上 下
86 / 116

83話 諦められないもの

しおりを挟む
「あんのやろぉ……今度会ったらただじゃ済まねぇからな」

 結局俺の奢りになっちまった。やっぱ格好つけずにあの場で叩きのめしておくべきだったか……ド畜生めが。
 なんて愚痴りながら宿へ戻るとだ。

「あははっ! がるるもっともっとー!」
―わふっわふっ

 入口でがるるがアイカを乗せて駆け回ってる。あの様子だと、自分から乗っけたみたいだな。

「おかえり、エルマーから話は聞けた?」
「大まかにはな。んで、あれは?」
「がるるのモフモフが気に入ったようでして、遊んでもらっているんです。……いいなぁ……」
「この暑い中であいつの毛皮に埋もれたくはないけどな。んで、整備はどうよ」
「ばっちりやっといたよ。けど悔しいな、エルマーの奴相当な天才よ。あの子の構造は私でも再現できないかも……何の加護持ってんだろう」

「俺様知ってるよ、「創造の加護」だな」
「「創造の加護」、ですか……! かなりレアな加護ですね」
「もしかして、私の加護の上位互換的な奴?」

「ああ。リサちゃんの加護は鍛冶や工作方面に特化した加護だが、エルマーはこの世に存在するありとあらゆる物を生み出せる加護だ。数百年に一人の割合で出現するレアな奴さ」
「錬金術師である以上、持っててしかるべき加護ですね……それならば確かに、人工加護を作る事くらい出来るかもしれません」

「いや、「創造の加護」でもそいつは出来ない。そもそも加護は成り立ちのほとんどがブラックボックスになっていてな、俺様でも全く解明できていない分野だ。あいつが作ろうとしているのは、加護によく似た紛い物だよ」
「あんたが出来ないんじゃ、この世の人間じゃ絶対出来ないじゃん。エルマーはどうしてこんな事が出来るのよ」
「異世界から来た美人家庭教師でも居るんだろ?」

 それもとびっきりの美女がな。

「あ、おじちゃんお帰り」
「おうただいま。楽しんでたようだな」
「うん!」

 無邪気な奴だ、エルマーが造ったとは思えないな。

「そういやさ、アイカって普段どこで寝泊まりしてるの?」
「ん、アイカの家があるよ。そこでミトラスが来るのを待ってるの」
「もしかして、エルマーと一緒に過ごしているのですか?」
「エルマーは全然帰ってこないよ。いろんなところに基地を作ってるんだって」
「まー指名手配されてるからな、逃げ道作っとかないと危ないだろうよ」
「……ハワード、アイカさんの家を訪ねてみませんか? もしかしたらエルマーに関する情報を得られるかもしれません」

「確かにな。Hey lady、お前さんが良ければ家に招いてくれるかい?」
「いいよー。えへへ、アイカねーお友達呼ぶの初めて。楽しみ! がるる、一緒についてきて」
―うぉん!?

 いきなり頭に乗っかられてがるるが驚いた。それでも振り払わなかったから、いい子だぜがるる。

「おっ、アイカじゃないか。串焼き食べるか?」
「うん! おじちゃん達にもお願い」
「ああアイカちゃん。服洗濯しといたよ、持ってお行き」
「はーい」
「また負けただろアイカ、お陰でこっちは稼がせてもらったぞ」
「今度はアイカが勝つもん、絶対だよ!」

 がるるを先頭に行進していると、あちこちからアイカに声がかかってくる。随分人気者みたいだな。
 んでもって気を良くしたのか、アイカは振り返ると、

「ねぇねぇ、おじちゃんってここに来たばかりでしょ? アイカが案内してあげる!」
「へぇ、そりゃ助かるな。美味いケバブ屋があるなら教えて欲しいんだが」
「知ってるよ! こっちこっち!」

 多分、人と一緒に居られてうれしいんだろうな。ま、こっちも暇っちゃ暇だ。子供の遊びくらいは付き合ってやるか。
 アイカに手を引かれるがまま、サンドヴィレッジを歩き回る。長年住んでいるからか、穴場スポットを色々知っているようだな。
 俺様をうならせるケバブ屋はもちろん、ハイセンスな服屋にプールバーと、遊べる場所をはしごしていく。ミトラスを殺そうなんて物騒な事考えてる割に遊び慣れてるな。

「エルマーから教わったのか?」
「ううん、皆が教えてくれたんだ。ミトラスと戦ってたらいろんな人が声かけてくれて、アイカに教えてくれたんだ」
「ねぇ、どうしてそんなにミトラスを狙うの? 全然勝ってないみたいだし、無理してたらいずれ自分がやられちゃうよ?」
「それでも、アイカはやらなくちゃいけないんだ。だってアイカは全然、完全じゃないから。完全じゃないと、また捨てられちゃうもの」
「捨てられる?」

「……アイカね、エルマーに捨てられたの。加護を作る実験でアイカを作ったけど、加護が出来なかったんだって。だから未完成で、不完全な失敗作だって。だからアイカ、エルマーから捨てられたの。けどミトラスを倒して、力をもらって、加護を完成させれば、エルマーが戻ってきてくれるから。だからアイカ、ミトラスと戦わなくちゃいけないの」

 実験のために、こうまで盛大な嘘をつくか。笑顔の裏で、相当なストレスを受けているようだな。

「切ない話ですね……そうまでしてエルマーに報いる必要はないと思うのですが」
「でも、アイカを造ったのエルマーだから。エルマーに捨てられたままだと、悔しいから。だからアイカ見返したいの。アイカだけでミトラスを倒して、力を貰って、アイカを完成させるんだ」

 悲しい目的だな。表には出さないが、エルマーに対する怒りで胸中いっぱいのようだ。
 捨てた主人へのリベンジっつーのは悪くないガッツだが、そんな悲しい想いで満ちた目的なんざ長くはもたねぇぞ。

「おらよっ」

 って事で肩車してやる。そしたら子供らしく大はしゃぎだ。

「あはは、高いたかーい!」
「少しは気分転換になるだろ? ほら、とことんまで付き合ってやるから案内しな」
「うん!」

 どうせ急ぐ用事もないんだ、たまには子供の相手もしてやるさ。

  ◇◇◇

 俺様達と遊べてアイカはご満悦のようで、終始ご機嫌な様子だった。
 いやはや、俺様も結構楽しめたぜ。サンドヴィレッジの目玉ポイントを押さえて案内してくれたからな、大したコンシェルジュだ。

「それじゃあ次はアイカのお家だよ、こっちにあるんだ、早く早く!」
「急がなくても家は逃げたりしないでしょ」
「いやぁ羽でも生えて逃げるかもよ? なんたってエルマーの拠点だからな」
「う、確かに……冗談抜きでありえそう……」
「飛んだら飛んだで楽しそうではありますね」
「そんときゃ捕まえて虫かごにでも入れとくさ。んでどこにあるんだい?」
「ん、ここだよ」

 そう言いアイカが示したのは、薄汚れた空き家だった。
 外見は今にも崩れそうだが、中に入って驚いた。エルマーが残したであろう研究機材や資料が山積みにされていて、稼働している後があったんだ。

「エルマー、ここにきてるの?」
「ううん、アイカが使ってるんだ。アイカね、体を完成させるために一人で勉強してるの」

 健気すぎるな。ここまで来ると泣けてくるぜ。
 だがここならエルマーの事も調べられそうだ。いまだに素性が分からない奴だし、断片でもいいから情報を手に入れなくちゃあな。
 そのためにはアイカの許可を得なきゃならねぇが。って思ったらだ。

「おじちゃん、ここ調べたいんでしょ。いいよ、好きなだけ調べて。おじちゃん遊んでくれたもの。そのお礼だよ」
「そうかい、ありがとよ」
「えへへー。そうだ、アイカも魔力補給しとかないと。急にミトラス出てきたから、し損ねちゃったんだ」

 アイカは足早に奥へ向かっていく。そこにはボンベのような機材が置かれ、アイカの動力コアにつなぐノズルがつながっていた。
 ゴーレムだからな、動力コアに魔力を充填しないと機能停止しちまうんだろう。
 アイカはノズルを胸に装着し、ボンベを起動させた。そしたら……目を見張る光景が。
 補給を開始するや否や、アイカの体が成長していく。子供だったはずのアイカは見る間に大きくなって、俺様好みの美女へと変貌していった。

「ふぅ……これでいい。待たせたなおじさん。これがアイカの真の姿だ」

 んでもって口調まで変わってるし。ちんちくりんな小娘が、グラマラスなHカップ美女に変身しちまった。服はチビアイカのままだから、大事なところをぎりぎり隠す、何ともきわどい衣装になってるじゃない。

「え、え? ええええ!? どんな体してんのあんた!?」
「エルマー曰く、魔力消費を分かりやすくするためらしい。魔力が尽きると思考能力も落ちてな、口調も幼くなってしまうんだ。しかしどうだ? お前好みの女になったと思わないか? なぁおじさん?」

 おお……前かがみになって胸強調して、艶めかしいポージング♡ しかしこいつは、手を出していいのか否か……。

「お前さん年齢いくつよ?」
「生まれてまだ五年だな」
「あー残念だ、それじゃあ手は出せねぇな。俺様未成年には手を出さない主義でね、あと十五年してから出直しな」
「へぇ、聞いていたよりきっちりしているじゃないか。好感が持てるぞ、おじさん」
「意外と分別ある人ですから。それでリサさん、魔力充填機をにらんでどうしましたか」
「……ねぇ、これ胸に付けたら私もHカップになれるかな!?」
『いやならないから』

 つーかまだ諦めてなかったんかい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

垂れ耳兎は蒼狼の腕の中で花開く

朏猫(ミカヅキネコ)
BL
兎族の中でも珍しい“垂れ耳”として生まれたリトスは、弟が狼族の花嫁候補に選ばれたことで家を出ようと決意する。劣勢種の自分が近くにいては家族に迷惑をかけてしまいかねないからだ。そう思って新天地の酒場で働き始めたものの、そこでも垂れ耳だと知られると兎族を庇護すべき狼族にまで下卑た悪戯をされてしまう。かつて兎族にされていた行為を思い出したリトスは、いっそのことと性を売る華街に行くことを決意した。ところが華街へ行くために訪れた街で自分を助けてくれた狼族と再会する。さらにとある屋敷で働くことになったリトスは……。仲間から蔑まれて生きてきた兎族と、そんな彼に一目惚れした狼族との物語。※他サイトにも掲載 [狼族の名家子息×兎族ののけ者 / BL / R18]

巻き戻り令息の脱・悪役計画

日村透
BL
※本編完結済。現在は番外後日談を連載中。 日本人男性だった『俺』は、目覚めたら赤い髪の美少年になっていた。 記憶を辿り、どうやらこれは乙女ゲームのキャラクターの子供時代だと気付く。 それも、自分が仕事で製作に関わっていたゲームの、個人的な不憫ランキングナンバー1に輝いていた悪役令息オルフェオ=ロッソだ。  しかしこの悪役、本当に悪だったのか? なんか違わない?  巻き戻って明らかになる真実に『俺』は激怒する。 表に出なかった裏設定の記憶を駆使し、ヒロインと元凶から何もかもを奪うべく、生まれ変わったオルフェオの脱・悪役計画が始まった。

平均的だった俺でも異能【魅了】の力でつよつよ異世界ハーレムを作れた件

九戸政景
ファンタジー
ブラック企業に勤め、過労で亡くなった香月雄矢は新人女神のネルが管理する空間である魅了の異能を授かる。そしてネルや異世界で出会った特定の女性達を魅了しながら身体を重ね、雄矢はハーレムを築いていく。

王妃となったアンゼリカ

わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。 そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。 彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。 「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」 ※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。 これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!

行ってみたいな異世界へ

香月ミツほ
BL
感想歓迎!異世界に憧れて神隠しスポットへ行ったら本当に転移してしまった!異世界では手厚く保護され、のんびり都合良く異世界ライフを楽しみます。初執筆。始めはエロ薄、1章の番外編からふつうにR18。予告無く性描写が入る場合があります。残酷描写は動物、魔獣に対してと人間は怪我です。お楽しみいただけたら幸いです。完結しました。

婚約破棄された相手が、真実の愛でした

 (笑)
恋愛
貴族社会での婚約を一方的に破棄されたヒロインは、自らの力で自由を手に入れ、冒険者として成功を収める。やがて資産家としても名を馳せ、さらには貴族としての地位までも手に入れるが、そんな彼女の前に、かつて婚約を破棄した相手が再び現れる。過去のしがらみを乗り越え、ヒロインは新たな挑戦に立ち向かう。彼女が選ぶ未来とは何か――成長と葛藤の物語が、今始まる。

元勇者パーティの最強賢者、勇者学園に就職する。

歩く、歩く。
ファンタジー
魔王を倒した勇者パーティだったが、最後の悪あがきで魔界の門を開かれてしまう。 このままでは第二、第三の魔王が襲ってくる。パーティ最強の賢者ハワードは仲間を守るため、一人魔界に渡ってゲートの封印に成功する。 魔界に残った賢者はひたすら戦い続けた。 襲い来る魔王を殺し、魔物を駆逐する日々。途中右腕を失うも、魔王の腕を義手にする事で魔力を奪う技術を得た彼は、数多の魔王から力を取り込み、魔界最強の男に君臨した。 だがある日、彼はひょんな事から人間界へ戻ってしまう。 人間界は勇者が職業として成立している世界になり、更には勇者を育てるための専門学校、勇者学園が設立されていた。 「残りの人生は、後進育成に努めるか」 勇者学園に教師として就職したハワード。だが大賢者は自重する気がなく、自由気ままに俺TUEEEな教師生活をエンジョイする事に。 魔王の腕を義手に持つ、最強賢者のチートで愉快な学園無双物語。 ※小説になろうでも掲載しています。

転生したら死にそうな孤児だった

佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。 保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。 やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。 悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。 世界は、意外と優しいのです。

処理中です...