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1話 痛くないさ、大人だから。

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 この最強の賢者である俺様、ハワード・ロックが所属する勇者パーティの戦いは、今まさに佳境に入っていた。

「行くぜカイン!」
「はいっ、師匠!」

 俺様の愛弟子、赤毛の勇者カインと共に、魔王へトドメの一撃を叩き込む。魔王の胸にどでかい風穴が空き、断末魔を上げながら倒れていった。

 ……やったぜ、俺様達の勝利だ。

 魔王討伐を目指して王都を旅立ち、一年か。世界に平和を取り戻すため四苦八苦して、ようやく役目を果たせたぜ。

「やりました……師匠……!」
「っと。おいおい倒れんなよ、潰れるならバーボンをダブルで飲んでからにしな、ボーイ」
「はは……すみません、気が抜けちゃって……」

 カインはへにゃりと笑った。童顔がより幼く見えるぜ、このベビーフェイスが。
 ったくよぉ、俺らのリーダーが何へたってんだ。てめぇの恋人さんが心配すんだろう?

「カイン! 大丈夫カイン!?」

 ほら、お前の恋人が駆け寄ってきたぜ。俺達勇者パーティの魔法使い、コハクちゃんだ。
 瑠璃色の髪を持つキティに彼氏を渡し、俺様はそっと距離を取る。勇者パーティのお父さんとして、空気は読まねぇとな。

「ハワードさん、僕達、やったんだよな……全部、終わったんだよな……?」
「そうだ。だから泣くなよ、そんなにママのおっぱいが恋しいのかいbaby」
「だって、僕……僕……!」

 緑髪のタンク役、戦士ヨハンも泣きはらす。ったくてめぇな、たかが魔王如きをぶっ潰したくらいで何泣いてやがるんだよ。

 まぁ、無理もねぇか。こいつらはまだ十代のガキどもだ。勇者パーティなんて大役背負わせるにはあまりにも若すぎる。

 保護者役の四十三歳、ナイスミドルな賢者の俺様が居なきゃ、こいつらまともに旅もできなかったろうなぁ。

『ふ……っ……油断したな、勇者よ……!』

 不意に、嫌な予感がした。
 殺したはずの魔王が起き上がっている。まだ生きてやがったのか!?
 このクソファッキンが! 死んだふりとか原始的すぎんだろ!

『せめて、貴様だけでも、道連れにしてくれる……!』
「えっ……!」

 魔王が熱線を放った。弱ったカインじゃ避けられねぇ!

「どけっ、カイン!」

 カインを蹴り飛ばし、熱線を浴びながら魔王をぶん殴る。頭を粉砕して、ようやっと魔王は沈んでくれたぜ。

「しつこい奴だ。魔王様はミートパテにしねぇと黙らねぇのか? こんなもんで作ったバーガー食ったら胸やけしちまうぜ。なぁカイン、お前もそう思うだろ?」
「し……しょう……」

「おいおいどうしたよカイン、炭酸が抜けたジンジャエールみてぇな顔しやがって。この程度の傷、美女にキスしてもらえりゃすぐに治るさ。魔王倒してhappy endだろ? だから、笑えよ」

「……師匠……もう、もう……やめてください……!」

 カインが俺様に抱き着いた。勇者のくせにぐすぐす泣いて、みっともねぇぞ。

「おいこら、俺様はゲイじゃねぇ、ヤローに抱き着かれても嬉しくねぇんだよ」
「だって……俺のせいで……師匠が!!!」

 俺様の右腕は、魔王の熱線で蒸発しちまった。傷口が焼かれているから、血が出てねぇのが幸いだな。

「肩まで焼き切れてる……これじゃ、私でも治せない……!」
「あー、気にすんな。最新のファッションだよ。体重も減っていいダイエットになったぜ」
「ハワードさん……どうしてそんな、笑っていられるんだよ……痛くないのかよ……!」
「痛くねぇって、大人だからな」

 震えるカインを抱きしめてやる。男とハグする特殊な趣味はねぇんだけどなぁ。

「こらカイン、お前は世界を救った勇者なんだぞ? いつまでもめそめそすんじゃねぇって。お前の命を守れたんなら、本望さ」
「師匠……ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 頭を撫でたり、背中を叩いたり、いくら慰めてもカインは泣き止む様子はない。
 ……最後の最後で愛弟子を泣かせちまったか。腕の痛みより、心の痛みの方がハードだぜ。
 ったくよぉ、痛ぇの我慢するのも楽じゃねぇや。
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