上 下
13 / 207
1部

13話 奪われた誇り

しおりを挟む
「ハロー!? 無事だったのか!」



 数日後、ハローはエドウィン達の潜伏先へ戻った。

 幾日も、外で縛られたまま放置された。水も与えられず、時には酷い拷問を受けて、危うく死ぬところだったが、どうにか縄をほどいて脱出したのだ。



 ……逃げるのに必死で、ミレイユの亡骸を連れてこれなかったのが、悔やまれるが。



 ハローの話を聞き、エドウィンは拳を握りしめた。



「あいつら……本当に同じ人間なのか……マックは?」

「別の場所に移されたみたいだ……早く、助けに行かないと、何をされるか……」



 聖剣はどうにか取り戻した、マックの居場所さえ分かれば、救出は難くない。

 と、見張りの兵が声を張り上げた。



「捕虜たちが、戻ってきた!」

「なんだって?」



 兵の言う通り、捕まった者達が向かってきている。先頭には、マックが立っていた。



「マックだ、マックが居る!」

「あいつ、仲間を連れて逃げて来たんだ!」



 ハローとエドウィンは喜び、マックを迎えようと駆け出した。ところが、



「―――来るな! 逃げろ!」



 マックはそう叫ぶなり、いきなり剣を持って襲い掛かってきた。

 不意の一撃に反応できず、ハローは顔を斬りつけられた。捕虜たちも一斉に剣を振り上げてくる。完全に油断していた兵達は次々に斬られ、慌てて迎撃態勢に入った。



 その直後、捕虜たちが次々に爆発した。



 爆発に巻き込まれ、多くの兵達が犠牲になっていく。かといって抵抗を止めれば、捕虜により殺されてしまう。

 さらに悪い事が起こる。混乱に乗じて、アトラス軍が攻め込んできたのだ。

 ハローはマックの相手に手一杯で、誰も助けられない。鍔迫り合い、ハローはマックに詰め寄った。



「なんで、なんでこんな……マック! なんで!?」

「すまない……あいつらに、呪いをかけられた……! 相手を操る「傀儡」と、体に爆弾を仕込む、「機雷化」の呪いを……」

「なん……だって……!?」



 捕虜達を、人間爆弾にしてけしかけたのだ。仲間の帰還に喜ぶ、一瞬の隙を突く外道の戦法である。

 アトラス軍総大将、ウルチが最も得意とし、そして最も好む、悪趣味な作戦だった。

 そのウルチは安全な場所から、同士討ちの様を眺めて酒を喰らっている。敵がもがき苦しみ、のたうち回る姿を見るのが、奴の趣味なのだ。



「坊主、俺を止めてくれ! もうこの体は、俺の意思では、動かせない!」

「けど……う、うううっ!」



 葛藤の末、ハローはマックを打ちのめした。エドウィンがすぐに解呪を施すが。



「くそ、なんだこれ……複雑すぎて、解呪できない……!」

「そんな!」

「情けない声を出すなよ、それより、早く俺を、殺せ。今の俺は、いつ爆発するか分からない……起爆したら、坊主まで死ぬぞ」

「……できないよ……ほかに手段が……」

「お前は勇者だろ、坊主。お前はお前の、やるべきことをやれ」



 ハローに倒され、僅かだが支配が解けたのだろう。マックは愛用のナイフをハローに渡した。



「こいつを、やるよ。俺は死んでも、お前と共に居続ける。だから、頼む。俺をお前の仲間として、死なせてくれ」

「……マック……!」

「泣くなよ、坊主は強い奴だ。お前の選択は、絶対に正しい。俺が保証する。だからこの選択も、決して間違いなんかじゃない。……またな、ハロー」

「……ぅぅぅぅ……!」



 血が出る程に唇を噛み、涙をこぼして、マックの心臓にナイフを突き立てた。

 ハローは初めて、人を殺した。それも、自分が最も慕っていた、大切な仲間を。

 マックは安らかな笑みを浮かべ、息絶えている。彼の目を閉ざし、ハローは俯いた。



「仲間を殺したか。貴様は命を重んじるのではなかったのか? よりにもよって、大切な仲間を自ら殺めるとは。勇者の名が泣いているぞ? これ以上の犠牲を避けたくば、早急に本土へ戻り、王へ進言しろ。降伏せよと。さもなくば、アトラスがかの地を蹂躙すると! 誰も守れぬ貴様が民を救うため、唯一取れる選択だ」



 ウルチは高笑いし、配下を撤退させた。奴は国盗りのため、あえて止めを刺さず、ハローの心を抉った。国盗りのため、勇者に降伏を選ばせるために。

 親友のナイフを握り、マックの遺した傷に触れた時。ハローの顔には。



 壮絶な、修羅が宿っていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~

桜井正宗
ファンタジー
 元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。  仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。  気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

弟子に”賢者の石”発明の手柄を奪われ追放された錬金術師、田舎で工房を開きスローライフする~今更石の使い方が分からないと言われても知らない~

今川幸乃
ファンタジー
オルメイア魔法王国の宮廷錬金術師アルスは国内への魔物の侵入を阻む”賢者の石”という世紀の発明を完成させるが、弟子のクルトにその手柄を奪われてしまう。 さらにクルトは第一王女のエレナと結託し、アルスに濡れ衣を着せて国外へ追放する。 アルスは田舎の山中で工房を開きひっそりとスローライフを始めようとするが、攻めてきた魔物の軍勢を撃退したことで彼の噂を聞きつけた第三王女や魔王の娘などが次々とやってくるのだった。 一方、クルトは”賢者の石”を奪ったものの正しく扱うことが出来ず次第に石は暴走し、王国には次々と異変が起こる。エレナやクルトはアルスを追放したことを後悔するが、その時にはすでに事態は取り返しのつかないことになりつつあった。 ※他サイト転載

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

処理中です...