上 下
6 / 207
1部

6話 その笑みはひび割れて

しおりを挟む
 ラコ村に移住してから、ハローは木こりとして働いている。

 今日の仕事は下刈だ。土壌の状態を観察しつつ、苗木に充分な日光が当たるよう雑草を払う作業である。



「今日は随分機嫌がいいなハロー」

「まぁ、ちょっといい事があったもので」



 同僚に肩を叩かれ、ハローは照れ笑いを浮かべた。

 ナルガが来てくれたのが嬉しくて、いつもよりハローは張り切っていた。



 勇者でなくなってから彼女と接点が無くなり、一昨日には魔王軍が敗北したと聞いて、ナルガとの再会を絶望視していただけに、ハローにとっては望外の褒美である。

 早く村人に彼女を紹介したいな、早く兵士達が居なくなればいいのに。



「そうだ、あいつら殺せばナルガも、安心できるよな」



 ハローは虚ろに笑い、鉈を握りしめた。



「おーい、ハローの馬鹿は居るかー?」

「エド、どうしたんだ」



 作業中、エドウィンがやってきた。彼は肩を竦めると、



「副業の依頼だ。親方には話を付けてあるから、教会に行くぞ」

「分かった、すぐに行くよ」



 つと、ハローの目から光が消えた。

 自分の助けを求めている人が居るなら、行かなければ。

 ラコ村の東にはマクミード教会がある。子供達に日曜学校を開いたり、村同士の情報交換の場になったりと、この近辺の村々を繋ぐ役割を担っているのだ。



「ハロー様、エドウィン様、ご足労ありがとうございます」



 教会に着くなり、栗毛のシスターが出迎えてくれた。

 名はミネバ・リオンディーズ、齢二十一歳。彼女は深々と頭を下げると、二人を奥へ通した。



「司祭様がお待ちです、こちらへ」

「わざわざハローを引っ張り出して、冒険者じゃ手に負えない案件なのか?」

「実は、最近雇った冒険者が突然辞めてしまいまして……暫くはまた、ハロー様のお手を借りる事になるかと……」

「またかよ。冒険者の質も落ちたもんだな」



 魔王軍との戦いが終わった直後で、国内の治安は安定しておらず、各地で集落が野盗や魔物に襲われる事件が多発している。王国軍の兵士も戦後処理に奔走しており、末端まで手が及んでいない有様だ。



 マクミード教会も自衛のため冒険者を雇っているのだが、冒険者達はより多くの収入と名声を求め、事件の規模や収入の大きい都心部へと流れてしまう。今回の様に、突然契約をキャンセルしてしまうのも珍しくない。



 そのため、ラコ村周辺の治安維持は元勇者のハローが一手に担っているのである。



「本当に、申し訳ありません……できればハロー様に負担をかけたくはないのですが」

「気にしないでいいよ、俺の力が必要ならいつでも声をかけてくれ。そんな難しい事じゃないさ、君達を脅かす奴らを、一人残らず皆殺しにすればいいだけだから」



 ハローは優しく、しかし壊れた笑みを浮かべた。

 冷たい声にミネバは青ざめ、エドウィンも顔をしかめる。その二人をよそに、ハローは笑い続けた。

 狂ったように、目を細め、口元に手を当てて、嗤い続けていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

僕のおつかい

麻竹
ファンタジー
魔女が世界を統べる世界。 東の大地ウェストブレイ。赤の魔女のお膝元であるこの森に、足早に森を抜けようとする一人の少年の姿があった。 少年の名はマクレーンといって黒い髪に黒い瞳、腰まである髪を後ろで一つに束ねた少年は、真っ赤なマントのフードを目深に被り、明るいこの森を早く抜けようと必死だった。 彼は、母親から頼まれた『おつかい』を無事にやり遂げるべく、今まさに旅に出たばかりであった。 そして、その旅の途中で森で倒れていた人を助けたのだが・・・・・・。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※一話約1000文字前後に修正しました。 他サイト様にも投稿しています。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...