上 下
121 / 207
2部

121話 僕は不幸を運ぶ

しおりを挟む
 リナルドの傍らで、黒塗りの女性が打ちひしがれていた。
 目の前では、町が燃えている。住民は全滅し、生き残ったのはリナルドを含めた三人だけ。

『あんたのせいだ……あんたを産んでから、私の人生はめちゃくちゃだ……!』

 女性はリナルドを蹴り倒し、何度も頭を踏みつけた。

『あんたが! あんたが生まれなければ! この不幸の子め! 殺してやる、殺してやる!』
『やめて!』

 少女がリナルドを庇った。女性は舌打ちし、少女ごとリナルドを蹴りつけた。

『どうしてこんな奴が居るんだ……そうだ、全部あの男が悪い……あれが悪い……そしてこいつも悪い! 私が不幸になったのは! 全部お前達が悪いんだ!』

 更に酷い暴行を加えた後、女性は二人を無視して去ってしまう。
 少女はボロボロの体を起こすと、リナルドの手を取った。

『行こ、じゃないとごはん、食べられないよ』
『でも……』
『大丈夫、私が居るから。だから、行こ』

 少女は気丈に微笑み、リナルドを連れて歩き出した。
 場面は変わって、リナルドは少女と二人で檻に閉じ込められていた。
 交代に人体実験を受け、毎日辛くて苦しくて、体液が枯れ果てるまで泣き叫んで。ゴミのような粗末な食事を分け合って、壊れそうな命を必死に繋ぎ続けていた。

 いつ死ぬか分からぬ日々を過ごしていた、ある時。二人は白と黒の剣の前に立たされた。
 その剣は二人の胸を貫いて、体ごと魂を吸収していった。リナルドは少女に助けを求めようとしたけれど、彼女もまた、リナルドに助けを乞いていた。

 ……僕は、何も出来なかった。恐くて痛くて、泣き続けるあの子を見ているしか出来なかった。
 僕が居るから、皆が不幸になってしまう。街が燃えたのも、あの子が不幸になったのも、全部僕のせいだ。

 ぼくなんか うまれなければ よかったんだ

 リナルドは目を覚ました。酷く汗をかいていて、気持ちが悪い。
 まだ夜中だ。リナルドを挟むように、ハローとナルガが眠っている。リナルドは泣きそうな顔で二人を見つめ、そっとベッドから降りた。

「……僕が居たら、不幸になる……」

 二人との生活はとても幸せで、リナルドの心を癒してくれる。でも、幸せ過ぎて時々不安になって、恐くなる時がある。
 そのストレスがきっかけになって、記憶が断片的に戻るのだ。だけど蘇るのはどれも、苦痛に満ちた記憶ばかり。
 同時に、心がリナルドにこう囁いてくる。「二人から離れろ」「お前が居ると皆が不幸になる」と。
 取り戻した記憶の中でも、リナルドは女性から、酷く責められていた。リナルドさえ生まれなければ、自分は不幸にならなかったのだ。

「ここに居ちゃ、いけないよね……」

 ハローとナルガはとても優しくて、リナルドも好きになっていた。だから、二人には不幸になってほしくない。
 リナルドは二人が起きないよう、静かに出ていこうとした。

「どこに行くんだ?」

 そしたら、ナルガに手を握られた。

「起きてたの?」
「何となくな。それで、どうしてここに居てはいけないんだ?」
「……僕が居ると、皆が、不幸になるから」

 リナルドは拙くも、思い出した事を話した。ナルガはリナルドの話を聞いた後、柔らかく抱きしめてくれた。

「記憶の中の連中は、随分と酷い奴だな。そんな奴の声など真に受けるな」
「でも、僕が居たせいで、沢山の人が燃えちゃって、あの子もずっと痛い事されてて……僕が居たら、ハローもナルガも、嫌な思いをするから……」
「嫌な思いなど、とうに経験している。私もハローも、何度もな」

 ナルガは欠けた左足を見せた。痛々しい傷にリナルドは目を逸らした。

「だがな、ハローと結ばれてから幸せになれた。リナルドが来てからは、もっと幸せになれた。リナルドのおかげで、毎日がとても楽しいんだ」
「そうなの?」
「嘘は言わん。リナルドの居ない日々など、最早考えられん。リナルドは不幸ではなく、幸福を届けてくれたのだ」

 ナルガは抱きしめる力を強めた。ナルガの胸に顔を埋め、リナルドは目を閉じた。

「僕、ここに居て、いいの」
「いいに決まっている、ずっと居ていいんだ。だから悲しい事を言うな、私も悲しくなる」

 ナルガに諭され、リナルドは少しだけ心が軽くなった。
 二人はいつも、自分から闇を払ってくれる。でも、リナルドの体には常に、黒塗りの女の腕が絡まっている。

『お前が居ると! 皆不幸になるんだ!』

 リナルドの耳から、女の声は離れなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします

吉野屋
ファンタジー
 竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。  魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。  次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。 【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】  

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

処理中です...