上 下
176 / 207
3部

177話 「な、ど!」

しおりを挟む
 ミネバの予後は順調で、双子の健康状態も問題なし。エドウィンも肩の荷が下りた様子だった。
 出産後のミネバは、ナルガが手伝った。その甲斐あってミネバはすぐに回復した。

「いきなりの双子で大変だろう、困った時は遠慮なく呼ぶといい」
「助かります、とても頼もしいです」
「お互い様だからな。これからも良き関係を築いていこう」

 赤子を抱っこし、ミネバの顔は緩みっぱなしだ。エドウィンもぎこちない手つきで子を抱き、

「いざ抱いてみると、なんか恐いな……壊れやしないだろうな」
「おいおい、これまで何人も取り上げて来たのだろう」
「取り上げただけだ。その後の世話なんてした事ないからな、まだ慣れないんだよ」
「いずれ慣れる。あのハローもちゃんと父親の役目をはたしているのだ、エドに出来ぬ道理などあるまい」
「……確かに、あのハナタレに出来てるんだから、僕もできるか」

 随分な言いようである。
 ナルガが帰宅すると、そのハローはアマトとリナルドの面倒を見ていた。

「あ、おかえり。ねぇ見てナルガ」
「アマトがどうかしたのか?」

 アマトの顔を覗き込むと、娘はナルガに手を伸ばし、もの言いたげに口を動かしている。
 もしかして、言葉を発そうとしているのか?

「ずーっと俺とリナルドを見て、口をぱくぱくさせてるんだ。何か言おうとしているのかも」
「なんと……おいアマト、私が誰か分かるな? ママだぞ、マ、マ」

 自分を呼んでほしくて、ナルガは自身を指さした。ハローも期待を込めてアマトを見つめている。
 アマトはきょろきょろしてから、ふと、リナルドと目が合った。
 きょとんとするリナルドに対し、アマトはにぱっと笑って、手を伸ばす。

「な、ど。な、ど!」
「え、僕?」
「な、ど!」

 アマトはきゃっきゃと笑い、リナルドの指を握って、何度も「などなど」繰り返す。両親よりも、兄の名を呼んだのだ。

「ほう、リナルドを最初に呼ぶとは。いつも面倒を見てくれているのが分かるのだろう」
「ははっ、良かったなリナルド。アマトが「お兄ちゃん」って呼んでるぞ」

 「お兄ちゃん」、蠱惑的な響きだ。リナルドはポッと頬を桜色に染めた。
 アマトに握られた指を見つめ、リナルドはふと、シェリーを思い浮かべた。
 ずっと疑問だったのだ、姉がどうして自分を守ってくれていたのか。

 アマトに指を握られた時、途方もない愛おしさが湧いてきた。守ってあげたいと、本能的に思った。
 きっと姉も同じ気持ちだったのだろう、リナルドを愛してくれたから、シェリーは命がけで助けてくれたのだ。
 アマトを守らねば、兄として、妹のために強くならねば。

「お父さん、お母さん。お願いがあるの」

 元勇者と、元魔王四天王。師匠として、これほどの人物は居ない。

「僕に、剣術を教えて」

 アマトのために、強くなるんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

チート願望者は異世界召還の夢を見るか?

扶桑かつみ
ファンタジー
 『夢』の中でだけ行くことのできる、魔法と魔物が存在する異世界『アナザー・スカイ』。  そこに行くには、神様に召喚されなくてもいいし、トラックに跳ねられて死んで転生しなくてもいい。だが、眠っている間の夢の中だけしか行くことができなかった。  しかも『夢』の中で異世界に行く事ができるのは、一人ではなく不特定多数の多くの若者たちだった。  そして夢を見ている間に異世界で丸1日を過ごすことができるが、夢から覚めれば日常が待っているので、異世界と日常の二重生活を毎日に送ることとなる。  このためヴァーチャル・ゲームのようだと言われる事もあった。  ある日、平凡な高校生の一人も、『夢』の向こうにある異世界『アナザー・スカイ』に行けるようになり、『夢」の向こうにある異世界で活動できる常人よりはるかに高い身体能力を持つ身体を与えられる。  そしてそこで知り合った美少女と旅をしつつ、昼間は退屈な現実世界の日常と交互に繰り返す毎日が始まる。 (最初に第一部の原型を書いたのが2012年の秋。その時は、一度書き上げた時点で満足して、発表する事無く長い間お蔵入りさせました。  それを大幅にリファインし、さらに第二部以降を追加で徐々に書き進めたものになります。  全体としての想定年代は、物語内でのカレンダーが2015年を想定。) 【小説家になろう、カクヨムでも掲載中。】

人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします

吉野屋
ファンタジー
 竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。  魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。  次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。 【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】  

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

処理中です...