上 下
73 / 181

72話 凄腕剣士の悩み

しおりを挟む
「んで、何してんのあんた」
「剣の供養」

 私はディックに付き添って森の中にやってきていた。
 ディックは適当な木を見つけると、そこに折れた剣を突き立てて土を盛り、簡単な墓を作っていた。
 模擬戦が終わった後、一旦仕事から離れた私達は、少しだけ自由時間を過ごしている。その間に折れた大剣の供養に来ているというわけだ。
 ……そんなに気に入っていたのね、その大剣。

「シンプルで使いやすい武器だったからね、刀が使えない間も助けられたし、フェイスとの戦いでも力になってくれた。それだけに壊れたのは悲しいんだよ」
「そっか。そんじゃ、私も祈っておきましょうかね。ディックを守ってくれてありがとう」

 何はともあれ、ディックを守ってくれた事に変わりない。なら私も感謝してあげないとな。
 森から世界樹に戻り、一息つく。改めて街を見ていると、これまで向かったどの地域よりも、エルフの国は変わっているように感じた。

 木の根を掘って造った住居は、木漏れ日が降り注いで、なんだか神秘的だ。なんだか心が洗われるみたい。
 ディックが歩いていても、エルフ達は特に気にする様子はない。人間を嫌ってはいるみたいだけど、表に出す程大人げない種族じゃないみたいね。ちょっとだけ安心したわ。

「剣が無くなったのは残念だけど、気持ちを切り替えなくちゃな。新しい剣を探さないと」
「でもそう簡単に見つかるの? 前にも言ったけど、あんたの腕前に見合った剣となると相当限られるわよ」
「探してみないとわからないさ」

 って事で、エルフの国の散策を行う事にした。
 エルフはドワーフと違って鍛冶が得意というわけではない。だけど代わりに魔力を宿した剣、魔剣の製造に関しては一日の長があった。

 魔剣は普通の剣と違い、耐久力や威力に欠ける反面、特殊な能力を持った武器だ。所有するだけで魔法が使えるようになったり、攻撃を与えた相手に状態異常を与えたり、様々な追加効果を持っているのだ。
 前まで持っていた大剣は正直、刀の下位互換みたいな物だったもの。サブウエポンや戦い方の幅を広げるなら、そうした特殊武器の方がいいかもしれないわね。

 行く先の武器屋に置いてある剣はどれも刀身に魔力がまとわりつき、不思議な光を放っている。ディックは何本も手にとっては使い心地を確かめているけど、しっくりくる物は中々ないみたい。

「やっぱ無理?」
「魔剣だからか、どうも勝手が違うみたいなんだ。軽すぎてバランスが取りづらいし、手に馴染まない」

 ディック曰く、もう一本の剣は重くて威力のある物がいいそうなの。エルフは基本非力な種族だから、それに合わせた武器となると軽くて使いやすさを重視した物しかないみたいね。

「剣士って面倒ねぇ、自分に合った剣を探すのがこんなに大変だなんて」
「自分の手足の一部みたいなものだからね、だからどうしても感覚的な物がついて回ってしまうんだよ。ほんのわずかな違和感が生死に関わるからさ」

 ……そう言えるって事は、ディックが相当な使い手に育った証、って所かしら。
 達人になればなる程、得物の感覚が大事になるって聞いた事がある。今までディックはそんな事を言わなかったのに、ここ最近は随分気にするようになっていた。
 やっぱりフェイスを倒してから一皮むけたみたい。男は自信をつけると強くなるみたいだけど、ディックの場合はそれが塔著みたいね。

「ま、気長に探しましょう。いつか必ず見つかるわよ、あんたに見合った剣がさ」
「そうだね。じゃ、城に戻ろうか。ついでに果物でも食べようか?」
「賛成」

 エルフは菜食主義で、野菜や果物の育成には拘っている。店を見ると、確かに美味しそうなのが並んでいるわね。

「そんじゃ、アップルマンゴーってのを食べてみますかね」

 私は果物にうるさいわよ、しっかり厳しく評価してやるから覚悟しなさい。
 って事でアップルマンゴーを食べようとしたらだ。

『ふははっ、いただき!』

 急に目の前を青っぽい影が通り過ぎて、私の果物を盗んでしまった。

「ちょっと誰よ! 私の果物返しなさい!」
『ほーう? これが貴様の物だという証拠はどこにあるのかな?』

 そう言って私を煽るのは、奇妙な鳥だった。
 青白い羽を持った、クジャクのような尾羽を持った鳥だ。足で器用に果物を掴み、見せびらかすように振っている。

『私が持っているのならこの果物は私の物だ。証拠もないのに盗人扱いされるのはたまったものではないな、はっはっは!』
「あ、こら待てー!」

 鳥に盗まれっぱなしで引き下がれるか、それじゃ四天王の名が泣いちゃう。

「ちょっとシラヌイ、果物ならまた買ってあげるから、って聞いてないか」

 ディックが呆れたように追いかけてくる。そういう問題じゃないの、私のプライドに関わる案件なの!
 だからとっとと捕まりなさいこの盗人鳥!

  ◇◇◇
<ディック視点>

「全く、どこに行ったんだシラヌイ」

 シラヌイを見失ってしまった。
 果物を盗んだ鳥はエルフ城で姿を消し、シラヌイは必死になって追いかけていた。気配察知で探ると、どうも城の中で追いかけっこを続けているらしい。

「変なところで意地っ張りというか、子供っぽいからな。ほどほどの所で止めとかないと」

 ああなったら僕でも止められない。城の中ではしゃいで、大丈夫なのか?
 にしても、あの鳥はなんだったんだろう。見た事が無い鳥だったな。
 それに、街の人の様子もおかしかった。シラヌイは派手に喚いていたのに、誰一人として鳥に気付いていなかった。まるでそこに、何も存在していないかのようなふるまい方だった。
 でも、僕とシラヌイは見えていた。

「……なんだろうな、あれは」

 考えても、分からない物は分からないか。

「おや、こんな所で立ち止まって。どうされましたか?」

 不意に声をかけられ、僕は振り向いた。
 だけどそこには誰もいない。視線を下に向けると、そこには小柄なエルフが居た。
 男だろうか。中性的な容姿をしていて、文官の制服を着ている。腕にたくさんの書類を抱え込んでいて、ちらりと見えた内容からして。

「外務大臣、ですか?」
「あ、はい。僕はワード、エルフの国の外務大臣を務めています。貴方は四天王シラヌイの副官、ディックですよね。先の戦い、非常にお見事でした」

 ワードはにこやかに言ってくれた。外交官にしては、随分幼い姿をしているな。少し頼りなさを感じるよ。

「まさかラズリ様を倒してしまわれるなんて、驚きましたよ。貴方は人間でも別格の実力を持った人みたいですね」
「いや、運が良かっただけです」
「運も実力の内と言いますし、ご謙遜なさらないでください」

 なんかぐいぐい来るな、なんだろう、この外務大臣。

「協定はいかがですか?」
「順調に進んでいますよ。この調子なら一週間ほどですり合わせが終わるかと思います」
「一週間か……」

 その間はエルフの国に滞在するって事になるな。折角エルフの国に来たんだ、見れるところは隅々まで見ておこうかな。

「そうだ、この後時間を頂けませんか? 個人的に貴方に興味がありまして、ぜひお話を伺いたいのです」
「僕で良ければ、はい」
「ありがとうございます!」

 ワードは満面の笑顔で頷いた。
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

私の愛した召喚獣

Azanasi
ファンタジー
アルメニア王国の貴族は召喚獣を従者として使うのがしきたりだった。 15歳になると召喚に必要な召喚球をもらい、召喚獣を召喚するアメリアの召喚した召喚獣はフェンリルだった。 実はそのフェンリルは現代社会で勤務中に死亡した久志と言う人間だった、久志は女神の指令を受けてアメリアの召喚獣へとさせられたのだった。 腐敗した世界を正しき方向に導けるのかはたまた破滅目と導くのか世界のカウントダウンは静かに始まるのだった。 ※途中で方針転換してしまいタイトルと内容がちょっと合わなく成りつつありますがここまで来てタイトルを変えるのも何ですので、?と思われるかも知れませんがご了承下さい。 注)4章以前の文書に誤字&脱字が多数散見している模様です、現在、修正中ですので今暫くご容赦下さい。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

【完結】契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい~

九條葉月
ファンタジー
【ファンタジー1位獲得!】 【HOTランキング1位獲得!】 とある公爵との契約結婚を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。 花を包むビニールがなければ似たような素材を求めてダンジョンに潜り、吸水スポンジ代わりにスライムを捕まえたり……。そうして準備を進めているのに、なぜか店の実態はお花屋さんからかけ離れていって――?

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...