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2部
99話 元勇者の胸中
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首都に比べると、ラコ村はあまりにもつまらない場所だ。
見るべき所なんか何も無いし、娯楽だって皆無だし、人の住む場所とは思えない。こんな所でハローがくすぶっているのを見ているのは、オクトにとって耐えがたかった。
「森でも散歩してみるかい」
「同行して頂けるんですか?」
「勿論。お客さんを一人には出来ないよ、ナルガはどうする」
「一緒に行きたいのはやまやまだが、どうも急な別件が来たようでな」
「アリスー! 遊ぼ!」
家にミコ達が駆け込んできた。ナルガは手をぐいぐいと引っ張られ、苦笑した。
「ミコらの相手をしている、すまんが接客は任せた」
「任された」
オクトは予想外だった、まさかこんなにも早くハローと二人きりになるチャンスが来るなんて。
ドキドキしながら、ハローと共に森へ向かう。虫が出るし、服も汚れるから、森はあまり好きではない。でもハローと一緒なら、そんな嫌いな場所も一点、天国のような場所へと変わる。
「ぬかるんでるな、足元気を付けて」
「え、ええ……!」
ハローはオクトに手を貸し、支えてくれる。周囲を警戒し、オクトに危険が無いよう気を遣っている。さり気ない優しさにオクトは惚れ直してしまった。
先代が元気になってくれてよかった。キグナス島から帰還した直後の、痛々しい姿はもう見られなかった。
「先代は、都へ戻ったりは、されないのですか?」
「無いかなぁ、ラコ村の暮らしの方が性に合ってるしね。仮に思ったとしても、俺は都に出入りが出来ないから、どうしようもないしさ」
「勇者の地位のはく奪と同時に強いられた、ペナルティでしたか」
「そう、王都からの永久追放と、元勇者の力を他国で使われないよう、辺境への幽閉。俺はこの地域から外へは出られないんだ」
「ですが私ならば、王を説得できます。先代程の人物がこのような場所に追いやられているのは、我慢なりません」
「はは、ありがとう。でも大丈夫だよ、俺はそれだけの罪を犯してしまったんだ。本来ならナルガと結婚するのだって、許されてはならない男だ。でも、悲しいかな。俺も人だからさ。幸せになりたいと、思ってしまったんだろうな」
ハローは目を伏せた。オクトは唇を噛み、胸に手を押し当てた。
「時々思うんだ、俺は何をしているんだって。幸せになる資格のない男が、なんで自分から幸せになろうとしているんだ。そう自分を、責める時がある。俺のせいで人生を奪われた人が大勢居るのに、なぜのうのうと俺は……幸福を享受しているんだろうって。ナルガからは怒られたけど、自分の生きているこの瞬間が、どこか遠い世界のように感じる時があるんだよ」
「……先代は、ご自身が嫌いなのですか?」
思わず、オクトは声に出していた。
「俺が、俺を嫌ってる?」
「先代の話を聞いていると、そうとしか思えないのです。常に自分を傷つけてばかりで、もう十年以上も前の事を、何度も自分で振り返って、言い訳にして……なんだか、「自分なんかどうなったっていい」と、ご自身を投げ出しているように見えるんです」
ずっとハローを見続けていたオクトだからこそ、ハローの闇を見抜けた。恐らくハローは、過去の自分に嫌悪を抱いているのだろう。
「私は、悲しいです。先代は、とても素敵な方です。ずっと、恋焦がれる程に。そんな人が、自らを傷つける姿を見るのは、胸がつまされます。自身を憎むのは、周囲の人々を苦しめる、悲しい行いでしかありません……」
オクトはハローの手を取ると、
「……私なら、先代を必ず幸せに出来るのに」
甲に唇を落とした。ハローは驚いた顔を見せ、一瞬身を震わせた。
やはりナルガにハローを任せておけない、奴からハローを奪い取らなければ。
見るべき所なんか何も無いし、娯楽だって皆無だし、人の住む場所とは思えない。こんな所でハローがくすぶっているのを見ているのは、オクトにとって耐えがたかった。
「森でも散歩してみるかい」
「同行して頂けるんですか?」
「勿論。お客さんを一人には出来ないよ、ナルガはどうする」
「一緒に行きたいのはやまやまだが、どうも急な別件が来たようでな」
「アリスー! 遊ぼ!」
家にミコ達が駆け込んできた。ナルガは手をぐいぐいと引っ張られ、苦笑した。
「ミコらの相手をしている、すまんが接客は任せた」
「任された」
オクトは予想外だった、まさかこんなにも早くハローと二人きりになるチャンスが来るなんて。
ドキドキしながら、ハローと共に森へ向かう。虫が出るし、服も汚れるから、森はあまり好きではない。でもハローと一緒なら、そんな嫌いな場所も一点、天国のような場所へと変わる。
「ぬかるんでるな、足元気を付けて」
「え、ええ……!」
ハローはオクトに手を貸し、支えてくれる。周囲を警戒し、オクトに危険が無いよう気を遣っている。さり気ない優しさにオクトは惚れ直してしまった。
先代が元気になってくれてよかった。キグナス島から帰還した直後の、痛々しい姿はもう見られなかった。
「先代は、都へ戻ったりは、されないのですか?」
「無いかなぁ、ラコ村の暮らしの方が性に合ってるしね。仮に思ったとしても、俺は都に出入りが出来ないから、どうしようもないしさ」
「勇者の地位のはく奪と同時に強いられた、ペナルティでしたか」
「そう、王都からの永久追放と、元勇者の力を他国で使われないよう、辺境への幽閉。俺はこの地域から外へは出られないんだ」
「ですが私ならば、王を説得できます。先代程の人物がこのような場所に追いやられているのは、我慢なりません」
「はは、ありがとう。でも大丈夫だよ、俺はそれだけの罪を犯してしまったんだ。本来ならナルガと結婚するのだって、許されてはならない男だ。でも、悲しいかな。俺も人だからさ。幸せになりたいと、思ってしまったんだろうな」
ハローは目を伏せた。オクトは唇を噛み、胸に手を押し当てた。
「時々思うんだ、俺は何をしているんだって。幸せになる資格のない男が、なんで自分から幸せになろうとしているんだ。そう自分を、責める時がある。俺のせいで人生を奪われた人が大勢居るのに、なぜのうのうと俺は……幸福を享受しているんだろうって。ナルガからは怒られたけど、自分の生きているこの瞬間が、どこか遠い世界のように感じる時があるんだよ」
「……先代は、ご自身が嫌いなのですか?」
思わず、オクトは声に出していた。
「俺が、俺を嫌ってる?」
「先代の話を聞いていると、そうとしか思えないのです。常に自分を傷つけてばかりで、もう十年以上も前の事を、何度も自分で振り返って、言い訳にして……なんだか、「自分なんかどうなったっていい」と、ご自身を投げ出しているように見えるんです」
ずっとハローを見続けていたオクトだからこそ、ハローの闇を見抜けた。恐らくハローは、過去の自分に嫌悪を抱いているのだろう。
「私は、悲しいです。先代は、とても素敵な方です。ずっと、恋焦がれる程に。そんな人が、自らを傷つける姿を見るのは、胸がつまされます。自身を憎むのは、周囲の人々を苦しめる、悲しい行いでしかありません……」
オクトはハローの手を取ると、
「……私なら、先代を必ず幸せに出来るのに」
甲に唇を落とした。ハローは驚いた顔を見せ、一瞬身を震わせた。
やはりナルガにハローを任せておけない、奴からハローを奪い取らなければ。
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