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93話 事後処理勇者
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ハワード達がボルケーノカントリーへ向かっている頃、カイン達は遅れてサンドヴィレッジへ到着していた。
ハワードを追いかけるのはある意味楽である。何しろ自分からガンガンアクションを起こしてくれるから、黙っていても情報が入ってくるのだから。
「アーサーさんがサンドヴィレッジに呼ばれたって言ってたから、ここで間違いないはずだ。師匠と大きくかかわった人はどこに居るかな」
「絶対美女となんかやらかしてるだろうしね。行動を追うのが本当に楽な人だよ」
「問題は追いつくのが途方もなく大変って所よね」
「言えてる」
コハクとヨハンは苦笑した。すると何者かが三人の背中を小突いてくる。
驚き振り向くと、そこには小型のシャチが浮かんでいた。
―きゅーっ♡
んでもって三人に飛びついてきて、頭をこすりつけてくる。このシャチがアーサーから聞いていた地の聖獣。
「ミトラスだよカイン! こんな街中にまで出てくるんだ」
「確か砂漠全部が聖獣なんでしょう? こんなに大きな生き物見た事ないわね」
―きゅっきゅっきゅ!
「そんなに背中を押さないでよ。俺達をどこに連れていくんだい?」
ミトラスに急かされるまま、サンドヴィレッジの一角にある屋敷へ連れていかれる。そこに居たのは……。
「ん? お兄さん達、誰だい?」
無数のミトラスに囲まれているゴーレム娘、アイカ(大人ver)であった。
「うわ、すごい美人……って事は」
「間違いなく師匠が関わった人だね、この街で起こった事もなんか見えてきちゃうな」
「行動が完全に固定化されてるわねあの人」
「あの人、って誰の事を言っているんだい? それよりも、まだ名乗っても貰っていないんだが」
「ああごめん、俺達は」
自己紹介をしようとした所でアイカがしぼみ始めた。急に子供の姿になってしまった彼女に三人は驚き、目をしばたいた。
◇◇◇
「そっかぁ、おじちゃんが言ってた勇者カイン! 本物なんだぁ」
アイカは興味深そうにカインを見上げ、周囲をぐるぐる回っていた。
カインは頬を掻きながら、魔力供給機を眺めた。
「魔力量によって変化する体型か……エルマーは何をもってそんな不便な機能を付けたんだろう」
「んー、魔力残量がわかりやすいようにだって言ってたけど」
「ようは気まぐれか。考えてる事がよく分からない冒険者だよ」
「にしても……話に聞いてたよりもかっこいいね。おじちゃんから聞いたよ、立派な勇者だって」
「そうなんだ。俺も聞かせてほしいな、師匠がここでどんな活躍をしたのか」
「うん!」
アイカは嬉々として話し始めた。彼女のためにハワードが手を尽くし、生きるのを諦めていた自分に希望を与えてくれた事を。
敬愛する師匠の活躍にカインは目を細めた。ここでも彼は女性のために戦い、絶望から救い出したのだと。
「おじちゃんはね、アイカのために真剣に怒ってくれたんだ。おじちゃんのおかげでアイカはミトラスと一緒に過ごせるようになったから、感謝してもしきれないんだ」
「よかったね。やっぱ師匠は凄いや、誰かをこうも簡単に救い出してしまうんだから」
それもこれも、ハワードが信念を持つ男だからだろう。
己にかかわった者全てを、何があろうと、誰が相手でも守り抜く。彼が強いのは単に魔力が凄いとか、レベル999だからではない。確固たる魂があるからハワードは最強の男なのだ。
「…………」
「どうしたのカイン?」
「いや、どうして師匠はそこまで、揺るがない自分を持っているのかなって思ってさ」
「そういや、ハワードさんだからって事で気にしてなかったけど……あの人がどうして人を助ける事にこだわるのか、考えてみると謎だね」
ヨハンも腕を組み、唸って悩んだ。
その信念こそが、ハワードをハワードとする核だ。彼と比較するとカインには、それがない。ハワードの後をついて行って、彼の声にただ動くだけ。
師匠と俺の差は、そこにあるのだろうな。
知りたい、どうしてハワードが固い信念を持つのか。ルーツを知れば、自分の核を手にするヒントを得られるかもしれない。
と、急にアイカが視界いっぱいに映った。彼女は目をキラキラさせて、
「ねぇねぇ勇者カイン、アイカね、カインに教えたい事がいっぱいあるんだ。サンドヴィレッジにはたくさん楽しい所があるんだよ。おじちゃんに教えてもらったんだ。カインにも楽しい事を知って欲しいから、一緒に行かない? ね、行こうよ!」
「ん……そうだね。一緒に遊ぼうか。じゃあ俺は……スキルを教えてあげようか? 俺も師匠から沢山教わっているんだ、その中の一つを君に教えてあげるよ」
「ありがとうカイン! じゃあミトラス、それと勇者パーティの二人も! 行こう!」
―きゅーっ!
アイカとミトラスに引っ張られ、カイン達はサンドヴィレッジを回る事になった。
ハワードが救い出した少女は、弾けるような笑顔でカイン達を連れまわしている。つい最近まで生きる事を諦めていたとは思えないほどに輝いていた。
自分だけでなく、相手の人生まで輝かせる。ハワードには人を幸せにする力が備わっている。そんな力を、勇者である自分は得られるだろうか。
いや、得てみせる。
ハワードの弟子だからではなく、カイン・ブレイバーとして。
勇者として、自分なりの信念を見つけねばならないんだ。
ハワードを追いかけるのはある意味楽である。何しろ自分からガンガンアクションを起こしてくれるから、黙っていても情報が入ってくるのだから。
「アーサーさんがサンドヴィレッジに呼ばれたって言ってたから、ここで間違いないはずだ。師匠と大きくかかわった人はどこに居るかな」
「絶対美女となんかやらかしてるだろうしね。行動を追うのが本当に楽な人だよ」
「問題は追いつくのが途方もなく大変って所よね」
「言えてる」
コハクとヨハンは苦笑した。すると何者かが三人の背中を小突いてくる。
驚き振り向くと、そこには小型のシャチが浮かんでいた。
―きゅーっ♡
んでもって三人に飛びついてきて、頭をこすりつけてくる。このシャチがアーサーから聞いていた地の聖獣。
「ミトラスだよカイン! こんな街中にまで出てくるんだ」
「確か砂漠全部が聖獣なんでしょう? こんなに大きな生き物見た事ないわね」
―きゅっきゅっきゅ!
「そんなに背中を押さないでよ。俺達をどこに連れていくんだい?」
ミトラスに急かされるまま、サンドヴィレッジの一角にある屋敷へ連れていかれる。そこに居たのは……。
「ん? お兄さん達、誰だい?」
無数のミトラスに囲まれているゴーレム娘、アイカ(大人ver)であった。
「うわ、すごい美人……って事は」
「間違いなく師匠が関わった人だね、この街で起こった事もなんか見えてきちゃうな」
「行動が完全に固定化されてるわねあの人」
「あの人、って誰の事を言っているんだい? それよりも、まだ名乗っても貰っていないんだが」
「ああごめん、俺達は」
自己紹介をしようとした所でアイカがしぼみ始めた。急に子供の姿になってしまった彼女に三人は驚き、目をしばたいた。
◇◇◇
「そっかぁ、おじちゃんが言ってた勇者カイン! 本物なんだぁ」
アイカは興味深そうにカインを見上げ、周囲をぐるぐる回っていた。
カインは頬を掻きながら、魔力供給機を眺めた。
「魔力量によって変化する体型か……エルマーは何をもってそんな不便な機能を付けたんだろう」
「んー、魔力残量がわかりやすいようにだって言ってたけど」
「ようは気まぐれか。考えてる事がよく分からない冒険者だよ」
「にしても……話に聞いてたよりもかっこいいね。おじちゃんから聞いたよ、立派な勇者だって」
「そうなんだ。俺も聞かせてほしいな、師匠がここでどんな活躍をしたのか」
「うん!」
アイカは嬉々として話し始めた。彼女のためにハワードが手を尽くし、生きるのを諦めていた自分に希望を与えてくれた事を。
敬愛する師匠の活躍にカインは目を細めた。ここでも彼は女性のために戦い、絶望から救い出したのだと。
「おじちゃんはね、アイカのために真剣に怒ってくれたんだ。おじちゃんのおかげでアイカはミトラスと一緒に過ごせるようになったから、感謝してもしきれないんだ」
「よかったね。やっぱ師匠は凄いや、誰かをこうも簡単に救い出してしまうんだから」
それもこれも、ハワードが信念を持つ男だからだろう。
己にかかわった者全てを、何があろうと、誰が相手でも守り抜く。彼が強いのは単に魔力が凄いとか、レベル999だからではない。確固たる魂があるからハワードは最強の男なのだ。
「…………」
「どうしたのカイン?」
「いや、どうして師匠はそこまで、揺るがない自分を持っているのかなって思ってさ」
「そういや、ハワードさんだからって事で気にしてなかったけど……あの人がどうして人を助ける事にこだわるのか、考えてみると謎だね」
ヨハンも腕を組み、唸って悩んだ。
その信念こそが、ハワードをハワードとする核だ。彼と比較するとカインには、それがない。ハワードの後をついて行って、彼の声にただ動くだけ。
師匠と俺の差は、そこにあるのだろうな。
知りたい、どうしてハワードが固い信念を持つのか。ルーツを知れば、自分の核を手にするヒントを得られるかもしれない。
と、急にアイカが視界いっぱいに映った。彼女は目をキラキラさせて、
「ねぇねぇ勇者カイン、アイカね、カインに教えたい事がいっぱいあるんだ。サンドヴィレッジにはたくさん楽しい所があるんだよ。おじちゃんに教えてもらったんだ。カインにも楽しい事を知って欲しいから、一緒に行かない? ね、行こうよ!」
「ん……そうだね。一緒に遊ぼうか。じゃあ俺は……スキルを教えてあげようか? 俺も師匠から沢山教わっているんだ、その中の一つを君に教えてあげるよ」
「ありがとうカイン! じゃあミトラス、それと勇者パーティの二人も! 行こう!」
―きゅーっ!
アイカとミトラスに引っ張られ、カイン達はサンドヴィレッジを回る事になった。
ハワードが救い出した少女は、弾けるような笑顔でカイン達を連れまわしている。つい最近まで生きる事を諦めていたとは思えないほどに輝いていた。
自分だけでなく、相手の人生まで輝かせる。ハワードには人を幸せにする力が備わっている。そんな力を、勇者である自分は得られるだろうか。
いや、得てみせる。
ハワードの弟子だからではなく、カイン・ブレイバーとして。
勇者として、自分なりの信念を見つけねばならないんだ。
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