上 下
18 / 207
1部

18話 作り笑い

しおりを挟む
 ナルガはハローと共に、挨拶回りへ向かった。

 突然ハローが結婚したと聞いて、村人達は大層驚いていた。しかも相手は急に現れた美女とあって、訝しい視線を向けられた。



「なぁハロー、エドから話は聞いているがよ、そんな別嬪さん、どこから連れて来たんだ」

「元冒険者だよ。前にシンギで会ってから、手紙でやり取りしててさ。怪我で仕事が出来なくなったから、それじゃ一緒に暮らさないかって口説いたんだ」



 ラコ村の農産物や木材は、ハローとエドウィンが定期的に市場へ売りに出している。ナルガはそこで会った冒険者アリスと言う体で、エドウィンが広めていた。

 とはいえ、いきなり入ってきた余所者に対し、村人が好意を示すわけがない。皆ナルガを警戒し、ひそひそと陰口を叩いていた。



 ナルガは気にも留めなかった。どの道、心身が癒えたら出ていくつもりだ。周りから何を言われようがどうでもいい。とはいえハローの体面もあるし、いつまでも不愛想と言うわけにはいかない。



「アリスと申します、不束者ですが、本日よりお世話になります」



 ぺこりと頭を下げ、村人一人一人に丁寧な挨拶をしていく。こわばった頬を無理やり吊り上げ、出来る限り笑顔を浮かべた。

 作り笑いはとても疲れるが、これも生きるため。ナルガは自分に言い聞かせた。



「そんな足で畑仕事は出来るのかい? 旦那の世話だけしてりゃいいわけじゃないんだからね」

「心得ています。仕事を覚えたいので、何なりとお申し付けください」

「それじゃあ早速手伝ってもらおうか。今は麦の収穫時期なんだ、人手が一人でも欲しいんでね」



 村の女達はナルガの腕を引っ張った。ハローは止めようとしたが、ナルガは首を振った。



「信用を得るならば、行動を見せた方がいいだろう。幸い、体は動くようになった。手伝いくらいならできる」

「でも、左足……」

「この足とは三年の付き合いだ、案ずるな」



 ナルガは何度か義足で地面を踏むと、女達について行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします

吉野屋
ファンタジー
 竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。  魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。  次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。 【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】  

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

念願の異世界に召喚されましたが、無能判定されて元の世界に帰されそうです。~救ってくれたのはゲーミング柴犬でした~

白楠 月玻
ファンタジー
異世界に召喚された時、最も大事なものは何だと思う? 頼もしい仲間? チート魔法? 違う違う。 俺が最重要視したのは、異世界人とちゃんと意思疎通できることだ。 これは、神から最強の言語スキルをもらった「俺」こと「色葉和音」が、魔法にあふれたファンタジー世界で無双生活をするお話。 ……だったらよかったのだが、実際は「無能スキルの召喚者」と呼ばれ、元の世界に戻されそうになっている。もちろん、そうならないようにあらゆる手を尽くすから安心してくれ!! ここまで読んでくれてありがとう。 ではさっそく、人間はもちろんあらゆる異種族、動物、生き物たちと会話できる俺が、 自分を無能と言ってきた奴らに一泡吹かせたり、 なぜか虹色に光る柴犬とスローライフを楽しんだり、 最強のテイマーを目指してみたり、 神に戦いを挑んだりする物語、ぜひ楽しんでくれ。

黒猫印の魔法薬 〜拾った子猫と異世界で〜

浅間遊歩
ファンタジー
 道に迷った少女ミーナが子猫(?)のラルに案内されてたどり着いたのは、人里離れた山中にポツンとあるわらぶき屋根の一軒家。  そこに住むおばあさんに孫と間違われ、異世界で魔法薬を作る薬師見習い生活が始まります。  異世界生活も順調と思った矢先、おばあちゃんが心臓の発作で倒れて意識不明のまま入院。病院には、おばあちゃんの本当の孫や意地悪な借金取りが現れ、ミーナとラルの生活は急変してしまいます。  おばあちゃんを救うために必要な黄金の実は手に入るのか!? ※ チート無双というほどではありません ※もちろん逆ハーレムもなし ※ ダンジョン攻略描写はありません ※ ダンジョンのある村で子猫(?)と暮らすお話です ※文化レベルは大正時代+ファンタジー ーーーー ジャンルをファンタジーに戻しました。 ーーーー  異世界転移ものなのでジャンルをファンタジーにしていましたが、第1回きずな児童書大賞の応募可能ジャンルに異世界ファンタジーがあるので、ジャンルを児童書・童話に変更してエントリーしてみます。  主人公が転生ではないリアル小学生であること、主人公と魔獣/周りの人達との関係(絆)が元々テーマであること、既刊作を見ると対象年齢が低すぎることはなさそうなのが理由です。  第二章(本日は晴天なり)で完結の予定でしたが、一応続けてます。遅くてすいません。  よろしくお願いします。

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...