206 / 207
3部
207話 どこにでもある、何の変哲もない
しおりを挟む
「おとーさん! 遅いよ遅いよ、早くー!」
事件から数週間後、シェリーは森を駆け回っていた。
ハローは肩を竦め、義娘を追いかける。一方のナルガは、義息子と娘を連れ、シェリーを優しく見守っていた。
シェリーはとても元気が良く、毎日せわしなく走り回っている。ハローの背に飛び乗るのがお気に入りなようで、今も義父に飛びついて、背中をよじ登っていた。
「元々活発な姉だったのだな。傍に居るだけで、こちらまで元気になる」
「うん。姉さんが励ましてくれたから、僕は前の母さんに殴られても我慢できたんだ。姉さんが居なかったら、僕は多分、生きてなかった」
「ならば感謝しなければな。シェリーのおかげで我々は会えた、あの子が私達家族を繋いでくれたのだ」
「ねぇねぇお母さん、お弁当何作ってくれたの?」
「到着するまで秘密だ。落ちないよう気を付けろ」
「大丈夫だよー! だってお父さんがしっかり掴んでくれてるんだもん!」
ハローの背中でシェリーははしゃいだ。そしたらアマトが口をへの字に曲げて、
「姉様ばっかりずるいー。父様、わたしも抱っこして!」
「はいよー。俺は天国に来てしまったんだろうか。こんなにも娘に懐かれるなんてなぁ」
ハローはすっかり緩んだ顔になり、娘二人を抱え上げた。
アマトもシェリーをすぐに姉として受け入れ、仲良くなっている。でもシェリーだけが抱っこされるのは我慢できないようで、娘同士で父親争奪戦になってしまう。娘から取り合いされるのは、父親として最大の至福である。
「父さん、目的忘れちゃだめだよ。今日はただのピクニックじゃないんだから」
「スペースはあるんだろうな?」
「ちゃんと見繕ってるよ、丁度いい場所にね」
ハローが連れて来たのは、日当たりのいい開けた場所だ。
リナルドは持ってきた苗木を下ろした。本当なら春に行う植林だが、シェリーのために一本だけ植えるのだ。
五人で力を合わせ、土を掘り起こし、苗木を植えていく。子供達のために植える、大事な財産となる一本だ。
「将来、三人が立派な大人になった時、この木が必ず助けてくれる。例えここを離れたとしても、辛くなったらこの木を目印に帰ってくればいい」
「私とハローの居るこの場所が、皆の故郷だ。本音を言えば、ずっとラコ村に居てほしいが……皆の足かせにはなりたくない。だから遠慮せず、自分達のやりたい事に取り組め」
まだ幼い子供達には、ピンと来ない話だ。
でもいつかは、子は親を離れる。その時まで、一瞬一瞬を大事に過ごそう。
「難しい話はいいから、ごはん食べようよ!」
「姉様、その前に手を綺麗にしないとダメだよ。兄様、川近くにない?」
「待ってて、すぐに探してくる! アマトのためならなんでもやるよ!」
「私のためにはしてくれないの、おにーちゃーん」
「僕じゃなくて姉さんの方が年上じゃんか」
「残念でしたー、私まだ八歳だもーん。九歳のリナルドの方がお兄ちゃんなんだよーだ。だから妹のために頑張ってねー」
「あっ、ずるいー!」
「もう! けんかはだめー!」
子供達のじゃれ合う光景に、ハローとナルガは目を細めた。
「注いでやろうか、水だがな」
「構わないよ。俺もやっていい?」
夫婦で水を注ぎあい、喉を潤す。小さくとも、確かな幸せを噛み締めて。
傷だらけの日々はもう、遠い過去になっていた。
事件から数週間後、シェリーは森を駆け回っていた。
ハローは肩を竦め、義娘を追いかける。一方のナルガは、義息子と娘を連れ、シェリーを優しく見守っていた。
シェリーはとても元気が良く、毎日せわしなく走り回っている。ハローの背に飛び乗るのがお気に入りなようで、今も義父に飛びついて、背中をよじ登っていた。
「元々活発な姉だったのだな。傍に居るだけで、こちらまで元気になる」
「うん。姉さんが励ましてくれたから、僕は前の母さんに殴られても我慢できたんだ。姉さんが居なかったら、僕は多分、生きてなかった」
「ならば感謝しなければな。シェリーのおかげで我々は会えた、あの子が私達家族を繋いでくれたのだ」
「ねぇねぇお母さん、お弁当何作ってくれたの?」
「到着するまで秘密だ。落ちないよう気を付けろ」
「大丈夫だよー! だってお父さんがしっかり掴んでくれてるんだもん!」
ハローの背中でシェリーははしゃいだ。そしたらアマトが口をへの字に曲げて、
「姉様ばっかりずるいー。父様、わたしも抱っこして!」
「はいよー。俺は天国に来てしまったんだろうか。こんなにも娘に懐かれるなんてなぁ」
ハローはすっかり緩んだ顔になり、娘二人を抱え上げた。
アマトもシェリーをすぐに姉として受け入れ、仲良くなっている。でもシェリーだけが抱っこされるのは我慢できないようで、娘同士で父親争奪戦になってしまう。娘から取り合いされるのは、父親として最大の至福である。
「父さん、目的忘れちゃだめだよ。今日はただのピクニックじゃないんだから」
「スペースはあるんだろうな?」
「ちゃんと見繕ってるよ、丁度いい場所にね」
ハローが連れて来たのは、日当たりのいい開けた場所だ。
リナルドは持ってきた苗木を下ろした。本当なら春に行う植林だが、シェリーのために一本だけ植えるのだ。
五人で力を合わせ、土を掘り起こし、苗木を植えていく。子供達のために植える、大事な財産となる一本だ。
「将来、三人が立派な大人になった時、この木が必ず助けてくれる。例えここを離れたとしても、辛くなったらこの木を目印に帰ってくればいい」
「私とハローの居るこの場所が、皆の故郷だ。本音を言えば、ずっとラコ村に居てほしいが……皆の足かせにはなりたくない。だから遠慮せず、自分達のやりたい事に取り組め」
まだ幼い子供達には、ピンと来ない話だ。
でもいつかは、子は親を離れる。その時まで、一瞬一瞬を大事に過ごそう。
「難しい話はいいから、ごはん食べようよ!」
「姉様、その前に手を綺麗にしないとダメだよ。兄様、川近くにない?」
「待ってて、すぐに探してくる! アマトのためならなんでもやるよ!」
「私のためにはしてくれないの、おにーちゃーん」
「僕じゃなくて姉さんの方が年上じゃんか」
「残念でしたー、私まだ八歳だもーん。九歳のリナルドの方がお兄ちゃんなんだよーだ。だから妹のために頑張ってねー」
「あっ、ずるいー!」
「もう! けんかはだめー!」
子供達のじゃれ合う光景に、ハローとナルガは目を細めた。
「注いでやろうか、水だがな」
「構わないよ。俺もやっていい?」
夫婦で水を注ぎあい、喉を潤す。小さくとも、確かな幸せを噛み締めて。
傷だらけの日々はもう、遠い過去になっていた。
2
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説
異世界八険伝
AW
ファンタジー
これは単なる異世界転移小説ではない!感涙を求める人へ贈るファンタジーだ!
突然、異世界召喚された僕は、12歳銀髪碧眼の美少女勇者に。13歳のお姫様、14歳の美少女メイド、11歳のエルフっ娘……可愛い仲間たち【挿絵あり】と一緒に世界を救う旅に出る!笑いあり、感動ありの王道冒険物語をどうぞお楽しみあれ!
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~
桜井正宗
ファンタジー
元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。
仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。
気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
弟子に”賢者の石”発明の手柄を奪われ追放された錬金術師、田舎で工房を開きスローライフする~今更石の使い方が分からないと言われても知らない~
今川幸乃
ファンタジー
オルメイア魔法王国の宮廷錬金術師アルスは国内への魔物の侵入を阻む”賢者の石”という世紀の発明を完成させるが、弟子のクルトにその手柄を奪われてしまう。
さらにクルトは第一王女のエレナと結託し、アルスに濡れ衣を着せて国外へ追放する。
アルスは田舎の山中で工房を開きひっそりとスローライフを始めようとするが、攻めてきた魔物の軍勢を撃退したことで彼の噂を聞きつけた第三王女や魔王の娘などが次々とやってくるのだった。
一方、クルトは”賢者の石”を奪ったものの正しく扱うことが出来ず次第に石は暴走し、王国には次々と異変が起こる。エレナやクルトはアルスを追放したことを後悔するが、その時にはすでに事態は取り返しのつかないことになりつつあった。
※他サイト転載
冥界の仕事人
ひろろ
ファンタジー
冥界とは、所謂 “あの世” と呼ばれる死後の世界。
現世とは異なる不思議な世界に現れた少女、水島あおい(17)。個性的な人々との出会いや別れ、相棒オストリッチとの冥界珍道中ファンタジー
この物語は仏教の世界観をモチーフとしたファンタジーになります。架空の世界となりますので、御了承下さいませ。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる