上 下
58 / 116

57話 圧倒的戦力差

しおりを挟む
「な、なんだこの状況は……!」
 マフィアのボス、ヘルゼンは愕然としていた。
 組織の頂点に君臨して十年。積み上げてきた物が、僅か数十分で崩壊しそうになっている。
 既にアジトは壊滅寸前、部下はほぼ全滅。今もそこかしこから爆砕音が響き、刻一刻と絶望の足音が近づいていた。
 地下道を通って脱出を試みているものの、このままでは追いつかれるのは時間の問題だ。
「い、一体どこの連中だ! ヘルゼン組は500の勢力を持つ組織だぞ、それをほんの僅かな時間で壊滅させるとは……相手の数は! 千か? それとも万か!?」
「い、いえ、それが……一人です」
「は?」
「……たった一人、奇妙な義手を持った中年だけなのです! と、とにかくおしゃべりな奴でして、軽口を言いながら笑顔で兵を倒しているのです!」
「嘘を言うな! そんな……酔っ払いが飲み屋をはしごするようなノリで攻め込まれてたまるか!」
 ようやく地下道を抜けた途端、地面が爆発した。
 爆風に煽られ転んでしまう。目を凝らすと、土煙の奥から長身の、屈強な男が現れた。
 部下の報告通り、右腕が金属で出来た義手になっている。そいつはへらっと笑うなり、
「Hello、最高級ソープの受付はここかい? 泡姫による極楽の湯浴みが堪能できると聞いて飛んできてやったぜ」
 そう軽口を叩く。レイガスは怒りを顔に浮かべ、短剣を男に向けた。
「貴様……この俺を誰だと思っての狼藉だ! たった一人でヘルゼン組に乗り込んできて、タダで済むと思っているのか!?」
「保険に入ってるから弁償できるさ。凄んだところで、もう残っているのはお前さんら二人だけだ。自慢の配下はシエスタのお時間でね、今頃夢の中でマーメイドとハグしているだろうよ」
「ぼ、ボス……どうしましょう!?」
「ぐ……! 狼狽えるな! 俺はヘルゼンだ! アザレア王国最大のマフィアの首領だぞ! それがこんな……片腕の中年ごときに潰されてなるものか!」
 ヘルゼンは高速詠唱し、宙に多数の魔法陣を展開した。
 無数の魔法陣が男に矛先を向け、無数の光線が放たれた。あまりの熱量に空間が歪み、ヘルゼンは勝利を確信する。
「やりましたねボス! 流石です!」
「ふん、骨まで残らず消し飛んだだろうな。この俺に歯向かった事を後悔するがいい!」
「あーそうだな、後悔している。お前のせいで折角買ったコートが焦げついちまったよ」
 ヘルゼンの高笑いが止まった。男は消し飛ぶどころか、平然とした顔で立っていた。
「なぜ俺の魔法を受けて無傷なんだ……! 俺は、俺は一流の魔法スキルの使い手だぞ!」
「単純な話だって、俺様が超一流の使い手なだけだ。その証拠に、同じ魔法を使ってやるよ」
 男は無詠唱で、ヘルゼンと同じ魔法を使った。
 ヘルゼンよりもけた違いの数の魔法陣が展開され、絶句してしまう。男はにやりとするなり指を鳴らして、光線を発射した。
 瞬間、大地が吹っ飛んだ。男の射出した光線によって一瞬で更地になってしまったのだ。
「な……お、れの魔法、より強すぎ……る……」
「上には上が居るって事さ。これに懲りたらまっとうな仕事に転職しろよ、牢獄でしっかり反省してからの話だがな。美女の看守とランデブーできるなんて羨ましい限りだぜ」
「な……ぜだ……たった一人の、片腕の中年如きに俺達が……全滅、するなんて……! なぜ、お前はそんなに……強いんだ……!?」
「なぜかって? そんなの、決まってんだろ」
 男はにかっと笑うと、
「なぜなら、俺がハワード・ロックだからだ」
 心から納得のいく決め台詞を残した。

  ◇◇◇

 ってな感じにヘルゼン組を全滅させ、俺ちゃんは意気揚々と帰路についた。
 アマンダたんが連れてきた憲兵たちが次々と連中を捕まえていく。人数多いから骨が折れる作業だわねぇ。アジトも徹底的に潰したし、出所しても二度と悪さは出来ないな。
「にしても、俺様相手に十分も粘るとはねぇ。一分程度しか力を出していないとは言え、まずまず頑張った方じゃない?」
「……いやー、いつもながら相手が可愛そうになる光景だわ……」
 合流するなり、リサちゃんが哀れみを込めて言った。隣のアマンダたんは小さくため息をついて同意している。
「手加減してもあれでは、勝負にすらなりませんね。まだザナドゥの方が戦えた方ですよ」
「そりゃそうさ、スライムが賢者に勝てると思うか? なぁがるる♪」
―がるるぅ♪
 おー、もふもふの体すり寄せてきて可愛いねぇ。この獣臭さと言うか、なんとも言えない体臭がたまらんぜ。
「にしてもあんた、この二十日間でどんだけ暴れまわってんのよ。カインと別れてから九つの犯罪組織と八つのマフィアと七つの悪徳宗教を解体してるし。一日一団体以上潰してんじゃない」
「ハワードが本気になれば、本当に世界平和を実現してしまいそうですね」
「そんなに褒めないでくれよ、照れてほっぺたが燃えちまうぜ♡」
「褒めてないから勝手に燃え尽きてなさい」
 ああん、きつい言い方も俺様には心地よくてたまりません。
「ほっほっほ、流石の手腕じゃな、賢者ハワード」
「こっちに褒められても全く嬉しくないんだが、ここは素直に受け取っとくぜ。フェルム爺さん」
 俺様達に歩み寄ってきた爺さんに拳を突き出し、タッチを交わす。ヘルバリア、サブレナで世話になった情報屋のジジイ、フェルムだ。
 事の始まりは二時間前。久々に爺さんと再会した俺様は、ヘルゼン組がとある美女を誘拐、監禁しているとの情報を受けた。
 とっとと助けに行かなきゃ男が廃る、てなわけで散歩がてらにいきがったマフィアを潰してやったというわけさ。
「爺さんはいつも最高の依頼をくれるな、あんたのお陰で程よい暇つぶしになったよ」
「礼には及ばんよ、こっちもこっちで紹介料をがっぽり稼げるからの。ギブアンドテイクという奴じゃわい」
「分かってる爺さんだ。んで? 俺様との混浴を熱望する泡姫様はどちらにいらっしゃるんで?」
 俺様が大暴れしている間に、ハワードガールズが囚われのお姫様を助けてくれたのさ。
 がるるとアマンダたんが居れば護衛はばっちり、トラップが仕掛けられていても、リサちゃんなら簡単に解除できるしな。
「彼女でしたら、憲兵隊に預けました。大分衰弱していましたので、休養が必要かと」
「随分と丁寧に扱っていたようだな、特別大サービスで五割の力でぶっ飛ばしてやるべきだったかね」
「それやったらマフィアが骨まで残らないんじゃない?」
「だろうな。そんなどうでもいい話は置いといて、ちょいと顔でも見に行くか。俺ちゃんどんな娘なのか知らないしぃ♪」
「保護して間もないですし、憲兵に言えば会えると思います。急ぎましょうか」
 てなわけでアマンダたんに案内され、待望のお顔合わせだ。
 ウキウキしながら到着するなり、俺様は息を呑んだ。
 久しぶりに驚いたぜ、まさかこんな眠り姫が囚われていたとはね。
 色白な肌をした、最高にイカした美女だ。ただ、こいつは人間じゃあねぇな。
 薄緑色の長く、ウェーブがかかった髪。ふさっとした体毛の生えた、長い耳。そして何よりも目を引く抜群のプロポーションっ! なんてSweetなFカップとヒップなんだ!
 薄緑の羽衣が肢体をくっきり浮かび上がらせて、官能的でたまりません!
「うっひょーい! 異種族姦ばんざーいっ☆」
「天誅!」
 ダイブするなりアマンダたんの斧がフルスウィングで直&撃。地面にめり込み俺様撃沈。
「弱った相手に何しでかそうとしてんの人類の恥部。にしてもほんと、綺麗よねこの人。人間じゃないみたいだけど……」
「俺様も少々驚いたぜ、滅多に会えない種族だからな」
「だからしれっと復活すんな。どんな回復力してんのよ本当に」
「フェニックスの血をブランデーで割って飲んだもんでね。それはさておいて、本当に珍しい種族だ。彼女に会えただけでも、依頼を受けた甲斐があったもんだぜ。その子は精霊だ、それも人型を保っている辺り、相当高位の存在と見て間違いないだろう」
「精霊!? 私精霊なんて、初めて見たよ」
「滅多に人前に出る種族ではありませんからね。ですが事情を聞くのは後日にしましょう、今彼女に必要なのは、休養です」
「ずっと閉じ込められて苦しい思いをしただろうからな。んじゃ、ちょっと手助けだ」
 精霊ちゃんに回復魔法をかけて、少しだけ手助けしてあげる。目覚める頃には捕まる前より元気になっているだろうよ。
 さて、この子からはトラブルの香りがプンプンする。俺様のスローライフの、新しい指針になりそうでワクワクしてくるぜ。






しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

『おっさんが二度も転移に巻き込まれた件』〜若返ったおっさんは異世界で無双する〜

たみぞう
ファンタジー
50歳のおっさんが事故でパラレルワールドに飛ばされて死ぬ……はずだったが十代の若い体を与えられ、彼が青春を生きた昭和の時代に戻ってくると……なんの因果か同級生と共にまたもや異世界転移に巻き込まれる。現代を生きたおっさんが、過去に生きる少女と誰がなんのために二人を呼んだのか?、そして戻ることはできるのか?  途中で出会う獣人さんやエルフさんを仲間にしながらテンプレ? 何それ美味しいの? そんなおっさん坊やが冒険の旅に出る……予定? ※※※小説家になろう様にも同じ内容で投稿しております。※※※

魔法公証人~ルロイ・フェヘールの事件簿~

紫仙
ファンタジー
真実を司りし神ウェルスの名のもとに、 魔法公証人が秘められし真実を問う。 舞台は多くのダンジョンを近郊に擁する古都レッジョ。 多くの冒険者を惹きつけるレッジョでは今日も、 冒険者やダンジョンにまつわるトラブルで騒がしい。 魔法公証人ルロイ・フェヘールは、 そんなレッジョで真実を司る神ウェルスの御名の元、 証書と魔法により真実を見極める力「プロバティオ」をもって、 トラブルを抱えた依頼人たちを助けてゆく。 異世界公証人ファンタジー。 基本章ごとの短編集なので、 各章のごとに独立したお話として読めます。 カクヨムにて一度公開した作品ですが、 要所を手直し推敲して再アップしたものを連載しています。 最終話までは既に書いてあるので、 小説の完結は確約できます。

【完結】ヒトリぼっちの陰キャなEランク冒険者

コル
ファンタジー
 人間、亜人、獣人、魔物といった様々な種族が生きる大陸『リトーレス』。  中央付近には、この大地を統べる国王デイヴィッド・ルノシラ六世が住む大きくて立派な城がたたずんでいる『ルノシラ王国』があり、王国は城を中心に城下町が広がっている。  その城下町の一角には冒険者ギルドの建物が建っていた。  ある者は名をあげようと、ある者は人助けの為、ある者は宝を求め……様々な想いを胸に冒険者達が日々ギルドを行き交っている。  そんなギルドの建物の一番奥、日が全くあたらず明かりは吊るされた蝋燭の火のみでかなり薄暗く人が寄りつかない席に、笑みを浮かべながらナイフを磨いている1人の女冒険者の姿があった。  彼女の名前はヒトリ、ひとりぼっちで陰キャでEランク冒険者。  ヒトリは目立たず、静かに、ひっそりとした暮らしを望んでいるが、その意思とは裏腹に時折ギルドの受付嬢ツバメが上位ランクの依頼の話を持ってくる。意志の弱いヒトリは毎回押し切られ依頼を承諾する羽目になる……。  ひとりぼっちで陰キャでEランク冒険者の彼女の秘密とは――。       ※この作品は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さん、「ノベルアップ+」さん、「ノベリズム」さん、「ネオページ」さんとのマルチ投稿です。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

【完結】スキルを作って習得!僕の趣味になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》 どんなスキル持ちかによって、人生が決まる。生まれ持ったスキルは、12歳過ぎから鑑定で見えるようになる。ロマドは、4度目の15歳の歳の鑑定で、『スキル錬金』という優秀なスキルだと鑑定され……たと思ったが、錬金とつくが熟練度が上がらない!結局、使えないスキルとして一般スキル扱いとなってしまった。  どうやったら熟練度が上がるんだと思っていたところで、熟練度の上げ方を発見!  スキルの扱いを錬金にしてもらおうとするも却下された為、仕方なくあきらめた。だが、ふと「作成条件」という文字が目の前に見えて、その条件を達してみると、新しいスキルをゲットした!  天然ロマドと、タメで先輩のユイジュの突っ込みと、チェトの可愛さ(ロマドの主観)で織りなす、スキルと笑いのアドベンチャー。

蟲神様の加護を授って新しい家族ができて幸せですが、やっぱり虫は苦手です!

ちゃっぷ
ファンタジー
誰もが動物神の加護を得て、魔法を使ったり身体能力を向上させたり、動物を使役できる世界であまりにも異質で前例のない『蟲神』の加護を得た良家の娘・ハシャラ。 周りの人間はそんな加護を小さき生物の加護だと嘲笑し、気味が悪いと恐怖・侮蔑・軽蔑の視線を向け、家族はそんな主人公を家から追い出した。 お情けで譲渡された辺境の村の領地権を持ち、小さな屋敷に来たハシャラ。 薄暗く埃っぽい屋敷……絶望する彼女の前に、虫型の魔物が現れる。 悲鳴を上げ、気絶するハシャラ。 ここまでかと覚悟もしたけれど、次に目覚めたとき、彼女は最強の味方たちを手に入れていた。 そして味方たちと共に幸せな人生を目指し、貧しい領地と領民の正常化・健康化のために動き出す。

異世界ライフの楽しみ方

呑兵衛和尚
ファンタジー
 それはよくあるファンタジー小説みたいな出来事だった。  ラノベ好きの調理師である俺【水無瀬真央《ミナセ・マオ》】と、同じく友人の接骨医にしてボディビルダーの【三三矢善《サミヤ・ゼン》】は、この信じられない現実に戸惑っていた。  俺たち二人は、創造神とかいう神様に選ばれて異世界に転生することになってしまったのだが、神様が言うには、本当なら選ばれて転生するのは俺か善のどちらか一人だけだったらしい。  ちょっとした神様の手違いで、俺たち二人が同時に異世界に転生してしまった。  しかもだ、一人で転生するところが二人になったので、加護は半分ずつってどういうことだよ!!   神様との交渉の結果、それほど強くないチートスキルを俺たちは授かった。  ネットゲームで使っていた自分のキャラクターのデータを神様が読み取り、それを異世界でも使えるようにしてくれたらしい。 『オンラインゲームのアバターに変化する能力』 『どんな敵でも、そこそこなんとか勝てる能力』  アバター変更後のスキルとかも使えるので、それなりには異世界でも通用しそうではある。 ということで、俺達は神様から与えられた【魂の修練】というものを終わらせなくてはならない。  終わったら元の世界、元の時間に帰れるということだが。  それだけを告げて神様はスッと消えてしまった。 「神様、【魂の修練】って一体何?」  そう聞きたかったが、俺達の転生は開始された。  しかも一緒に落ちた相棒は、まったく別の場所に落ちてしまったらしい。  おいおい、これからどうなるんだ俺達。

大賢者の弟子ステファニー

楠ノ木雫
ファンタジー
 この世界に存在する〝錬金術〟を使いこなすことの出来る〝錬金術師〟の少女ステファニー。 その技を極めた者に与えられる[大賢者]の名を持つ者の弟子であり、それに最も近しい存在である[賢者]である。……彼女は気が付いていないが。  そんな彼女が、今まであまり接してこなかった[人]と関わり、成長していく、そんな話である。  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

処理中です...