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2部
121話 僕は不幸を運ぶ
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リナルドの傍らで、黒塗りの女性が打ちひしがれていた。
目の前では、町が燃えている。住民は全滅し、生き残ったのはリナルドを含めた三人だけ。
『あんたのせいだ……あんたを産んでから、私の人生はめちゃくちゃだ……!』
女性はリナルドを蹴り倒し、何度も頭を踏みつけた。
『あんたが! あんたが生まれなければ! この不幸の子め! 殺してやる、殺してやる!』
『やめて!』
少女がリナルドを庇った。女性は舌打ちし、少女ごとリナルドを蹴りつけた。
『どうしてこんな奴が居るんだ……そうだ、全部あの男が悪い……あれが悪い……そしてこいつも悪い! 私が不幸になったのは! 全部お前達が悪いんだ!』
更に酷い暴行を加えた後、女性は二人を無視して去ってしまう。
少女はボロボロの体を起こすと、リナルドの手を取った。
『行こ、じゃないとごはん、食べられないよ』
『でも……』
『大丈夫、私が居るから。だから、行こ』
少女は気丈に微笑み、リナルドを連れて歩き出した。
場面は変わって、リナルドは少女と二人で檻に閉じ込められていた。
交代に人体実験を受け、毎日辛くて苦しくて、体液が枯れ果てるまで泣き叫んで。ゴミのような粗末な食事を分け合って、壊れそうな命を必死に繋ぎ続けていた。
いつ死ぬか分からぬ日々を過ごしていた、ある時。二人は白と黒の剣の前に立たされた。
その剣は二人の胸を貫いて、体ごと魂を吸収していった。リナルドは少女に助けを求めようとしたけれど、彼女もまた、リナルドに助けを乞いていた。
……僕は、何も出来なかった。恐くて痛くて、泣き続けるあの子を見ているしか出来なかった。
僕が居るから、皆が不幸になってしまう。街が燃えたのも、あの子が不幸になったのも、全部僕のせいだ。
ぼくなんか うまれなければ よかったんだ
リナルドは目を覚ました。酷く汗をかいていて、気持ちが悪い。
まだ夜中だ。リナルドを挟むように、ハローとナルガが眠っている。リナルドは泣きそうな顔で二人を見つめ、そっとベッドから降りた。
「……僕が居たら、不幸になる……」
二人との生活はとても幸せで、リナルドの心を癒してくれる。でも、幸せ過ぎて時々不安になって、恐くなる時がある。
そのストレスがきっかけになって、記憶が断片的に戻るのだ。だけど蘇るのはどれも、苦痛に満ちた記憶ばかり。
同時に、心がリナルドにこう囁いてくる。「二人から離れろ」「お前が居ると皆が不幸になる」と。
取り戻した記憶の中でも、リナルドは女性から、酷く責められていた。リナルドさえ生まれなければ、自分は不幸にならなかったのだ。
「ここに居ちゃ、いけないよね……」
ハローとナルガはとても優しくて、リナルドも好きになっていた。だから、二人には不幸になってほしくない。
リナルドは二人が起きないよう、静かに出ていこうとした。
「どこに行くんだ?」
そしたら、ナルガに手を握られた。
「起きてたの?」
「何となくな。それで、どうしてここに居てはいけないんだ?」
「……僕が居ると、皆が、不幸になるから」
リナルドは拙くも、思い出した事を話した。ナルガはリナルドの話を聞いた後、柔らかく抱きしめてくれた。
「記憶の中の連中は、随分と酷い奴だな。そんな奴の声など真に受けるな」
「でも、僕が居たせいで、沢山の人が燃えちゃって、あの子もずっと痛い事されてて……僕が居たら、ハローもナルガも、嫌な思いをするから……」
「嫌な思いなど、とうに経験している。私もハローも、何度もな」
ナルガは欠けた左足を見せた。痛々しい傷にリナルドは目を逸らした。
「だがな、ハローと結ばれてから幸せになれた。リナルドが来てからは、もっと幸せになれた。リナルドのおかげで、毎日がとても楽しいんだ」
「そうなの?」
「嘘は言わん。リナルドの居ない日々など、最早考えられん。リナルドは不幸ではなく、幸福を届けてくれたのだ」
ナルガは抱きしめる力を強めた。ナルガの胸に顔を埋め、リナルドは目を閉じた。
「僕、ここに居て、いいの」
「いいに決まっている、ずっと居ていいんだ。だから悲しい事を言うな、私も悲しくなる」
ナルガに諭され、リナルドは少しだけ心が軽くなった。
二人はいつも、自分から闇を払ってくれる。でも、リナルドの体には常に、黒塗りの女の腕が絡まっている。
『お前が居ると! 皆不幸になるんだ!』
リナルドの耳から、女の声は離れなかった。
目の前では、町が燃えている。住民は全滅し、生き残ったのはリナルドを含めた三人だけ。
『あんたのせいだ……あんたを産んでから、私の人生はめちゃくちゃだ……!』
女性はリナルドを蹴り倒し、何度も頭を踏みつけた。
『あんたが! あんたが生まれなければ! この不幸の子め! 殺してやる、殺してやる!』
『やめて!』
少女がリナルドを庇った。女性は舌打ちし、少女ごとリナルドを蹴りつけた。
『どうしてこんな奴が居るんだ……そうだ、全部あの男が悪い……あれが悪い……そしてこいつも悪い! 私が不幸になったのは! 全部お前達が悪いんだ!』
更に酷い暴行を加えた後、女性は二人を無視して去ってしまう。
少女はボロボロの体を起こすと、リナルドの手を取った。
『行こ、じゃないとごはん、食べられないよ』
『でも……』
『大丈夫、私が居るから。だから、行こ』
少女は気丈に微笑み、リナルドを連れて歩き出した。
場面は変わって、リナルドは少女と二人で檻に閉じ込められていた。
交代に人体実験を受け、毎日辛くて苦しくて、体液が枯れ果てるまで泣き叫んで。ゴミのような粗末な食事を分け合って、壊れそうな命を必死に繋ぎ続けていた。
いつ死ぬか分からぬ日々を過ごしていた、ある時。二人は白と黒の剣の前に立たされた。
その剣は二人の胸を貫いて、体ごと魂を吸収していった。リナルドは少女に助けを求めようとしたけれど、彼女もまた、リナルドに助けを乞いていた。
……僕は、何も出来なかった。恐くて痛くて、泣き続けるあの子を見ているしか出来なかった。
僕が居るから、皆が不幸になってしまう。街が燃えたのも、あの子が不幸になったのも、全部僕のせいだ。
ぼくなんか うまれなければ よかったんだ
リナルドは目を覚ました。酷く汗をかいていて、気持ちが悪い。
まだ夜中だ。リナルドを挟むように、ハローとナルガが眠っている。リナルドは泣きそうな顔で二人を見つめ、そっとベッドから降りた。
「……僕が居たら、不幸になる……」
二人との生活はとても幸せで、リナルドの心を癒してくれる。でも、幸せ過ぎて時々不安になって、恐くなる時がある。
そのストレスがきっかけになって、記憶が断片的に戻るのだ。だけど蘇るのはどれも、苦痛に満ちた記憶ばかり。
同時に、心がリナルドにこう囁いてくる。「二人から離れろ」「お前が居ると皆が不幸になる」と。
取り戻した記憶の中でも、リナルドは女性から、酷く責められていた。リナルドさえ生まれなければ、自分は不幸にならなかったのだ。
「ここに居ちゃ、いけないよね……」
ハローとナルガはとても優しくて、リナルドも好きになっていた。だから、二人には不幸になってほしくない。
リナルドは二人が起きないよう、静かに出ていこうとした。
「どこに行くんだ?」
そしたら、ナルガに手を握られた。
「起きてたの?」
「何となくな。それで、どうしてここに居てはいけないんだ?」
「……僕が居ると、皆が、不幸になるから」
リナルドは拙くも、思い出した事を話した。ナルガはリナルドの話を聞いた後、柔らかく抱きしめてくれた。
「記憶の中の連中は、随分と酷い奴だな。そんな奴の声など真に受けるな」
「でも、僕が居たせいで、沢山の人が燃えちゃって、あの子もずっと痛い事されてて……僕が居たら、ハローもナルガも、嫌な思いをするから……」
「嫌な思いなど、とうに経験している。私もハローも、何度もな」
ナルガは欠けた左足を見せた。痛々しい傷にリナルドは目を逸らした。
「だがな、ハローと結ばれてから幸せになれた。リナルドが来てからは、もっと幸せになれた。リナルドのおかげで、毎日がとても楽しいんだ」
「そうなの?」
「嘘は言わん。リナルドの居ない日々など、最早考えられん。リナルドは不幸ではなく、幸福を届けてくれたのだ」
ナルガは抱きしめる力を強めた。ナルガの胸に顔を埋め、リナルドは目を閉じた。
「僕、ここに居て、いいの」
「いいに決まっている、ずっと居ていいんだ。だから悲しい事を言うな、私も悲しくなる」
ナルガに諭され、リナルドは少しだけ心が軽くなった。
二人はいつも、自分から闇を払ってくれる。でも、リナルドの体には常に、黒塗りの女の腕が絡まっている。
『お前が居ると! 皆不幸になるんだ!』
リナルドの耳から、女の声は離れなかった。
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