦いとは、アートでなければならない。限りなく無駄を削ぎ落し、極限まで磨き上げた、美の集大成! それこそが戦いという物なのだ!』
「だったらなんでネロを操った」
『勿論演出のためだ。すぐに結論で終わってしまっては美しくない、アートとはそこに至るまでの過程が重要なのだ! だがその過程が終わった今、余計な物は要らない。この世界には! 君と我のみが居て! 初めて美しいアートへと昇華するのだ! それが分からん君ではなかろう、ハワード・ロック!』
「ゴメン理解できねぇや。何しろ俺様は、もうとっくに綺麗なアートを手にしてるんでね。そいつに真っ黒な絵の具を重ね塗りされるのは、我慢ならねぇな」
残った力は、ちょっと分が悪いな。ただ、勝てないわけじゃねぇ。
必ず勝つさ、俺は。なぜって? 決まってんだろ。
「ってわけで、テメェらは邪魔だ。ここから先は……俺のプライベートタイムだ」
壁をぶっ壊して、脱出口を作る。旧勇者パーティは動けねぇだろうが、新勇者パーティならどうにかなるだろ。
「おいガキども、そこの老害達連れて脱出しろ。お前らならそいつら連れて行けるだろ?」
「なっ、先生!?」
「何を、しよっとか!?」
「決まってんだろ、鬼退治だ」
こいつの相手が出来るのは、俺しか居ねぇ。だったらお前らは、邪魔だ。
「師、匠……やめてくれ、これじゃ、昔と同じだ……また、貴方が……消えてしまう……! そんなの、俺……絶対、嫌だ! 嫌だ!」
「うるせぇな馬鹿弟子。ぴーぴー喚くな」
歳考えろカイン、てめぇはもう三十も後半だろ? 妻子持ちだろ? そいつがみっともなく泣くんじゃねぇよ。
「ハワード、さん……許さないから……また、私達を置いて、居なくなるなんて……!」
「僕達だって、あの頃のままじゃない、なのに……どうして、動けないんだ……!」
「あのな! なんで今生の別れみたいなことになってんだ? 大げさすぎんだよお前ら」
お前らがそうであるように、俺もあの頃のままじゃねぇ。むしろそん時よりも、遥かに強いぜ。俺もな!
「ブレイズ、ディジェ、レヴィ。言わなくても分かるよな。そんでもって、言わなくても分かってくれるよな。……ネロ、助けてやるぜ。お前から、全てのしがらみを取ってな」
「……先生……!」
「……行きましょう皆さん。私達は、邪魔だわ」
「離せ、ブレイズ……! 俺は、師匠を……師匠を!」
「大丈夫たい、皆さん。先生は、大丈夫でしゅ。だって、先生は先生やから」
「だけど……ハワードさん……!」
「くっそぉ……また、また僕達は……!」
「何言ってんだよ、親父。俺達のハワード先生は、絶対負けない。だから……」
『帰ってきて! 必ず! 皆の所へ!』
「おーよ、だから、大人しく待ってな。親愛なる家族ども」
今回は大人しく帰ってくれたな、それでいい。そうじゃなくちゃ、俺もガチでやりあえねぇ。
さぁて、気張るとするか。俺に期待してくれる連中のためにな。
『さぁ、邪魔者は居なくなったな。では、楽しもうじゃないか。我と君の、甘美なる舞踏会を!』
「うるせぇ、黙れよ」
言ったろ、勝てないわけじゃねぇって。勝つんだよ、俺は!
ルシフェルと二人だけの塔の中、前触れもなく始まるダンスパーティ。互いの身を切り、打ち砕き、魔法で激しく世界が揺れる、この世ならざる舞い。
何人たりとも割り込めねぇ激闘に、ルシフェルはご満悦のようだが……生憎俺はてめぇを楽しませるために踊ってるわけじゃねぇ。
『どうしたハワード、ステップが弛んでいるぞ! そぉら!』
「ぐはっ!」
とはいえ、やっぱこいつ、強ぇわ。俺の一瞬のスキを突いて喰らった、超火力の魔法攻撃。俺ですら意識が飛んで、全身が軋みを上げる。
その一撃をきっかけに、防戦一方になっちまう。やっぱ、ネロに奪われた分が響いているな。ちょっと苦しいぜ。あ、腰が落ちた。
『せやぁっ!』
体が脱力した瞬間に、重い一撃が入った。俺とした事が、無様に転がり、倒れちまう。
こりゃあ、久しぶりのピンチだな……体が、痛ぇや。ちょっと動くのも億劫だぜ。こんだけボロボロになったの、いつ以来だ?
へへ、けどなぁ……それでも俺、勝っちゃうんだよなぁ。だってよぉ、俺はよぉ……。
『やはり君と踊るのはとても楽しいな。それ故に分からない事がある。どうして君はそうまで他人のために戦う事が出来る? あの小僧を通して見ていたよ、君の暮らしぶりを。
普段の君は粗暴で、女ったらしで、金銭面もだらしのない、自分勝手な男にしか見えない。なのになぜ、そうまで他人を想う事が出来る。一体どっちが本当の君だ。あまりに自分勝手にふるまう君、人を慈しむ心を持つ君。どう考えても相反するだろう。それが全く、理解できないのだ』
「……何言ってんだよ、そこまできちんと見てんのに、どうして俺を、理解できてないのかねぇ」
もしかして、読者諸君も分かってないのかな。俺の事。
あのなぁ、そんな「お前はなんだ?」なんて哲学的な事ぐだぐだ聞くんじゃねぇよ。そんなに難しい事じゃねぇだろうが。
「そんなもん……俺がハワード・ロックだからに決まってんだろうが!」
俺は俺以外を表現できねぇ、読者諸君が見てきた全てが、俺の全てだ! それ以外の答えがあるのか? ねぇだろ!
「だから俺は、勝つんだよ。絶対無敵最強賢者に負けは許されねぇ。じゃねぇと、寂しがって泣き喚く奴らが居る。俺が俺であるために、あいつらの中の俺が、最高の俺であるために! 俺は最強の大賢者、ハワード・ロックで居なきゃならねぇんだ!」
感謝するぜ、読者諸君。お前らのお陰で、力が湧いてきた。
お前らも、負ける俺なんか見たくねぇよな? 勝ち続ける俺じゃないと、嫌だよな!
俺に期待してくれて、ここまで見続けてきたお前らも、もう一人の登場人物だ! 諸君の前では、カッコいい俺であり続けたいのさ!
「俺の表現する俺を期待している連中に、ダサい姿は見せられねぇし見せたくねぇ! だからよルシフェル……勝つぜ俺は! この魔王の右腕で……大事なモンを全部守り抜く! 一つたりともてめぇなんかにゃ渡さねぇ! 俺は……ハワードは! 世界一欲張りな男だからな!」
『ははははは! ならば我はそれ以上の欲張りだ、君を奪い、我がものとしよう! ハワード!』
遺言はそれでいいのか、ルシフェル。
もう次の一撃で、全部が終わるんだからな。
『さぁ、もっと踊ろう、もっと、もっとぉ!』
「残念だが、フィナーレだ」
魔王の右腕で、ルシフェルを刺し貫く。この右腕は、元々お前の物だろう?
なら、こういう使い方、出来るんじゃねぇか?
「お前の全てを、奪ってやる」
右腕に、魔王ルシフェルを吸収していく。封印じゃねぇ、同化でもねぇ。ルシフェルその物を、俺の力に取り込んでやるのさ。
こいつ自身の腕だからこそできる物。魔力の波長が合っているなら、こいつを魔力に変える事くらい、余裕だぜ。
『なっ、や、やめろ、やめろ!? 何をしているのだ、ハワード!?』
「喜べよ、お前の大好きな俺様の一部になるだけだ。言っただろ? 俺は世界一欲張りな男だとな! 殺すなんざ勿体ねぇ! お前を骨の髄まで喰らい尽くして……俺は勝つんだ! そして戻るんだ! 大事な家族が、待っている場所へ!」
あの時とは、俺も違う。
あの時俺は、力がなかった。カイン達と別れるしか、魔王を倒す方法が思い浮かばなかった。……守るべき人達に、無用な涙を流してしまった。
だからこそ、同じ過ちは繰り返さない。大切な人達の悲しむ涙なんか、見るのはごめんだ。見るならば、再会の喜びって涙を分かち合う方がいいだろう!
それが、俺が最強であり続ける理由なのだから!
『嫌だ、消えたくない、消えたくない! 我は、まだ、まだ! 踊り足りな、あ、ぁぁぁぁあぁぁ!』
「消えちまえ、過去の亡霊!」
ルシフェルの姿が消え去った。俺の中に溶けて、消滅したんだ。
「……どうだい、読者諸君。少しはお前らの期待に、応えられたかい?」
応えられてないと思った諸君にゃ、申し訳ねぇな。応えられたと思った諸君は、ありがとさん。これが、俺の表現する俺なんだ。
カッコ悪いのも、不格好なのも、不器用なのも。お前らが見てきた全ての俺をひっくるめて、ハワード・ロックってわけなのさ。
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その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
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※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
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これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
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不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
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