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2部
115話 謎の手記
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オクトは城内の書庫にて、聖剣について調べていた。
聖剣に関する文献はとても少なく、有益な情報は見つからない。腰に帯びた光の剣に触れ、オクトはため息を吐いた。
そもそも、聖剣がどのような物なのか、オクトを始め殆どの者が分かっていない。
この国に未曽有の危機が訪れた時、勇者を見定め力を振るう。その程度の知識しか持ち合わせていない。いつどこで、どのような人物が、どんな工程で造ったのか。その全てが分かっていない。
「意志を持つ剣、普通に考えれば、おかしな造形物ですよね」
「聖剣だから」、そんな理由で受け入れられているが、この世に現存する魔法で物に意志を宿す効力を持った物は存在しない。第一なぜ意思を持たせたのだろう、武器に意志を持たせる意味はないのに。
……資料があるとすれば、あそこでしょうか。
城の地下には禁書庫がある。国が禁忌と定めた書物が納められており、一部の者しか入れない場所だ。
でもオクトは勇者だから入れる。こんな時、勇者の地位は便利だ。
禁書庫は掃除が行き届いておらず、一歩踏み入れただけで埃が舞い散った。ケホケホせき込みながら、背表紙に指を這わせていく。
と、その中にタイトルのない本があった。
手に取ると、何者かの手記のようで、のたうったような文字がつづられている。随分古い文字が使われていて、読むのが困難だ。
「でも、中身は分かりますね」
オクトは非常に博識で、いくつかの古代語を習得している。手記を読んでみると、どうやら五百年も昔の錬金術師の日記のようだ。
読み進めると、オクトは気になる一文を見つけた。
「とある国からの……武具の発注依頼……」
手記に綴られていた名は、この国の名前だった。
この錬金術師は大昔の国の、高名な存在だったらしい。なんでも、特殊な技法を持った、世界で唯一無二の男だったそうだ。
その技法は複雑すぎて、現在の技術力では再現できないロストテクノロジーだ。しかしオクトの聡明な頭脳は、恐ろしい概要を理解してしまった。
「人の魂を利用した、武具の制作……!?」
思わず、聖剣に触れた。
この手記にある武具が聖剣である確証はない。しかし、手記に書かれている武具の特徴は、あまりにも聖剣に酷似していた。
「“莫大な魔力を武具に封入するのは困難である、しかし、人の魂を核にして、心臓のような役割を持たせる事で、力を安定させ、武具に循環させられる”……!?」
倫理観を疑う技術である。思わず手記を閉じ、オクトは息を呑んだ。
動悸が止まらず、冷や汗が流れる。もしも自分の剣に、人の魂が使われているとしたら……そう理解して受け入れられるほど、オクトは狂っていない。
「いや、まだそうと決まったわけじゃない。単に似てるだけって話だ……」
あまりに酷似していて、つい聖剣の話だと思ってしまった。そうだ、きっと別の剣の話だ。
何度も自分に言い聞かせるが、胸騒ぎは収まらない。この手記、読み解く必要がありそうだ。
「……また明日、調べに来ましょう」
禁書は持ち出せない。オクトは内容をメモしてから手記を戻し、禁書庫を後にした。
聖剣に関する文献はとても少なく、有益な情報は見つからない。腰に帯びた光の剣に触れ、オクトはため息を吐いた。
そもそも、聖剣がどのような物なのか、オクトを始め殆どの者が分かっていない。
この国に未曽有の危機が訪れた時、勇者を見定め力を振るう。その程度の知識しか持ち合わせていない。いつどこで、どのような人物が、どんな工程で造ったのか。その全てが分かっていない。
「意志を持つ剣、普通に考えれば、おかしな造形物ですよね」
「聖剣だから」、そんな理由で受け入れられているが、この世に現存する魔法で物に意志を宿す効力を持った物は存在しない。第一なぜ意思を持たせたのだろう、武器に意志を持たせる意味はないのに。
……資料があるとすれば、あそこでしょうか。
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でもオクトは勇者だから入れる。こんな時、勇者の地位は便利だ。
禁書庫は掃除が行き届いておらず、一歩踏み入れただけで埃が舞い散った。ケホケホせき込みながら、背表紙に指を這わせていく。
と、その中にタイトルのない本があった。
手に取ると、何者かの手記のようで、のたうったような文字がつづられている。随分古い文字が使われていて、読むのが困難だ。
「でも、中身は分かりますね」
オクトは非常に博識で、いくつかの古代語を習得している。手記を読んでみると、どうやら五百年も昔の錬金術師の日記のようだ。
読み進めると、オクトは気になる一文を見つけた。
「とある国からの……武具の発注依頼……」
手記に綴られていた名は、この国の名前だった。
この錬金術師は大昔の国の、高名な存在だったらしい。なんでも、特殊な技法を持った、世界で唯一無二の男だったそうだ。
その技法は複雑すぎて、現在の技術力では再現できないロストテクノロジーだ。しかしオクトの聡明な頭脳は、恐ろしい概要を理解してしまった。
「人の魂を利用した、武具の制作……!?」
思わず、聖剣に触れた。
この手記にある武具が聖剣である確証はない。しかし、手記に書かれている武具の特徴は、あまりにも聖剣に酷似していた。
「“莫大な魔力を武具に封入するのは困難である、しかし、人の魂を核にして、心臓のような役割を持たせる事で、力を安定させ、武具に循環させられる”……!?」
倫理観を疑う技術である。思わず手記を閉じ、オクトは息を呑んだ。
動悸が止まらず、冷や汗が流れる。もしも自分の剣に、人の魂が使われているとしたら……そう理解して受け入れられるほど、オクトは狂っていない。
「いや、まだそうと決まったわけじゃない。単に似てるだけって話だ……」
あまりに酷似していて、つい聖剣の話だと思ってしまった。そうだ、きっと別の剣の話だ。
何度も自分に言い聞かせるが、胸騒ぎは収まらない。この手記、読み解く必要がありそうだ。
「……また明日、調べに来ましょう」
禁書は持ち出せない。オクトは内容をメモしてから手記を戻し、禁書庫を後にした。
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