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2部
142話 俺は幸せにならねばならない
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ハローの底力は、アルターは勿論、ナルガ達の予測を超えていた。
「負けるものか」と決意したハローは、終始アルターを押し続けている。天地ほどもある実力差を、気合と根性のみで凌駕していた。
しかも、あえて真っ向からの力勝負を挑んでいる。アルターに力を誇示するかのように、己の全てをぶつけていた。
『なぜだ、どうやってこのちからをつけた!?』
「別に何も。こいつは単なる意地さ。昔の俺に負けるもんかって、キグナス島の地獄から抜け出さなきゃって、俺自身が変わらなきゃって! そう決めただけだ!」
力のこもった左拳がアルターを捉え、平原に転がした。アルターは高速の右ストレートで反撃するも、ハローは右拳をぶつけて弾き返した。
『かわる……おれがかわるだと? おまえにみらいなどない! さつじんきにみらいなど! あってはならないんだ!!!』
アルターは魔力の砲撃を繰り出した。あらゆるものを粉々にする砲撃を前に、ハローは魔剣を振り被った。
「確かに俺の過去は消えない、多くの命を奪った罪を、現在の俺は背負わないといけない。でも! その過去を背負ったからこそ! 俺は未来を繋がないといけないんだ!」
ハローは魔剣の一閃で魔力の砲撃を打ち消した。アルターは驚愕し、たじろいだ。
その隙に、ハローは懐へ潜り込む。足に力を込め、腰を入れ、歯を食いしばった。
アルターの顔面に、魔剣がめり込んだ。己の全てを込めた一撃がアルターを叩き潰し、地震を起こした。
大地にめり込み、アルターは停止した。ハローは息を整え、ナルガ達に目配せした。
アルターの周囲に、ハローに関わる者達が集まる。リナルドも近づいたが、アルターは負けを認めたのか、手を出さない。
ハローはしゃがみ、アルターを助け起こした。
「アルター、お前は過去を悔やむ俺自身だ。だから俺は、お前と話がしたいんだ」
『……おまえとはなすことなんか、ない』
「ナルガのお腹にな、俺の子が居るんだよ」
アルターは目を見開いた。するとナルガはアルターの手を取り、腹に触れさせた。
「分かるか? 少しだけ、膨らみが出たんだ。紛れもない、ハローの子だよ」
『……おれの、こども……おれが、ちちおやに?』
「もう父親さ。リナルドを養子に迎えたからね。俺はもう子供じゃない、責任を背負った大人になった以上、子供達に苗木を残さなきゃならないんだよ。俺は過去の罪を無視するつもりはない。過ちを起こしたからこそ、二度とキグナスの地獄を起こさないように、次の世代に伝えなきゃいけないんだ。じゃないと、俺が奪った命が無駄になってしまう。責任を果たさず死ぬなんて、それこそ罪じゃないか」
「それにな、ハロー。お前が自分を傷つける事で、不幸になる者が居るんだ。私は勿論、エドウィンにオクト、そして無念を残したマックとミレイユも、お前が死んだらどれだけ悲しむと思う。自分のためでなく、私達のためにお前は、幸せにならねばならない。お前が幸福になる事こそが、お前の過去を償う方法なのだ」
『……おれのしあわせが、しょくざいになるか……考えた事も、なかったな』
アルターは初めて微笑んだ。狂気も薄れ、リナルドの頬を撫でた。
『ごめんな、独り善がりだったよ。リナルドを殺すなんて、それじゃ昔の俺と変わらない。また同じ過ちを、繰り返す所だった』
「ううん、僕も……お父さんの気持ち、分かるから」
『優しい子だ。おい俺、俺は一足先に、マックとミレイユに会いに行く。くれぐれも家族を……特にナルガを、悲しませるなよ』
「気を付けるよ、二人によろしくな」
アルターが頷くと、体が粒子となって消えていく。皆に見送られながら去り行く彼は、満足気に笑っていた。
「負けるものか」と決意したハローは、終始アルターを押し続けている。天地ほどもある実力差を、気合と根性のみで凌駕していた。
しかも、あえて真っ向からの力勝負を挑んでいる。アルターに力を誇示するかのように、己の全てをぶつけていた。
『なぜだ、どうやってこのちからをつけた!?』
「別に何も。こいつは単なる意地さ。昔の俺に負けるもんかって、キグナス島の地獄から抜け出さなきゃって、俺自身が変わらなきゃって! そう決めただけだ!」
力のこもった左拳がアルターを捉え、平原に転がした。アルターは高速の右ストレートで反撃するも、ハローは右拳をぶつけて弾き返した。
『かわる……おれがかわるだと? おまえにみらいなどない! さつじんきにみらいなど! あってはならないんだ!!!』
アルターは魔力の砲撃を繰り出した。あらゆるものを粉々にする砲撃を前に、ハローは魔剣を振り被った。
「確かに俺の過去は消えない、多くの命を奪った罪を、現在の俺は背負わないといけない。でも! その過去を背負ったからこそ! 俺は未来を繋がないといけないんだ!」
ハローは魔剣の一閃で魔力の砲撃を打ち消した。アルターは驚愕し、たじろいだ。
その隙に、ハローは懐へ潜り込む。足に力を込め、腰を入れ、歯を食いしばった。
アルターの顔面に、魔剣がめり込んだ。己の全てを込めた一撃がアルターを叩き潰し、地震を起こした。
大地にめり込み、アルターは停止した。ハローは息を整え、ナルガ達に目配せした。
アルターの周囲に、ハローに関わる者達が集まる。リナルドも近づいたが、アルターは負けを認めたのか、手を出さない。
ハローはしゃがみ、アルターを助け起こした。
「アルター、お前は過去を悔やむ俺自身だ。だから俺は、お前と話がしたいんだ」
『……おまえとはなすことなんか、ない』
「ナルガのお腹にな、俺の子が居るんだよ」
アルターは目を見開いた。するとナルガはアルターの手を取り、腹に触れさせた。
「分かるか? 少しだけ、膨らみが出たんだ。紛れもない、ハローの子だよ」
『……おれの、こども……おれが、ちちおやに?』
「もう父親さ。リナルドを養子に迎えたからね。俺はもう子供じゃない、責任を背負った大人になった以上、子供達に苗木を残さなきゃならないんだよ。俺は過去の罪を無視するつもりはない。過ちを起こしたからこそ、二度とキグナスの地獄を起こさないように、次の世代に伝えなきゃいけないんだ。じゃないと、俺が奪った命が無駄になってしまう。責任を果たさず死ぬなんて、それこそ罪じゃないか」
「それにな、ハロー。お前が自分を傷つける事で、不幸になる者が居るんだ。私は勿論、エドウィンにオクト、そして無念を残したマックとミレイユも、お前が死んだらどれだけ悲しむと思う。自分のためでなく、私達のためにお前は、幸せにならねばならない。お前が幸福になる事こそが、お前の過去を償う方法なのだ」
『……おれのしあわせが、しょくざいになるか……考えた事も、なかったな』
アルターは初めて微笑んだ。狂気も薄れ、リナルドの頬を撫でた。
『ごめんな、独り善がりだったよ。リナルドを殺すなんて、それじゃ昔の俺と変わらない。また同じ過ちを、繰り返す所だった』
「ううん、僕も……お父さんの気持ち、分かるから」
『優しい子だ。おい俺、俺は一足先に、マックとミレイユに会いに行く。くれぐれも家族を……特にナルガを、悲しませるなよ』
「気を付けるよ、二人によろしくな」
アルターが頷くと、体が粒子となって消えていく。皆に見送られながら去り行く彼は、満足気に笑っていた。
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