30 / 34
30話 ホコタテ勝負決着。そして……
しおりを挟む
「はぁっ!」
魔力を込めた左腕で、無数のファイアボールをはじき返す。でもって懐に潜り込んできたネロの剣は、返す刀で右腕で跳ね除ける。うん、いい感じじゃねぇの。
全魔力を一点に集約して、相手の攻撃を撃ち返す技、ブロッカーだ。
こいつはハイリスクハイリターンの技でな、魔力を一点に集中する性質上、それ以外の部位の防御力が格段に下がる。つまり防御部位以外を狙われれば終わり、スリリングだろ。
だが全魔力を防御に費やしている。これは逆に言えば、相手の攻撃を確実に見切りさえできれば、難攻不落の盾になるんだ。
「せやっ!」
「やらせるかよ!」
ディジェはネロの剣を懸命に防いでやがる。しかも、魔法を出来るだけ使わせないよう接近して、詠唱を妨害し続けながらな。
「しつ、こい! それに、どうして僕の太刀筋を見切れる!?」
「俺がどれだけ、お前を追い続けたと思っている……どんなに突き放されても俺は、お前から決して目を離した事はない! だから分かるんだ、お前が次にどう動くのか、全て!」
くくっ、追われる者と追う者の違いだよ。あん? なんだ読者諸君。攻撃はどうしてるかって?
そりゃ、あいつにゃぴょんぴょん飛び回るウサギがいんだろ。
「せりゃっ!」
「ちっ、うっとうしい!」
スピードスターの機動性を活かして、レヴィが攻撃役に回っているのさ。んでレヴィに攻撃がむけられたら、すかさずディジェがブロックする。いい連携だぜ。
「けど、ネロも凄いな。二人を相手に押されるどころか、押し込んでいる」
「ま、確かにな」
いくらディジェが詠唱を防いでいても、全て妨害できるわけじゃねぇ。時折思いだしたかのように魔法の速射砲が襲ってきやがる、あいつらはその度に、深いダメージを負っちまうんだ。
「確か、制限時間いっぱいだと判定になるよな。この調子だと」
「ダメージの具合からして、ネロの勝ちだろうな。あいつらの勝ち筋はたった一つ、一撃でネロを倒すしかない。でもってその一手は……ディジェが持っている。一発こっ切りだがな」
「……頑張れディジェ、お前、覚えたんだろ。俺の、必殺技……!」
親父だねぇ。勝敗は成績に関係なくても、あいつらの間にはあるからな。
それに、チャンスはある。ネロは力で二人を捻じ伏せるつもりだ。なら、直撃させる隙さえ作れば、逆転できる。
ヨハンがかつて使っていた大技、タンク役のあいつだからこそ使えた、一撃必殺の技だ。
ブロッカーで受けた衝撃に加え、ディジェが受けたダメージはどんどん蓄積されているんだ。そいつを解放させて当てる事さえできれば、どんな相手だろうと一撃で潰せる。
更に言えば……相手の攻撃にカウンターで合わせさえすれば、魔王ですら倒せる攻撃が生まれる。奴らが勝つにはそれを狙うしかない。
「だが、厳しいか」
ネロも当然それを分かっている、体勢を崩すのは簡単じゃねぇ。残り時間一分、どうする、チームガッツ。
「もうじき、試験も終わりだ……だけど僕は、完膚なきまでに倒さないと気が済まなくてね!」
「こっちも、同じだ……来いよネロ!」
「最後の、攻防たい!」
ネロが速い、アルテマバーストを作って走り出した。避けきれねぇ至近距離でぶっ放すつもりか。爆破攻撃じゃブロッカーで防げねぇ。
でもって自分はワープですぐに退避する気だな。ディジェさえ潰せば後は早いだけのレヴィのみ、ネロなら対応可能だ。
「しゃしぇまっしぇん!」
と思ったら、レヴィの奴撃たれる前に、自分からアルテマバーストにぶつかっていきやがった!?
当然意表を突かれたネロはすぐに離脱、だがレヴィに直撃したアルテマバーストは爆発、これじゃネロも当然余波に巻き込まれるわな。
そうなれば、体勢は崩れる。最後にして唯一のチャンスだ。
「ネロぉっ!」
「ディジェっ!」
剣と拳が交差する。焦るなディジェ、狙い済ませ! 渾身の一撃を、叩き込め!
「今だ……ジャストリベリオン!」
蓄えた全衝撃を解放する技、それがヨハンの技、リベリオンだ。
だが相手の攻撃にカウンターで合わせた瞬間、威力を二乗にして叩き込む大技、ジャストリベリオンに変貌する! お前の親父が使っていた必殺技だ!
「ぶち込めディジェ!」
「避けろネロ!」
俺ら師弟の悲鳴と同時に、ディジェの手から赤い閃光が走った。
直後に吹っ飛ぶネロ、ディジェまで反動ですっころぶ。衝撃が学園全体を揺らして、学舎に皹を走らせた。
空気がたわみ、戻る力で空間が揺れる。俺様でさえ膝を突く程の余韻で、辺りが静まり返った。
「相変わらず、ふざけた威力だ……ため込みすぎだぜ、あの馬鹿」
「げほっ、確かにね……それより、ディジェは!?」
もうもうと上がる煙の中から、ディジェがレヴィを担いで立ち上がった。でもってネロは……壁にぶつかって気絶してやがる。ついでに審判役の教員もな。
「ま、代わりに宣言してやるか。演習試験第一セット! Dクラスの勝利!」
おいこら、ディジェとレヴィ。何ぼさっとしてやがる。お前ら勝ったんだぞ?
ならよぉ、両腕突き上げろ。ほれ!
「……勝った、俺が、ネロに……! 勝った! 勝ったよレヴィ!」
「やった……やったとよ! ディジェくぅん!」
へっ、たかが子供の喧嘩で大喜びか。おうこらヨハン、てめぇも生徒が見ている前で喜ぶな。てめぇ一応教師だろうが。
Aクラスの反応は、まぁ当たり前か。愕然としてんな。でもってDクラスは、へっ、驚愕してやがらぁ。
「やったぞ、やったぞ皆ぁ!」
あのなディジェ、嬉しいのは分かるがはしゃぎ過ぎだ。負けた側の事も考慮しとけ。
「ネロ、大丈夫か、ネロ!」
視察されていた理事長様も、血相変えて飛び出したか。ま、一応俺も様子見に行くかね。
保護魔法がかかっていたとはいえ、ダメージは相当みたいだな。お、目を開けた。
「父上、先生……? 僕は、一体……」
「ネロ……よく、頑張った。お前は、よくやったよ」
父親らしく頭をなでなで、ってか。ま、ネロがいかに反抗期と言え、これは拒否できねぇだろ。
「……負けた? 僕が、ディジェに……あんな、あんな格下に、僕が!?」
ま、でかい挫折だろうな。俺の時とは違って、ジャイアントキリング決められたんだ。そりゃ、ショックも受けるさ。
ちゃんとメンタルケアしとかんとダメだな、試験終わったらちょっと顔出しとくか。
「……っ、嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ! 嘘だっ!」
「ね、ネロ!? 待ってくれ、おい!」
血相変えて走り出しやがった。なんだ、なんか様子が変だな。
「追うぞ、負けたのはショックだろうが、それにしては様子がおかしい」
「ええ、急ぎましょう」
◇◇◇
おーい、どこ行きやがったあの野郎。まだ授業中だっつーの。
試験中に抜け出すたぁいい度胸だぜ、学生なら学生らしく真面目に授業受けろっての。……あ? 何ブーメラン発言してんだって? うるせぇばーか。
「どこ行ったんだろう、ネロ……師匠、サーチできますか」
「たかがガキ一人探すのにんなもん使う必要あんのか? まぁ手っ取り早いしいいけどよ」
こちとら暇じゃねぇんだ、ガキの癇癪にいつまでも付きあってられるかよ。
「……ん? あり?」
「どうしました?」
「いや、なんだこれ? 探れねぇ……」
ネロの気配を、探知できねぇ、だと?
……いや、確かに妙な感じはあったんだ。あいつが、変に大物みてぇな空気を漂わせ始めてから。
あいつが出てくる度、俺はいつも気付くのが、後手後手だった。あいつが何かしら発言してから、ようやくネロの存在に気付いていたんだ。
気配に敏感のはずの俺様が、どうしてあの小僧風情の気配に気づかなかった?
「師匠? ……あ、居た。ネロ!」
顔を上げりゃ、確かにいた。廊下の片隅に、立ち尽くしてるネロが。
何でもない光景のはずなのに、どうしてこんな、右腕が疼いてきやがるんだ。
「ネロ、その……お前はよくやったよ。マギスレイヤーをあそこまで使いこなしたんだ、父親としてお前を、誇りに思う。凄いじゃないか」
「……馬鹿に、しているんですか?」
振り向いたネロの目は、凄みに満ちていやがった。
プライドが傷つけられた、それは分かる。だがそれ以上に、異常な憎しみが湧き立っているのが、見て取れた。
「貴方は、いつもそうだ。僕の事を見ていないくせに、まるで全てを見知ったかのように話してくる。それがいつも、いつもいつも……気に食わないんですよ」
「それは、その……仕事にかまけてネロを放っていたのは、すまないと思っているが」
「だから、嬉しかったんですよ。貴方が僕に手ほどきをしてくれたのが。今まで全く僕を見なかった貴方がようやく僕を見てくれたのだと。だからどうしても勝ちたかったんです、圧倒的な力を見せつけた勝利をもって、貴方に僕を、認めてほしかったんですよ」
「ネロ? どうしたんだ、一体……!」
「なのに僕は負けた、ディジェとレヴィ如きに負けた! 一体僕がどれだけ悔しく、屈辱的な想いをしたのかわかってないだろう! なのになんだ、僕の事を知った様な物言いは! よくやった? 誇りに思う? 敗者である僕を見下して誇りに思うですって? ふざけるのもいい加減にしろ! そんなに僕を見下して楽しいか? ええ!?」
「……言動が支離滅裂だぞてめぇ」
「ハワード先生、貴方もだ! 貴方が僕を見ないで、あんなゴミ屑ばかり見ていたからこの有様だ! やっぱり、信用できない……大人なんか、信用できる物か! やっぱり、僕に必要なのは、力、力、力! 誰であろうとひれ伏させる、圧倒的な力が、必要だったんだ」
途端に感じる、冷たいガッツ。俺がずっと嫌っていた、あの青いガッツ……。
……まずい、見誤った!
「どけカイン! 危ねぇ!」
「無駄ですよ、先生」
俺より早く、ネロが動いた。右腕を掴むなり、俺から大量の魔力を奪い取りやがった!
ひるんだ隙に、カインを掴んで同じく魔力を抜き取る。完全な不意打ちだ、しくったぜ。
「ははは……ようやく奪い取れた。ずっと狙っていたんですよ、この時を。貴方方の視線が、僕から離れきる瞬間を。魔具が魔王復活の道具? そんなのブラフですよ、そう仕向ければ、貴方達二人の目は否応にもそちらへ向く。僕を視界から、勝手に外してくれますからね」
「ぐ……俺とした事が、まさかこんな簡単なトリックにひっかかるとはな……一本取られたぜ、UA!」
「なっ……!?」
「正解、です。僕がUA、Unknown Actor。ミスディレクションに引っかかりましたね、稀代のマジシャン様」
思えば、UAが不自然に出てきた時。ネロは俺達のすぐそばにいた。ディジェとレヴィ、二人と一緒に戦っていた。そのせいで、ネロから完全に意識を切らしちまったんだ。
おまけに、魔具を揃えた時点で魔王戦に意識が向いちまっていた。UAはドッペルゲンガーを使えるんだ、影武者を立てる位朝飯前じゃねぇか!
完全に思考を誘導させられていやがった! 家族想いなのに感じた、ちぐはぐな青いガッツ、感じられなかったネロの気配。ちょっとでも疑問を向ければ、気づけたっつーのによぉ!
「はなっから、俺達の魔力が狙いかよ……!」
「ええ勿論、伝説の英雄から直接魔力を奪った方が手っ取り早いので。貴方方の油断を誘うのに、とても苦労しましたよ。ですがその甲斐あって……今僕は、力を手にした。僕に力をくれた、あの方への供物を!」
ネロが両腕を広げるなり、奴の背後に人影が浮かび上がった。銀髪の、見覚えある黒タイツヤローの姿が。
……やっぱりか、やっぱり、てめぇだったのか!
「な、何があったの!?」
「おいカイン、ハワードさん!?」
ヨハン、ブレイズちゃん! 来るんじゃねぇ!
「さぁ! 魔王様を復活させましょう! そして僕に力を、圧倒的な力を! あは、あは! あははははは!」
『ネロ!』
カインと共に手を伸ばすが、遅かった。
ネロは転移の魔法でどっかに消えちまった。追いかけたくても、魔力を抜かれた直後じゃ、思うように動けねぇ。
「ネロ、どうして……! どうして……!?」
「ショックなのは分かるがな、打ちひしがれてる場合じゃねぇぞ」
俺達から莫大な魔力を奪った以上、次に奴がやるのは唯一つ。魔王の復活だ。俺の良く知る、あの魔王を。
そしたらタイミングよく、地鳴りが聞こえてきやがった。全く、面白い演出、仕掛けてくるもんだぜ。
「な、何? なんでネロ君が? 一体、何が始まるの?」
「詳しくは後で話すぜ、随分懐かしい、魔王様との再会が控えてるんでな」
殺したと思っていたが、仕留めそこなっていたとはな。俺の右腕の、本来の持ち主。
「魔王ルシフェル様の、御来光だ」
魔力を込めた左腕で、無数のファイアボールをはじき返す。でもって懐に潜り込んできたネロの剣は、返す刀で右腕で跳ね除ける。うん、いい感じじゃねぇの。
全魔力を一点に集約して、相手の攻撃を撃ち返す技、ブロッカーだ。
こいつはハイリスクハイリターンの技でな、魔力を一点に集中する性質上、それ以外の部位の防御力が格段に下がる。つまり防御部位以外を狙われれば終わり、スリリングだろ。
だが全魔力を防御に費やしている。これは逆に言えば、相手の攻撃を確実に見切りさえできれば、難攻不落の盾になるんだ。
「せやっ!」
「やらせるかよ!」
ディジェはネロの剣を懸命に防いでやがる。しかも、魔法を出来るだけ使わせないよう接近して、詠唱を妨害し続けながらな。
「しつ、こい! それに、どうして僕の太刀筋を見切れる!?」
「俺がどれだけ、お前を追い続けたと思っている……どんなに突き放されても俺は、お前から決して目を離した事はない! だから分かるんだ、お前が次にどう動くのか、全て!」
くくっ、追われる者と追う者の違いだよ。あん? なんだ読者諸君。攻撃はどうしてるかって?
そりゃ、あいつにゃぴょんぴょん飛び回るウサギがいんだろ。
「せりゃっ!」
「ちっ、うっとうしい!」
スピードスターの機動性を活かして、レヴィが攻撃役に回っているのさ。んでレヴィに攻撃がむけられたら、すかさずディジェがブロックする。いい連携だぜ。
「けど、ネロも凄いな。二人を相手に押されるどころか、押し込んでいる」
「ま、確かにな」
いくらディジェが詠唱を防いでいても、全て妨害できるわけじゃねぇ。時折思いだしたかのように魔法の速射砲が襲ってきやがる、あいつらはその度に、深いダメージを負っちまうんだ。
「確か、制限時間いっぱいだと判定になるよな。この調子だと」
「ダメージの具合からして、ネロの勝ちだろうな。あいつらの勝ち筋はたった一つ、一撃でネロを倒すしかない。でもってその一手は……ディジェが持っている。一発こっ切りだがな」
「……頑張れディジェ、お前、覚えたんだろ。俺の、必殺技……!」
親父だねぇ。勝敗は成績に関係なくても、あいつらの間にはあるからな。
それに、チャンスはある。ネロは力で二人を捻じ伏せるつもりだ。なら、直撃させる隙さえ作れば、逆転できる。
ヨハンがかつて使っていた大技、タンク役のあいつだからこそ使えた、一撃必殺の技だ。
ブロッカーで受けた衝撃に加え、ディジェが受けたダメージはどんどん蓄積されているんだ。そいつを解放させて当てる事さえできれば、どんな相手だろうと一撃で潰せる。
更に言えば……相手の攻撃にカウンターで合わせさえすれば、魔王ですら倒せる攻撃が生まれる。奴らが勝つにはそれを狙うしかない。
「だが、厳しいか」
ネロも当然それを分かっている、体勢を崩すのは簡単じゃねぇ。残り時間一分、どうする、チームガッツ。
「もうじき、試験も終わりだ……だけど僕は、完膚なきまでに倒さないと気が済まなくてね!」
「こっちも、同じだ……来いよネロ!」
「最後の、攻防たい!」
ネロが速い、アルテマバーストを作って走り出した。避けきれねぇ至近距離でぶっ放すつもりか。爆破攻撃じゃブロッカーで防げねぇ。
でもって自分はワープですぐに退避する気だな。ディジェさえ潰せば後は早いだけのレヴィのみ、ネロなら対応可能だ。
「しゃしぇまっしぇん!」
と思ったら、レヴィの奴撃たれる前に、自分からアルテマバーストにぶつかっていきやがった!?
当然意表を突かれたネロはすぐに離脱、だがレヴィに直撃したアルテマバーストは爆発、これじゃネロも当然余波に巻き込まれるわな。
そうなれば、体勢は崩れる。最後にして唯一のチャンスだ。
「ネロぉっ!」
「ディジェっ!」
剣と拳が交差する。焦るなディジェ、狙い済ませ! 渾身の一撃を、叩き込め!
「今だ……ジャストリベリオン!」
蓄えた全衝撃を解放する技、それがヨハンの技、リベリオンだ。
だが相手の攻撃にカウンターで合わせた瞬間、威力を二乗にして叩き込む大技、ジャストリベリオンに変貌する! お前の親父が使っていた必殺技だ!
「ぶち込めディジェ!」
「避けろネロ!」
俺ら師弟の悲鳴と同時に、ディジェの手から赤い閃光が走った。
直後に吹っ飛ぶネロ、ディジェまで反動ですっころぶ。衝撃が学園全体を揺らして、学舎に皹を走らせた。
空気がたわみ、戻る力で空間が揺れる。俺様でさえ膝を突く程の余韻で、辺りが静まり返った。
「相変わらず、ふざけた威力だ……ため込みすぎだぜ、あの馬鹿」
「げほっ、確かにね……それより、ディジェは!?」
もうもうと上がる煙の中から、ディジェがレヴィを担いで立ち上がった。でもってネロは……壁にぶつかって気絶してやがる。ついでに審判役の教員もな。
「ま、代わりに宣言してやるか。演習試験第一セット! Dクラスの勝利!」
おいこら、ディジェとレヴィ。何ぼさっとしてやがる。お前ら勝ったんだぞ?
ならよぉ、両腕突き上げろ。ほれ!
「……勝った、俺が、ネロに……! 勝った! 勝ったよレヴィ!」
「やった……やったとよ! ディジェくぅん!」
へっ、たかが子供の喧嘩で大喜びか。おうこらヨハン、てめぇも生徒が見ている前で喜ぶな。てめぇ一応教師だろうが。
Aクラスの反応は、まぁ当たり前か。愕然としてんな。でもってDクラスは、へっ、驚愕してやがらぁ。
「やったぞ、やったぞ皆ぁ!」
あのなディジェ、嬉しいのは分かるがはしゃぎ過ぎだ。負けた側の事も考慮しとけ。
「ネロ、大丈夫か、ネロ!」
視察されていた理事長様も、血相変えて飛び出したか。ま、一応俺も様子見に行くかね。
保護魔法がかかっていたとはいえ、ダメージは相当みたいだな。お、目を開けた。
「父上、先生……? 僕は、一体……」
「ネロ……よく、頑張った。お前は、よくやったよ」
父親らしく頭をなでなで、ってか。ま、ネロがいかに反抗期と言え、これは拒否できねぇだろ。
「……負けた? 僕が、ディジェに……あんな、あんな格下に、僕が!?」
ま、でかい挫折だろうな。俺の時とは違って、ジャイアントキリング決められたんだ。そりゃ、ショックも受けるさ。
ちゃんとメンタルケアしとかんとダメだな、試験終わったらちょっと顔出しとくか。
「……っ、嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ! 嘘だっ!」
「ね、ネロ!? 待ってくれ、おい!」
血相変えて走り出しやがった。なんだ、なんか様子が変だな。
「追うぞ、負けたのはショックだろうが、それにしては様子がおかしい」
「ええ、急ぎましょう」
◇◇◇
おーい、どこ行きやがったあの野郎。まだ授業中だっつーの。
試験中に抜け出すたぁいい度胸だぜ、学生なら学生らしく真面目に授業受けろっての。……あ? 何ブーメラン発言してんだって? うるせぇばーか。
「どこ行ったんだろう、ネロ……師匠、サーチできますか」
「たかがガキ一人探すのにんなもん使う必要あんのか? まぁ手っ取り早いしいいけどよ」
こちとら暇じゃねぇんだ、ガキの癇癪にいつまでも付きあってられるかよ。
「……ん? あり?」
「どうしました?」
「いや、なんだこれ? 探れねぇ……」
ネロの気配を、探知できねぇ、だと?
……いや、確かに妙な感じはあったんだ。あいつが、変に大物みてぇな空気を漂わせ始めてから。
あいつが出てくる度、俺はいつも気付くのが、後手後手だった。あいつが何かしら発言してから、ようやくネロの存在に気付いていたんだ。
気配に敏感のはずの俺様が、どうしてあの小僧風情の気配に気づかなかった?
「師匠? ……あ、居た。ネロ!」
顔を上げりゃ、確かにいた。廊下の片隅に、立ち尽くしてるネロが。
何でもない光景のはずなのに、どうしてこんな、右腕が疼いてきやがるんだ。
「ネロ、その……お前はよくやったよ。マギスレイヤーをあそこまで使いこなしたんだ、父親としてお前を、誇りに思う。凄いじゃないか」
「……馬鹿に、しているんですか?」
振り向いたネロの目は、凄みに満ちていやがった。
プライドが傷つけられた、それは分かる。だがそれ以上に、異常な憎しみが湧き立っているのが、見て取れた。
「貴方は、いつもそうだ。僕の事を見ていないくせに、まるで全てを見知ったかのように話してくる。それがいつも、いつもいつも……気に食わないんですよ」
「それは、その……仕事にかまけてネロを放っていたのは、すまないと思っているが」
「だから、嬉しかったんですよ。貴方が僕に手ほどきをしてくれたのが。今まで全く僕を見なかった貴方がようやく僕を見てくれたのだと。だからどうしても勝ちたかったんです、圧倒的な力を見せつけた勝利をもって、貴方に僕を、認めてほしかったんですよ」
「ネロ? どうしたんだ、一体……!」
「なのに僕は負けた、ディジェとレヴィ如きに負けた! 一体僕がどれだけ悔しく、屈辱的な想いをしたのかわかってないだろう! なのになんだ、僕の事を知った様な物言いは! よくやった? 誇りに思う? 敗者である僕を見下して誇りに思うですって? ふざけるのもいい加減にしろ! そんなに僕を見下して楽しいか? ええ!?」
「……言動が支離滅裂だぞてめぇ」
「ハワード先生、貴方もだ! 貴方が僕を見ないで、あんなゴミ屑ばかり見ていたからこの有様だ! やっぱり、信用できない……大人なんか、信用できる物か! やっぱり、僕に必要なのは、力、力、力! 誰であろうとひれ伏させる、圧倒的な力が、必要だったんだ」
途端に感じる、冷たいガッツ。俺がずっと嫌っていた、あの青いガッツ……。
……まずい、見誤った!
「どけカイン! 危ねぇ!」
「無駄ですよ、先生」
俺より早く、ネロが動いた。右腕を掴むなり、俺から大量の魔力を奪い取りやがった!
ひるんだ隙に、カインを掴んで同じく魔力を抜き取る。完全な不意打ちだ、しくったぜ。
「ははは……ようやく奪い取れた。ずっと狙っていたんですよ、この時を。貴方方の視線が、僕から離れきる瞬間を。魔具が魔王復活の道具? そんなのブラフですよ、そう仕向ければ、貴方達二人の目は否応にもそちらへ向く。僕を視界から、勝手に外してくれますからね」
「ぐ……俺とした事が、まさかこんな簡単なトリックにひっかかるとはな……一本取られたぜ、UA!」
「なっ……!?」
「正解、です。僕がUA、Unknown Actor。ミスディレクションに引っかかりましたね、稀代のマジシャン様」
思えば、UAが不自然に出てきた時。ネロは俺達のすぐそばにいた。ディジェとレヴィ、二人と一緒に戦っていた。そのせいで、ネロから完全に意識を切らしちまったんだ。
おまけに、魔具を揃えた時点で魔王戦に意識が向いちまっていた。UAはドッペルゲンガーを使えるんだ、影武者を立てる位朝飯前じゃねぇか!
完全に思考を誘導させられていやがった! 家族想いなのに感じた、ちぐはぐな青いガッツ、感じられなかったネロの気配。ちょっとでも疑問を向ければ、気づけたっつーのによぉ!
「はなっから、俺達の魔力が狙いかよ……!」
「ええ勿論、伝説の英雄から直接魔力を奪った方が手っ取り早いので。貴方方の油断を誘うのに、とても苦労しましたよ。ですがその甲斐あって……今僕は、力を手にした。僕に力をくれた、あの方への供物を!」
ネロが両腕を広げるなり、奴の背後に人影が浮かび上がった。銀髪の、見覚えある黒タイツヤローの姿が。
……やっぱりか、やっぱり、てめぇだったのか!
「な、何があったの!?」
「おいカイン、ハワードさん!?」
ヨハン、ブレイズちゃん! 来るんじゃねぇ!
「さぁ! 魔王様を復活させましょう! そして僕に力を、圧倒的な力を! あは、あは! あははははは!」
『ネロ!』
カインと共に手を伸ばすが、遅かった。
ネロは転移の魔法でどっかに消えちまった。追いかけたくても、魔力を抜かれた直後じゃ、思うように動けねぇ。
「ネロ、どうして……! どうして……!?」
「ショックなのは分かるがな、打ちひしがれてる場合じゃねぇぞ」
俺達から莫大な魔力を奪った以上、次に奴がやるのは唯一つ。魔王の復活だ。俺の良く知る、あの魔王を。
そしたらタイミングよく、地鳴りが聞こえてきやがった。全く、面白い演出、仕掛けてくるもんだぜ。
「な、何? なんでネロ君が? 一体、何が始まるの?」
「詳しくは後で話すぜ、随分懐かしい、魔王様との再会が控えてるんでな」
殺したと思っていたが、仕留めそこなっていたとはな。俺の右腕の、本来の持ち主。
「魔王ルシフェル様の、御来光だ」
0
お気に入りに追加
1,499
あなたにおすすめの小説
勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す
大小判
ファンタジー
平民同然の男爵家嫡子にして魔道具職人のローランは、旅に不慣れな勇者と四人の聖女を支えるべく勇者パーティーに加入するが、いけ好かない勇者アレンに義妹である治癒の聖女は心を奪われ、恋人であり、魔術の聖女である幼馴染を寝取られてしまう。
その上、何の非もなくパーティーに貢献していたローランを追放するために、勇者たちによって役立たずで勇者の恋人を寝取る最低男の悪評を世間に流されてしまった。
地元以外の冒険者ギルドからの信頼を失い、怒りと失望、悲しみで頭の整理が追い付かず、抜け殻状態で帰郷した彼に更なる追い打ちとして、将来継ぐはずだった実家の道具屋が、爵位証明書と両親もろとも炎上。
失意のどん底に立たされたローランだったが、 両親の葬式の日に義妹と幼馴染が王都で呑気に勇者との結婚披露宴パレードなるものを開催していたと知って怒りが爆発。
「勇者パーティ―全員、俺に泣いて土下座するくらい成り上がってやる!!」
そんな決意を固めてから一年ちょっと。成人を迎えた日に希少な鉱物や植物が無限に湧き出る不思議な土地の権利書と、現在の魔道具製造技術を根底から覆す神秘の合成釜が父の遺産としてローランに継承されることとなる。
この二つを使って世界一の道具屋になってやると意気込むローラン。しかし、彼の自分自身も自覚していなかった能力と父の遺産は世界各地で目を付けられ、勇者に大国、魔王に女神と、ローランを引き込んだり排除したりする動きに巻き込まれる羽目に
これは世界一の道具屋を目指す青年が、爽快な生産チートで主に勇者とか聖女とかを嘲笑いながら邪魔する者を薙ぎ払い、栄光を掴む痛快な物語。
元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた!
今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。
そうしていると……?
※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第二章シャーカ王国編
2回目チート人生、まじですか
ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆
ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで!
わっは!!!テンプレ!!!!
じゃない!!!!なんで〝また!?〟
実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。
その時はしっかり魔王退治?
しましたよ!!
でもね
辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!!
ということで2回目のチート人生。
勇者じゃなく自由に生きます?
【本編完結】転生隠者はまったり怠惰に暮らしたい(仮)
ひらえす
ファンタジー
後にリッカと名乗る者は、それなりに生きて、たぶん一度死んだ。そして、その人生の苦難の8割程度が、神の不手際による物だと告げられる。
そんな前世の反動なのか、本人的には怠惰でマイペースな異世界ライフを満喫するはず……が、しかし。自分に素直になって暮らしていこうとする主人公のズレっぷり故に引き起こされたり掘り起こされたり巻き込まれていったり、時には外から眺めてみたり…の物語になりつつあります。
※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。
※残酷描写は保険です。
※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?
mio
ファンタジー
特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。
神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。
そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。
日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。
神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?
他サイトでも投稿しております。
チートスキルで無自覚無双 ~ゴミスキルばかり入手したと思ってましたが実は最強でした~
Tamaki Yoshigae
ファンタジー
北野悠人は世界に突如現れたスキルガチャを引いたが、外れスキルしか手に入らなかった……と思っていた。
が、実は彼が引いていたのは世界最強のスキルばかりだった。
災厄級魔物の討伐、その素材を用いてチートアイテムを作る錬金術、アイテムを更に規格外なものに昇華させる付与術。
何でも全て自分でできてしまう彼は、自分でも気づかないうちに圧倒的存在に成り上がってしまう。
※小説家になろうでも連載してます(最高ジャンル別1位)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる