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19話 狡猾な邪神
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上空三万メートルに達したところで、ラーズグリーズは本格的に戦闘を開始した。
この高さでも、槍と魔法は地上にまで危険が及ぶかもしれない。近辺には櫻田高校の生徒も多く住んでいるから、被害を出さないようにしなければ。
よってラーズグリーズが選択したのは格闘戦だった。リンドブルムに特攻し、腹に拳を叩き込む。それだけで腹が陥没し、大量の血を吐き出した。
「こら、血を吐くな」
地上の迷惑になるだろう。血を蒸発させ、お仕置きにアッパーを叩き込んだ。
リンドブルムはもがくも、ラーズグリーズの敵ではない。リンドブルムの肉体を素手で穿ち、急所を徹底的につぶし続ける。リンドブルムは抵抗するが、爪も牙も空を切り、炎も突風も通用しない。一方的な蹂躙が繰り広げられた。
一分もたたず、リンドブルムの体はあちこちへこみ、四肢をへし折られた。息も絶え絶えで、今にも死にそうだ。神話の生態系の頂点も、ヴァルキュリアにとっては野良犬に過ぎなかった。
ただ、戦う意思は萎えていない。というより、無理やり引き出されているというべきか。
徒手空拳で直接触れるから、すぐにわかった。こいつの中に、ラーズグリーズの捜していた奴が居る。攻撃を当てるたびに、ヘルの魔力が伝わってくるのだ。
「むんっ!」
ボロボロのドラゴンの横っ面に、ラーズグリーズは右拳を叩き込んだ。ただの一撃ではなく、マーキングの術を仕込んだ拳だ。これでもう、ヘルを逃がす事はない。
「どこに逃げようが、すぐに見つけられるぞ、ヘル。もし逃げたとしても、すでにヴァルキュリア軍には指名手配してあるから、世界中のヴァルキュリアが貴様を探し、消しにかかるぞ」
『その、よう、だな』
ヘルはうろたえる様子もなく、平然と返していた。
ラーズグリーズは眉根をひそめた。こいつ、何をたくらんでいる。
「まぁ、いい」
その企みも、ここでつぶせばいいだけ。シンプルな回答だ。
槍を出し、ラーズグリーズは叩き込んだ魔力を辿った。ヘルの居場所は、リンドブルムの心臓だ。
生徒が安心して生活できるよう、消えてもらう。こいつは、生徒達の教育によろしくない。
彼らの学園生活のために、消えろ。地獄の女王よ。
『浩二、とか、言う、よう、だな、あの、小僧』
ヘルは突然話し始めた。ラーズグリーズは聞く耳持たず、槍を構えた。
『そう、か。浩二、か。惚れた、相手、の、名を、知らず、にい、たな』
ヘルはくつくつと笑い、リンドブルムの手を動かし、ラーズグリーズを挑発した。
『やり、たけ、れば、やれ。しか、し。貴様、には、でき、ん』
「ほざいてろ」
ラーズグリーズは無視し、渾身の一発を放った。
ヘルを凌駕する魔力をこめた、ラーズグリーズの撃てる最大威力だ。これに触れれば塵すら残らない!
消えろ、ヘル!
『忠告、しよ、うか?』
ヘルは笑いながら、リンドブルムの指で地上を示した。
『タラ、スク。忘、れて、るぞ?』
「タラスク……?」
一瞬、何の事かわからなかった。なぜそこで、タラスクが出てくるのだろうと。ハッタリを言うような場面ではないのに。
だが、すぐに答えにたどり着いた。
「居たのか……あの場に!?」
なぜ気づかなかった! 背筋を凍らせ、ラーズグリーズは槍を操作した。軌道を変えた槍は地上に向きを変え、浩二の下へ走っていく。
間に合えよ……浩二を案じ、ラーズグリーズの意識が地上に向いた。隙があったのは、ほんの僅かな時間だった。
しかしヘル相手には、致命的とも言える隙だ。
虫の息だったリンドブルムを捨て、ヘルはラーズグリーズに飛んだ。ラーズグリーズは気づくも遅く、ヘルはラーズグリーズの体内に侵入した。
「ぐ!?」
体内に虫が這い回るような不快感にラーズグリーズは怖気立ち、すぐに弾き出した。ヘルはあっさりと引き下がり、ラーズグリーズから出て行ったが、ラーズグリーズはぐったりと頭を垂れた。
体が重い、頭が痛い……息が切れ、全身がしびれたように動かない。これは、魔力を大量に引き抜かれた!
『はは……すばらしいなラーズグリーズ、本当に素晴らしい力だ! 貴様、これだけの力を持っていたのか』
やけに生気あふれる声だった。ラーズグリーズは顔を上げ、ヘルを見上げた。
まだ、霧のような靄なのは変わらない。しかし、感じる魔力の桁が違う。肌がひりつき、腹の奥底から鈍痛がしてくる。冷たく広がる空気が、否応なしにラーズグリーズを刺激してきた。
こいつ、これが狙いか……。
「私が狙いだったのか……」
『そうだ。魔力の再生に時間がかかるからな、手っ取り早い方法を選ばせてもらった』
ヘルは高笑いした。
『礼を言うぞ、ラーズグリーズ。これなら、当分不自由はしなくてすみそうだ』
「おのれ……」
得意気なヘルに歯噛みし、ラーズグリーズはだるい体に鞭打った。
ここで倒しておかなければ、奴はより力をつけてしまう。それだけは断じて止めなければ。
『おいおい無理をするな、魔力を抜かれたばかりだろう』
ヘルはリンドブルムに魔法を仕掛けた。するとどうだろう、巨体が傾ぎ、地上に向け、高速で墜落を始めた。
音速を突破したらしく衝撃波が発生し、ラーズグリーズを揺さぶった。あの速度で墜落したら、甚大な被害が出てしまう! あの巨体だ、地上にいるヴァルキュリアでは受け止めきれない!
しかし、ここでヘルを見逃しては……!
ラーズグリーズの中で戦士と教師がせめぎあう。ヘルと浩二、どちらを選ぶべきだ。いいや、自分が通したいのは、どっちの自分だ。
『さぁ、どうした? まだ吾は貴様にかなわないが、数分くらいなら戦えるぞ? その間、リンドブルムは待ってくれるかな?』
ヘルの揺さぶりが、ラーズグリーズの胸を鳴らした。
「……ちっ!」
ラーズグリーズはヘルを見逃し、地上へ急いだ。
ヘルよりも……生徒だ、浩二だ! 彼らの身が、最優先だ!
戦士ではなく、教師である事を選んだラーズグリーズは、地上へ急行した。
この高さでも、槍と魔法は地上にまで危険が及ぶかもしれない。近辺には櫻田高校の生徒も多く住んでいるから、被害を出さないようにしなければ。
よってラーズグリーズが選択したのは格闘戦だった。リンドブルムに特攻し、腹に拳を叩き込む。それだけで腹が陥没し、大量の血を吐き出した。
「こら、血を吐くな」
地上の迷惑になるだろう。血を蒸発させ、お仕置きにアッパーを叩き込んだ。
リンドブルムはもがくも、ラーズグリーズの敵ではない。リンドブルムの肉体を素手で穿ち、急所を徹底的につぶし続ける。リンドブルムは抵抗するが、爪も牙も空を切り、炎も突風も通用しない。一方的な蹂躙が繰り広げられた。
一分もたたず、リンドブルムの体はあちこちへこみ、四肢をへし折られた。息も絶え絶えで、今にも死にそうだ。神話の生態系の頂点も、ヴァルキュリアにとっては野良犬に過ぎなかった。
ただ、戦う意思は萎えていない。というより、無理やり引き出されているというべきか。
徒手空拳で直接触れるから、すぐにわかった。こいつの中に、ラーズグリーズの捜していた奴が居る。攻撃を当てるたびに、ヘルの魔力が伝わってくるのだ。
「むんっ!」
ボロボロのドラゴンの横っ面に、ラーズグリーズは右拳を叩き込んだ。ただの一撃ではなく、マーキングの術を仕込んだ拳だ。これでもう、ヘルを逃がす事はない。
「どこに逃げようが、すぐに見つけられるぞ、ヘル。もし逃げたとしても、すでにヴァルキュリア軍には指名手配してあるから、世界中のヴァルキュリアが貴様を探し、消しにかかるぞ」
『その、よう、だな』
ヘルはうろたえる様子もなく、平然と返していた。
ラーズグリーズは眉根をひそめた。こいつ、何をたくらんでいる。
「まぁ、いい」
その企みも、ここでつぶせばいいだけ。シンプルな回答だ。
槍を出し、ラーズグリーズは叩き込んだ魔力を辿った。ヘルの居場所は、リンドブルムの心臓だ。
生徒が安心して生活できるよう、消えてもらう。こいつは、生徒達の教育によろしくない。
彼らの学園生活のために、消えろ。地獄の女王よ。
『浩二、とか、言う、よう、だな、あの、小僧』
ヘルは突然話し始めた。ラーズグリーズは聞く耳持たず、槍を構えた。
『そう、か。浩二、か。惚れた、相手、の、名を、知らず、にい、たな』
ヘルはくつくつと笑い、リンドブルムの手を動かし、ラーズグリーズを挑発した。
『やり、たけ、れば、やれ。しか、し。貴様、には、でき、ん』
「ほざいてろ」
ラーズグリーズは無視し、渾身の一発を放った。
ヘルを凌駕する魔力をこめた、ラーズグリーズの撃てる最大威力だ。これに触れれば塵すら残らない!
消えろ、ヘル!
『忠告、しよ、うか?』
ヘルは笑いながら、リンドブルムの指で地上を示した。
『タラ、スク。忘、れて、るぞ?』
「タラスク……?」
一瞬、何の事かわからなかった。なぜそこで、タラスクが出てくるのだろうと。ハッタリを言うような場面ではないのに。
だが、すぐに答えにたどり着いた。
「居たのか……あの場に!?」
なぜ気づかなかった! 背筋を凍らせ、ラーズグリーズは槍を操作した。軌道を変えた槍は地上に向きを変え、浩二の下へ走っていく。
間に合えよ……浩二を案じ、ラーズグリーズの意識が地上に向いた。隙があったのは、ほんの僅かな時間だった。
しかしヘル相手には、致命的とも言える隙だ。
虫の息だったリンドブルムを捨て、ヘルはラーズグリーズに飛んだ。ラーズグリーズは気づくも遅く、ヘルはラーズグリーズの体内に侵入した。
「ぐ!?」
体内に虫が這い回るような不快感にラーズグリーズは怖気立ち、すぐに弾き出した。ヘルはあっさりと引き下がり、ラーズグリーズから出て行ったが、ラーズグリーズはぐったりと頭を垂れた。
体が重い、頭が痛い……息が切れ、全身がしびれたように動かない。これは、魔力を大量に引き抜かれた!
『はは……すばらしいなラーズグリーズ、本当に素晴らしい力だ! 貴様、これだけの力を持っていたのか』
やけに生気あふれる声だった。ラーズグリーズは顔を上げ、ヘルを見上げた。
まだ、霧のような靄なのは変わらない。しかし、感じる魔力の桁が違う。肌がひりつき、腹の奥底から鈍痛がしてくる。冷たく広がる空気が、否応なしにラーズグリーズを刺激してきた。
こいつ、これが狙いか……。
「私が狙いだったのか……」
『そうだ。魔力の再生に時間がかかるからな、手っ取り早い方法を選ばせてもらった』
ヘルは高笑いした。
『礼を言うぞ、ラーズグリーズ。これなら、当分不自由はしなくてすみそうだ』
「おのれ……」
得意気なヘルに歯噛みし、ラーズグリーズはだるい体に鞭打った。
ここで倒しておかなければ、奴はより力をつけてしまう。それだけは断じて止めなければ。
『おいおい無理をするな、魔力を抜かれたばかりだろう』
ヘルはリンドブルムに魔法を仕掛けた。するとどうだろう、巨体が傾ぎ、地上に向け、高速で墜落を始めた。
音速を突破したらしく衝撃波が発生し、ラーズグリーズを揺さぶった。あの速度で墜落したら、甚大な被害が出てしまう! あの巨体だ、地上にいるヴァルキュリアでは受け止めきれない!
しかし、ここでヘルを見逃しては……!
ラーズグリーズの中で戦士と教師がせめぎあう。ヘルと浩二、どちらを選ぶべきだ。いいや、自分が通したいのは、どっちの自分だ。
『さぁ、どうした? まだ吾は貴様にかなわないが、数分くらいなら戦えるぞ? その間、リンドブルムは待ってくれるかな?』
ヘルの揺さぶりが、ラーズグリーズの胸を鳴らした。
「……ちっ!」
ラーズグリーズはヘルを見逃し、地上へ急いだ。
ヘルよりも……生徒だ、浩二だ! 彼らの身が、最優先だ!
戦士ではなく、教師である事を選んだラーズグリーズは、地上へ急行した。
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