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62話 異様な冬

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 ハローは木に登り、枝を切っていた。

 育ちの悪い枝を切り落として樹木が成長しやすい環境を整える、枝打ちの作業だ。冬になると雑草が枯れるため、夏場に実施できなかった場所まで足を延ばせる。

 するすると幹を伝い、サルのように枝から枝へ飛び乗って、樹木を観察しながら枝を切り落としていく。木こり達は感心したようにハローを見上げていた。



「調子乗って落ちるなよ!」

「大丈夫でーす!」



 枝にぶら下がって手を振り、ハローは木の上からの景色を眺めた。

 ラコ村が小さく見える、今頃ナルガは何をしているのだろうか。

 昼には一度帰ると伝えている。昼飯はナルガと過ごせる大事な時間、早く来てくれないかな。



「……村は問題ないだろうか……」



 近頃、野盗の数が多い気がする。この一週間で三件、ラコ村付近の野盗を片付けている。去年はせいぜい、二月に一件程度だった。二日に一回来るなんて、いくら何でも頻度が多すぎる。

 それに、どこか組織立っているような気がしてならない。

 最初こそ近隣の村々を襲っていたけれど、徐々に範囲がラコ村へ迫っているのだ。こんな行動、烏合の衆には出来ない。



「裏で手を引いている奴が居るとしか、思えないな……」



 エドウィンとも何度かその話をしている。彼も同じ見解で、ある目的をもってラコ村に狙いを定めている可能性を示唆していた。

 エドウィンが示した、最悪の可能性を思い出し、ハローは首を振った。



「考えるのは止めよう、ナルガと話せば、この気持ちも落ち着くはずだ……」



 胸を握りしめ、ハローは枝打ちに戻った。

 午前中の作業を終えて村へ戻ると、ナルガが入り口で待っていた。

 ハローが大喜びで駆け寄ると、彼女は呆れたように肩を竦めた。



「お前な、まるで犬みたいだぞ?」

「いいだろ、ナルガに会えるだけで嬉しいんだから」

「同居しているのにか?」

「していてもだよ」



 ナルガは苦笑し、手を出した。すぐに握ると、とても冷たい。

 結構待っててくれたんだ。ハローはじんとして、両手でナルガの手を包んだ。



「これなら冬でもあったかいだろ?」

「ま、そうだな」



 一緒に居る時間も長くなると、ナルガの事も分かってくる。こう素っ気ない返事をする時は、照れている証拠だ。

 可愛いなぁ。ついつい、笑みがこぼれてしまう。



「今日の昼は何?」

「それは……む」



 ナルガの表情が変わった。ハローもはっとし、腰のナイフに手を当てた。

 村に三人、近づいてくる奴が居る。決して好意的ではなく、明確な敵意を持った男だ。

 野盗とは、纏う空気が違う。腕の立つ奴だ。ハローは警戒し、ナルガを背にした。

 直後。



「その女の命! 貰い受ける!」



 男達が抜剣し、襲い掛かってきた。
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