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6話 これは暴行ではない、教育だ。

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 俺様の授業、魔界学は三限目から予定されている。その間暇だし、ちょっと散歩がてらに学内を回って見るか。

 あん? ヨハンならもう別れているよ。あいつは学年主任でな、一年を受け持つ教師陣のリーダーなわけ。だから業務もたんまり積もってんのよ。

 デスクワークなんざ俺ぁゴメンだぜ、あんな面倒なモン長々とやってられっか。

 しっかし、学園内ってのは案外あれだな、当然だが娯楽がねぇや。
 食堂は昼からだし、購買もまだやってねぇし、体育館とかも授業で使ってるから入れねぇし……どーすんだこれ、暇すぎて狂っちまいそうだ。

「平和だねぇ……」

 あくびが出ちまうくらいにな。魔界じゃ四六時中魔物や魔王に襲われていたから、時間を持て余しちまうぜ。

 しゃあねぇ、中庭に確かベンチがあったし、昼寝でもさせてもらうかね。あー……仕事抜け出してバーボンでもひっかけてぇなぁ……。

  ◇◇◇

 いびきはガ行が似合うぞい……っと、目ぇ覚めちまった。
 日の傾き方からして、まだ一限目が終わったばっかか。時間が経つのは遅いねぇ。

「魔界の事教えるのはいいが、ガキどもに理解できるかねぇ」

 この高尚なるハワード様は、頭の作りが常人とは違う。俺様の脳みそについてこれたのは、カインただ一人だけだ。
 ガキどもに分かる様、低レベルに抑えねぇと。やってらんねぇなぁ……。

「昨日約束した事を守れなかったようだね、レヴィ」

 ん? ガキの気配がしやがるな。気づかれるのも面倒だ、気配消しとこ。

「そ、そんな事を、い、言われても……わ、私……」
「そんな事? この僕の言う事が、聞けないとでもいうのかい?」

 はー……ん。こいつはつまり、いじめって奴か?
 退屈な事してやがんなぁ、どれどれ。

 あー、取り巻き二人を引き連れた、赤髪のガキがポニテの女子生徒を囲んでんのか。
 意外と得点高い女子だぜ、可愛い系の茶髪で胸もCはある。五年後が楽しみだ。

「僕は一年にして生徒会長に任命された、いわばこの学園の法律だ。僕は学園の秩序を守る、君達は対価として税金を払う。それが当然の事だろう? 皆喜んで支払いを済ませているのに、君だけだよ? 一年でまだ出していないのは」

 あー、税金ってようは金せびってるだけじゃねぇか。言ってる事のわりにやってる事が小せぇ、やっぱガキだな。

「で、でも流石に、ま、毎月700ゴールは、た、高すぎます!」

「当然の対価、と言っただろう。君達の払った税金は、生徒会の運営費として活用する。だから安心して、今すぐに払ってもらおうか」
「ひっ!?」

 おいおい、女の子の胸ぐら掴んで、何恫喝してんだ? 流石に出て行った方がいいかねぇ。
 って思ったらチャイムが鳴りやがった。

「明日また、同じ時間にここへ来たまえ、その時にきちんと払ってもらうからな。落ちこぼれクラスの分際で、手間取らせないでくれよ」
「そ、そんな……」

「言っておくが、皆支払っているんだ。周りに質問するだけ無駄だからね、規則は必ず、守ってもらうよ」

 ふーん。どれ、ちょっと調査してみるか。魔王の右腕の力、サイコメトリーでな。
 こいつは相手の心の中を読む力だ。あのおぼっちゃまが言った事が本当かどうか、教えてもらうぜ。

『ふふ、これでまた一人、獲物が捕まった。ああ言う、クラスからはぶれた奴を狙い撃ちにするのが一番効率がいいのさ。生徒会と言う盾と、父上の力があれば、僕に逆らえる者は誰も居ない。教師すらもね。ふふふふ……!』

 あー、分かった。全部読めたぜ。

 あいつの言っている事は嘘っぱちだ。皆が税金を支払ってる? んなアホな事あるわけねーだろ。そんな事すりゃ自分の首を絞めるだけだしな。

 あのクソガキは、クラスであぶれた気弱なガキを狙って金を巻き上げてんだ。そいつらは大体、友人も少ねぇからな。でもって親にも心配かけまいとかえって黙り込んじまうから、相談相手がいねーんだ。

 生徒会長ってのは間違いないんだろうが、その地位を笠に着て、弱い奴らから蜜を吸い上げているってわけか。
 はぁ……どこにでも居るんだなぁ、ああいう屑が。

「……って、あり? 一年の落ちこぼれクラス?」

 それって、俺の受け持ちかよ。あーくそ、また面倒くせー事になりやがって……ぐすぐす泣いて逃げるくらいなら、ガッツ見せて戦いやがれや、弱虫が。

「ハワードさん、こんな所で何サボってるんだよ。授業の準備はどうしたんだ?」
「お、ヨハン。丁度いい所に」

 俺、たしか四限目がフリーだったはずだ。でもってこいつが担当する授業は……よし、なら出来るな。

 ガキとは言え、女が虐められているのを見て見ぬふりは男が廃る。しゃーねぇから、ちっとばかしやってやらぁ。

  ◇◇◇

「突然ですが、戦闘訓練はAクラスとの合同訓練に変更しましたー。ついでに指導役はー、ヨハン先生からこの俺様、ハワード先生が担当いたしまーっす」
『……え、ええ!?』

 はは、そりゃ驚くよなぁ。戦闘訓練室に来たらAクラスが居る上に合同授業なんて。

 しっかし、並んでみるとこりゃ、ひでぇな。Aの連中はDを完全に見下した目で見てやがる。勿論、レヴィを脅していた馬鹿はAに居るぜ。

「まー堅苦しい挨拶とかは抜きだ、早速訓練と行こう。こん中で一番つえー奴、出てこい。俺様と模擬戦をしようや」
「分かりました、ではお望み通り、僕がお相手しましょう」

 こう言えば、当然出てくるよなぁ、生徒会長君。

「精々怪我をしないよう気を付けてください。僕はとても、強いですから。何しろこの勇者学園の生徒会長。三年生を押さえ、プロを含めてもナンバーワンの実力を持っていますから」

「へーそうかい、そいつは楽しみだねぇ」

 鼻持ちならねぇ赤髪だ、見れば見る程あいつを思いだしてイライラしてくるぜ。

「ほれ、木刀持てや。んじゃま、早速やるとしますかね」
「いいでしょう、この学園最強の力、とくとご覧あれ!」

 おっ、いいねぇ勢いよく飛び出してきて。
 んじゃ、やるよこの木刀。

「え、武器を、投げた!? くっ!」

 おいおい、軽く放っただけだろ、大げさな。

「ヘイ足払い!」
「がっ!?」
「かーらーのー回し蹴りぃ!」
「ぐあっ!?」

 今日の授業は、空中コンボのやり方Death!

 回し蹴りで打ち上げたらぁ、力を溜めて昇竜拳! 相手と位置を合わせたら、パァンチ! キィック! で追撃よ!

「はい連打連打連打ぁ!」

 ぼっこぼこの生徒会長出来上がりぃ! んじゃ投げてやるから、地面へお帰り!

「ぐっはぁっ!?」
「あとは重力で木刀を引き寄せてからぁ! 喰らえ、ヘルムブレイカー!」

 仕上げに上から兜割り! 鼻持ちならない生徒会長、瞬殺Dieeeeeeダァァァァァァァァイ
 ……ついでに本日二度目の備品破壊。木刀折れちまった。

『か、会長!?』
「う、嘘だろ……学園最強の、生徒会長が……!」
「な、何も出来ないで……やられ、ちゃった……!?」

 おーおー驚いてやがんなぁAクラス。
 ん? どうした生徒会長くん、起き上がって。

「お、お前っ……卑怯だぞ! け、剣を投げて、殴ってくるなんて!」
「卑怯? なんで卑怯なんだ?」
「それは……け、剣を投げるのはセオリーに反している! 動けない空中に浮かせるなんて、戦う相手に敬意を払わないで、何が勇者だ!」
「へー。じゃあ魔獣はそんな言い訳すれば、はいごめんなさいと謝るのかい?」

「う……ぐ……ぼ、僕にこんな事をしたら、どうなるか分かっているんだろうな! 生徒会には、問題のある教師を生徒総会にかける権利がある! そうなればお前をクビにする事だって……」
「ああ、お好きにどうぞ? 別にこんな仕事どーでもいいし、好きにすりゃいいさ」
「え……? お、お前、僕の父上が誰だか……!」

「知ってるよ、この学園の理事様、カインだろ?」

 そ、このくそ野郎は、なんとあのカインの息子なんだ。名前は、ネロって言う。
 あいつ、一体どうやったらこんなカスを育てられるんだ?

「カインの息子だろうが、俺にとっちゃどーでもいいわ。他の奴もよく聞いとけ、俺ぁてめぇらをボコるのに何のためらいもねぇからよ」

 こちとら魔界で魔王を相手に戦ってきたんだ、今更人間如きにびびりやしねぇって。

「親からのバッシング? 親の署名でお前をクビにする? ああお好きにどうぞご自由に。どーせこの仕事以外にも生きる手段は沢山あるんだ。ただ……流石に俺もカチンと来るからな。一軒一軒尋ねて、お礼参りでもさせていただこうか」

「な……に……? そんなの、捕まるだろ……」
「ははは! 面白いジョークだぜ。罪を恐れて報復する奴なんざ居ねぇ、だろ? 必要なら軍だろうが何だろうが真正面から喧嘩してやんぜ」

 だせぇ奴だな、本気で言ってやるだけで、もう反論できなくなってやがる。
 んじゃあ、ついでに教えてやるか。

「それとAクラスの諸君。俺のクラスをボコってイキがっているようだが、そんな心構えじゃてめぇら、勇者にゃなれねぇぜ」
『えっ?』

「結論から言おう、俺如きにやられる奴が、どうして魔物に立ち向かえる? お前らが目指す勇者って職業は、途方もなく強い魔獣を駆除する者だ。そして一度でも負ければ、魔獣の餌に早変わり」

 青ざめてる青ざめてる、いい反応だ。

「おい生徒会長、お前俺が剣を投げて卑怯と言ったが、魔獣には魔法を使う奴や、体の一部を飛ばす奴が居る。そうやって獲物の姿勢を崩して、狩りをするんだ。つまりお前は俺に殴られた時、疑似体験したわけだな。魔物に噛み砕かれる痛さと怖さをよ」

「ひ、ひぃぃ……!」
「魔物にとって俺達は、真剣勝負をする相手じゃねぇ。ただの餌だ。今は負けりゃ、ピーチクパーチク騒げるが……勇者になって負けたら、胃袋の中で泣き叫ぶしか出来ねぇぞ」

 どんな魔獣だろうが、俺様以外の奴は絶対油断しちゃならねぇ。

 俺様は強いから油断してもどーにかなる。だが弱い奴がんな事したら、即座に死ぬ。若い内に死んじまったら、もったいねーぞ。

「いいか幼虫ラーバ共、今日の合同授業で戦うのは隣のクラスじゃねぇ、この俺様だ。二クラス合計六十人、全員まとめてかかってこい。誰か一人でも俺様に攻撃当てたら、自習にしてやる。もし出来なかったら……全員に一発ずつ拳骨を落としてやるからな!」

 いいね、目の色変わったぜ。腐っても勇者志望だ、根性自体は褒めてやるよ。

「それと、生徒会長君。弱い者いじめは大概にしとけよ?」
「え……?」
「俺ちゃん、見てたんだよねぇ。うちのレヴィに金をせびる姿を」
「あ……!」

「今回ボコったのは警告だ。次また同じ事したら……カインの息子だろうが容赦しねぇ、骨を一本一本へし折って、内臓抉り出してやる。あれでも手加減したんだからな、クソガキ」

 ま、ここまで言っときゃ大丈夫だろ。あいつは生徒会長だ、それならきちんと、自分の地位を正しく活用して償ってもらわねーとな。

 しっかしカインには後でしっかりお説教しとかなきゃな。

 子供が曲がっちまうのは、親のせいだ。あんにゃろー、戦士としては一流でも、親としては三流だな。

「とりあえず、これでいいか? レヴィ」
「え、先、生?」
「こーいうのは今回だけだ。てめーのケツはてめーで拭け、親愛なる幼虫ラバー・ラーバ

 子供の問題に大人が出張るのは筋違いだからなぁ、あとはてめーでどうにかしやがれ。
 あん? 授業はどうなったかって?

 おいおい読者諸君、決まってんだろ。全員徹底的にぶちのめしちゃったよん☆
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