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122話 怪物が抱いていた感情

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 翌日、ナルガは農婦達と共に、木こり達へ昼食を届けに行った。
 リナルドはミコに手を引かれている。ミコはすっかり彼を気に入ったようだ。

「あ、ナルガ!」

 ハローは嫁にいち早く気づき、駆け寄ってきた。
 家族ごとに纏まって、安らぎのひと時を過ごす。ミコがリナルドの相手をしている間、ハローはナルガに身を寄せた。

「昨日はありがとね、リナルドの事」
「お前も起きていたのか」
「話に入るタイミングが無かったけどね。リナルドが抱えていた物は、予想以上に大きそうだ」
「ハローはどう見る、黒塗りの女とやらを」

「……あまり考えたくはないけど、母親だろうね」
「己の子に暴言を吐くような輩だ、ろくな奴ではないな。それに、別の場所でも虐待を受けていたらしい。話から推測するに、人体実験の材料にされていたようだな」
「人体実験……あんな子供を捕まえて、なんて事をしているんだ……」
「全くだな……ただ話の中で、もう一人の女が出て来たが」

「リナルドを庇ってた女の子か。ミコと同じくらいみたいだけど」
「まぁ関係は何となくわかるが、居ない奴を論じても仕方あるまい。それより大事な話がある」
「話さなくても、ナルガの考えてる事は分かるよ。君の提案を、俺が否定すると思ってるのかい?」
「聞き分けのいい夫で助かる。まぁ、根回しをする必要はあるが……どうにでもなるだろう。ただし、正式に決める前に」

「怪物をどうにかしないとね。推測が正しければ、明日にでも出るはずだ」

 今夜は満月である。リナルドの言う通り、怪物は今日まで一度も出てこなかった。夜が最も明るくなる日、つまり満月の日に、奴は現れる。

「奴の正体を見極めないと、先に進めないな。オクトからも音沙汰はないし」
「忙しい身だもの、気長に待つしかない」

 ハローはため息を吐いた。夫を横目に、ナルガは怪物について考えた。
 一つだけ、怪物に関して引っかかる点がある。奴は、私の名を呼んでいた。

 ナルガを見て、明らかに動揺していた。以降もナルガにだけは決して手を出さず、意図的に攻撃を避けていた。何よりナルガを目にした時、憎悪に満ちた眼の中に、ほんの僅かな慈しみを浮かべていた。

 なんで私に慈しみを向けたのだろう。何より、怪物が私に向けた感情は憎しみではなく。

 微かな、愛情だった。

「どうしたの? 俺を見つめて。照れちゃうよ」
「さてな」
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