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177話 「な、ど!」

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 ミネバの予後は順調で、双子の健康状態も問題なし。エドウィンも肩の荷が下りた様子だった。
 出産後のミネバは、ナルガが手伝った。その甲斐あってミネバはすぐに回復した。

「いきなりの双子で大変だろう、困った時は遠慮なく呼ぶといい」
「助かります、とても頼もしいです」
「お互い様だからな。これからも良き関係を築いていこう」

 赤子を抱っこし、ミネバの顔は緩みっぱなしだ。エドウィンもぎこちない手つきで子を抱き、

「いざ抱いてみると、なんか恐いな……壊れやしないだろうな」
「おいおい、これまで何人も取り上げて来たのだろう」
「取り上げただけだ。その後の世話なんてした事ないからな、まだ慣れないんだよ」
「いずれ慣れる。あのハローもちゃんと父親の役目をはたしているのだ、エドに出来ぬ道理などあるまい」
「……確かに、あのハナタレに出来てるんだから、僕もできるか」

 随分な言いようである。
 ナルガが帰宅すると、そのハローはアマトとリナルドの面倒を見ていた。

「あ、おかえり。ねぇ見てナルガ」
「アマトがどうかしたのか?」

 アマトの顔を覗き込むと、娘はナルガに手を伸ばし、もの言いたげに口を動かしている。
 もしかして、言葉を発そうとしているのか?

「ずーっと俺とリナルドを見て、口をぱくぱくさせてるんだ。何か言おうとしているのかも」
「なんと……おいアマト、私が誰か分かるな? ママだぞ、マ、マ」

 自分を呼んでほしくて、ナルガは自身を指さした。ハローも期待を込めてアマトを見つめている。
 アマトはきょろきょろしてから、ふと、リナルドと目が合った。
 きょとんとするリナルドに対し、アマトはにぱっと笑って、手を伸ばす。

「な、ど。な、ど!」
「え、僕?」
「な、ど!」

 アマトはきゃっきゃと笑い、リナルドの指を握って、何度も「などなど」繰り返す。両親よりも、兄の名を呼んだのだ。

「ほう、リナルドを最初に呼ぶとは。いつも面倒を見てくれているのが分かるのだろう」
「ははっ、良かったなリナルド。アマトが「お兄ちゃん」って呼んでるぞ」

 「お兄ちゃん」、蠱惑的な響きだ。リナルドはポッと頬を桜色に染めた。
 アマトに握られた指を見つめ、リナルドはふと、シェリーを思い浮かべた。
 ずっと疑問だったのだ、姉がどうして自分を守ってくれていたのか。

 アマトに指を握られた時、途方もない愛おしさが湧いてきた。守ってあげたいと、本能的に思った。
 きっと姉も同じ気持ちだったのだろう、リナルドを愛してくれたから、シェリーは命がけで助けてくれたのだ。
 アマトを守らねば、兄として、妹のために強くならねば。

「お父さん、お母さん。お願いがあるの」

 元勇者と、元魔王四天王。師匠として、これほどの人物は居ない。

「僕に、剣術を教えて」

 アマトのために、強くなるんだ。
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