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124話 「エド」と呼ぶ意味

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 夕暮れの空を、ハローとナルガは眺めていた。
 既に月が出ていて、美しい真円を描いている。リナルドはナルガにしがみついて、不安げに二人を見上げていた。
 三人はラコ村から離れた場所で、怪物を待っていた。住民達への被害を防ぐためである。怪物の狙いがリナルドである以上、村に残しておくのも危険だ。万一、三人を無視してラコ村を襲撃されては、手の打ちようがない。
 多少危険でも、リナルドを手元に置いておかなければ。

「いよいよだな」

 エドウィンがやってきた。彼は腕を組むと、眉間に皺を寄せた。

「結局今まで奴は出てこなかったな。となると、出てくるのは間違いなく」
「今夜だろうな。覚悟は出来ているよ」

 ハローは折れた剣を掲げた。こんな粗大ごみで本当に戦えるのか、エドウィンは不安になった。オクトの情報も間に合わなかったし、不安ばかりが募ってくる。
 けど、僕では戦えない。この夫婦を信じるしかないな。
 ただ座して待っていたわけじゃない、奴を迎撃するために、準備は拵えてきた。僕はこいつらを援護するだけだ。

「援護はしてやる、だから死ぬなよ、お前ら」
「死なないさ、ナルガが悲しむからね」
「エドウィンはリナルドを頼むぞ、奴の狙いの一つだからな」

 ナルガからリナルドを受け取り、エドウィンは頷いた。
 暗闇が広がり、夜がやってくる。エドウィンは息を呑んで、怪物を待ち構えた。
 そしたら、月明りに照らされた彼らの前に、黒い粒子が現れた。
 粒子は人の姿を形取り、件の怪物へと変貌していく。ハローとナルガは剣を抜き、エドウィンもリナルドを抱えて後退した。

『ヲヲ……オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』

 満月の夜に、黒の怪物が顕現した。リナルドの情報は正しかったのだ。
 改めて相対するが、なんて冷たい空気を纏う奴だろう。憎悪と殺意に満ちていて、心がこの場に居るのを拒否してしまう。
 でもハローとナルガが戦うんだ、僕だけ逃げるわけにいくかよ。
 エドウィンは覚悟を決めた。ところが、

『ウウウ……ヲヲ、ヲ……』

 予想に反し、怪物は動かない。ハローとナルガも出方を伺っていて、膠着状態が続いた。
 怪物はナルガとエドウィンに視線を移した。目が合ったエドウィンは、驚いた。
 怪物の目に、深い悲しみが浮かんでいたから。まるで、今にも泣きそうな、子供のような目をしていた。
 あの目、どこかで……?

『ナル、ガ……エド……ウ……ウゥ……ォォ……』

 怪物は後ずさりし、頭を抱えた。
 今、僕を「エド」と呼ばなかったか?

『ヲ、ヲヲ……オオオオオオッ!』

 怪物はハローを押しのけ、エドウィンに肉薄した。あまりの速度にハローとナルガは反応できず、接近を許してしまう。
 エドウィンはリナルドを抱きかかえた。でも攻撃はいつまでも来なくて、恐る恐る、目を開いた。

『エド……よく、ぶじで……』

 そこには、土下座をするように倒れ込む怪物が居た。
 竜を模した兜の隙間からは、黒い涙が流れている。

「エドから離れろ!」

 ハローが折れた剣を怪物に振り下ろした。背に一太刀を受けた怪物は苦しみの咆哮を上げ、エドウィンから距離を取った。

『ハロォォォォォォォォォォ!!!』

 そのまま、ハローと怪物は戦闘に入った。ナルガも交えての攻防だが、心なしか怪物の動きが鈍い。なぜか、周囲の被害を気にしているようだった。
 ……試してみるか?

「ナルガ! リナルドの傍に!」

 エドウィンの指示に従い、ナルガはリナルドの守備に回る。エドウィンは意を決し、ハローと怪物の間に割って入った。

「おい!? やめろ、死ぬ気か!?」

 ナルガの制止も聞かず、エドウィンは両手を広げて怪物に立ちふさがる。そしたら怪物の攻撃が止まった。
 やっぱりだ、こいつは僕とナルガを傷つけられない。

「やれ! ハロー!」
「おう!」

 ハローは怪物に剣を叩きつけた。鈍い音と共に痛烈な一撃が入り、怪物はたたらを踏んで逃げ出した。

「逃がすか!」

 ハローは怪物を追いかけ離れてしまう。エドウィンとナルガはリナルドを連れ、ハローの下へ急いだ。
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