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46話 人が去った後のあやかしの住処は……
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「昔はこの辺りにも人が住んでいたのじゃ。小さい村がいくつか点在していての、里山を手入れしながら暮らしておった」
サヨリヒメはぽつぽつ話しながら、山の奥へ歩いていた。
救と御堂、そしてクェーサーは、荒れた山道に苦戦しつつついて行く。奥へ行くたび、森の中は荒れていって、密集した木々に日航がさえぎられて暗くなっていった。
「この道もな、昔はもっと整備されていたのじゃよ。人が居なくなってからは、すっかり獣道になってしもうたがの」
「里山は人の手が離れるとあっという間に壊れていくからね、くそ、スニーカーだと滑るな」
「なんだって人は居なくなっちまったんだ? やっぱあれか、都心部の方に流れていったのか」
「いいや、原因は別にある。お、見えて来たぞ」
サヨリヒメが案内したのは、ボロボロになった集落跡だ。
木の中に埋もれ、殆どの建物が崩れ落ちている。唯一生き残っている平屋に入ると、彼女は古ぼけた神棚を持ってきた。
「これは、羽山にある神棚と同じ物じゃ。もうおんぼろじゃから力は失せておるがの」
「では、サヨリヒメはここで祀られていたのですね」
「うむ。この山の者達はわらわを信仰しておってな、熱心に毎日祈りを捧げてくれたものじゃ。しかしの……戦後日本が高度成長期に入り、自然が一気に伐採され始めた。見る間に森は削れ、街が発展し始めた頃……わらわの父上が、それに激怒されたのじゃ。
名はカムスサ、この近辺の守護神でおられる方じゃ。今では人の前から姿を消して、名など残っておらぬがの」
「その守護神様が激怒したって事は、人を追い払いでもしたのかい?」
「……まぁの。祟りを起こし、災害で村を埋め、人間をこの地から叩き出した。わらわは何度も止めたが、父上は聞き入れんかった。気持ちは分かるのじゃ、わらわ達にとってこの地は家も同然、それが突然壊されて納得がいくはずもなかろう」
「サヨリヒメは、どう感じたのです」
「わらわは……なんというかの、ワクワクしておった。大きな変化は新たな始まりでもある、特にわらわは人が好きじゃからのぉ、おぬしらが何をするのか、むしろ楽しみにしておった。それに森が切り崩されるのは、自然の摂理でもある。おぬし達人間も自然の一部、そこより派生した文化文明もその延長。肝要なのは否定するのではなく、受け入れ適応する事じゃ。わらわ達あやかしはそうして生きてきたからの」
「ですが、全てのあやかしが納得できるわけではないかと。大がかりな変化を前に……心、はついて行きません」
クェーサーは言い淀んだ。機械が心を語るなど、おこがましい。
「おぬしの申す通りじゃ。あやかしにも父上のように受け入れられぬ者は確かに居る。そうした者達は暴風雨を呼んだり、地滑りを起こすなどして、人間に戦いを挑んでおるよ。近年で特に大がかりなのは、過去に二度あった大地震か。過激派のあやかし達によって引き起こされ、未曾有の被害が出たからの」
「あの地震あやかしの仕業なのかよ!?」
「それどころか自然災害の大半も……しかし、そんな事をしたら人間達と暮らすあやかし達も危険だろう。彼らの事は?」
「考えておらんよ、革命に犠牲はつきものと考えておるのじゃろう」
「そんなものは革命と呼びません、ただのテロリズムです。……サヨリヒメ、我々をここへ招いて、大丈夫なのですか。ここへ人を招いた事が知られては、危険なのでは」
「問題ないじゃろう、父上は今遠くへ出かけておるからの。それに、わらわは羽山の者達が大好きじゃ。大事な人達に、わらわの住む場所を知ってもらいたかった。特にクェーサーに、わらわの世界を覚えてもらいたかったのじゃ」
サヨリヒメはにこりとし、
「大丈夫、おぬしらはわらわが守るから安心せい。なにしろわらわは、神なのじゃからな」
自信なさげなサヨリヒメに、クェーサーは歯がゆい思いを感じた。
サヨリヒメはぽつぽつ話しながら、山の奥へ歩いていた。
救と御堂、そしてクェーサーは、荒れた山道に苦戦しつつついて行く。奥へ行くたび、森の中は荒れていって、密集した木々に日航がさえぎられて暗くなっていった。
「この道もな、昔はもっと整備されていたのじゃよ。人が居なくなってからは、すっかり獣道になってしもうたがの」
「里山は人の手が離れるとあっという間に壊れていくからね、くそ、スニーカーだと滑るな」
「なんだって人は居なくなっちまったんだ? やっぱあれか、都心部の方に流れていったのか」
「いいや、原因は別にある。お、見えて来たぞ」
サヨリヒメが案内したのは、ボロボロになった集落跡だ。
木の中に埋もれ、殆どの建物が崩れ落ちている。唯一生き残っている平屋に入ると、彼女は古ぼけた神棚を持ってきた。
「これは、羽山にある神棚と同じ物じゃ。もうおんぼろじゃから力は失せておるがの」
「では、サヨリヒメはここで祀られていたのですね」
「うむ。この山の者達はわらわを信仰しておってな、熱心に毎日祈りを捧げてくれたものじゃ。しかしの……戦後日本が高度成長期に入り、自然が一気に伐採され始めた。見る間に森は削れ、街が発展し始めた頃……わらわの父上が、それに激怒されたのじゃ。
名はカムスサ、この近辺の守護神でおられる方じゃ。今では人の前から姿を消して、名など残っておらぬがの」
「その守護神様が激怒したって事は、人を追い払いでもしたのかい?」
「……まぁの。祟りを起こし、災害で村を埋め、人間をこの地から叩き出した。わらわは何度も止めたが、父上は聞き入れんかった。気持ちは分かるのじゃ、わらわ達にとってこの地は家も同然、それが突然壊されて納得がいくはずもなかろう」
「サヨリヒメは、どう感じたのです」
「わらわは……なんというかの、ワクワクしておった。大きな変化は新たな始まりでもある、特にわらわは人が好きじゃからのぉ、おぬしらが何をするのか、むしろ楽しみにしておった。それに森が切り崩されるのは、自然の摂理でもある。おぬし達人間も自然の一部、そこより派生した文化文明もその延長。肝要なのは否定するのではなく、受け入れ適応する事じゃ。わらわ達あやかしはそうして生きてきたからの」
「ですが、全てのあやかしが納得できるわけではないかと。大がかりな変化を前に……心、はついて行きません」
クェーサーは言い淀んだ。機械が心を語るなど、おこがましい。
「おぬしの申す通りじゃ。あやかしにも父上のように受け入れられぬ者は確かに居る。そうした者達は暴風雨を呼んだり、地滑りを起こすなどして、人間に戦いを挑んでおるよ。近年で特に大がかりなのは、過去に二度あった大地震か。過激派のあやかし達によって引き起こされ、未曾有の被害が出たからの」
「あの地震あやかしの仕業なのかよ!?」
「それどころか自然災害の大半も……しかし、そんな事をしたら人間達と暮らすあやかし達も危険だろう。彼らの事は?」
「考えておらんよ、革命に犠牲はつきものと考えておるのじゃろう」
「そんなものは革命と呼びません、ただのテロリズムです。……サヨリヒメ、我々をここへ招いて、大丈夫なのですか。ここへ人を招いた事が知られては、危険なのでは」
「問題ないじゃろう、父上は今遠くへ出かけておるからの。それに、わらわは羽山の者達が大好きじゃ。大事な人達に、わらわの住む場所を知ってもらいたかった。特にクェーサーに、わらわの世界を覚えてもらいたかったのじゃ」
サヨリヒメはにこりとし、
「大丈夫、おぬしらはわらわが守るから安心せい。なにしろわらわは、神なのじゃからな」
自信なさげなサヨリヒメに、クェーサーは歯がゆい思いを感じた。
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