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89話 背中は押したぜ

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「ふんふんふーんと、こんなもんかなぁ?」

 夜が明けてきた頃合いに、俺様作のデートプランが完成した。
 【分身】を駆使してサンドヴィレッジの情報をかき集め、考え抜いたプランだ。アイカも満足してくれる事請け合いだぜ。

「ま、デートつっても俺様に得がありすぎるプランなんだけど♡」
「何が得のあるプランなんですか」
「Oops、アマンダたーん、ノックしてないよね?」
「私と貴方の仲なら良いかと。それで、何を企んでいたのですか」
「ふふん、これを見てくれ☆」

 アマンダたんに自慢のデートプランを突き付ける。アマンダたんは眉をハの字にして、

「私とリサさんも一緒に、行くのですか?」
「今までと違って相手が子供だからね、君ら二人にも付き合ってもらいたいわけ。そんでもってあわよくば混浴ポロリをお願いしまっしゅ!?」

 脳天にエルボー炸裂、アマンダたんの足元に倒れちまった。

「ここはどこ? 私は誰? ここにおわすはFカップ……」
「どさくさ紛れに揉まないでください(拳骨)」
「Ouch! 畜生記憶喪失のフリ作戦は失敗か……けどいいもん触れたからいっか♡」
「全く……数日前に堪能したばかりでは……あ。なんでもありません」

 思わずこぼれたひと言に俺様にんまり、アマンダたんまっかっか。俺様達仲良しだもんねー♪

「おほん。それで、このプランでアイカさんを誘うのですね」
「Exactry。アイカに足りないのは、ふれあいだ。あいつは物凄く寂しがりなんだよ。なのに誰かと思い切り遊んだ経験がないんだ。だから、とことんまで遊びつくす。この遊びの天才ハワード様が、悪い事を山ほど教えてあげないとなぁ♪」
「それはいいのですが、私達ここに来てからずっと遊んでばかりでは?」
「リゾートで滝行でもしろってのかい? 美女とのシャワーなら大歓迎だがね」

 サンドヴィレッジは遊び場だ、そして俺様達は観光客。なーんも文句はねぇだろがい。
 遅く起きてきたリサちゃんにも事情を説明し、ついでにポロリを頼んだら顎に膝蹴りを食らっちまった。朝っぱらからアクティブなキティ達だぜ。

「ともあれ、アイカのためなら喜んで参加させてもらうけど、がるるはどうすんの? 仲間外れは可愛そうな気がするけど」
「がるるにゃ別の仕事を用意しているよ。ちゃーんと事前にお話し済みさ」
―わふっ

 窓からがるるのお返事が聞こえてくる。お前さんも頼りにしてるぜ、My partner。

「聖獣から受けた依頼だろうと、手は抜かないぜ。エルマーが傷つけたあの子の心、俺様達でしっかり癒してやろうじゃねぇか」
「りょーかい」
「私達も楽しみましょう」

 ハワードガールズwithゴーレム娘のトリプルデート、俺様得企画の開始だぜ☆

  ◇◇◇

 って事でアイカ邸に突撃し、外へと連れ出した。魔力を充填する前だったからチビアイカのままだが、こっちもその方が連れ出しやすいぜ。
 肩車で無理やり担ぎ上げ、繁華街へ直行。いきなりの展開にアイカも目を白黒させてらぁ。

「おじさんどうしたの? なんで急にアイカを持ち上げたの?」
「なぁに、俺様達と遊ぼうぜって事だよ。折角いい場所に住んでるんだ、楽しまない手はないだろ?」
「今日も一緒に居てくれるの? アイカは嬉しいけど……いいの?」
「いいに決まってんだろ。お前さんをダシにすれば堂々と昼酒も楽しめるってもんよ。それと……お前さんなら怪しまれずに下着のホックやリボンを外せるだろ? 酒場のねーちゃん達のポロリは任せた」
「子供を利用すんなダメ親父! それはともかく、せっかく仲良くなったんだしさ。私達ももっとアイカと遊びたいんだ。それならいいでしょ」
「……ありがとう、具なしパイのお姉さん」
「あんたをひき肉にしてミートパイを作ってやろうかクソガキが」
「リサさん、どうどう」

 案外貧乳に厳しいなこのゴーレム、リサちゃん遊ばれてるぜ。

「さて! そんじゃあ覚悟しとけよキティ達。この遊びの天才ハワード・ロックが、とことんまでに君らを振り回してやるからな。このperfectデートプランにお任せあれ!」

 それじゃあスタート、サンドヴィレッジ巡りの旅! 今回のテーマはずばり「スパランド」だ。
 温泉地なのにドタバタしていて、まだ数か所しか味わえてないからなぁ。いかに無敵の俺様でも四〇代、きっちりお肌のケアをしないとイケメンが台無しだ。美肌効果のある温泉もあるんだから利用しないとなー♪

「なーのーでー、最初はここだ! 泥温泉♡」
「泥、温泉? どうやら、混浴のようですけど」
「一面沼みたいな所だけど、ここ温泉なの?」

 きょとんとするハワードガールズの前に広がるのは、湯気立つ鼠色の沼だ。ふふん、これもれっきとした温泉よ。

「この泥を肌に塗れば保湿効果でつるつるすべすべになるんだよ。これで俺様ももちもち卵肌に転生さ。ついでに君ら二人の肌にもおじさんが丁寧に泥を塗りたくって」

 親切心の一言なのに、有無を言わさず泥に投げ飛ばされた。頭から落ちたから変死体みたいになっちまったぜ。

「よかったですね、イケメン顔がすべすべになりますよ」
「おじさん大丈夫?」
「……人柱になった気分だぜ、ホーリーシット……」
「そのまま人柱になってなさい。私らは私らでぬりあいっこしよっか」
「うん!」
「わーいリサちゃんってばだいたーん♡」
「しれっと復活すんな!」

 今度はハンマーでたたきつけられた。全く、美女達が目の前でぬりあいっこしてる姿を眺めるだけとか……結構興奮するかも♡
 泥温泉を堪能した後は普通の温泉で泥を流し、岩盤浴にてゆったりする。真横で寝転ぶ美女とは画になるねぇ。

「ってぇ、何【擬態】使って女に化けてんだアホ賢者!」
「あらやだリサちゃん、わてくしハワードじゃなくて通りすがりのAカップ美女よぉ♡」

 男女別だから赤髪の美女に化けてたのに、どうしてわかったのかしらねぇ。リサちゃん刺激しないようペチャパイになってたのになぁ。

「あんた素でアマンダより胸でかいでしょうがぁ! その気づかいが腹立つわぁ!」
「ちょっとやめてリサちゃんあらーーーーーーっ!?」

 リサちゃんに殴られ壁にめり込んじまった。その拍子に【擬態】が解けて大騒ぎになっちまったぜ。

「全くあのド阿呆め……二人とも、サウナ行こうよ。気分変えたい」
「では、最初に出てしまった方が飲み物を買ってくるというのはどうでしょうか」
「勝負ならアイカもやるー! 絶対負けないからね!」

 ボロボロの俺様を放って三人が去っていく。おのれ、賢者ハワードがやられっぱなしで終わると思うなよ。
 キングからパクった、男のロマンのスキルの真髄……思い知らせてくれるわぁっ!(くわっ)

「さて、一言だけなら遺言を許しますよ?」
「な、なんでわかっちゃったのかしらアマンダたん……?」

 【透明化】でサウナに潜入したはずなのに、速攻ばれちゃったんだけど。サウナの中でタオル姿の美女に斧を突き付けられるタオル姿のおっさんとかどんな絵面よこれ。

「いつも貴方の傍にいますから、気配くらいすぐにわかります。さて、では天誅!」
「はい分かっていましたお約束ぅ♡ んぎゃーーーーーー!?」

 斧のフルスウィングくらって屋根を突き破る俺様、流れ星のキブーン☆ ……なんのこれしき、俺ちゃんめげない、しょげない、泣いちゃだめー♪ まだまだ、温泉イベントはこれからなんだっ!

「だからいい加減諦めろエロ賢者、あんたの手はもう読めてんのよ」
「おじさんが見せてくれたデートプラン見たらね、アイカなんとなくわかったんだ」
「というわけです」
「……全部お前のせいかよ、アイカぁぁぁ……」

 場所は女子更衣室。【影魔法】で潜入しメモリアルオーブを使おうとしたら、リサちゃんとアマンダたんに発見されちまったぜ。どうやらアイカが全部先読みしてたようだな、ド畜生。
 という事で斧とハンマーで滅多打ち。もう何回繰り返したかなこのやり取り。

 更衣室から追い出された俺様だけども、まだあと一つ、あと一つ切り札がある。こいつを使えば……こいつを使えば、俺様はっ!

 女 神 達 の 生 着 替 え を 拝 め る の だっ!

「【吸魂】で壁に覗き穴作んなぁっ!」
「だーっ!? 錐で突き刺すなよ失明したらどうすんだ!?」

 はい男子更衣室から覗こう作戦も見事失敗。無敗なはずの俺様が、まさかの全戦全敗だぜ。

「ザナドゥのスキル全部使って何やらかしてんだあんたは! あいつらが見たら絶対泣くわよこの光景!」
「変態行為のロイヤルストレートフラッシュですね」
「いやぁそれほどでも♡」
「褒めてません」

 Ouch、アマンダたんの拳骨が痛いぜ。

「はーもう……こんな事ばかりして。アイカの教育に悪すぎるでしょうが」
「でもおじさん、凄く楽しそうだったね」

 呆れるリサちゃんの横で、アイカが俺様を見上げた。

「アイカと一緒で失敗ばかりしてたのに、全然苦しそうじゃなかった。それに、リサもアマンダも、なんだか楽しそうだった」
「いや楽しくはないけど……」
「ハワードと一緒に居ると、否応なしに騒ぎに巻き込まれるだけですよ」
「でも、おじさんが居るとそれだけで、皆明るくなったよ。それはアイカにもわかったよ。どうして、アイカと同じことをしているはずなのに……アイカと違っておじさんは、周りの人も楽しい気持ちにさせてくれるの?」
「へぇ、お前さんは俺様と一緒に居て楽しかったのか」
「うん、凄く楽しかった。おじさんが二人に叩かれてるのに、心配しなきゃいけないのに、思わず笑っちゃって……暗い気持ちが、全部消しとんじゃったんだ」

 ふん、どうやら狙い通りに感じてくれたようだな。
 ただやみくもに二人にアタックしてたわけじゃない。相手こそ違うが、俺様はアイカと同じように大いなる相手と同じように戦っていたんだ。アイカに自分の姿を客観視させるためにな。……いやこれほんとマジだからね?
 アイカも俺様も、同じように騒動を起こしている。けどアイカは自分の行動を振り返って悲観的になっているが、俺様はその逆だ。そいつが理解できてないんだろうな。

「本当なら自分で考えるべきだが、特別に答えを教えてやるよ。俺様が俺様のやりたい事をやって、心から楽しんでいるからだ」
「心から楽しむ?」
「そうだ。まー覗きなんてなやっちゃいけないことだから真似しちゃだめだが」
「ならやるな」
「正論で殴らないでよリサちゃーん……まぁともかくだ。二人に殴られるのも混みで俺様は今この瞬間を楽しんでいる。だからお前さんも楽しい気分になっている。それが答えさ」
「……アイカには、出来ない事だね。だってアイカには、楽しさを感じる心なんか……」
「何言ってんだ? さっきお前さん「楽しい」って言っただろ? それ、楽しさを感じていることにならないのか?」

「あ……!」
「はは、驚いたように顔上げやがって。少しは自分の奥にある物、気付いたか?」
「……まだ、分からない。でも、おじさんが楽しそうにしているのを見てたらアイカも……すごく楽しくなった。それは、分かるよ」
「今はそれでいい。ご褒美にホットドッグでも買ってやるよ、チリソースで良ければな」
 外に出るなり、気配を感じた。見やればそこには、がるるとミトラスの姿が。
―きゅうう……
―わんっ。がるる……

 ミトラスが心配そうにサンドヴィレッジへ向かおうとするが、がるるがそれを引き留めている。あいつが入ってきたら場がとっちらかるからな、引き留め役にがるるを派遣していたってわけ。
 とりあえず、アイカが自分の心に気付くきっかけは作ったぜ。あとはアイカ次第だ。
 心がないと諦めていた奴が前進できるかどうか、そいつは本人でなければ解決できない問題だからな。
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