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60話 形骸化した偽装結婚
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冬場は食べ物が少なくなる。そのため食うのに困った野盗が人里に姿を見せる機会も増えてしまう。
実際冬に入ってから、周辺の村に何度か野盗が襲ってきている。そいつらは皆ハローとナルガによって、「不幸な事故」で世を去っていた。
「なんだ? 女一人で俺達をやっつけようってのか?」
「しかも片足じゃねぇか。へっ、やっちまえ!」
「無知とは、悲しい物だな」
野盗の練度は低く、ナルガの相手にもならない。女だと思って威勢よく襲い掛かったくせに、ほんの数秒もせずにねじ伏せられていた。
「い、いでぇぇぇ!? こ、このアマぁ! 片足のくせにぃ!」
「その片足にやられた奴が何をほざく? エドウィン、ミネバの目を隠せ」
「へーい」
エドウィンがミネバの顔に手を当てるなり、ナルガは野盗を駆除した。
ハローの負担を減らすため、ナルガも「駆除」の仕事を手伝うようになっていた。今回もまた、「不幸な事故」に遭った者が出てしまったようだ。
「頼りになるねぇ」
「荒事を生業にしていたからな。すまないなミネバ、シスターには辛い光景だろう」
「いいえ、正当防衛ですので。ですが……祈りだけは、させてください」
ミネバが亡骸に祈りを捧げた後、ナルガはエドウィンと共に野盗を埋めた。
「やーれやれ、治安が落ち着くのはいつになるのかねぇ」
「今しばらくはかかるだろう。それまでは、私とハローが守ってやる」
「おや? 村を出る予定がおありではないんですかぁ?」
「おっと、そうだったな。村を出るまで、な」
ナルガとエドウィンはにやっとした。
夕餉の際、ハローに昼の事を話すと、案の定彼は怒っていた。
「ナルガとエドを襲うなんて……やっぱりやつらには、なにかしらのみせしめをしたほうがいいのかもしれないな」
「悪い癖が出ているぞ、鎮まれ」
ナルガはデコピンをしてハローを気付けした。
「心配せずとも、あの程度の連中にはやられんよ。お前も居る事だしな」
「信頼してくれるのは嬉しいけど、今年はなんか、野盗の数が多い気がするんだよな……」
「ふむ、少し警戒を強めた方がいいかもしれないな。またミコ達を攫われるのは勘弁したい」
「そうだね。苦労をかけて、ごめん」
「気にするな。旦那の援助も妻の責務、夫婦として当然だ」
「………」
「どうした?」
「いや、最近夫婦の頭に「仮の」とか「偽りの」とかつけないなーって」
「誰が聞いているか分からんだろう? その対策だ」
ナルガは急いで取り繕った。表情こそ変わらないものの、耳が赤くなっている。
いつからだろう、ハローを男として意識し始めたのは。彼との生活が心地よすぎて、気が付いたら彼を夫として、本当の意味で受け入れ始めている。
「調子に乗るなよ、あくまで、偽装婚なのだからな」
もはや形骸化した台詞がハローに通じるわけもなく、ハローは嬉しそうににこにこしていた。
実際冬に入ってから、周辺の村に何度か野盗が襲ってきている。そいつらは皆ハローとナルガによって、「不幸な事故」で世を去っていた。
「なんだ? 女一人で俺達をやっつけようってのか?」
「しかも片足じゃねぇか。へっ、やっちまえ!」
「無知とは、悲しい物だな」
野盗の練度は低く、ナルガの相手にもならない。女だと思って威勢よく襲い掛かったくせに、ほんの数秒もせずにねじ伏せられていた。
「い、いでぇぇぇ!? こ、このアマぁ! 片足のくせにぃ!」
「その片足にやられた奴が何をほざく? エドウィン、ミネバの目を隠せ」
「へーい」
エドウィンがミネバの顔に手を当てるなり、ナルガは野盗を駆除した。
ハローの負担を減らすため、ナルガも「駆除」の仕事を手伝うようになっていた。今回もまた、「不幸な事故」に遭った者が出てしまったようだ。
「頼りになるねぇ」
「荒事を生業にしていたからな。すまないなミネバ、シスターには辛い光景だろう」
「いいえ、正当防衛ですので。ですが……祈りだけは、させてください」
ミネバが亡骸に祈りを捧げた後、ナルガはエドウィンと共に野盗を埋めた。
「やーれやれ、治安が落ち着くのはいつになるのかねぇ」
「今しばらくはかかるだろう。それまでは、私とハローが守ってやる」
「おや? 村を出る予定がおありではないんですかぁ?」
「おっと、そうだったな。村を出るまで、な」
ナルガとエドウィンはにやっとした。
夕餉の際、ハローに昼の事を話すと、案の定彼は怒っていた。
「ナルガとエドを襲うなんて……やっぱりやつらには、なにかしらのみせしめをしたほうがいいのかもしれないな」
「悪い癖が出ているぞ、鎮まれ」
ナルガはデコピンをしてハローを気付けした。
「心配せずとも、あの程度の連中にはやられんよ。お前も居る事だしな」
「信頼してくれるのは嬉しいけど、今年はなんか、野盗の数が多い気がするんだよな……」
「ふむ、少し警戒を強めた方がいいかもしれないな。またミコ達を攫われるのは勘弁したい」
「そうだね。苦労をかけて、ごめん」
「気にするな。旦那の援助も妻の責務、夫婦として当然だ」
「………」
「どうした?」
「いや、最近夫婦の頭に「仮の」とか「偽りの」とかつけないなーって」
「誰が聞いているか分からんだろう? その対策だ」
ナルガは急いで取り繕った。表情こそ変わらないものの、耳が赤くなっている。
いつからだろう、ハローを男として意識し始めたのは。彼との生活が心地よすぎて、気が付いたら彼を夫として、本当の意味で受け入れ始めている。
「調子に乗るなよ、あくまで、偽装婚なのだからな」
もはや形骸化した台詞がハローに通じるわけもなく、ハローは嬉しそうににこにこしていた。
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