49 / 207
1部
49話 最悪の邂逅
しおりを挟む
「お土産に紅茶を持ってきたんです、お口に合うかどうか」
オクトは四人に紅茶を並べた。ただ歩くだけでも、魅了されてしまうくらい上品な立ち振る舞いをしている。現にミネバは彼女に見惚れ、口を半開きにしていた。
二代目勇者オクトは女である。女神の生まれ変わりと称される程の美麗を持っており、加えて文武両道に秀で、公爵家の娘と家柄にも恵まれ、間違いを許せぬ清廉潔白な性格をした、非の打ち所がない人物である。
「お体の具合はいかがですか、先代」
「悪くはないよ。そっちも元気そうだね」
「ええ、おかげさまで。先代が壮健で、安心しました」
オクトは目を細めて微笑んだ。ハローにはどこか、熱を持った視線を向けている。
勇者である彼女は多忙を極めており、今日はどうにかねじこんだ、貴重な休みを利用していた。
「エドウィン氏もお変わり無いようで。しかし、少しやせましたか?」
「わかる? この阿呆が色々やらかしてくれるから、やつれちまってね」
「まぁ。駄目ですよ先代、エドウィン氏に迷惑をかけては」
「善処するよ。……それよりオクト」
「いい加減、茶番は勘弁してもらおうか」
ナルガの突き刺すような声に、オクトの顔が険しくなった。
ナルガはずっと、オクトを睨み続けている。全身を震わせ、湧き上がる感情を必死にこらえているようだ。
「やはり駄目だ。貴様の呼吸を聞くだけで、腸が煮えくり返ってくる……今すぐにでも貴様の喉笛を切り裂き、その首を家畜の餌にしてやりたいくらいだよ」
「……心中、お察しします。私はナルガ氏に、それだけの仕打ちをしました。憎まれて当然の事と思います」
「軽々しく言葉を連ねるな……貴様の目的はなんだ! なぜ私の前に姿を現した! 我が首が目的とあらば望むところ! 我が命に代えても貴様を……父の仇を! 刺し違えてでも討ってくれる!」
ナルガは涙声になっていた。立ち上がり、激昂する彼女を、ハローが諫めた。
オクトは悲し気に目を伏せると、ナルガの前に跪いた。
「私はずっと貴方を、探していました。いかに世情を鑑みても、貴方への仕打ちは、到底許されるものではありません。貴方の体を奪い、君主も住処も奪った罪は、決して償えません……それでも私には、貴方へ誠意を示す義務があります」
オクトは深々と、ナルガに頭を下げた。
「私が犯した数々の所業、誠に申し訳ございませんでした……!」
「謝って……すむものか……! 私が失った物は、謝ったって戻ってこない……何もわかってないくせに……命は、戻ってこないんだ……父上はもう、二度と、私の下へは……くそっ……くそっ、くそっ、くそぉぉぉぉっ……!」
「……本当に、ごめんなさい……」
ナルガは座り込み、何度もオクトの肩を叩いて、泣いた。大声で泣き続けた。
ハローはナルガに寄り添い、彼女が泣き止むまで、肩を抱き続けた。
オクトは四人に紅茶を並べた。ただ歩くだけでも、魅了されてしまうくらい上品な立ち振る舞いをしている。現にミネバは彼女に見惚れ、口を半開きにしていた。
二代目勇者オクトは女である。女神の生まれ変わりと称される程の美麗を持っており、加えて文武両道に秀で、公爵家の娘と家柄にも恵まれ、間違いを許せぬ清廉潔白な性格をした、非の打ち所がない人物である。
「お体の具合はいかがですか、先代」
「悪くはないよ。そっちも元気そうだね」
「ええ、おかげさまで。先代が壮健で、安心しました」
オクトは目を細めて微笑んだ。ハローにはどこか、熱を持った視線を向けている。
勇者である彼女は多忙を極めており、今日はどうにかねじこんだ、貴重な休みを利用していた。
「エドウィン氏もお変わり無いようで。しかし、少しやせましたか?」
「わかる? この阿呆が色々やらかしてくれるから、やつれちまってね」
「まぁ。駄目ですよ先代、エドウィン氏に迷惑をかけては」
「善処するよ。……それよりオクト」
「いい加減、茶番は勘弁してもらおうか」
ナルガの突き刺すような声に、オクトの顔が険しくなった。
ナルガはずっと、オクトを睨み続けている。全身を震わせ、湧き上がる感情を必死にこらえているようだ。
「やはり駄目だ。貴様の呼吸を聞くだけで、腸が煮えくり返ってくる……今すぐにでも貴様の喉笛を切り裂き、その首を家畜の餌にしてやりたいくらいだよ」
「……心中、お察しします。私はナルガ氏に、それだけの仕打ちをしました。憎まれて当然の事と思います」
「軽々しく言葉を連ねるな……貴様の目的はなんだ! なぜ私の前に姿を現した! 我が首が目的とあらば望むところ! 我が命に代えても貴様を……父の仇を! 刺し違えてでも討ってくれる!」
ナルガは涙声になっていた。立ち上がり、激昂する彼女を、ハローが諫めた。
オクトは悲し気に目を伏せると、ナルガの前に跪いた。
「私はずっと貴方を、探していました。いかに世情を鑑みても、貴方への仕打ちは、到底許されるものではありません。貴方の体を奪い、君主も住処も奪った罪は、決して償えません……それでも私には、貴方へ誠意を示す義務があります」
オクトは深々と、ナルガに頭を下げた。
「私が犯した数々の所業、誠に申し訳ございませんでした……!」
「謝って……すむものか……! 私が失った物は、謝ったって戻ってこない……何もわかってないくせに……命は、戻ってこないんだ……父上はもう、二度と、私の下へは……くそっ……くそっ、くそっ、くそぉぉぉぉっ……!」
「……本当に、ごめんなさい……」
ナルガは座り込み、何度もオクトの肩を叩いて、泣いた。大声で泣き続けた。
ハローはナルガに寄り添い、彼女が泣き止むまで、肩を抱き続けた。
0
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説
異世界八険伝
AW
ファンタジー
これは単なる異世界転移小説ではない!感涙を求める人へ贈るファンタジーだ!
突然、異世界召喚された僕は、12歳銀髪碧眼の美少女勇者に。13歳のお姫様、14歳の美少女メイド、11歳のエルフっ娘……可愛い仲間たち【挿絵あり】と一緒に世界を救う旅に出る!笑いあり、感動ありの王道冒険物語をどうぞお楽しみあれ!
異世界はモフモフチートでモフモフパラダイス!
マイきぃ
ファンタジー
池波柔人は中学2年生。14歳の誕生日を迎える直前に交通事故に遭遇し、モフモフだらけの異世界へと転生してしまった。柔人は転生先で【モフった相手の能力を手に入れることのできる】特殊能力を手に入れた。柔人は、この能力を使ってモフモフハーレムを作ることができるのだろうか!
※主人公が突然モヒカンにされたり(一時的)、毛を刈られる表現があります。苦手な方はご注意ください。
モフモフな時に更新します。(更新不定期)
※この作品はフィクションです。実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
カバーイラストのキャラクターは
萌えキャラアバター作成サービス「きゃらふと」で作成しています。
きゃらふとhttp://charaft.com/
背景 つくx2工房
多重投稿有
慟哭の時
レクフル
ファンタジー
物心ついた時から、母と二人で旅をしていた。
各地を周り、何処に行くでもなく旅をする。
気づいたらそうだったし、何の疑問も持たなくて、ただ私は母と旅を続けていた。
しかし、母には旅をする理由があった。
そんな日々が続いたある日、母がいなくなった。
私は一人になったのだ。
誰にも触れられず、人と関わる事を避けて生きていた私が急に一人になって、どう生きていけばいいのか……
それから母を探す旅を始める。
誰にも求められず、触れられず、忘れ去られていき、それでも生きていく理由等あるのだろうか……?
私にあるのは異常な力だけ。
普通でいられるのなら、こんな力等無くていいのだ。
だから旅をする。
私を必要としてくれる存在であった母を探すために。
私を愛してくれる人を探すために……
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
弟子に”賢者の石”発明の手柄を奪われ追放された錬金術師、田舎で工房を開きスローライフする~今更石の使い方が分からないと言われても知らない~
今川幸乃
ファンタジー
オルメイア魔法王国の宮廷錬金術師アルスは国内への魔物の侵入を阻む”賢者の石”という世紀の発明を完成させるが、弟子のクルトにその手柄を奪われてしまう。
さらにクルトは第一王女のエレナと結託し、アルスに濡れ衣を着せて国外へ追放する。
アルスは田舎の山中で工房を開きひっそりとスローライフを始めようとするが、攻めてきた魔物の軍勢を撃退したことで彼の噂を聞きつけた第三王女や魔王の娘などが次々とやってくるのだった。
一方、クルトは”賢者の石”を奪ったものの正しく扱うことが出来ず次第に石は暴走し、王国には次々と異変が起こる。エレナやクルトはアルスを追放したことを後悔するが、その時にはすでに事態は取り返しのつかないことになりつつあった。
※他サイト転載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる