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2部
85話 情けねぇ腰痛
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「お前が患者として来るのも珍しいな」
翌日、ハローは診療所を訪れていた。
起きてから腰痛が酷いため、仕事を休んでエドウィンに診てもらっているのだ。
エドウィンは回復魔法をかけた後、湿布薬を腰に張りつけた。おかげで痛みが和らいだ気がする。
「お前なら明日には回復するだろ、昔から無駄に頑丈だしな」
「ありがとう……あたた、腰がキーンってするなぁ……」
「無理するなよ。で、何で腰痛を起こしたんだ」
「えっ! い、言わなきゃだめ?」
「一応原因を記録しとかないとな。とっとと言えよ」
エドウィンはカルテにペンを当てた。ハローは目を逸らし、言いにくそうに口をもごつかせた。
「……その、えと、うん。朝の薪割で腰がギクッってなってね」
「魔女の一撃か。そりゃ辛いな、癖になるから気を付けろよ」
ある意味魔女の一撃だった。昨夜を思い出し、ハローは頭を抱えて悶絶した。
ナルガと本当に一夜を共にするなんて。今でも夢の中に居るような感じだ。彼女を抱いた感触が、今もしっかりと残っている。
「何悶えてるんだよ、気持ち悪いな。……本当に薪割が原因か」
「き、決まってるだろ」
ハローは目を逸らした。訝しんだエドウィンがハローの襟をまくると、多数の噛み跡が刻まれていた。
「成程な、やったわけだ」
「うっ……ええ、まぁ、はい……」
「腰砕けになるまで盛りやがって。安心しろ、子供は僕が取り上げてやる。診療所開いてから、流産させたことは一度もないよ」
「……茶化さないんだな」
「そこまでガキじゃないっての。ま、おめでとうとは言ってやる」
エドウィンは目を細めた。ハローは少し優れぬ顔になり、
「いいのかな、俺、こんな幸せでさ。キグナス島であれだけの事をやらかして」
「いいんじゃないの? 少なくともお前が幸せにならないと、僕も何にも出来やしないんでね。こっちとしてはとっとと抜け出してほしいもんなんだけど」
エドウィンの決意はハローも知っている。自分が立ち止まっている間、エドウィンにも迷惑をかけているのだ。
「とりあえず、ナルガにゃ感謝しないとな。僕では治せない重篤患者を治してくれたんだからさ」
「はは、自慢の嫁さんさ」
と、ハローは急に立ち上がった。
嫌な気配を感じ、急いで現場へ向かう。すると畑に蜂型の魔物が侵入し、村人を襲っているではないか。
「……なにしてんだよ、おまえら」
途端に、ハローの目が濁り、心が殺意に染まっていく。魔物は怖気づき、村人達もハローの威圧に怯え、腰を抜かした。
ハローは修羅の顔のまま、魔物へ襲い掛かった。素手で体を引きちぎり、首をもぎ取り、鬼神のごとき力で魔物をねじ伏せる。最後の一匹をパンチ一発で地面に叩きつけ、一分も持たずに魔物は全滅した。
エドウィンが駆け付けると、ハローは魔物の返り血を浴び、鬼のような姿になっている。当然、目の当たりにした村人は恐れを隠せていない。
「おい、ハロー!」
遅れて、ナルガがやってくる。ハローは我に返り、血まみれの己に気付いた。
「俺は、大丈夫だよ。後片付けしないと」
「一人で抱えるなと注意しただろう。仕方ない奴だ」
ナルガはハローの汚れを拭きとり、額を小突いた。
「まだ“幸せ”にし足りないようだな、今夜も抱いてもらおうか」
「ちょっ、昼間に何を言ってるのさ」
「夫婦の会話に時間など関係あるまい」
ナルガとの会話で、ハローを恐がっていた村人から緊張が消えていく。ハローへの恐怖心を消すため、あえて話したようだ。
「よく出来た嫁だよ、全く」
ナルガが来てから、ハローとエドウィンの周りは良い方向へ急激に向かっていた。
かつての敵にこんな事を言いたくはないが、幸運の女神みたいな女だ。
翌日、ハローは診療所を訪れていた。
起きてから腰痛が酷いため、仕事を休んでエドウィンに診てもらっているのだ。
エドウィンは回復魔法をかけた後、湿布薬を腰に張りつけた。おかげで痛みが和らいだ気がする。
「お前なら明日には回復するだろ、昔から無駄に頑丈だしな」
「ありがとう……あたた、腰がキーンってするなぁ……」
「無理するなよ。で、何で腰痛を起こしたんだ」
「えっ! い、言わなきゃだめ?」
「一応原因を記録しとかないとな。とっとと言えよ」
エドウィンはカルテにペンを当てた。ハローは目を逸らし、言いにくそうに口をもごつかせた。
「……その、えと、うん。朝の薪割で腰がギクッってなってね」
「魔女の一撃か。そりゃ辛いな、癖になるから気を付けろよ」
ある意味魔女の一撃だった。昨夜を思い出し、ハローは頭を抱えて悶絶した。
ナルガと本当に一夜を共にするなんて。今でも夢の中に居るような感じだ。彼女を抱いた感触が、今もしっかりと残っている。
「何悶えてるんだよ、気持ち悪いな。……本当に薪割が原因か」
「き、決まってるだろ」
ハローは目を逸らした。訝しんだエドウィンがハローの襟をまくると、多数の噛み跡が刻まれていた。
「成程な、やったわけだ」
「うっ……ええ、まぁ、はい……」
「腰砕けになるまで盛りやがって。安心しろ、子供は僕が取り上げてやる。診療所開いてから、流産させたことは一度もないよ」
「……茶化さないんだな」
「そこまでガキじゃないっての。ま、おめでとうとは言ってやる」
エドウィンは目を細めた。ハローは少し優れぬ顔になり、
「いいのかな、俺、こんな幸せでさ。キグナス島であれだけの事をやらかして」
「いいんじゃないの? 少なくともお前が幸せにならないと、僕も何にも出来やしないんでね。こっちとしてはとっとと抜け出してほしいもんなんだけど」
エドウィンの決意はハローも知っている。自分が立ち止まっている間、エドウィンにも迷惑をかけているのだ。
「とりあえず、ナルガにゃ感謝しないとな。僕では治せない重篤患者を治してくれたんだからさ」
「はは、自慢の嫁さんさ」
と、ハローは急に立ち上がった。
嫌な気配を感じ、急いで現場へ向かう。すると畑に蜂型の魔物が侵入し、村人を襲っているではないか。
「……なにしてんだよ、おまえら」
途端に、ハローの目が濁り、心が殺意に染まっていく。魔物は怖気づき、村人達もハローの威圧に怯え、腰を抜かした。
ハローは修羅の顔のまま、魔物へ襲い掛かった。素手で体を引きちぎり、首をもぎ取り、鬼神のごとき力で魔物をねじ伏せる。最後の一匹をパンチ一発で地面に叩きつけ、一分も持たずに魔物は全滅した。
エドウィンが駆け付けると、ハローは魔物の返り血を浴び、鬼のような姿になっている。当然、目の当たりにした村人は恐れを隠せていない。
「おい、ハロー!」
遅れて、ナルガがやってくる。ハローは我に返り、血まみれの己に気付いた。
「俺は、大丈夫だよ。後片付けしないと」
「一人で抱えるなと注意しただろう。仕方ない奴だ」
ナルガはハローの汚れを拭きとり、額を小突いた。
「まだ“幸せ”にし足りないようだな、今夜も抱いてもらおうか」
「ちょっ、昼間に何を言ってるのさ」
「夫婦の会話に時間など関係あるまい」
ナルガとの会話で、ハローを恐がっていた村人から緊張が消えていく。ハローへの恐怖心を消すため、あえて話したようだ。
「よく出来た嫁だよ、全く」
ナルガが来てから、ハローとエドウィンの周りは良い方向へ急激に向かっていた。
かつての敵にこんな事を言いたくはないが、幸運の女神みたいな女だ。
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