66 / 133
66 マッチョさん、量産型プロテインを飲む
しおりを挟む
「族長、部隊を里に入れてもいいか?固有種の腑分けを里の中でやるワケにもいかないだろう。」
「部隊にトロールの死体を里の外に出させましょう。衛生兵も連れて来たので怪我人の手当ても我々が手伝います。」
「よろしい。我らもずいぶんと傷ついた。感謝するぞ、人族の軍人。」
「龍国と人間国の交流の復活を考えておいてください。これは人間王からの正式な要請でもあります。」
「固有種の出現に勇者の誕生。ふむ・・・ここが変化の時か。皆の説得は難しいと思うが善処しよう。」
何度も戦って楽勝であったはずのトロールが、組織して集団で龍族の里を襲ってきたのだ。
そして精霊の恩寵の顕現と、勇者の出現。それは魔王復活も意味する。龍族といえどもひとつの種族だけで里や生活を支えきれなくなってくるかもしれない。
さて。仕事も終わったし日も暮れる。
専門家が来て怪我人を診察している以上、素人がどうこう言えることは無いな。
小屋に戻って休憩しようとしたら、さっきの体脂肪の人が話しかけてきた。
「あなたがマッチョさんですよね?身体を見れば分かると王宮薬師のソフィーさんから聞いています。改めましてタカロス大尉です。山岳戦と補給が主な任務です。」
要するに山のスペシャリストということか。
「マッチョです。ソフィーさんが私になんの用なのでしょうか?」
「あまり聞きなれない薬というか飲みものの量産に成功したので、今回は回復薬と一緒にマッチョさんに持っていけと言われました。名前はえーとたしか・・・」
「サバスでしょうか?」
「そうそう、サバスです。」
あれの量産に成功したというのか。ということは大量のタンパク質の合成に成功したのか、あるいは抽出に成功したのか。経緯がどうであれ飲んでみたい。
「瓶に適量水を入れて、振って混ぜるそうです。あまり水には溶けないようで。」
タカロスさんが出してきたものは間違いなくサバスだ。あのマズさは衝撃的だったからなぁ。
「作って飲んでみてもいいでしょうか?」
「勿論です。そのために持ってきたのですから。」
とりあえず希釈量は1.5倍にしておく。マズいと飲み込むのが大変だからだ。
一息吐いて気合いを入れる。・・・頼むぞっ!
ぐほぅっ!
なぜだ?より一層マズくなっているではないか。
ソフィーさんには味に問題があるという話をしたはずなのに。量産のほうを重視してしまったのか、あの人は。これではプロテインではなくただの薬だな。実際にソフィーさんは薬と考えているのかもしれない。
「マズいですよね、それ。効果はあると言っていたんですが、うちの部隊でも途中で気分が悪くなってしまって飲み干せる人間はいないんですよね。作戦行動中は使用禁止ということにしました。」
そうだろうなぁ。前にいた世界でも経験したことのない味だ。あまりにとんでもないレベルのマズさを経験すると、肝臓への負担が心配になるものなのか。プロテインのマズさが筋肉に悪影響を及ぼしそうな気になるなど、私のトレーニー歴でも初めての経験だ。ソフィーさんが味オンチだとしたら、今後サバスの改良開発はえらく難渋することになる。
「うーん、これたぶん戦闘があることを見越して持ってきてくれたんですよね。」
「まぁそうですね。衛生兵まで隊に組み入れましたから。」
「戦闘後に飲むのが最適なのですが、龍族の方に飲ませて外交問題に発展しないでしょうかね?」
「・・・どうしましょうか?」
「止めておきましょう。少しでも弱っていたら消化できないかもしれません。」
携帯用のプロテインが手に入ったことは嬉しいが、使いどころが難しい道具になってしまった。完全にタンパク質が手に入らない状況でしか使いたくは無いな。この世界に来てから初めて、私は筋肉に役立つ道具をもらって嬉しくないという感情を抱いた。これを量産しちゃったのか。
立ち話をしていたらフェイスさんとツイグがやって来た。
「マッチョ、あとの処理はタカロスや龍族に任せて俺たちはメシ食って休むぞ。明日には限界領域へと向かう。」
「フェイスさん、旅を中断してマッチョさんと王都に帰ってもらえないでしょうか?後処理は我々の部隊がやりますので。」
「なにか急ぎの用件でもあるのか?」
「ドワーフの勇者が人間国に向かっている途中です。面識のあるマッチョさんには王宮にいてほしいんじゃないでしょうか?」
もうそういう時期か。あっという間だったな。
「王からの正式な要請か?」
「いえ、特に言われてはいないので私の想像ですが。」
「・・・だったら限界領域までコイツを連れていく。ドワーフの勇者と面識のある人間だったら師匠がいるだろう。限界領域がどういうところなのか知っておかないと、後々マッチョが苦労することになるかもしれん。次に行く機会もそうそう無いだろうしな。」
フェイスさんのこの手の読みって当たるんだよな。
「私もフェイスさんがそこまで言うのであれば行ってみたいです。」
「俺も行ってみたいっす。今ならトロールと遭遇しないで済むかもしれないっすからね。」
そうか。近隣の魔物を根絶やしにした可能性があるのか。とんでもない僻地に行くのであれば、今がベストなタイミングかもしれない。
「部隊にトロールの死体を里の外に出させましょう。衛生兵も連れて来たので怪我人の手当ても我々が手伝います。」
「よろしい。我らもずいぶんと傷ついた。感謝するぞ、人族の軍人。」
「龍国と人間国の交流の復活を考えておいてください。これは人間王からの正式な要請でもあります。」
「固有種の出現に勇者の誕生。ふむ・・・ここが変化の時か。皆の説得は難しいと思うが善処しよう。」
何度も戦って楽勝であったはずのトロールが、組織して集団で龍族の里を襲ってきたのだ。
そして精霊の恩寵の顕現と、勇者の出現。それは魔王復活も意味する。龍族といえどもひとつの種族だけで里や生活を支えきれなくなってくるかもしれない。
さて。仕事も終わったし日も暮れる。
専門家が来て怪我人を診察している以上、素人がどうこう言えることは無いな。
小屋に戻って休憩しようとしたら、さっきの体脂肪の人が話しかけてきた。
「あなたがマッチョさんですよね?身体を見れば分かると王宮薬師のソフィーさんから聞いています。改めましてタカロス大尉です。山岳戦と補給が主な任務です。」
要するに山のスペシャリストということか。
「マッチョです。ソフィーさんが私になんの用なのでしょうか?」
「あまり聞きなれない薬というか飲みものの量産に成功したので、今回は回復薬と一緒にマッチョさんに持っていけと言われました。名前はえーとたしか・・・」
「サバスでしょうか?」
「そうそう、サバスです。」
あれの量産に成功したというのか。ということは大量のタンパク質の合成に成功したのか、あるいは抽出に成功したのか。経緯がどうであれ飲んでみたい。
「瓶に適量水を入れて、振って混ぜるそうです。あまり水には溶けないようで。」
タカロスさんが出してきたものは間違いなくサバスだ。あのマズさは衝撃的だったからなぁ。
「作って飲んでみてもいいでしょうか?」
「勿論です。そのために持ってきたのですから。」
とりあえず希釈量は1.5倍にしておく。マズいと飲み込むのが大変だからだ。
一息吐いて気合いを入れる。・・・頼むぞっ!
ぐほぅっ!
なぜだ?より一層マズくなっているではないか。
ソフィーさんには味に問題があるという話をしたはずなのに。量産のほうを重視してしまったのか、あの人は。これではプロテインではなくただの薬だな。実際にソフィーさんは薬と考えているのかもしれない。
「マズいですよね、それ。効果はあると言っていたんですが、うちの部隊でも途中で気分が悪くなってしまって飲み干せる人間はいないんですよね。作戦行動中は使用禁止ということにしました。」
そうだろうなぁ。前にいた世界でも経験したことのない味だ。あまりにとんでもないレベルのマズさを経験すると、肝臓への負担が心配になるものなのか。プロテインのマズさが筋肉に悪影響を及ぼしそうな気になるなど、私のトレーニー歴でも初めての経験だ。ソフィーさんが味オンチだとしたら、今後サバスの改良開発はえらく難渋することになる。
「うーん、これたぶん戦闘があることを見越して持ってきてくれたんですよね。」
「まぁそうですね。衛生兵まで隊に組み入れましたから。」
「戦闘後に飲むのが最適なのですが、龍族の方に飲ませて外交問題に発展しないでしょうかね?」
「・・・どうしましょうか?」
「止めておきましょう。少しでも弱っていたら消化できないかもしれません。」
携帯用のプロテインが手に入ったことは嬉しいが、使いどころが難しい道具になってしまった。完全にタンパク質が手に入らない状況でしか使いたくは無いな。この世界に来てから初めて、私は筋肉に役立つ道具をもらって嬉しくないという感情を抱いた。これを量産しちゃったのか。
立ち話をしていたらフェイスさんとツイグがやって来た。
「マッチョ、あとの処理はタカロスや龍族に任せて俺たちはメシ食って休むぞ。明日には限界領域へと向かう。」
「フェイスさん、旅を中断してマッチョさんと王都に帰ってもらえないでしょうか?後処理は我々の部隊がやりますので。」
「なにか急ぎの用件でもあるのか?」
「ドワーフの勇者が人間国に向かっている途中です。面識のあるマッチョさんには王宮にいてほしいんじゃないでしょうか?」
もうそういう時期か。あっという間だったな。
「王からの正式な要請か?」
「いえ、特に言われてはいないので私の想像ですが。」
「・・・だったら限界領域までコイツを連れていく。ドワーフの勇者と面識のある人間だったら師匠がいるだろう。限界領域がどういうところなのか知っておかないと、後々マッチョが苦労することになるかもしれん。次に行く機会もそうそう無いだろうしな。」
フェイスさんのこの手の読みって当たるんだよな。
「私もフェイスさんがそこまで言うのであれば行ってみたいです。」
「俺も行ってみたいっす。今ならトロールと遭遇しないで済むかもしれないっすからね。」
そうか。近隣の魔物を根絶やしにした可能性があるのか。とんでもない僻地に行くのであれば、今がベストなタイミングかもしれない。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる