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164話 冬のある日

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 今年の冬は寒く、朝の薪割は中々に辛い作業だ。ハローはそう思いながら、夜明け前の薄闇の中で薪割をしていた。
 春が近づいているはずなのに、中々寒さが引かないな。
 かじかむ手を息で温めながら、家族が凍えないよう、暖炉にくべる薪を作っていく。斧を振るっている間に体も温まり、ハローは半袖になった。寒いと言っていたのはなんだったのか。

 日が昇り、空が白んでいくのを見ていると、ナルガが起きて来た。ハローは彼女に駆け寄り、にこやかに「おはよう」と伝えた。

「今日も寒いな。ちゃんと上着を着なよ」
「説得力がない恰好で言われてもな。リナルドが真似したらどうする、風邪ひくぞ」
「今の所見られてないから大丈夫だよ。それと、君もおはよう」

 ハローはナルガのお腹を撫でた。ナルガの腹部は臨月で、すっかり大きくなっている。新しい家族と会えるのも、もうすぐだ。
 と、撫でている手に胎動が伝わった。なぜかハローはじんとし、顔をほころばせた。

「すぐ朝飯作るよ、ナルガは顔を拭いて来て」
「食事くらいはやらせろと言っているだろう」
「俺がやりたい気分なんだ。なんか、やる気が出ちゃって」
「産まれる前からこれでは、先が思いやられるな」

 ナルガは苦笑した。そしたらもぞもぞと、寝ていたリナルドも動き出す。ナルガは義息子に歩み寄って、頭を撫でた。

「リナルドも起きたか、寒くないか」
「ん……んぅ~……?」

 リナルドは寝ぼけていて、ナルガの手にすり寄った。ナルガがベッドに腰かけるなり、膝に乗っかって二度寝してしまう。
 甘えたがりなリナルドが愛しく、ナルガは毛布をかぶせた。これでは暫く動けない。

「リナルドの相手をしていていいか?」
「勿論さ。よぅし、リナルドが起きるまでに、作っちまうかぁ」

 ハローは指を鳴らし、料理に取り掛かった。
 いい匂いが満ちてくる頃に、リナルドも目が覚めてくる。ゆっくり頭を起こし、ナルガを見上げ、目を擦った。

「……おはよ、ござます」
「ああおはよう。もうすぐ朝餉が出来る、顔を拭いて来い」
「ふぁ~い……」

 ぽけっとしながら、リナルドは温めたタオルで顔を拭う。自分のことは自分でやる、ハローとナルガの決めたルールだ。
 リナルドの躾は、ナルガが子供の頃、魔王が彼女にしていた事を参考にしている。こうして子育ては継承されていくのだろう。

「魔王が立派なお父さんだったから助かるよ、俺、親からまともな躾を受けた事ないから、こういうの分からなくてさ」
「甘えさせるのと甘やかしは違う、そうおっしゃっていたんだ。他にも礼儀礼節やマナー、作法。リナルドに教えねばならぬ事は多いな」
「全部俺の知らない事ばっかりだなぁ……よく俺、勇者やれてたもんだ」

「周りがフォローしていたから問題ないだろう? 完璧な奴より、多少欠点がある奴は愛嬌がある。そっちの方が私は好きだぞ」
「いやぁ、なんか照れるな。よぅし、お父さん頑張っちゃうぞ!」

 ハロー家の一日は、こうやって始まるのだった。
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