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19話 四天王のカリスマ
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女達はナルガを潰すつもりで、多くの仕事を押し付けた。
どうせすぐ音を上げるだろう。そんな意地悪な思惑を、ナルガは覆してやった。
「次のお仕事は?」
「え、ええと、ちょっと待ってな!」
ナルガは女達が困惑する程に手早く仕事を終えていた。ナルガを潰すつもりが、逆に女達の仕事が無くなって、面目丸つぶれとなっていた。
この手の輩は実力を示すのが手っ取り早い。初めての農作業だったが、彼女達が「丁寧に」教えてくれるおかげですぐに覚える事が出来た。
女達はぐうの音も出ず、一度休憩と相成った。ナルガは木陰に座り、ひとりぼんやりと空を眺めた。
思えば、こんな穏やかな時間を過ごしたのはいつ以来だろう。
ずっと戦ってばかりで、一息つく間なんて記憶にない。風が麦を撫でる音を聞きながら、ナルガは膝を抱えた。
……ちゃんと耳が聞こえたら、さぞ、心地よかっただろうな。
「具合悪いの?」
少女がひとり、ナルガに歩み寄った。ナルガは首を振り、
「こうすると落ち着くんだ。私には近づかない方がいい、母親が心配するぞ」
「でも、寂しそうだから。ハロー兄が言ってたんだ、寂しそうな人は助けなさいって」
「ハローらしいな」
すん、と鼻を鳴らし、ナルガは目を閉じた。
と、少女が急に悲鳴を出した。母親も大声を張ったので、ナルガは顔を上げた。
ナルガ達に向かって、イノシシ型の魔物が三頭迫っている。この辺りに生息するワイルドボアだ。この時期は繁殖期にあたるため狂暴化しており、時折人里に出て襲ってくる事があるのだ。
……うっとうしい奴らだ。
ナルガは少女を背にし、ワイルドボアを迎え撃った。
義足を軸に体を回し、全身を連動させて掌底を叩き込む。ワイルドボアの頭が一撃でへこんだ。突っ込んでくる後続も、義足を駆使した回し受けでいなし、胴体へカウンターを入れて内臓を潰した。
オクトに奪われた左足は、今や彼女の武器だ。義足を利用した、全身の力を余さず相手に叩き込む術を身に着けたのだ。
五感を失っているから本来の力こそ出せないが、この程度の雑魚なら造作もない。
農婦達がぽかんとする中、ナルガは少女の無事を確かめた。
「怪我はないな」
「う、うん! すごーい、つよーい! ねね、わたしにも出来る!?」
「修練次第だな。ナイフを持ってきてくれ」
ナルガはワイルドボアを手早く解体した。鮮やかな手さばきに、女達は感心した様子だ。
「随分と器用だね」
「狩猟なら、幾度も経験していますので。それで、休憩は終わりですか?」
「あ、そうだねぇ……」
「では次の仕事を、教えていただけないでしょうか」
ナルガは文字通り、腕づくで信用を勝ち取っていった。
どうせすぐ音を上げるだろう。そんな意地悪な思惑を、ナルガは覆してやった。
「次のお仕事は?」
「え、ええと、ちょっと待ってな!」
ナルガは女達が困惑する程に手早く仕事を終えていた。ナルガを潰すつもりが、逆に女達の仕事が無くなって、面目丸つぶれとなっていた。
この手の輩は実力を示すのが手っ取り早い。初めての農作業だったが、彼女達が「丁寧に」教えてくれるおかげですぐに覚える事が出来た。
女達はぐうの音も出ず、一度休憩と相成った。ナルガは木陰に座り、ひとりぼんやりと空を眺めた。
思えば、こんな穏やかな時間を過ごしたのはいつ以来だろう。
ずっと戦ってばかりで、一息つく間なんて記憶にない。風が麦を撫でる音を聞きながら、ナルガは膝を抱えた。
……ちゃんと耳が聞こえたら、さぞ、心地よかっただろうな。
「具合悪いの?」
少女がひとり、ナルガに歩み寄った。ナルガは首を振り、
「こうすると落ち着くんだ。私には近づかない方がいい、母親が心配するぞ」
「でも、寂しそうだから。ハロー兄が言ってたんだ、寂しそうな人は助けなさいって」
「ハローらしいな」
すん、と鼻を鳴らし、ナルガは目を閉じた。
と、少女が急に悲鳴を出した。母親も大声を張ったので、ナルガは顔を上げた。
ナルガ達に向かって、イノシシ型の魔物が三頭迫っている。この辺りに生息するワイルドボアだ。この時期は繁殖期にあたるため狂暴化しており、時折人里に出て襲ってくる事があるのだ。
……うっとうしい奴らだ。
ナルガは少女を背にし、ワイルドボアを迎え撃った。
義足を軸に体を回し、全身を連動させて掌底を叩き込む。ワイルドボアの頭が一撃でへこんだ。突っ込んでくる後続も、義足を駆使した回し受けでいなし、胴体へカウンターを入れて内臓を潰した。
オクトに奪われた左足は、今や彼女の武器だ。義足を利用した、全身の力を余さず相手に叩き込む術を身に着けたのだ。
五感を失っているから本来の力こそ出せないが、この程度の雑魚なら造作もない。
農婦達がぽかんとする中、ナルガは少女の無事を確かめた。
「怪我はないな」
「う、うん! すごーい、つよーい! ねね、わたしにも出来る!?」
「修練次第だな。ナイフを持ってきてくれ」
ナルガはワイルドボアを手早く解体した。鮮やかな手さばきに、女達は感心した様子だ。
「随分と器用だね」
「狩猟なら、幾度も経験していますので。それで、休憩は終わりですか?」
「あ、そうだねぇ……」
「では次の仕事を、教えていただけないでしょうか」
ナルガは文字通り、腕づくで信用を勝ち取っていった。
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