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107話 漆黒の怪物

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 少年は森を必死に走っていた。背後には黒の怪物が、猛然と襲い掛かっていた。
 木々をなぎ倒し、大地を抉り取り、おぞましい咆哮を挙げて追いかけている。これまで何度も隠れてやり過ごしていた少年だが、今回は不運な事に、目の前に奴が現れてしまった。
 朝日が来ない限り、怪物は消えない。長旅により体力を削られていて、少年に逃げる力は、残っていなかった。

『ようやく……ようやくきえられる……しね!!!! おまえをころして!!!! おれもしんでやる!!!』

 怪物が巨大な腕を振り下ろしてきた。少年は死を覚悟し、目を閉じた。
 刹那、怪物に飛び蹴りが叩き込まれた。
 怪物の体が吹き飛び、樹木にぶつかった。少年が目を瞬くと、ハローが立っていた。

「無事かい?」

 ハローの問いかけに、少年はこくこくと頷いた。遅れて、ナルガとオクトがやってくる。

「こんな夜更けに、どうして子供が?」
「疑問は後だ、倒さなきゃならない奴が居る」

 立ち込める土煙の中から、怪物が現れた。ハローの蹴りが直撃したのに、まるでダメージが無い。
 異形の怪物を目の当たりにし、女性二人が警戒する。ハローは目を細め、怪物から得体の知れない気持ち悪さを感じていた。

 ……なんだこいつ? 初めて見るはずなのに……。

 怪物はハローを見ている。兜の下から覗く目は、深い憎悪と悲しみ、後悔を携えていた。

「凄い音がするから何かと思えば……おいハロー! どうなってる、説明しろ!」

 音を聞きつけたか、エドウィンも銃を担いでやってきた。ハローは手短に「わからない」と答えると、

「この子を頼む、あいつに狙われているらしい」
「あ、ああ……気を付けろよお前ら!」

 エドウィンは少年を受け取り、ハローに銃を渡して、急いで後退した。

『はろー……なんで、おまえがいる。なんではろーがこのよにいる、はろーはいちゃいけない、このよにそんざいしてはならない! おまえはしななきゃならない!! いきてはいけない!!! いますぐにしね!!!! このひとごろしめが!!!!!』

 怪物はハローに飛び掛かった。ナイフを抜き、ハローは怪物を迎え撃つ。
 が、怪物の膂力に圧し負け、殴打一撃で地面に埋め込まれた。

 なんてパワーだ、俺の倍以上もある……!

 怪物は拳を押し付け、ハローを圧殺しようとしている。抵抗しても力の差により抗えない。

「先代っ!」

 オクトが剣で斬りつけ、怪物をのけぞらせた。一瞬の隙にハローは離脱し、同時にナルガが追い打ちを仕掛けた。

『! なる、が……!?』

 ナルガを見るなり、怪物の動きが止まる。その隙に、ナルガの一撃が顔面に直撃した。
 達人の連撃を受けたのに、やはり傷を負っていない。どれだけ強固な鎧なんだ。

『どけ!!! おまえたちとたたかうりゆうはない!!! はろーさえころせばそれでいい!!!』

 怪物は二人に目もくれず、ハローを執拗に狙った。凄まじい瞬発力で、二人を易々と追い抜いてしまう。
 銃でけん制しても怪物は意に介さない。伸びる手足で全方位攻撃を仕掛け、ハローは必死に体をよじって回避した。怪物は兜の下部を開くと、口から強力な魔力の塊を射出した。

「ぐっ!?」

 どうにか避けたが、魔力の塊ははるか後方まで飛んで行っている。万一当たれば骨も残らないだろう。

「おまえ……いいかげんにしろよ……!」

 ハローは殺意と怒気を放った。あまりの威圧感に、ナルガとオクトが怯んでしまう。
 ウルチですら怖気づかせた、ハローの覇気。なのに怪物は一切臆さず、

『こっちの、せりふだ!!!!』

 なんと、ハローと同質の怒気を放った。
 憎悪をぶつけながら、ハローと怪物は壮絶な殺し合いを見せた。でも、怪物の方が強い、強すぎる。ハローは打ち負け、殴り飛ばされた。

『ころしてやるぞ!!! はろー!!!』

 怪物が爪を振り被り、止めを刺そうとする。直後、怪物の背後で眩い輝きが放たれた。
 その輝きに、怪物が振り返る。僅かにできた隙をオクトは逃さず、

「死ぬのは貴様だ!」

 呼び寄せた聖剣で、胴を薙いだ。
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