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63 マッチョさん、助言する
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体調の話をあとでフェイスさんにしたら、とりあえずやれることをやっておけと言われた。他に対応のしようが無いからなぁ。現場でどれほど動けるものなのだろうか。とりあえずフェイスさんと模擬戦をやってみたところスタミナがほとんど無かった。この体調で睡眠不足まで加わったら誰だってイライラする。
ツイグは龍族の二人とずいぶんと仲良くなったようだ。クレイとダニエル。私には見分けがつかないが、ツイグには分かるらしい。彼の場合はあの性格も武器だな。
三週間ほどダラダラ過ごしたのち、再びフェイスさんと模擬戦をやった。二本取れたか。動きもスタミナも戻ってよかった。二週間前にトロールに攻めてこられていたら、私が持たなかった。
模擬戦の汗を流しに清流へと向かった。ジェイさんが水へと向かう私を見てついてきてくれた。ジェイさんはこの里で一番の強さをもった龍族なのだそうだ。だからこそ墓守として遺跡まで派遣されたのだろう。
「・・・水に入るつもりじゃないだろうな?」
「少し確認してから入ります。今度は浮くはずです。」
「・・・あの辺を使え。胸までの高さしかないし、水の流れも遅い。」
「ありがとうございます。」溺れかけたのによく許可が下りたものだ。それだけ信仰が大切にされているのだろう。
汗を流し、水面に写る自分の肉体を見る。キレは失われわずかに脂肪が残っている感覚がある。これで体脂肪率一ケタということは無いだろう。であるならば私は水に浮くはずだ。
水面で膝を抱え込んで丸くなる。
浮いた。
なんとか体脂肪率を上げることに成功したようだ。
あとはいつも通りの生活を送り、襲ってくる魔物を倒せばいい。そうやって今回も生き残れるはずだ。
「ちゃんと浮いたので、少し泳いでみてもいいですか?」
「・・・好きにしろ。」
泳いでみるとこの清流の凄さを実感できる。10m、いや20m先でも見えそうなくらいの透明度だ。龍族がここを聖地とした気持ちも分かる。清流という自然の美しさが持つ光と水の対比に、神や精霊の存在を感じたとしてもおかしくない。さらに食料まで恵んでくれるのだ。
私が溺れかけた、いや溺れた場所の近くまで泳いでいた。
深いな。10~15mというところか。水の流れはゆっくりとしている。
うん。水底にあるあの岩を見たんだった。
うん?
どこかで見たような形だな。
・・・!
あれは石碑じゃないのか?ドワーフの里で見たものとおなじ形をしている。
水から上がってジェイさんに話かけてみた。
「見ていてくださってありがとうございました。泳げました。」
「・・・見ていたから知っている。」
「龍族の方々は深いところまで泳げるものなのですか?」
「水の中は我らの領域だ。30分程度なら呼吸しないでも泳ぎ続けられる。」
それは凄いな。
「あのあたりに岩が埋まっていたんですが、あれって自然の岩っぽくないんですよね。」
「・・・コトハギの岩と言われているものだな。なにか記号のようなものが彫られている。」
コトハギ。なにか神事に用いる言葉だった気がする。
「その記号のようなものって、解読されているんでしょうか?」
「いや。我らは歌や踊りでものごとを伝えるからな。文字を扱うのは人族やエルフ族だけだろう。」
初代王の暗号文であれば、たぶんあれは例の石碑だ。うーん、先に族長に話した方がいいだろうか?
「ジェイさん、ちょっと族長のところへ案内していただけませんか?」
「・・・族長はトロール対策のために多忙だ。急ぎの話なのだろうな?」
「ええ。」
「なら案内しよう。」
少しだけ彼とはくだけた関係になれた気がする。
どうにも龍族というものは、自分たちの信仰については熱心だが他人や他種族に対してあまりに興味が薄い。ソロウで浴衣まで作った龍族というのは、よっぽど変わり者だったのだろうな。
「族長、マッチョを連れてきました。コトハギの岩について話があるそうです。」
フェイスさんと軍議の最中だったようだ。
「お邪魔でしたでしょうか?」
「いや。話はだいたい終わったところだ。どうしたマッチョ?」
「清流の底にある岩のひとつに、初代王の暗号文が彫ってあるかもしれません。」
「例のアレか。祈ったら勇者になるやつか。」
「たぶんそうだと思います。」
族長がいまいちピンと来ていなかったようなので、私はどういう経緯でドワーフに勇者が産まれたのか話した。
「ふーむ、そういうことがあったのか。聖地に埋めたのか、もともと聖地だったのか・・・」
「マッチョ、それ読めないのか?」
「水深でざっくり15mくらいですよ?そんなに沈んだら溺れてしまいますよ」実際につい最近溺れそうになった、いや溺れたのだ。
「記号を書いてあることは知っていたが、それが意味を持つとなると確認はした方がいいだろうな。ジェイ、彼を沈めて読ませることができるか?」
「やれます。行くぞマッチョ。」
沈めるってなんだ?
清流に私が潜ったあとに、ジェイさんが上から泳いで私を押す。
これでどれほど深くても私は潜れる。まぁ息が続く限りの話だが。
なるほど。沈める、だ。
水中なのでぼやけて見づらい。目で確認できない部分は指先で文字を確認する。何度か息継ぎをするために上昇し、再び挑戦する。ほぼドワーフの里にあった石碑と同じ文章だった。
”精霊の恩寵を求める龍族に永く伝える。この場で強く求めよ。さすれば与えられん”
決まりだな。ここで祈ればおそらく水の精霊の恩寵が得られるだろう。
「ドワーフの里にあったものと同じ文章が書かれています。ここで祈れば水の精霊の恩寵が得られるかもしれません。」
「我らが祈るべき対象がこことはな・・・あまりに身近すぎて意識すらしたことがなかった。」
カラカラと音が聞こえた。鳴子の音か?
「来たぞ!全員配置に着け!マッチョ来い!作戦通りに行くぞ!」
龍族も殺気立つ。
これから戦争が始まるのだ。
ツイグは龍族の二人とずいぶんと仲良くなったようだ。クレイとダニエル。私には見分けがつかないが、ツイグには分かるらしい。彼の場合はあの性格も武器だな。
三週間ほどダラダラ過ごしたのち、再びフェイスさんと模擬戦をやった。二本取れたか。動きもスタミナも戻ってよかった。二週間前にトロールに攻めてこられていたら、私が持たなかった。
模擬戦の汗を流しに清流へと向かった。ジェイさんが水へと向かう私を見てついてきてくれた。ジェイさんはこの里で一番の強さをもった龍族なのだそうだ。だからこそ墓守として遺跡まで派遣されたのだろう。
「・・・水に入るつもりじゃないだろうな?」
「少し確認してから入ります。今度は浮くはずです。」
「・・・あの辺を使え。胸までの高さしかないし、水の流れも遅い。」
「ありがとうございます。」溺れかけたのによく許可が下りたものだ。それだけ信仰が大切にされているのだろう。
汗を流し、水面に写る自分の肉体を見る。キレは失われわずかに脂肪が残っている感覚がある。これで体脂肪率一ケタということは無いだろう。であるならば私は水に浮くはずだ。
水面で膝を抱え込んで丸くなる。
浮いた。
なんとか体脂肪率を上げることに成功したようだ。
あとはいつも通りの生活を送り、襲ってくる魔物を倒せばいい。そうやって今回も生き残れるはずだ。
「ちゃんと浮いたので、少し泳いでみてもいいですか?」
「・・・好きにしろ。」
泳いでみるとこの清流の凄さを実感できる。10m、いや20m先でも見えそうなくらいの透明度だ。龍族がここを聖地とした気持ちも分かる。清流という自然の美しさが持つ光と水の対比に、神や精霊の存在を感じたとしてもおかしくない。さらに食料まで恵んでくれるのだ。
私が溺れかけた、いや溺れた場所の近くまで泳いでいた。
深いな。10~15mというところか。水の流れはゆっくりとしている。
うん。水底にあるあの岩を見たんだった。
うん?
どこかで見たような形だな。
・・・!
あれは石碑じゃないのか?ドワーフの里で見たものとおなじ形をしている。
水から上がってジェイさんに話かけてみた。
「見ていてくださってありがとうございました。泳げました。」
「・・・見ていたから知っている。」
「龍族の方々は深いところまで泳げるものなのですか?」
「水の中は我らの領域だ。30分程度なら呼吸しないでも泳ぎ続けられる。」
それは凄いな。
「あのあたりに岩が埋まっていたんですが、あれって自然の岩っぽくないんですよね。」
「・・・コトハギの岩と言われているものだな。なにか記号のようなものが彫られている。」
コトハギ。なにか神事に用いる言葉だった気がする。
「その記号のようなものって、解読されているんでしょうか?」
「いや。我らは歌や踊りでものごとを伝えるからな。文字を扱うのは人族やエルフ族だけだろう。」
初代王の暗号文であれば、たぶんあれは例の石碑だ。うーん、先に族長に話した方がいいだろうか?
「ジェイさん、ちょっと族長のところへ案内していただけませんか?」
「・・・族長はトロール対策のために多忙だ。急ぎの話なのだろうな?」
「ええ。」
「なら案内しよう。」
少しだけ彼とはくだけた関係になれた気がする。
どうにも龍族というものは、自分たちの信仰については熱心だが他人や他種族に対してあまりに興味が薄い。ソロウで浴衣まで作った龍族というのは、よっぽど変わり者だったのだろうな。
「族長、マッチョを連れてきました。コトハギの岩について話があるそうです。」
フェイスさんと軍議の最中だったようだ。
「お邪魔でしたでしょうか?」
「いや。話はだいたい終わったところだ。どうしたマッチョ?」
「清流の底にある岩のひとつに、初代王の暗号文が彫ってあるかもしれません。」
「例のアレか。祈ったら勇者になるやつか。」
「たぶんそうだと思います。」
族長がいまいちピンと来ていなかったようなので、私はどういう経緯でドワーフに勇者が産まれたのか話した。
「ふーむ、そういうことがあったのか。聖地に埋めたのか、もともと聖地だったのか・・・」
「マッチョ、それ読めないのか?」
「水深でざっくり15mくらいですよ?そんなに沈んだら溺れてしまいますよ」実際につい最近溺れそうになった、いや溺れたのだ。
「記号を書いてあることは知っていたが、それが意味を持つとなると確認はした方がいいだろうな。ジェイ、彼を沈めて読ませることができるか?」
「やれます。行くぞマッチョ。」
沈めるってなんだ?
清流に私が潜ったあとに、ジェイさんが上から泳いで私を押す。
これでどれほど深くても私は潜れる。まぁ息が続く限りの話だが。
なるほど。沈める、だ。
水中なのでぼやけて見づらい。目で確認できない部分は指先で文字を確認する。何度か息継ぎをするために上昇し、再び挑戦する。ほぼドワーフの里にあった石碑と同じ文章だった。
”精霊の恩寵を求める龍族に永く伝える。この場で強く求めよ。さすれば与えられん”
決まりだな。ここで祈ればおそらく水の精霊の恩寵が得られるだろう。
「ドワーフの里にあったものと同じ文章が書かれています。ここで祈れば水の精霊の恩寵が得られるかもしれません。」
「我らが祈るべき対象がこことはな・・・あまりに身近すぎて意識すらしたことがなかった。」
カラカラと音が聞こえた。鳴子の音か?
「来たぞ!全員配置に着け!マッチョ来い!作戦通りに行くぞ!」
龍族も殺気立つ。
これから戦争が始まるのだ。
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