173 / 207
3部
174話 勇者になった理由
しおりを挟む
ハローとリナルドは馬から降り、山を登っていた。
さほど高くなく、リナルドでも問題なく登れる山だ。だけども川遊びで疲れたか、中腹でへばってしまう。
手を貸そうとしたら、リナルドは「いらない」と首を振る。
「お父さんみたいに、かっこよくなるんだっ、僕一人でっ、登るよっ」
「リナルド……! この上ないくらい嬉しい事言ってくれるじゃないか」
ならばリナルドの成長を見届けるまで。転んでもいいよう後ろを歩き、ハローはリナルドを見守った。
無事に山頂に到着し、ハローはリナルドを抱き上げた。
眼下には、広大な森が広がっている。ぽつんと小さいがラコ村が見えて、リナルドは息を呑んだ。
この場所はハローのお気に入りで、いつかリナルドに見せようと思っていた場所だ。
「どうだ、巨人になったみたいだろ」
「うん! あそこが僕達の村だよね」
「そうだぞ。ナルガとアマトは何してるかな」
「仲良くしてるよ、きっと」
景色を楽しみながら、ハローとリナルドは色んな事を話した。その中でリナルドは、ハローにこんな事を聞いた。
「お父さんはどうして勇者になったの?」
「……世界から理不尽を失くしたい、って思ったからだな。俺が親から売られたのは教えたろ?」
「うん、貴族のお屋敷に買われたんでしょ」
「そう。毎日暴力振るわれて、食事もろくにくれなくて、悔しい思いをしたもんさ。その貴族は俺が十の時に没落して、ある商人が火事場泥棒で財産掠め取ったどさくさに、俺を丁稚として拾ったんだ」
その商人こそ、エドウィンを買い取った商人である。そこでもハローは、エドウィンと一緒に奴隷としてこき使われた。
「俺のような境遇の人間は、この世にごまんと居る。そんな不条理をずっと変えたくて、俺やエドのような、悲しい思いをする人が居ない世界を作りたくて、俺は聖剣を受け入れた。勇者の地位があれば出来ると思ったからな。実際、俺について来てくれた人は多かった。エドに、マックとミレイユ。皆、俺に賛同して、同じ想いを抱いてくれた。けど……俺は守れなかった」
両手を見つめ、ハローはかぶりを振った。
どれだけ大きな力を得ても、所詮ハローは一人の人間でしかない。この世の全てを守れるほど、ハローの手は大きくなかったのだ。
「けど失って、分かった事もある。俺は俺の、手の届く範囲しか守れないのだと。エドにオクト、ミネバ、リナルド、アマト……何より、ナルガ。俺が背負える命は、ほんのわずかしか居ない。だから俺は、残された大切な人達を、俺の全てを賭けて守り抜く。今の俺は、そう誓っているんだ」
立ち上がったハローは、「うおー!」と大声を発した。そしたらリナルドも真似して、「うおー!」と可愛い雄たけびを上げる。リナルドの頭を撫でて、ハローは義息子を肩車した。
裕福でなくていい、地位も要らない。家族と安らかに過ごせる、小さくとも確かな幸せ。それがハローの守るべき宝物だ。
さほど高くなく、リナルドでも問題なく登れる山だ。だけども川遊びで疲れたか、中腹でへばってしまう。
手を貸そうとしたら、リナルドは「いらない」と首を振る。
「お父さんみたいに、かっこよくなるんだっ、僕一人でっ、登るよっ」
「リナルド……! この上ないくらい嬉しい事言ってくれるじゃないか」
ならばリナルドの成長を見届けるまで。転んでもいいよう後ろを歩き、ハローはリナルドを見守った。
無事に山頂に到着し、ハローはリナルドを抱き上げた。
眼下には、広大な森が広がっている。ぽつんと小さいがラコ村が見えて、リナルドは息を呑んだ。
この場所はハローのお気に入りで、いつかリナルドに見せようと思っていた場所だ。
「どうだ、巨人になったみたいだろ」
「うん! あそこが僕達の村だよね」
「そうだぞ。ナルガとアマトは何してるかな」
「仲良くしてるよ、きっと」
景色を楽しみながら、ハローとリナルドは色んな事を話した。その中でリナルドは、ハローにこんな事を聞いた。
「お父さんはどうして勇者になったの?」
「……世界から理不尽を失くしたい、って思ったからだな。俺が親から売られたのは教えたろ?」
「うん、貴族のお屋敷に買われたんでしょ」
「そう。毎日暴力振るわれて、食事もろくにくれなくて、悔しい思いをしたもんさ。その貴族は俺が十の時に没落して、ある商人が火事場泥棒で財産掠め取ったどさくさに、俺を丁稚として拾ったんだ」
その商人こそ、エドウィンを買い取った商人である。そこでもハローは、エドウィンと一緒に奴隷としてこき使われた。
「俺のような境遇の人間は、この世にごまんと居る。そんな不条理をずっと変えたくて、俺やエドのような、悲しい思いをする人が居ない世界を作りたくて、俺は聖剣を受け入れた。勇者の地位があれば出来ると思ったからな。実際、俺について来てくれた人は多かった。エドに、マックとミレイユ。皆、俺に賛同して、同じ想いを抱いてくれた。けど……俺は守れなかった」
両手を見つめ、ハローはかぶりを振った。
どれだけ大きな力を得ても、所詮ハローは一人の人間でしかない。この世の全てを守れるほど、ハローの手は大きくなかったのだ。
「けど失って、分かった事もある。俺は俺の、手の届く範囲しか守れないのだと。エドにオクト、ミネバ、リナルド、アマト……何より、ナルガ。俺が背負える命は、ほんのわずかしか居ない。だから俺は、残された大切な人達を、俺の全てを賭けて守り抜く。今の俺は、そう誓っているんだ」
立ち上がったハローは、「うおー!」と大声を発した。そしたらリナルドも真似して、「うおー!」と可愛い雄たけびを上げる。リナルドの頭を撫でて、ハローは義息子を肩車した。
裕福でなくていい、地位も要らない。家族と安らかに過ごせる、小さくとも確かな幸せ。それがハローの守るべき宝物だ。
0
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説
異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
弟子に”賢者の石”発明の手柄を奪われ追放された錬金術師、田舎で工房を開きスローライフする~今更石の使い方が分からないと言われても知らない~
今川幸乃
ファンタジー
オルメイア魔法王国の宮廷錬金術師アルスは国内への魔物の侵入を阻む”賢者の石”という世紀の発明を完成させるが、弟子のクルトにその手柄を奪われてしまう。
さらにクルトは第一王女のエレナと結託し、アルスに濡れ衣を着せて国外へ追放する。
アルスは田舎の山中で工房を開きひっそりとスローライフを始めようとするが、攻めてきた魔物の軍勢を撃退したことで彼の噂を聞きつけた第三王女や魔王の娘などが次々とやってくるのだった。
一方、クルトは”賢者の石”を奪ったものの正しく扱うことが出来ず次第に石は暴走し、王国には次々と異変が起こる。エレナやクルトはアルスを追放したことを後悔するが、その時にはすでに事態は取り返しのつかないことになりつつあった。
※他サイト転載
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる