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96話 おれさまおまえまるかじり
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エルマーがぶっ壊した屋敷は、俺様とリサちゃんで修復しておいた。後であの野郎に修理代を請求しねぇとな。
「修理してる間、見張りありがとな。ウロボロス」
―うるるん
ごつい見かけによらず愛らしい鳴き声を出し、俺様に頭を擦りつけてくる。ドラゴンもこう懐っこいと可愛いもんだ。
だが、戦闘力は折り紙付きだぜ。恐らくレベル800はある強者だ。これまでの聖獣と比べても、戦闘能力に関しちゃトップクラスだな。
「さてと、落ち着いて話ができる状態になったところで……まずはこっちから話した方がいいかな?」
「……ええ、お願い。エルについて教えて。彼が、何を考えているのか」
ビオラちゃんは真っすぐな目で俺様を見つめてくる。一途な子だぜ、今もなおエルマーを心から想っているようじゃないか。
美女からそんな目で訴えられちゃ、賢者としてはほっとけないね。って事でエルマーのたくらみである、「ハワード・ロックへの成り代わり」を教えることにした。
「賢者に成り代わるって……なんのつもりなの、どうしてそんな事をしようとしているの? エルが全然分からない……そんな人じゃ、なかったはずなのに……!」
「俺様達は過去のエルマーを知らないから何とも言えないな。ただ、こちらとしては勝手に俺様を乗っ取ろうとしている奴が気に食わないんだ」
「初対面でこのような事を頼むのは申し訳ないのですが、私達に協力していただけないでしょうか。場合によっては貴方も危険にさらされる可能性もありますし」
「うん、エルマーの奴、ビオラさんに思いっきり攻撃してきたよね。ハワードとウロボロスが居なかったら死んでたかもしれないし、私達が傍にいた方が安全だよ」
―うるおっ
ウロボロスもそうしろと頷いている。なんかしれっと会話に混ざってるけど、協力してくれるみたいだな。
元々ウロボロスは人間に好意的だ、自分の縄張りに快く住まわせる程度にな。そんな中で起こった襲撃事件に随分腹を立てているようだ。
「……ええ、協力させてもらうわ。エルの凶行を何としてでも止めないと。貴方には先に謝っておくわね、私のエルが迷惑をかけて、本当にごめんなさい。そんな簡単に許されるとは思っていないけど……」
「いいよ♪」
「え、軽っ」
「美女が頭を下げてまで謝罪してくれたんだぜ? そんなの二つ返事で許すに決まってんじゃなぁい♡ なんなら俺様、君の依頼を受けちゃうよ。なんでも言ってごらん、悪人退治から子作りの実践から夜の営みから激しい前戯からなんでもやってあげ」
※※※少々お待ちください※※※
「……賢者がウロボロスに飲み込まれたけど、いいの?」
「大丈夫です、ドラゴンの胃液で消化できる人ではありませんので」
「いっぺん酸で脳みそ洗って来い馬鹿賢者」
いやぁ、まさかウロボロスに丸呑みにされるとは。思わぬツッコミに俺ちゃん仰天だぜ。まぁ脱出しちゃうんですけど。
なぁんてバカやってたら、馬車がやってきた。出てきたのはおっさんのケットシーだ。身なりのいい格好していて、因業そうな顔立ちをしている。
「ビオラ! 無事か、無事なのか!」
「お父様。はい、この通りです」
「おお……! 屋敷が襲われたと聞いて心配したぞ。ウロボロスと……其方が守ってくれたのだな。礼を言うぞ、人間の方々。私はビオラの父キントラ・ワーズワース、ボルケーノカントリーの顔役をしている者だ」
深々と頭を下げて礼をしたな。へぇ……?
「俺様は賢者ハワード・ロックだ。これ以上の紹介は必要ないだろ?」
「賢者ハワード……! かの高名な勇者パーティの! いやはや、なんと光栄な事でしょうか! 娘を守ってくださり感謝しますぞ!」
「野郎からの感謝はNo thank youだっての。それよかウロボロスへの礼を忘れてるぜ」
「おっと、失礼した。ウロボロス、娘を守ってくださり、本当にありがとうございます。しかし、いったい誰なのですかな。娘を襲ってきた不届き者は」
「それは……彼なんです、お父様」
ビオラちゃんが事情を説明すると、キントラは頭を抱えた。
「エルトライトか……やはり、許してはくれないか……」
「……私、エルを探しに行きます。きっと、まだ近くに居るはず。何としてもエルを、連れもどさないと!」
父親の静止も振り切って、ビオラちゃんが飛び出しちゃった。
またエルマーが襲ってくるかもしれないってのにまぁ、忙しい子だ。活発な子は大好きだぜ、ベッドの中でも活発に求めてくるもんだからな♡ 特にケットシーは猫の亜人だからそりゃもう性欲が
「―――頭は冷えましたか?」
『うんとっても。がるるも器用なもんだな、首から上だけ氷漬けにするとか。ナイスフェイスがアイスフェイスになっちまったじゃねぇか』
―わふっ
「だから氷漬けになってんのに普通にしゃべんな。とにかく追っかけないと」
阿呆なやりとりしてる場合じゃねぇわな。じゃ、ちゃちゃっと追っかけますか。
◇◇◇
ビオラちゃんに追いついた俺様達は、いったん彼女を落ち着かせて広場に移動した。
彼女は深呼吸した後、目を閉じて首を振る。
「ごめんなさい、取り乱して」
「それだけ大事に思ってるって事だろ。エルマー……いや、ビリー・エルトライトをな」
「! なぜその名を……」
「推理小説を読むのが趣味なんだ。エルマーの本名なんだろ?」
「……ええ、多分、私達に素性を知られないために名乗っているんでしょうね。でも、すぐに分かったのよ。顔と名を隠しても彼は、エルはエルだもの」
「ま、演技がへたくそなハム野郎だからな。自分の恋人から姿を消したきゃ、もっと真面目に消すこった」
「ちょっとハワード、言葉が悪いわよ」
「そりゃ悪くなるさ。俺様、人生を諦めるような奴が大嫌いだからな」
「人生を諦める、ですか。確かにエルマーの目的を踏まえると、そう思えてきますね。ビオラさん、何か心当たりはございませんか?」
「ええ……賢者ハワード、少し長くなるけど、聞いてくれるかしら」
「Yes、いくらでも聞いちゃうよ。君がビリーのために努力して親父さんを変えたエピソードとか、ビリーが親父さんに徹底していびられた物語とかさ」
「……どんな推理小説を読んだらそんな頭が切れるようになるの? 話したい事ほとんど言われちゃったじゃない」
「目次作っといた方が理解しやすいからな」
実を言うとワーズワース家の顔役の噂は昔から聞いてたんだ。それはそれは、素敵な噂をたっくさんな。
美女のサクセスストーリーほど面白いもんはねぇさ、デートついでに聞かせてもらいましょ。
◇◇◇
「やはり、ビオラに手を出し始めましたか。貴方の積極的な所は、やはり素晴らしいですね」
教会の屋根にて、エルマーはハワード達を見下ろしていた。
全て、エルマーの思う通りに進んでいる。ハワードならば、ビオラの心をつかむ事が出来るだろう。彼はそれだけ魅力的な男だから。
名も姿も、存在すらも捨てた自分よりも、遥かに。
黒の福音書を握り、唇を噛む。
「ええ……ええ。勿論、今更後戻りするつもりはありませんよ。貴方と出会った五年前から……私はビリーを捨てたのですから」
ボルケーノカントリーを追い出され、何もかもを失って彷徨っていたビリーは、いつの間にか黒の福音書を手に取っていた。
それ以来、全ての意思は福音書に奪われた。ただ一つ、「ビオラへの愛」を残して。
福音書に宿った、「彼女」から逃れるには、「彼女」の望みを叶えねばならない。引き換えにエルマーは、ビオラへもう一度会う資格を貰える。
黒の福音書が一方的に交わしてきた契約に従い、彼は今日まで生きてきた。
「ビリー・エルトライトはもういないんだ……だけども、安心してくれビオラ。君の隣にはハワード・ロックが居る。何もかもを失くした男と違う、何もかもを持っている男だ」
ハワードならば、君の隣に立つ資格がある。だから必ず「敬愛のエルマー」を殺し、「ハワード・ロック」としてビオラを迎えに行こう。
全ては愛すべき人のために。そのためならば、自分を殺す事もためらわない。
「待っていてくれビオラ、極悪人のエルマーはもうすぐ消える。絶対に、絶対に僕は……賢者になるよ」
全てを奪われたビリーに残された、唯一の心を持って。エルマーは姿を消した。
「修理してる間、見張りありがとな。ウロボロス」
―うるるん
ごつい見かけによらず愛らしい鳴き声を出し、俺様に頭を擦りつけてくる。ドラゴンもこう懐っこいと可愛いもんだ。
だが、戦闘力は折り紙付きだぜ。恐らくレベル800はある強者だ。これまでの聖獣と比べても、戦闘能力に関しちゃトップクラスだな。
「さてと、落ち着いて話ができる状態になったところで……まずはこっちから話した方がいいかな?」
「……ええ、お願い。エルについて教えて。彼が、何を考えているのか」
ビオラちゃんは真っすぐな目で俺様を見つめてくる。一途な子だぜ、今もなおエルマーを心から想っているようじゃないか。
美女からそんな目で訴えられちゃ、賢者としてはほっとけないね。って事でエルマーのたくらみである、「ハワード・ロックへの成り代わり」を教えることにした。
「賢者に成り代わるって……なんのつもりなの、どうしてそんな事をしようとしているの? エルが全然分からない……そんな人じゃ、なかったはずなのに……!」
「俺様達は過去のエルマーを知らないから何とも言えないな。ただ、こちらとしては勝手に俺様を乗っ取ろうとしている奴が気に食わないんだ」
「初対面でこのような事を頼むのは申し訳ないのですが、私達に協力していただけないでしょうか。場合によっては貴方も危険にさらされる可能性もありますし」
「うん、エルマーの奴、ビオラさんに思いっきり攻撃してきたよね。ハワードとウロボロスが居なかったら死んでたかもしれないし、私達が傍にいた方が安全だよ」
―うるおっ
ウロボロスもそうしろと頷いている。なんかしれっと会話に混ざってるけど、協力してくれるみたいだな。
元々ウロボロスは人間に好意的だ、自分の縄張りに快く住まわせる程度にな。そんな中で起こった襲撃事件に随分腹を立てているようだ。
「……ええ、協力させてもらうわ。エルの凶行を何としてでも止めないと。貴方には先に謝っておくわね、私のエルが迷惑をかけて、本当にごめんなさい。そんな簡単に許されるとは思っていないけど……」
「いいよ♪」
「え、軽っ」
「美女が頭を下げてまで謝罪してくれたんだぜ? そんなの二つ返事で許すに決まってんじゃなぁい♡ なんなら俺様、君の依頼を受けちゃうよ。なんでも言ってごらん、悪人退治から子作りの実践から夜の営みから激しい前戯からなんでもやってあげ」
※※※少々お待ちください※※※
「……賢者がウロボロスに飲み込まれたけど、いいの?」
「大丈夫です、ドラゴンの胃液で消化できる人ではありませんので」
「いっぺん酸で脳みそ洗って来い馬鹿賢者」
いやぁ、まさかウロボロスに丸呑みにされるとは。思わぬツッコミに俺ちゃん仰天だぜ。まぁ脱出しちゃうんですけど。
なぁんてバカやってたら、馬車がやってきた。出てきたのはおっさんのケットシーだ。身なりのいい格好していて、因業そうな顔立ちをしている。
「ビオラ! 無事か、無事なのか!」
「お父様。はい、この通りです」
「おお……! 屋敷が襲われたと聞いて心配したぞ。ウロボロスと……其方が守ってくれたのだな。礼を言うぞ、人間の方々。私はビオラの父キントラ・ワーズワース、ボルケーノカントリーの顔役をしている者だ」
深々と頭を下げて礼をしたな。へぇ……?
「俺様は賢者ハワード・ロックだ。これ以上の紹介は必要ないだろ?」
「賢者ハワード……! かの高名な勇者パーティの! いやはや、なんと光栄な事でしょうか! 娘を守ってくださり感謝しますぞ!」
「野郎からの感謝はNo thank youだっての。それよかウロボロスへの礼を忘れてるぜ」
「おっと、失礼した。ウロボロス、娘を守ってくださり、本当にありがとうございます。しかし、いったい誰なのですかな。娘を襲ってきた不届き者は」
「それは……彼なんです、お父様」
ビオラちゃんが事情を説明すると、キントラは頭を抱えた。
「エルトライトか……やはり、許してはくれないか……」
「……私、エルを探しに行きます。きっと、まだ近くに居るはず。何としてもエルを、連れもどさないと!」
父親の静止も振り切って、ビオラちゃんが飛び出しちゃった。
またエルマーが襲ってくるかもしれないってのにまぁ、忙しい子だ。活発な子は大好きだぜ、ベッドの中でも活発に求めてくるもんだからな♡ 特にケットシーは猫の亜人だからそりゃもう性欲が
「―――頭は冷えましたか?」
『うんとっても。がるるも器用なもんだな、首から上だけ氷漬けにするとか。ナイスフェイスがアイスフェイスになっちまったじゃねぇか』
―わふっ
「だから氷漬けになってんのに普通にしゃべんな。とにかく追っかけないと」
阿呆なやりとりしてる場合じゃねぇわな。じゃ、ちゃちゃっと追っかけますか。
◇◇◇
ビオラちゃんに追いついた俺様達は、いったん彼女を落ち着かせて広場に移動した。
彼女は深呼吸した後、目を閉じて首を振る。
「ごめんなさい、取り乱して」
「それだけ大事に思ってるって事だろ。エルマー……いや、ビリー・エルトライトをな」
「! なぜその名を……」
「推理小説を読むのが趣味なんだ。エルマーの本名なんだろ?」
「……ええ、多分、私達に素性を知られないために名乗っているんでしょうね。でも、すぐに分かったのよ。顔と名を隠しても彼は、エルはエルだもの」
「ま、演技がへたくそなハム野郎だからな。自分の恋人から姿を消したきゃ、もっと真面目に消すこった」
「ちょっとハワード、言葉が悪いわよ」
「そりゃ悪くなるさ。俺様、人生を諦めるような奴が大嫌いだからな」
「人生を諦める、ですか。確かにエルマーの目的を踏まえると、そう思えてきますね。ビオラさん、何か心当たりはございませんか?」
「ええ……賢者ハワード、少し長くなるけど、聞いてくれるかしら」
「Yes、いくらでも聞いちゃうよ。君がビリーのために努力して親父さんを変えたエピソードとか、ビリーが親父さんに徹底していびられた物語とかさ」
「……どんな推理小説を読んだらそんな頭が切れるようになるの? 話したい事ほとんど言われちゃったじゃない」
「目次作っといた方が理解しやすいからな」
実を言うとワーズワース家の顔役の噂は昔から聞いてたんだ。それはそれは、素敵な噂をたっくさんな。
美女のサクセスストーリーほど面白いもんはねぇさ、デートついでに聞かせてもらいましょ。
◇◇◇
「やはり、ビオラに手を出し始めましたか。貴方の積極的な所は、やはり素晴らしいですね」
教会の屋根にて、エルマーはハワード達を見下ろしていた。
全て、エルマーの思う通りに進んでいる。ハワードならば、ビオラの心をつかむ事が出来るだろう。彼はそれだけ魅力的な男だから。
名も姿も、存在すらも捨てた自分よりも、遥かに。
黒の福音書を握り、唇を噛む。
「ええ……ええ。勿論、今更後戻りするつもりはありませんよ。貴方と出会った五年前から……私はビリーを捨てたのですから」
ボルケーノカントリーを追い出され、何もかもを失って彷徨っていたビリーは、いつの間にか黒の福音書を手に取っていた。
それ以来、全ての意思は福音書に奪われた。ただ一つ、「ビオラへの愛」を残して。
福音書に宿った、「彼女」から逃れるには、「彼女」の望みを叶えねばならない。引き換えにエルマーは、ビオラへもう一度会う資格を貰える。
黒の福音書が一方的に交わしてきた契約に従い、彼は今日まで生きてきた。
「ビリー・エルトライトはもういないんだ……だけども、安心してくれビオラ。君の隣にはハワード・ロックが居る。何もかもを失くした男と違う、何もかもを持っている男だ」
ハワードならば、君の隣に立つ資格がある。だから必ず「敬愛のエルマー」を殺し、「ハワード・ロック」としてビオラを迎えに行こう。
全ては愛すべき人のために。そのためならば、自分を殺す事もためらわない。
「待っていてくれビオラ、極悪人のエルマーはもうすぐ消える。絶対に、絶対に僕は……賢者になるよ」
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