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28話 嵐の前の静けさ

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 試験官ってのも案外、暇だぜ。
 おっと読者諸君、ちょっと静かにしてもらえるかい。今丁度、初日の試験真っ最中なんだ。

 時間が飛びまくってるって? そりゃそうだろ、同じ様な日常生活描き続けちゃ物語として面白くねぇだろ。俺ぁはしょる所ははしょるぜ。

 試験は五日間かけて行われる。最初の四日間で筆記試験をやって、最終日に演習試験で締めるって感じにな。んで現在Dクラスの試験官をやってる所なんだが。

 ……ディジェとレヴィ、中々調子よさそうだな。

 ペンの走らせ方で大体回答の様子は分かる。レヴィは苦戦中のようだが、ディジェはかなり合ってるみてぇだ。苦手な数学だってのによ。
 相当頑張ったらしいからな。ネロの奴にどれだけ肉薄できるか、楽しみなもんだ。

「さて、と……おら止めろー」

 って所で丁度鐘も鳴った。意気消沈気味の連中に比べて、馬鹿弟子二人の表情は明るいな。
 ま、結果がどうあれ、自信があるのは良き事なりだ。けどお前らが調子いいように、あいつもそれなりに調子良さそうだぜ。

 次の時間はAクラスの試験官なんだが、ネロの奴はほぼほぼ正解しているようだ。性格はともかく、能力だけはある。少なくとも現状、ディジェの分が悪いかな。

 ただ、まだわかんねぇぞ。何しろ今日の科目は数学と化学、でもって地理だ。

 理系科目はネロに軍配が上がるが、文系科目はディジェも負けてねぇ。あの阿呆は自覚してねぇようだが、あんがい歴史や古語に関しちゃ理解が早ぇんだ。
 どっちの肩を持つわけじゃねぇが、見ごたえがある試合だぜ。文理の割合は丁度半々、苦手科目の穴を得意科目でどんだけ埋められるかが勝負の分かれ目よ。

「で、どうなの。ディジェ君とレヴィさんの具合は」

 んでもって試験終了後、ブレイズちゃんと回答用紙の整理をしてる間にそう聞かれてね。

「今の所いいんじゃね、見た感じ八割以上は解けてる。ネロの奴は九割ちょいって所だが。つかあの二人の肩持ってんのね」
「仕方ないでしょ、それなりの付き合いになっちゃってるし……目標持って頑張る人、好きだから」
「俺ちゃんも目標持って頑張ってるよ? 俺様専用ハーレムを作るって壮大な目標が」
「死ね」

 たはー、辛&辣☆

「ただ、まだ初日さ。試験はあと三日、その間どれだけ得意科目で差を縮めるかが勝負だ。一応、俺らでしっかり指導していたからな。最終日までが楽しみだぜ」
「あら、貴方は寝てただけじゃないの?」
「Oops、そうだったそうだった。いやー俺様の麗しい寝言を聞く物好きも居たもんだ」

 いっけね、危うく設定忘れそうになったわ。
 ま、仕込みはしといたからな。互いに互いを教え合うようにしたり、苦手分野は点数取れる基礎部分を速攻解いて、残り時間全てを応用問題に費やすようにしたり、とかさ。

「愚直に頑張る馬鹿と、高飛車な才能馬鹿の一騎打ち。一個人として楽しませてもらうさ」
「魔王の討伐日も近づいているってのに、余裕よね。試験が終わったら、やるんでしょ。魔王の探知」
「ああ、軍やら冒険者やら勇者やらに協力要請出してるって話だ。当然ブレイズちゃんにも来てんだろ」
「当然。貴方から教わった、カイン様の技術も形には出来てるし……足枷にはならないつもりよ」
「そいつは結構。けどピンチになったら呼びな」
「すぐに飛んできてくれるんでしょ。期待しない程度に、当てはしておく」

 それまでは、俺らも楽しもうか。この茶番をな。

  ◇◇◇

 俺様の予想通り、試験日が進むにつれて、勝負の行方は分からなくなってきたぜ。
 ネロは苦手な現代文や古語で結構躓いてな、その間にディジェがガンガン突き上げてきたんだ。ブレイズちゃんが丁寧に教えてたからなぁ、羨ましい!

 そして俺様の魔界学じゃほぼ互角、点数の優劣はないと言っていい。つか採点してみたら、まさかの同点98点同士! ついでにレヴィは92点。あれ、悲しくも悔しくもないのに、なんで涙出てくるんだ? おい読者諸君、こいつはうれし涙じゃねぇからな。

 平均点は大まか60点だから、こいつは大躍進と言っていい。ここで差がつかなかったのはでかいぜディジェ。何しろ勝負は、1,2点で片が付くだろうからな。

 でもって、試験はいよいよ最終日、演習試験にもつれこんだわけなんだが……なぜか俺様、早朝から馬鹿弟子二人に呼び出されてます。

「演習試験前に、最終チェックをしたいんだ。先生、付き合ってくれるか」
「まちっと、まちっとの掴めんたい」
「あ・の・な! 朝っぱらから呼び出して何言い出してんだてめぇら。俺朝飯食ってた所だろうが!」

 たまにゃあコーヒーカフェで優雅に一杯、って時に腕掴まれてよぉ。コーヒーっつーのは誰にも邪魔されず、一人じっくり飲むからこそ美味いんだよ馬鹿が。

「ここまで、かなりの手応えがあるんだ。演習試験で結果を残せれば、もしかしたらネロに勝てるかもしれない。そのためにも、一秒だって無駄にできないんだ」
「俺様は一秒でも長くコーヒー味わいたかったの! はぁ、クロワッサンも付けてたってのに、食いっぱぐれちまったじゃねぇかよぉ……」
「クロワッサンなら後でうちの作るけんちゃ。先生っち結構食いしん坊ばいね」

 魔界暮らしが長かったからな、人間界のメシが美味くてしゃあねぇんだ。ほっとけ。

「あーもーわーったよ! そんなら朝飯リバースさせて仕返ししてやる、覚悟しろ! あとついでに!」
「な、なんだよ」
「あんか、あっけんと?」
「負けんなよ、親愛なる幼虫共」

 いつも通りにしごいてやったつもりだが、この時ばかりは二人ともゲロ吐かなかったな。

  ◇◇◇

「上機嫌ね、何かあったの?」
「は? おいおいブレイズちゃん、俺ちゃんのどこが上機嫌なのよ。朝の楽しみコーヒーブレイクを邪魔されて、馬鹿二人に無理やり特訓させられて、俺様超機嫌悪いのよ」
「……ふふ、なら笑顔で愚痴言うのやめたらどう?」

 だーかーらー、別にへらへらしてねぇし、補給食渡したりもしてねぇし、激励だってしねぇんだからな! おう画面の前の読者どもこらぁ! お前らもにやにやしてんじゃねー!

「朝練するのは感心だけど、演習試験は乗り越えられそうなの? だって、二人の相手って……」
「ま、どうかな。やってみないとわかんねぇんだが、秘策は伝授しておいた」
「秘策? 全く、どっちが依怙贔屓してんだか」
「別に絶対有利になるもんじゃねぇさ。上手く行けば役立つ程度のモンよ……お?」

 これはまた、珍しい組み合わせが出てきたもんだ。カインとネロだぜ。

「お前ら、どうしたよ? 偶然鉢合わせたって感じじゃねぇが」
「師匠? ええ、実はこの所、ネロの指導をしていて」
「マジかよ。ネロ、どういう風の吹き回しだ?」
「別に。父上に教えを乞うのが悪い事なんですか?」

 むすっとしてるように見えて、案外ご満悦のようだな。親父に付き合ってもらって嬉しいのか?

「師匠に無理やり蹴り飛ばされた日から、ネロから声をかけてくる事が増えまして。どうにか時間を作って、あれを教えているんです」
「へぇ、ちゃんと父親やってるじゃねぇか」
「差し出がましいようですが、別に僕は父に教えを乞いた覚えはありません。勇者パーティのリーダーであるカイン様から、魅力的な技術を」
「おい、素直にならねぇと今すぐてめぇの心の中大音量で流してやるぞ」

 サイコメトリーでばっちり見ちゃったよん、「父さんと過ごせて楽しい」ってな。

 結局てめぇ、親父に構ってもらえてなくて拗ねてただけじゃねぇか。これまでの悪事も親父の目を引くためにやってたようだしよぉ。

「ですから僕は! 父上から技術を教わるのが楽しかったりとか、嬉しかったりとかはしないですから! こんな、家族をほったらかしにしてるような奴なんか、嫌いですよ!」
「え、お、おい、ネロ!」

 正直に気持ち吐露されてうろたえんな、親として優柔不断にも程があんだろてめぇ。しかも追いかけねぇとかどういう了見だ。

「さっさと行け馬鹿野郎」
「のがっ!?」「あうちっ!?」

 俺様必殺、ボレーシュート。ネロにめがけてカインを直撃ってな。

「折角息子が気持ち吐き出したのに追わねぇでどうすんだ、馬鹿弟子」
「あ、あの……思い切り腰痛めたんですが……」
「僕も大ダメージ受けたのですけど、先生……」

「知るか。他にネロへ言う事ねぇのか? ネロも言って欲しい事、あんじゃねぇのか?」

 俺の目の前で家族関係の問題突き出したのが運の尽きよ。……こういうのには、首突っ込みたくなる性質だからな。

「いやまぁ、その、頑張れよ、ネロ。理事長として言うのは、不公平かもしれないが……父親として、期待しているから」
「……まぁ、応えますよ。折角、貴方の技術を教授していただけましたし。……演習試験は全教師が見守る場所。ならやってみますよ、カインの息子の名に、恥じないようにね」

 素直じゃないねぇてめぇら。ま、見ていて微笑ましいがな。

「ネロ! それとカイン。俺が鍛えた馬鹿どもは、強いぜ。精々、覚悟しとけよ」
「……確かに、きしくも構図が、俺と師匠の弟子対決みたいになっていますね」
「なら、猶更負けられないですね。……完膚なきまでに、打ち負かしてやりますよ」

 へ、その気概で来いよ。じゃねぇと面白くねぇしな。

 去っていく勇者親子を見送りつつ、俺らも職員室に行くとしようか。

「……いや、ちょっとブレイズちゃん。先行っててくれるかい? コーヒー飲んだもんで生理現象がね」
「表現汚い。はぁ、遅れないようにね」
「へいへーい。……さて、少しお話ししようかい」

 すまんな読者諸君、ちこっとだけ独り言に付き合ってくれ。

『独り言とは、失敬だな。折角の演出だというのに』
「割って入ってくんじゃねぇよ。……てめぇ、一体どうしてここに居る。そしてどうして、俺様に念話を飛ばせる」
『決まっているじゃないか。我々は、運命の赤い糸でつながっているのだから』
「殺すぞ」
『すでに殺されているよ、君にね』

 ちっ、右腕が疼きやがったか。

「……通りで感知出来ねぇわけだ。確証遅れた自分がむかつくぜ」
『ふふ、君にそう言わせただけでも成果はあった。だが物語の伏線は既に張り終えた。あとは少しずつ、回収させてもらおう。ふふ、ふふふふ! 君は運命に縛られた哀れな人! せめて麗しく踊ってくれたまえ、Je t'aime愛しい人
「おい待て! ……念話が切れた。うざってぇ台詞回しで煽りやがって、くそが」

 やっぱ、あいつだったか。ありえないと思っていたんだが……どうも仕留めそこなっていたようだな。

「カインに報告しておくか、今日中にさっさと殺りに行こうってな」
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