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116話 命を預かる覚悟

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 リナルドが来てから三週間が経過した。毎日食事を摂り続けたからか、痩せていた子供は肉付きが良くなり、血色も回復していた。
 ミコのおかげで村にも馴染み、元気に走り回っている。無垢なリナルドを見つめ、ナルガは目を細めた。

「やぁ、リナルド元気そうだね」
「ハローか、昼休憩だな」
「お腹空いたよ、今日の昼飯は何?」
「戻ってからのお楽しみだ。リナルド! 帰るぞ」

 リナルドは頷き、二人に駆け寄った。
 元気にこそなっているが、まだリナルドが笑った顔を見ていない。どうも笑い方がわからないようなのだ。
 多分、誰からも愛情を注がれた事がないのかもしれない。そう思うと体が勝手に動いて、ナルガはリナルドを抱きしめていた。

 なんて小さく、愛しい奴なんだろう。こんなにも可愛くて、守りたくなる生物は他に居ないぞ。
 リナルドを預かって、時間が経つごとに、彼が可愛くて仕方なくなってくる。ナルガはまるで我が子のようにリナルドを可愛がっていた。
 そしたら、ジェラシーを含む視線を感じた。


「ハロー、子供相手に妬くな」
「……オクトに妬いてた君に言われたくない」
「奴は大人だろうが。手を繋いでやるから機嫌を直せ」

 ハローは大喜びで手を握り、機嫌を直した。チョロい奴である。
 やれやれ、これじゃ二人の子供を世話しているようだな。でもナルガは、悪い気はしなかった。
 三人で昼食を取り、ナルガは食休みにリナルドと日向ぼっこをした。暖かくて、満腹で、眠くなってくる。ナルガとリナルドはあくびをし、気づけば二人とも眠っていた。

 リナルドを抱っこし、すやすや寝息を立てるナルガ。そんな二人を、ハローは幸せそうに眺めた。
 子供を抱く女性は神秘的だ。特に自分の嫁ともなると、余計に綺麗に見えてくる。
 へらっと笑った途端、誰かに頭をチョップされた。振り向くと、エドウィンが呆れた顔をしていた。

「おう妻煩悩、何へらへらしてんだ気色悪い」
「嫁さんを観察してるだけだよ。それよりどうしたの?」
「どうしたの? じゃないだろ。リナルドを診に来るから時間空けとけって言ったよな?」
「あ、往診……ごめん忘れてた」

「だろうな。ナルガが居ないとダメダメだなお前は」
「いやははは……」

 否定できない自分が悲しい。ハローは苦笑し、頬を掻いた。

「これじゃ診察できないな、日を改めるか。にしても……おーやだやだ、お前みたいな旦那にはなりたかないねぇ」
「あ、そう言えばそろそろだっけ」
「ようやく後任の引継ぎが終わったんだとさ。ま、もうじき独身生活ともおさらばだ。精々不摂生を楽しませてもらうよ」
「今夜、晩酌でも付き合おうか?」
「ばーか、嫁と子供を優先しろよ。もっともそいつは、お前の子供じゃないけどな」

 エドウィンは肩を竦め、ため息を吐いた。

「言っとくが、命を預かるのは軽くないぞ。短期間ならともかく、その先もずっと世話をするなら、相当な覚悟が必要だ。そいつが出来ない限り、リナルドの事は許さないぞ」
「お医者さんが言うと重いね。……分かっているよ、それくらい」

 ハローは胸を押さえた。
 まだハローの心は治り切っていない。いつまた、心が壊れた自分に戻るか分からない状態だ。
 自分の心が根治しない限り、リナルドを傍に置き続けるわけにはいかなかった。
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