上 下
179 / 181

178話 ディックとフェイス

しおりを挟む
 ハヌマーンの力により、エンディミオンの不死の力を貫通し、奴の体がバラバラになる。
 断末魔と共に肉体が消えさり、聖剣が乾いた音を立てて落ちた。瞬間、歓声が上がり、城内が沸き立った。
 全てが終わった。エンディミオンは死に絶え、戦争の元凶が消滅した。もう人間達と魔王軍が戦う理由は、無くなったんだ。

「ディック……お疲れ様」
「うん、やっと、やっと何もかもが、収まったよ。フェイス、これで君も解放されただろう」
「…………」

 フェイスの様子がおかしい。無表情で、じっと聖剣を見つめている。
 何をするつもりなんだ、フェイス。

「……すまん、ディック。まだ、終わりじゃないんだ」
「え?」
「エンディミオンはまだ、俺の中に生きている」

 瞬間、フェイスから黒い霧が立ち込めた。そこから強く、エンディミオンの力を感じる。
 これは、どういう事だ。エンディミオンは、確かに……。

『異空間でフェイスを刺した時、エンディミオンは保険をかけていたのさ。万一自分が死んでも復活できるよう、魂の一部をフェイスに宿してね』
「魔王様……?」
「……なんで? なんで、フェイスからエンディミオンを追い出さなかった!?」
『出したら、フェイスは死んでいたよ。魂に直接固着していたからね、無理にはがせば、フェイスの魂が壊れるようになっていたんだ』

 僕達が話している間に、フェイスはエンディミオンを手に取った。
 聖剣を握り、僕に正面から向かい合う。フェイスは、諦めたように笑っていた。

『くははは……まだだ、まだ死ねないよなぁ、相棒……お前とは、一番体の相性が良かったんだ。だから、もっと俺を使え、共に虚無に浸ろう! もっと、もっと! もっと!! この世に虚無を、俺の退屈な時間を潤してくれ!』
「……うるさい聖剣だ。悪いが、底なしの虚無そいつは一人で地獄に持っていけ」

 エンディミオンに侵食されながらも、フェイスは自我を保っている。何をするつもりなんだ、フェイス。

「ディック、俺から最後の頼みがある……俺を、斬ってくれ」
「フェイス!?」
「今はどうにか、持っている。だが、このままだと俺はまた、こいつに乗っ取られてしまう、仮に自害しても、他の奴に憑依して、被害を拡大する危険まである。こいつが不完全な状態で融合している今なら、アンチ魔導具を持つお前なら、逃がさず倒す事が出来るんだ」

 その言葉で、僕は理解した。フェイスは自分を犠牲に、僕達を救うつもりなのだと。

「フェイス……駄目だよ、止めてよ……一緒に、一緒に旅しようって、約束したんだから!」
「悪いアプサラス、その約束、果たせそうになさそうだ」

 フェイスが、剣を構えた。エンディミオンに侵食されて、僕達を襲おうとしている。

「ディック、頼む。俺はもう、誰も傷つけたくない。だからせめて……地獄にお前との絆を、持って行かせてくれ。お前の手で俺を、終わらせてほしいんだ」
「…………」

 なんて自分勝手で、身勝手な頼みなんだ。
 ようやく分かり合えたのに、やっと君の事を、知る事が出来たのに。どうしてそんな事を、言ってしまうんだ。
 許さないよ、フェイス。君が死んだら、アプサラスはどうなる。そして……僕達の心はどうなる。

「……分かった。いいな、ハヌマーン」
『心得た』
「ディック、止めて、止めて!」
「アプサラス、今は、ディックを信じて」

 シラヌイがアプサラスを止めてくれた。この場に居る全員が、僕とフェイスの最後の決闘に息を呑み、見守っている。

「ありがとう、ディック……行くぞ」
「ああ、これが本当の……終わりの一振りだ!」

 僕達は剣を構え、走った。
 フェイス、君を決して、孤独に逝かせはしない。
 君もやっと、自分のやるべき事が分かったんだろう、愛される喜びが分かったんだろう。
 だから、僕は君を助ける。母さんから受け継いだ、この刃に誓って。
 君の親友として僕が、君を開放してやる!

「ディィィィィィィィィック!!!!」
「フェェェェェェェェェイス!!!!」

 英雄と勇者、両者の剣が交差し、そして……。
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

私の愛した召喚獣

Azanasi
ファンタジー
アルメニア王国の貴族は召喚獣を従者として使うのがしきたりだった。 15歳になると召喚に必要な召喚球をもらい、召喚獣を召喚するアメリアの召喚した召喚獣はフェンリルだった。 実はそのフェンリルは現代社会で勤務中に死亡した久志と言う人間だった、久志は女神の指令を受けてアメリアの召喚獣へとさせられたのだった。 腐敗した世界を正しき方向に導けるのかはたまた破滅目と導くのか世界のカウントダウンは静かに始まるのだった。 ※途中で方針転換してしまいタイトルと内容がちょっと合わなく成りつつありますがここまで来てタイトルを変えるのも何ですので、?と思われるかも知れませんがご了承下さい。 注)4章以前の文書に誤字&脱字が多数散見している模様です、現在、修正中ですので今暫くご容赦下さい。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

【完結】契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい~

九條葉月
ファンタジー
【ファンタジー1位獲得!】 【HOTランキング1位獲得!】 とある公爵との契約結婚を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。 花を包むビニールがなければ似たような素材を求めてダンジョンに潜り、吸水スポンジ代わりにスライムを捕まえたり……。そうして準備を進めているのに、なぜか店の実態はお花屋さんからかけ離れていって――?

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...