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5話 教師は初手「りゅうまい」や。

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 俺が人間界に戻ってきて、二十年で変わった事を教わって、そりゃあ沢山驚いたもんだ。
 だがよ、初出勤日にまさか、一番クレイジーな光景を見るハメになるたぁ思いもよらなかったぜ。

「これがハワード勇者学園……? へいヨハン、こいつはなんてジョークだ?」
「ジョークじゃなくてリアルだよ。そう言いたくなるのもわかるけど」

 いやリアルじゃねぇだろ、なんで宮殿みてぇなどでかい建物作ってんだカインの奴!

 敷地もアホみてぇに広ぇな、グラウンドとか普通に競馬が出来るくらいあんだろ。講堂、食堂、なんでもござれ。一体、何億の金を動かしてんだあの野郎。

「俺、あいつの師匠やめようかな。成金嫌いなんだがね」
「成金だけど、ただの成金ではないよ。稼いだお金は慈善事業の運営に当てていてね、王国内の福祉事業を支えているんだ。あいつが言うには、「師匠が言ってたんだ、強い奴は、弱い奴のために力と金を振舞うもんだ」、だってさ」

 そーいや前に、そんな事言ったっけかな……完全に自分を棚上げしてんなぁ、当時の俺様。

「ハワードさんが来たのは渡りに船でさ、先週教師が寿退職したばかりなんだ。それであるクラスの担任教師が見つからなかったんだけど、本当に助かるよ」
「担任? いきなり一クラス受け持てっつーのか?」
「カインから話を聞いてなかった? あいつ、ちゃんと説明したって言ってたけど」

 あー……多分寝てたな。職員用の手帳とかも渡されたけど、まともに読んでねぇし。つーか無くした。

 はっはっは、社会人失格だと思わねぇか読者諸君。だがこれが俺流さ。

 ちなみに俺が教えるのは、魔界学って奴だ。何しろリアル魔界で生活してきたからな、そこらの学者よか確実にジーニアスよ。俺様のために誂えたような学科じゃねぇの。

「つーかよ、いいのか? 他の先輩教師連中が居る中、中途入社の馬の骨がエリート学校の担任なんざ務めて。カインやてめぇに変な噂とか立たねぇか?」

「大丈夫。人手不足だから四の五の言ってる余裕なんかないんだ。むしろ皆喜ぶよ、面倒事を回避できるってね」

 はーん、ようはその面倒事をこのハワード様に押し付けるって事ね。ざけんなボケ。

 とまぁ、適当に職員室に行って、新しい同僚どもに挨拶から始める。ヤローなんざスルーするが、美人な先生ちゃんの名前は覚えとかねぇとな。

 俺様ランキングじゃメイリンって子が一押しだ! 推定Eカップのドラゴンフルーツ実らせた子でよ! ツバキっつー眼鏡女子のAカップなコーヒー豆も捨てがたいねぇ。

 いいか男の読者諸君、おっぱいはどんな大きさ、形にも魅力がある。重要なのは女を慈しむ、愛って奴だ。

 ……見境なしとか思った野郎は画面の前で正座しろ。拳骨をくれてやる。

「じゃ、ここがハワードさんの担当クラスだよ」

 ヨハンに連れられ、やってきたのは一年のクラスだ。春学期が終わって今は秋学期、約半年間の受け持ちだ。

「先に言っておくけど、このクラスはちょっと問題があるクラスなんだ」
「あん? 落ちこぼれでも集まってるクラスか?」
「隠しても仕方ないよな、その通りさ」

 ま、お約束だな。物語の主人公ってのは大抵めんどくせーのをあてがわれるもんさ。

「このハワード勇者学園では、生徒の能力に合わせてAからDにクラス分けをしている。その方が個々のカリキュラムを作りやすいし、クラス内の格差も少なく出来るからね。あんたが受け持つのはDね。ただ……やっぱりクラス外の格差は出てしまうものでさ」

「ハイランクのクラスが、ローランクのクラスに嫌がらせをする、って奴か。はっ、セオリー過ぎて笑えるぜ。ガキもガキだ、下克上しちまえばいいだろうに、ハングリー精神が足りねぇよ」

「そこだよ、そこ! ハワードさんに任せられる、大きな理由さ。このクラスの子達は皆、どこか自信を失っていてね。難しい年頃なのも相まって、俺達が歩み寄っても壁を作ってしまうんだ。でもハワードさんは強い、その壁を壊して無理やり心に入ってくれるだろ」

「どうかね。別に俺は人と慣れ合うつもりはねぇよ、てめぇらが勝手に寄ってきただけだ」
「いいや、ハワードさんには人の心を揺らす力がある。あんたなら、このクラスの子供達を救ってくれる。俺達は、そう信じているんだよ」

 はー……過大評価してくれちゃって。
 けどま、俺のやり方は変わんねーよ。俺は完全自己流、好き勝手にやらせてもらうぜ。

「そんじゃ、行くとするか! 派手にキメるぜ!」

 クソガキ相手にゃ掴みが重要、教師は初手りゅうまいよ!

 扉を蹴破り前転しながら教室突入! 魔王の右腕でロックミュージック流しつつ、魅せるぜキレキレセクシーダンス!

 顔に手を当て股間をキュッとし、やや内股気味にするのがポイントさ! ほれ腰触って、あっちにバキュン、こっちにバキュン! 指の銃で乱れ撃ち、足は氷を滑るイメージでスライドさせろ! ポーズとポーズのつなぎは一秒、素早く華麗に美しく!

 見せ場は勿論ムーンウォーク、重さを忘れる魔法のステップ、最後にターンし、キメポーズ!

「Yeah!」

 黒板から花火を爆発させれば、perfect! まさにスタイリッシュな登場よ!
 これならガキどもも大沸き間違いなし、だ……ろ?

『…………』

 あれ? 何このドン引き空間。ガキどもが黙りこくっちゃってんだけど。それに読者諸君、何その生あったかい顔は。いや、笑ってる奴もいるみたいだが、なんでそんな引いてる感じなわけ?

「なにやってんだミカぁ! じゃなくておっさぁん!」
「あ!? 何ってあれだよ、これからよろしくねの歓迎ダンスに決まってんだろ! つかてめ忘れたか、伝説のダンサーデビット・ダイ、俺様が子供の頃の大スターだぞ! ヨハン、てめぇにも何度か教えたろ!」
「今の時代誰がデビット・ダイなんか分かるんだ、もうあの人五十年前の人だぞ!」

 ぬわにぃ!? 確かに俺様が十代の頃の人だが半世紀も前なわけ……。
 ……あ、そっか。今は二十年後の世界か。普通に考えりゃ俺、六十三歳のおじい様だもんなぁ。時の流れは残酷だぜ。

「壊した扉は給料から引いておくからな、これは経費じゃ落とせないよ」
「おいおい、新任教師に対する仕打ちかそれ! まだ初任給すら貰ってねーんだぞ!」

「だったら壊すな! ……おほん、えーっと皆! 今日から新しい担任の先生を紹介するね! 自己紹介、よろしく」

 あー、確かコハクとヨハンから昨日言われたな。学園内では偽名を名乗れって。

 一応俺様は勇者パーティ最大の英雄として伝えられているらしい。……カインのアホのせいでな。しかも肖像画付きで、教科書に載っているそうな。

 同姓同名、見た目もそっくりな奴が出てきたら困るだろうって事で、ミカベルなんてご立派な名前を頂いたんだ。

 だが……悪ぃ二人とも。俺の名前は顔も知らねぇクソ両親から貰った、唯一の贈り物でな。

「よぉ、親愛なる幼虫共ラバーズ・ラーバ! 俺様の名は、ハワード・ロックだ! きちんと先生として尊敬するように! 以上!」

 どの時代、どの世界だろうと俺は、ハワード・ロックだ。誰に何を言われようがこの名前だけは、絶対に隠したくねぇ。

「ちょ、おいあんた……! 偽名名乗れつったろうに!」
「るせぇな、心配無用。ちゃんと計算済みだよ」

 さっきなんで俺が派手に踊ったか、わかるかい? 分からなかった読者諸君は、次の生徒の台詞を聞いてくれ。

「ハワード・ロック? ねぇ、それって……」
「うん、教科書に載ってる、賢者様の名前と同じだ……顔も、似てるよね?」
「でも、さっきダダ滑りしてたわよ? 確かハワード様って、勇者カイン様を導いた、とても立派な人、のはずよね?」
「そもそも、カイン様達を逃がすために戦死したんだろ? それに……あんな事する人が本人なわけないよ」
「他人の空似、だよねぇ」

 ……ダダ滑りしたのは誤算だったが、ともあれ年齢も噛み合わねぇし、あんだけド派手な事する奴が伝説の賢者様なわけがねぇ。これで大手を振るって本名を使えるわけよ。

 本当はワッと大うけして読者とガキどもの心を鷲掴みにするつもりだったんだが、○ァ○クだぜ。

「……しかし、なんだ、なんつーかお前ら……覇気がねぇな」

 全員なんかやる気が希薄と言うか、劣等感を抱えているというか。おいどうした若人よ。もう入学して半年、未だに学校に緊張してるとかねーよな。

「何にもしらねー先公に教える事はねーよ、どうせあんたになんか分かるわけねーさ、俺達の事なんか」
「おお! ガッツある奴いんじゃねぇか! いいね、どこのクソガキだい?」
「ハワードさん……流石に今の一言は見逃せないよ」

 おっとっと? どしたよヨハン、そんな怖い顔して。

「今あんたがクソガキと言ったのは、僕の息子だよ」
「え、まじ?」

 確かにあのガキ、ヨハンによく似た緑頭だ。面影も、確かにある。えーっと名簿名簿……名前はディジェ、か。女みてぇな名前だな。

「なんだよ? あんたもどうせ心の中では見下してるんだろ、勇者パーティの戦士、ヨハンの息子がこんな落ちこぼれクラスに居るって事を!」

 勝手な妄想を吐き散らされても困るんだが。そもそも名門学校に入学できてる時点で充分てめーもすげー奴じゃねぇかよ。

「弱い大人のくせに、俺達より弱いくせに、見下してんじゃねぇよ! 何も、何も分からないくせに! 上から目線で物を語るな!」

 ワーオ絶賛反抗期デスネー。
 これだから思春期真っただ中のクソガキは……。

 つーか、こいつの言葉全部が、このクラスのガッツの無さを表してねぇか?
 ホームルームなんざとっとと終わらせちまおう。ヨハンに聞きたい事が出来たしな。

「おいヨハン、てめーの教育どうなってんだ」
「返す言葉もないよ……けど、これが僕達の頭を抱えている問題なんだ。勇者の力を持った子供達は、プライドがとても高い。そのせいか能力別にクラス分けをした事で、自分は落ちこぼれだって意識が強く働いてしまうんだ」

「上には上が居る、それを思い知っちまうわけか。なまじ力を持ったせいで、挫折なんざ経験ねーだろうしな、完全に心が折れちまったって事ね。なんたるグラスハートだ。」

「逆に上の、能力の高いクラスは挫折を知らない。しかも悪い事に……ランクが上のクラスは、僕達よりも遥かに力が強いんだ。そのせいで余計に増長してしまって、僕達教師でも制御しきれていない。それがこの学園の、現状なんだ」

「はは、手綱を握れてねーのかよ。そりゃあ生徒達から不信感を抱かれて当然だわな」

 思ったより問題が多いな、この学園。
 別にカインが悪いとは言わねぇよ、こいつはマンパワー不足の弊害だ。

 膨大に増えた勇者の力を持つクソガキに対し、指導できる大人が圧倒的に足りてねぇ。本来壁になるべき大人が不甲斐なくちゃ、思春期のガキは余計にのさばっちまう。

 言ってみりゃこの学園、ハイランクがローランクを虐げる、とんだ学級崩壊を起しかけてるわけだな。

「でも、ハワードさんならって、期待しているんだ。あんたは強い、この世に居る誰よりも。そんな人ならきっと、この現状を変えてくれるんじゃないかって」
「馬鹿野郎、いつまでも俺に甘えんな。てめぇらで抱えた問題くらい、てめぇらで片付けやがれ」

 ま、俺には関係ない話だ。業務外の仕事を抱え込むなんざ嫌だね、こっちはこっちで適当にやらせてもらうよ。
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