上 下
142 / 207
2部

142話 俺は幸せにならねばならない

しおりを挟む
 ハローの底力は、アルターは勿論、ナルガ達の予測を超えていた。
 「負けるものか」と決意したハローは、終始アルターを押し続けている。天地ほどもある実力差を、気合と根性のみで凌駕していた。
 しかも、あえて真っ向からの力勝負を挑んでいる。アルターに力を誇示するかのように、己の全てをぶつけていた。

『なぜだ、どうやってこのちからをつけた!?』
「別に何も。こいつは単なる意地さ。昔の俺に負けるもんかって、キグナス島の地獄から抜け出さなきゃって、俺自身が変わらなきゃって! そう決めただけだ!」

 力のこもった左拳がアルターを捉え、平原に転がした。アルターは高速の右ストレートで反撃するも、ハローは右拳をぶつけて弾き返した。

『かわる……おれがかわるだと? おまえにみらいなどない! さつじんきにみらいなど! あってはならないんだ!!!』

 アルターは魔力の砲撃を繰り出した。あらゆるものを粉々にする砲撃を前に、ハローは魔剣を振り被った。

「確かに俺の過去は消えない、多くの命を奪った罪を、現在の俺は背負わないといけない。でも! その過去を背負ったからこそ! 俺は未来を繋がないといけないんだ!」

 ハローは魔剣の一閃で魔力の砲撃を打ち消した。アルターは驚愕し、たじろいだ。
 その隙に、ハローは懐へ潜り込む。足に力を込め、腰を入れ、歯を食いしばった。
 アルターの顔面に、魔剣がめり込んだ。己の全てを込めた一撃がアルターを叩き潰し、地震を起こした。
 大地にめり込み、アルターは停止した。ハローは息を整え、ナルガ達に目配せした。

 アルターの周囲に、ハローに関わる者達が集まる。リナルドも近づいたが、アルターは負けを認めたのか、手を出さない。
 ハローはしゃがみ、アルターを助け起こした。

「アルター、お前は過去を悔やむ俺自身だ。だから俺は、お前と話がしたいんだ」
『……おまえとはなすことなんか、ない』
「ナルガのお腹にな、俺の子が居るんだよ」

 アルターは目を見開いた。するとナルガはアルターの手を取り、腹に触れさせた。

「分かるか? 少しだけ、膨らみが出たんだ。紛れもない、ハローの子だよ」
『……おれの、こども……おれが、ちちおやに?』

「もう父親さ。リナルドを養子に迎えたからね。俺はもう子供じゃない、責任を背負った大人になった以上、子供達に苗木を残さなきゃならないんだよ。俺は過去の罪を無視するつもりはない。過ちを起こしたからこそ、二度とキグナスの地獄を起こさないように、次の世代に伝えなきゃいけないんだ。じゃないと、俺が奪った命が無駄になってしまう。責任を果たさず死ぬなんて、それこそ罪じゃないか」

「それにな、ハロー。お前が自分を傷つける事で、不幸になる者が居るんだ。私は勿論、エドウィンにオクト、そして無念を残したマックとミレイユも、お前が死んだらどれだけ悲しむと思う。自分のためでなく、私達のためにお前は、幸せにならねばならない。お前が幸福になる事こそが、お前の過去を償う方法なのだ」
『……おれのしあわせが、しょくざいになるか……考えた事も、なかったな』

 アルターは初めて微笑んだ。狂気も薄れ、リナルドの頬を撫でた。

『ごめんな、独り善がりだったよ。リナルドを殺すなんて、それじゃ昔の俺と変わらない。また同じ過ちを、繰り返す所だった』
「ううん、僕も……お父さんの気持ち、分かるから」
『優しい子だ。おい俺、俺は一足先に、マックとミレイユに会いに行く。くれぐれも家族を……特にナルガを、悲しませるなよ』
「気を付けるよ、二人によろしくな」

 アルターが頷くと、体が粒子となって消えていく。皆に見送られながら去り行く彼は、満足気に笑っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

【R18】しごでき部長とわんこ部下の内緒事 。

枯枝るぅ
BL
めちゃくちゃ仕事出来るけどめちゃくちゃ厳しくて、部下達から綺麗な顔して言葉がキツいと恐れられている鬼部長、市橋 彩人(いちはし あやと)には秘密がある。 仕事が出来ないわけではないけど物凄く出来るわけでもない、至って普通な、だけど神経がやたらと図太くいつもヘラヘラしている部下、神崎 柊真(かんざき とうま)にも秘密がある。 秘密がある2人の秘密の関係のお話。 年下ワンコ(実はドS)×年上俺様(実はドM)のコミカルなエロです。 でもちょっと属性弱いかもしれない… R18には※印つけます。

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

転生したらBLゲームの攻略キャラになってたんですけど! R-18短編集

朝比奈歩
BL
君は最推し!シリーズ(転生したらBLゲームの攻略キャラになってたんですけど!)のR-18短編集です。 ifシリーズは「もしもこのキャラと凛が付き合っていたら」と言う事になっております。 本編とはリンクしていない場合がありますので、ご注意ください。 ※この物語はフィクションです。

騎士見習いの年下男子が私の嘘に協力してくれるんですけど

荒瀬ヤヒロ
恋愛
男性が女性に愛を告げる花祭りが近づき、浮き足立った女の子達は恋の話題で持ちきり。 好きな人もいないことをからかわれたモニカはつい「恋人ぐらいいるわよ」と言ってしまい…… 「じゃあ、恋人のふりしてあげますよ」 「へ?」 何故か初対面の男の子がその嘘に付き合ってくれると言い出して?

推し。

ゆう
恋愛
【きみ】と出会って世界が変わる。

【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453 の続きです。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

処理中です...