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88話 緊急事態?
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「これで、最後っと」
最後のゴミを取り除き、カインはザンドラ湖の掃除を終わらせた。
掬い上げたゴミの中には考古学的な価値の高い遺物も交じっており、さらには上質なレアメタルも紛れ込んでいた。それらを【鑑定】スキルで仕分けし、不要な物は【アルテマ】で分子レベルで消滅させた。
ゴミ掃除で得た収入はレイクシティに全額寄付し、これにて一件落着だ。
『おお……水底が綺麗になったからか、より水が透き通って見える。湖底に居る魚影も確認できるな』
「素晴らしいです勇者様、本当にありがとうございました」
「勇者として当然です。それよりアーサーさん、この宝石に見覚えは?」
カインが差し出したのは、ガーネットがはめられたペンダントトップだ。それを見たアーサーは目を見開く。
『これは……俺が先代のマーリンから貰ったお守りだ』
「やっぱり。金具に貴方の名前が彫り込まれていたんです、だからもしかしてと思って」
『失くしたと思っていたのだが、そうか、ザンドラ湖に落としていたか……何から何まで、本当に助かるよ』
「よかった。それで、この宝石ですけど……マーリンさんが持っていた方がいいと思うんです」
「私が?」
「だって、アーサーさんの恋人の転生者なんでしょう? アーサーさんは霊体だし、貴方が持つのが筋だと思うんです」
という事でチェーンを通し、マーリンに渡した。彼女は頬を染め、大事そうにペンダントを握りしめた。
そんなマーリンに寄り添うアーサー。仲睦まじい姿にカインも微笑んだ。
「カイーン、ごはん出来るからお皿とか出しといてー!」
「うん今行くよ!」
外で準備していたコハクに一声かけ、カインは手伝いに向かった。ヨハンが獲ってきた魚でバーベキューだ。
んで、そのヨハンはと言うと。
「大丈夫ヨハン、生きてる?」
「はは……回復魔法かけてもらったから平気……死ぬかと思った……」
魚を採る際巨大ヒルに血を吸われて死にかけていた。カインが飛び込まねば本当に死んでいただろう。
「魚食べて血液作ろう、師匠が前に教えてくれたよ、魚は貧血に効くって」
「そうするよ……「盾の加護」がなければ死んでいたよ……」
その「盾の加護」のせいで襲われたのもあるのだが。
ともあれ昼食も和やかに終わり、カインは一息ついた。
ハワードが救ったレイクシティを見渡し、カインは目を細める。彼のアフターフォローが出来てカインは満足していた。
「けど、師匠は多分それを望んでいないな」
今のカインはハワードの後塵を拝しているに過ぎない。ハワードの手柄に乗っかっているだけなのだ。
それではハワードの課題に応えた事にはならない。ハワードに依存している、甘えん坊の勇者である事に変わりなかった。
呆けていると、マーリンが隣に座ってきた。さっきまで寝ていた赤子が起きたのだろう、大事そうに抱いている。
「お疲れ様です勇者様、お茶を淹れたのでどうぞ」
「お気遣いすいません。ちょっと、師匠の事を考えていたので」
「賢者様ですか。あの方も素晴らしい方です。ちょっとエッチな方ですが、大事な人のため、そして苦しんでいる人のためならば、迷わず助けに向かう。例え自分の身がどうなろうとも。改めて思うと、不思議な方ですよね」
「師匠は他人のために怒れる人ですから」
今まではそう納得していた。だけどハワードを想い、考えるうちに、疑問が湧いてくる。
なぜハワードはそうまで他者のために戦えるのか。どうして自身を顧みずに誰かを救えるのか。自分のせいで右腕を失っても、どうして笑っていられるのか。
ずっとハワードの傍にいたはずなのに、ハワードの事が分からなくなってくる。
俺って、師匠の表面しか見ていなかったかもしれないな。
そう思うなり、赤子が泣き出した。困った様子のマーリンに助け舟を出し、カインは赤子を受け取る。すると赤子はすぐに泣き止んで、カインに笑顔を振りまいた。
「なぜなら、俺がハワード・ロックだからだ。賢者様がおっしゃっていた決め台詞です」
「ずっと聞き続けてきましたよ。俺にとってはもう耳慣れた台詞です」
「ふふ、お傍に居たのですからね。ですがこの台詞一つに、賢者様の全てが詰まっているように思うんです。何があろうと揺るぎない信念、何物も恐れない勇気、何をしても誰かを救う決意。たった一言でその全てが伝わる言葉です」
「確かに。師匠が言うからこその台詞ですよね」
ハワードが言った瞬間、結末は約束される。あらゆる苦難は消滅し、ハッピーエンドを待つばかり。有無を言わせぬ説得力がこもっていた。
俺にはそんな言葉は出てこない。カインは、言葉一つですらハワードに負けていた。
「なぜ師匠の言葉が胸に響くんだろう。その理由、考えた事もなかったな」
「ならば、今からでも考えればいいと思います。時間は沢山あるのですから、賢者様が背負っている心を今一度、振り返ってみてはいかがでしょうか」
「師匠の背景……」
そうだ、ハワードはカインよりずっと年上だ。過去にその台詞を言えるだけの経験をしていておかしくない。
と、アーサーが二人の前に現れた。
『マーリン、話しているときにすまないな』
「アーサー様、どうかされたのですか?」
『ああ、ハワードから呼ばれた。彼を手伝いに行ってくる』
「師匠が?」
カインは立ち上がった。アーサーは腕を組み、
『サンドヴィレッジで緊急事態が起こったようでな。なぁに、ハワードならばすぐに解決できるとも。留守の間、任せたぞ』
「わかりました、行ってらっしゃい」
瞬間、アーサーと聖剣が消えた。カインは立ち上がり、空を仰いだ。
「師匠はまた、誰かを救おうとしているんですね」
彼を知るために、今は待とう。ハワード・ロックが紡ぐ、新たな物語を。
最後のゴミを取り除き、カインはザンドラ湖の掃除を終わらせた。
掬い上げたゴミの中には考古学的な価値の高い遺物も交じっており、さらには上質なレアメタルも紛れ込んでいた。それらを【鑑定】スキルで仕分けし、不要な物は【アルテマ】で分子レベルで消滅させた。
ゴミ掃除で得た収入はレイクシティに全額寄付し、これにて一件落着だ。
『おお……水底が綺麗になったからか、より水が透き通って見える。湖底に居る魚影も確認できるな』
「素晴らしいです勇者様、本当にありがとうございました」
「勇者として当然です。それよりアーサーさん、この宝石に見覚えは?」
カインが差し出したのは、ガーネットがはめられたペンダントトップだ。それを見たアーサーは目を見開く。
『これは……俺が先代のマーリンから貰ったお守りだ』
「やっぱり。金具に貴方の名前が彫り込まれていたんです、だからもしかしてと思って」
『失くしたと思っていたのだが、そうか、ザンドラ湖に落としていたか……何から何まで、本当に助かるよ』
「よかった。それで、この宝石ですけど……マーリンさんが持っていた方がいいと思うんです」
「私が?」
「だって、アーサーさんの恋人の転生者なんでしょう? アーサーさんは霊体だし、貴方が持つのが筋だと思うんです」
という事でチェーンを通し、マーリンに渡した。彼女は頬を染め、大事そうにペンダントを握りしめた。
そんなマーリンに寄り添うアーサー。仲睦まじい姿にカインも微笑んだ。
「カイーン、ごはん出来るからお皿とか出しといてー!」
「うん今行くよ!」
外で準備していたコハクに一声かけ、カインは手伝いに向かった。ヨハンが獲ってきた魚でバーベキューだ。
んで、そのヨハンはと言うと。
「大丈夫ヨハン、生きてる?」
「はは……回復魔法かけてもらったから平気……死ぬかと思った……」
魚を採る際巨大ヒルに血を吸われて死にかけていた。カインが飛び込まねば本当に死んでいただろう。
「魚食べて血液作ろう、師匠が前に教えてくれたよ、魚は貧血に効くって」
「そうするよ……「盾の加護」がなければ死んでいたよ……」
その「盾の加護」のせいで襲われたのもあるのだが。
ともあれ昼食も和やかに終わり、カインは一息ついた。
ハワードが救ったレイクシティを見渡し、カインは目を細める。彼のアフターフォローが出来てカインは満足していた。
「けど、師匠は多分それを望んでいないな」
今のカインはハワードの後塵を拝しているに過ぎない。ハワードの手柄に乗っかっているだけなのだ。
それではハワードの課題に応えた事にはならない。ハワードに依存している、甘えん坊の勇者である事に変わりなかった。
呆けていると、マーリンが隣に座ってきた。さっきまで寝ていた赤子が起きたのだろう、大事そうに抱いている。
「お疲れ様です勇者様、お茶を淹れたのでどうぞ」
「お気遣いすいません。ちょっと、師匠の事を考えていたので」
「賢者様ですか。あの方も素晴らしい方です。ちょっとエッチな方ですが、大事な人のため、そして苦しんでいる人のためならば、迷わず助けに向かう。例え自分の身がどうなろうとも。改めて思うと、不思議な方ですよね」
「師匠は他人のために怒れる人ですから」
今まではそう納得していた。だけどハワードを想い、考えるうちに、疑問が湧いてくる。
なぜハワードはそうまで他者のために戦えるのか。どうして自身を顧みずに誰かを救えるのか。自分のせいで右腕を失っても、どうして笑っていられるのか。
ずっとハワードの傍にいたはずなのに、ハワードの事が分からなくなってくる。
俺って、師匠の表面しか見ていなかったかもしれないな。
そう思うなり、赤子が泣き出した。困った様子のマーリンに助け舟を出し、カインは赤子を受け取る。すると赤子はすぐに泣き止んで、カインに笑顔を振りまいた。
「なぜなら、俺がハワード・ロックだからだ。賢者様がおっしゃっていた決め台詞です」
「ずっと聞き続けてきましたよ。俺にとってはもう耳慣れた台詞です」
「ふふ、お傍に居たのですからね。ですがこの台詞一つに、賢者様の全てが詰まっているように思うんです。何があろうと揺るぎない信念、何物も恐れない勇気、何をしても誰かを救う決意。たった一言でその全てが伝わる言葉です」
「確かに。師匠が言うからこその台詞ですよね」
ハワードが言った瞬間、結末は約束される。あらゆる苦難は消滅し、ハッピーエンドを待つばかり。有無を言わせぬ説得力がこもっていた。
俺にはそんな言葉は出てこない。カインは、言葉一つですらハワードに負けていた。
「なぜ師匠の言葉が胸に響くんだろう。その理由、考えた事もなかったな」
「ならば、今からでも考えればいいと思います。時間は沢山あるのですから、賢者様が背負っている心を今一度、振り返ってみてはいかがでしょうか」
「師匠の背景……」
そうだ、ハワードはカインよりずっと年上だ。過去にその台詞を言えるだけの経験をしていておかしくない。
と、アーサーが二人の前に現れた。
『マーリン、話しているときにすまないな』
「アーサー様、どうかされたのですか?」
『ああ、ハワードから呼ばれた。彼を手伝いに行ってくる』
「師匠が?」
カインは立ち上がった。アーサーは腕を組み、
『サンドヴィレッジで緊急事態が起こったようでな。なぁに、ハワードならばすぐに解決できるとも。留守の間、任せたぞ』
「わかりました、行ってらっしゃい」
瞬間、アーサーと聖剣が消えた。カインは立ち上がり、空を仰いだ。
「師匠はまた、誰かを救おうとしているんですね」
彼を知るために、今は待とう。ハワード・ロックが紡ぐ、新たな物語を。
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