上 下
103 / 207
2部

103話 捕らぬ狸の皮算用

しおりを挟む
 教会の一室にて、オクトは日記を書いていた。
 ハローと会ってから、ずっと続けている習慣だ。オクトはその日に抱いたハローへの想いを何年も、日記として書き綴っているのだ。
 半ば小説と化している、長大なラブレターである。と、ノックが響き、オクトは日記を閉じた。

「お茶を淹れたのですが、いかがでしょうか」
「ありがとうございます」

 ミネバを部屋に入れ、ハーブティで一息つく。ついでにミネバからハローの話を聞き、オクトは目を細めた。

「ところで、オクト様はいつ頃ハロー様と知り合ったのですか?」
「先代が勇者となってすぐですね。今でも覚えています、運命的な出会いでしたから」

 オクトが十一歳の頃、とある強大な魔物が暴れていた。その魔物はある日突然都に出現し、オクトは逃げ遅れて殺されそうになった。

 そこを助けたのが、当時十五歳、聖剣に選ばれた直後のハローである。
 彼は聖剣の力を駆使して魔物を瞬殺した。ハローは魔物を倒すなりオクトへ駆け寄って、手を差し伸べた。

『大丈夫かい? もう安心だよ』

 眩しいばかりの笑顔で命を救ってくれた少年に、オクトはときめいてしまった。以来ハローを見る度、胸の高鳴りが止まらなくなってしまったのだ。

「ハロー様が勇者として、最初に助けられた方だったのですね」
「そうです。あれはもう運命としか言いようがありません。少しでも先代にお近づきになろうと、幾度もお住まいを訪ねましたよ」

 エドウィンが関わってないから、彼が覚えていないのも無理はない。

「当時から何度も想いを伝えましたけど、その度に先代ははぐらかすばかりで。何度もやきもきしましたよ。まだ子供でしたから仕方ないとは思いますが」
「今でも想いは変わっていないのですね」
「勿論。だからナルガ氏が羨ましくて、正直……妬ましいですね」

 オクトにしてみれば、ずっと好きだった男を横取りされた気分だ。だからこそナルガが許せなくて、勇者になってから躍起になって彼女を殺そうとしていた。
 でも仕留めそこなって、ハローと結婚してしまった。もしもハローが居なければ、今すぐにでも暗殺しに行きたいくらい、ナルガが憎かった。

「先代が悲しむから、強硬手段には移りませんが……必ず先代を、取り戻さなければ」
「は、はぁ……」

 オクトの執念にミネバはどう返せばいいのか分からない。前にエドウィンを張り倒した場面を見られたせいか、オクトはミネバに対して本性を隠そうとしなかった。
 ……仮にこの姿を広めても、もみ消せるからこそ晒しているのだろうが。

「でしたら、なぜハロー様のご自宅に泊まらなかったのですか?」
「私の心臓が止まります。せ、先代と一つ屋根の下なんて……私が持ちません」

 照れ照れと頬に手を当てるオクトに、ミネバは呆れた顔になる。
 言ってる事に反して、やってる事の詰めが甘すぎる。どうやら恋愛がらみになると、聡明な頭脳も霞かかってしまうようだ。

「こうしてる間にも、ナルガ様と夜をお過ごししているかと思うのですが」
「別にそれは構いません。最終的に私の横に居てくれればいいのですから」

 この人に絶対勝ち目ないな。ミネバは心底そう思った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界八険伝

AW
ファンタジー
これは単なる異世界転移小説ではない!感涙を求める人へ贈るファンタジーだ! 突然、異世界召喚された僕は、12歳銀髪碧眼の美少女勇者に。13歳のお姫様、14歳の美少女メイド、11歳のエルフっ娘……可愛い仲間たち【挿絵あり】と一緒に世界を救う旅に出る!笑いあり、感動ありの王道冒険物語をどうぞお楽しみあれ!

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

弟子に”賢者の石”発明の手柄を奪われ追放された錬金術師、田舎で工房を開きスローライフする~今更石の使い方が分からないと言われても知らない~

今川幸乃
ファンタジー
オルメイア魔法王国の宮廷錬金術師アルスは国内への魔物の侵入を阻む”賢者の石”という世紀の発明を完成させるが、弟子のクルトにその手柄を奪われてしまう。 さらにクルトは第一王女のエレナと結託し、アルスに濡れ衣を着せて国外へ追放する。 アルスは田舎の山中で工房を開きひっそりとスローライフを始めようとするが、攻めてきた魔物の軍勢を撃退したことで彼の噂を聞きつけた第三王女や魔王の娘などが次々とやってくるのだった。 一方、クルトは”賢者の石”を奪ったものの正しく扱うことが出来ず次第に石は暴走し、王国には次々と異変が起こる。エレナやクルトはアルスを追放したことを後悔するが、その時にはすでに事態は取り返しのつかないことになりつつあった。 ※他サイト転載

虹色の子~大魔境で見つけた少年~

an
ファンタジー
ここではない、どこかの世界の話。 この世界は、《砡》と呼ばれる、四つの美しい宝石の力で支えられている。人々はその砡の恩恵をその身に宿して産まれてくる。たとえば、すり傷を癒す力であったり、水を凍らせたり、釜戸に火をつけたり。生活に役立つ程度の恩恵が殆どであるが、中には、恩恵が強すぎて異端となる者も少なからずいた。 世界は、砡の恩恵を強く受けた人間を保護し、力を制御する訓練をする機関を立ち上げた。 機関は、世界中を飛び回り、砡の力を扱いきれず、暴走してしまう人々を保護し、制御訓練を施すことを仕事としている。そんな彼らに、情報が入る。 大魔境に、聖砡の反応あり。 聖砡。 恩恵以上に、脅威となるであろうその力。それはすなわち、世界を支える力の根元が「もう1つある」こと。見つければ、世紀の大発見だ。機関は情報を秘密裏に手に入れるべく、大魔境に職員を向かわせた。

処理中です...