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38話 生還を喜ぶ声

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 帰宅したハローは、崩れるように座り込んでいた。

 彼女に見限られてしまった、彼の頭はそれに支配されていた。あの姿を見られた以上、ナルガは自分の下を去ってしまうだろう。

 自身の過ちを悔やみ、頭を抱えるハローの下へ。



「帰っていたか」



 ナルガが戻ってきた。

 彼女が帰ってくるとは思ってなくて、ハローは驚いた。

 ナルガはハローへ歩み寄ると、彼を抱きしめた。頭が追い付かず腕をばたつかせると、



「エドウィンから、全部聞いた。キグナス島での戦いと、お前が潜り抜けた戦火を」



 ナルガはより強くハローを抱きしめ、頭を撫でた。



「安心しろ、私は出て行ったりしない。約束しただろう? 心身ともに癒えるまでここに居ると。まだ私は、完全に治り切っていない。お前と同じようにな」

「俺が、恐くないのか?」

「今は、恐くない。むしろ逆だ。お前を救いたくて、仕方ない」



 なぜナルガがハローの対話に応じたのか。理由は単純、彼女もハローと同じだからだ。

 勇者と四天王。立場の違いで敵対していただけで、ナルガはハローと同じ心を抱いた、「弱い人のために戦う」女性だった。



「お前は以前、私を知ろうと幾度も話してくれたな。だから今度は私がお前と話す番だ。ハローの抱える全てを、教えてくれ。なんであろうと、私は受け入れよう。みっともなくても、情けなくても、私はお前を見放したりしない」

「でも俺は! 大勢を殺した……血に塗れた手を隠して、ずっと君を騙していた……俺は、卑怯者だ……俺には、生きる資格なんかない。キグナス島で、死ぬべきだったんだ……」



 ナルガはかぶりを振り、ハローを胸に抱いた。



「キグナス島の地獄を、よく生き延びてくれた。ハローのおかげで、助かった者も大勢居るだろう。私もその中の一人だ。ハローが居なければ、私の世界は今でもモノクロのままだった。私に光を取り戻してくれたのは、お前のおかげだ。……生きていてくれて、ありがとう」



 キグナス島から帰還したハローに待っていたのは、多くの罵声だった。

 皆のために戦ったはずなのに、勇者にあるまじき所業を責められ、死人として国から存在を抹消された。



 国を守るため戦ったけど、「お前など死ねばよかったのに」と、心無き言葉で殴られて、誰からも生還を望まれなかった。



 俺は死ぬべきだった。そんなハローに、初恋の人から初めてかけられた、生還を喜ぶ声。

 気づけばハローは、泣いていた。ナルガにしがみついて、声を上げて泣いていた。ハローの背を叩き、ナルガは優しく彼を甘えさせた。



「……君にみっともない恰好、見せちゃったな」

「構わん、若い頃のお前も充分おっちょこちょいな姿を見せていた、今さらだ」

「はは、大人になったはずなんだけどな……ねぇ、もう少しだけ……こうしていてもいいかな?」

「気が済むまで抱きしめてやる。仮初とは言え、我らは夫婦だ。この関係が続く間は、支えてやる。お前は、ここに居ていいんだ。生きていて、いいんだ」

「……うん」



 傷ついた心を持つ二人は、互いを慰めるように、抱き合い続けた。
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