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3部
191話 夫婦のデート
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日曜日、ハローとナルガはリナルド達を教会へ送り届けた。
週一回の日曜学校である。リナルドはアマトに手を振り、教会へ入っていく。アマトは羨ましそうに兄を見送り、ナルガの足にしがみついた。
「ねね、わたしはいつから行くの?」
「五歳になったらだ。日曜学校、楽しみか?」
「うん! わたしもはやくおべんきょうしたいの!」
「熱心だね、あと二年、楽しみにしておこうな」
ハローはアマトを抱き上げ、周囲を見渡した。
今朝から、ラコ村周囲に異様な気配がする。空気がぴりついているような、ザラッとしたノイズを感じるのだ。
ナルガも察知しており、表情が険しい。腰の剣に手を当て、
「ハロー、周辺の警戒に当たろう。随分と殺気立った奴らが、近辺に潜んでいるようだ」
「みたいだね、早急に対処しておかないと」
ラコ村に帰還後、エドウィンにアマトを預けた二人は、馬を駆って見回りに向かった。
二人が来るのを察したか、不届き者どもの姿は無かった。しかし、ごく僅かだが存在した形跡がある。
足跡の残りにくい獣道を通った様子や、移動の痕跡を消した跡が見受けられるのだ。二人でなければ見落としていただろう。
「これは、この辺りの地形を調べにきた感じかな」
「らしいな。人数としては、六,七人と言った所か。野盗と比較して練度が高く、統率も取れているようだ。従軍経験がある者が来ていたようだな」
足跡の様子から、ナルガはそう判断した。ハローは腕を組み、足跡をたどった。
でも、足跡は複雑に枝分かれしていて、行き先を特定できない。残念ながら、これ以上追うのは無理そうだ。
「念のため、周囲を探ろう。まだ手がかりがあるかもしれない」
「同意するが……なぜにやけている」
「え、いやいやそんな」
ハローは頬を触った。確かに、こんな状況なのに、ハローは笑っていた。
「だって……ナルガと本当の意味で二人っきりになるの、久しぶりだからさぁ」
「乙女のような奴だな。自身の役目を忘れるな、我々はラコ村が危機にさらされる前に、未然に脅威を駆除せねばならんのだぞ」
「分かってるよぉ」
まるで緊張感が無い。デート気分な夫に呆れつつも、ナルガはこれ以上責められなかった。
ハローに嫁いで四年になるが、彼は今でも自分を女として見ている。それが満更じゃなかった。
「やれやれ、私も平和ボケしたな。だがちゃんと仕事しろ」
「気を付けます、はい」
ナルガに注意されつつ、巡視を続けるハロー。
暫く散策していると、本命の足跡を発見できた。
国境に向けて伸びた足跡だ。どうやら、隣国から侵入してきた連中らしい。
「隣国の兵士の偵察? いや、にしてはお粗末だな」
「それにこんな田舎を探る意味がないよ。重要な情報なんて何もないんだし、警備兵に見つかれば大問題になる。リスクリターンが釣り合わない」
「ともすれば紛争に発展するからな。ではどこの誰が、どのような理由で来たのか、になるのだが」
二人で考えるが、想像もつかない。ハローは得体の知れない不気味さを感じていた。
「今考えても仕方あるまい。これ以上探っても情報は得られんだろうし、帰るぞ」
「そうしよう。でもその前に、さ。ちょっとだけデートしない?」
「お前な……まぁ、あまり緊張しすぎても苦しいだけだからな」
それっぽい理由をつけ、ナルガはハローの馬に乗った。彼女も夫とのデートがしたかったようだ。
デートと言っても、遠回りのルートを走るだけ。その間ハローは、ナルガを宝物でも抱くように、大切に抱き留めた。
ナルガもハローに身を預け、彼と共に居られる幸せを噛み締めた。
これからもずっと、この幸福が続くのだろう。ハローと共に行く未来には、どんな幸福が待っているのだろう。考えるだけで、胸が湧き踊る。
「ハローよ」
「うん?」
「私と結婚してくれた事、感謝するぞ」
「どういたしまして」
週一回の日曜学校である。リナルドはアマトに手を振り、教会へ入っていく。アマトは羨ましそうに兄を見送り、ナルガの足にしがみついた。
「ねね、わたしはいつから行くの?」
「五歳になったらだ。日曜学校、楽しみか?」
「うん! わたしもはやくおべんきょうしたいの!」
「熱心だね、あと二年、楽しみにしておこうな」
ハローはアマトを抱き上げ、周囲を見渡した。
今朝から、ラコ村周囲に異様な気配がする。空気がぴりついているような、ザラッとしたノイズを感じるのだ。
ナルガも察知しており、表情が険しい。腰の剣に手を当て、
「ハロー、周辺の警戒に当たろう。随分と殺気立った奴らが、近辺に潜んでいるようだ」
「みたいだね、早急に対処しておかないと」
ラコ村に帰還後、エドウィンにアマトを預けた二人は、馬を駆って見回りに向かった。
二人が来るのを察したか、不届き者どもの姿は無かった。しかし、ごく僅かだが存在した形跡がある。
足跡の残りにくい獣道を通った様子や、移動の痕跡を消した跡が見受けられるのだ。二人でなければ見落としていただろう。
「これは、この辺りの地形を調べにきた感じかな」
「らしいな。人数としては、六,七人と言った所か。野盗と比較して練度が高く、統率も取れているようだ。従軍経験がある者が来ていたようだな」
足跡の様子から、ナルガはそう判断した。ハローは腕を組み、足跡をたどった。
でも、足跡は複雑に枝分かれしていて、行き先を特定できない。残念ながら、これ以上追うのは無理そうだ。
「念のため、周囲を探ろう。まだ手がかりがあるかもしれない」
「同意するが……なぜにやけている」
「え、いやいやそんな」
ハローは頬を触った。確かに、こんな状況なのに、ハローは笑っていた。
「だって……ナルガと本当の意味で二人っきりになるの、久しぶりだからさぁ」
「乙女のような奴だな。自身の役目を忘れるな、我々はラコ村が危機にさらされる前に、未然に脅威を駆除せねばならんのだぞ」
「分かってるよぉ」
まるで緊張感が無い。デート気分な夫に呆れつつも、ナルガはこれ以上責められなかった。
ハローに嫁いで四年になるが、彼は今でも自分を女として見ている。それが満更じゃなかった。
「やれやれ、私も平和ボケしたな。だがちゃんと仕事しろ」
「気を付けます、はい」
ナルガに注意されつつ、巡視を続けるハロー。
暫く散策していると、本命の足跡を発見できた。
国境に向けて伸びた足跡だ。どうやら、隣国から侵入してきた連中らしい。
「隣国の兵士の偵察? いや、にしてはお粗末だな」
「それにこんな田舎を探る意味がないよ。重要な情報なんて何もないんだし、警備兵に見つかれば大問題になる。リスクリターンが釣り合わない」
「ともすれば紛争に発展するからな。ではどこの誰が、どのような理由で来たのか、になるのだが」
二人で考えるが、想像もつかない。ハローは得体の知れない不気味さを感じていた。
「今考えても仕方あるまい。これ以上探っても情報は得られんだろうし、帰るぞ」
「そうしよう。でもその前に、さ。ちょっとだけデートしない?」
「お前な……まぁ、あまり緊張しすぎても苦しいだけだからな」
それっぽい理由をつけ、ナルガはハローの馬に乗った。彼女も夫とのデートがしたかったようだ。
デートと言っても、遠回りのルートを走るだけ。その間ハローは、ナルガを宝物でも抱くように、大切に抱き留めた。
ナルガもハローに身を預け、彼と共に居られる幸せを噛み締めた。
これからもずっと、この幸福が続くのだろう。ハローと共に行く未来には、どんな幸福が待っているのだろう。考えるだけで、胸が湧き踊る。
「ハローよ」
「うん?」
「私と結婚してくれた事、感謝するぞ」
「どういたしまして」
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