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93話 ハローの異変

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「っ……!」

 突然ハローが胸を押さえた。朝食のパンを齧っていたナルガはハローに寄り添い、

「どうした?」
「分からない、でも急に胸が痛くなって……」
「……心臓の病か? エドウィンに診てもらうぞ」
「いや、大丈夫だと思う。ちょっとちくっとしただけだから」
「自己診断は駄目だ、ちゃんとした診断を……どうした?」

 ナルガはハローの頬を拭った。なぜかハローは、涙を流していた。
 ナルガの指に付いた涙を見て、ハローは驚いた。

「何があった、なぜ涙を流している?」
「分からない、けど急に、凄く悲しくなって、胸が辛く、苦しくなって……なのに、凄い怒りや憎しみも沸いて来て、色んな感情が、頭の中に渦巻いているんだ」

 ハローはかぶりを振った。ナルガはそっと抱きしめ、ハローを撫でた。

「心配するな、私が傍に居る。お前の不安を、少しでも分けてもらうぞ」
「ありがとう。凄く心強いよ」

 ハローはナルガを抱き返した。彼の手は小さく震え、まるで怯える子供のようだ。
 ハローがこんなにも怯えているとは、何事だ?
 念のためエドウィンに診てもらったが、どこも悪い所はないと言われてしまった。

「疲れてんじゃないか。どっかのナルガさんと毎晩やりまくってりゃ体力も底を尽くわな」
「昨晩はしていない」

「へいへいそうですか。悪ふざけはともかくとして、また心の病がぶり返してる可能性があるかもな」
「そうだとしたら、女々しいな。いつまで昔の事引き摺ってんだろ、俺」

「言ったろ、心の傷ってのはそう簡単には治らないって。ま、安心しろ。以前と違って着実に回復はしてるから。今のお前は、一時的に落ち込みの波が来てるだけだ。そんな時は、変に足掻こうとすんな。いつも通り過ごせ。斧振り回して木でもへし折ってろ」

「木こりをなんだと思ってんだよ。でも……分かったよ、普段通りにするさ」
「そうそう、馬鹿の考え休むに似たりだ」
「下手の考えな。俺をこき下ろすんじゃないよ」

 エドウィン流の激励を受け、ハローは診療所を後にした。
 どこか落ち込んだような背中に、ナルガは不安になった。とても弱弱しくて、ハローが今にも消えてしまいそうだったから。

「仕事に行ってくるよ、体を動かしてた方が余計な事を考えずに済むし」
「ちゃんと、帰って来い」
「勿論さ」

 ハローと抱き合い、ナルガは不安に思いながら彼を見送った。
 あんなに思いつめた顔のハローは、初めてだ。

「ナルガ様、こちらにいらしたのですね」

 と、ミネバがやってきた。手には手紙が握られている。

「また司祭からの依頼か?」
「いいえ、ハロー様宛てにお手紙です。ちょっと、凄い方からの」
「ハロー宛ての、ちょっと凄い方? 誰だそいつは」

 宛名を見たナルガは、目を丸くした。
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