ち○○で楽しむ異世界生活

文字の大きさ
上 下
14 / 111

14 編成

しおりを挟む
 将軍とともに国境にある砦まで向かった。
 道中では見知った顔や見知らぬ顔が測量を行っていた。彼らはとっくにアラビア数字をマスターしたらしい。誰か数字について教えてほしいという人間がいたらできるだけ教えろ、という指示を出している。商人や徴税人ならその価値に早く気が付くはずだ。
 国境近くに着くと、狭くて入り組んだ地形を利用した頑強そうな砦が見えてきた。簡単に落ちそうな砦には見えないのに、これが抜かれたのか?
 「ここでどういう負け方をしたんですか?」
 「数で押されました。敵の高機能の鎧のせいで我々の弓は通らず、攻城用の槌で城門を破壊され、ほぼ一方的に蹂躙されたと聞いています」
 攻撃手段が無いところが一番キツいな。

 「アラヒトさんならどう戦いますか?」
 「この砦の先に似たような隘路があれば封鎖し、その上で砦周辺の山ごと削り落とします。生き埋めにする感じです」
 通常武器が効かないのであれば、大質量なもので対抗するしかない。
 「その作戦は既に考えていましたが却下されました。精霊が納得してくれないというのです」
 預言者様がそれでは国にとって先が無いと言っているのか。他にどうすればいいんだ?
 「打って出ようにも武器自体が効かないワケですし・・・砦の向こうの地面はどういう状態ですか?」
 「水はけのよい岩のような場所ですが・・・」
 「大量の粘土を用意しておきましょう。焼き物が立派でしたから粘土も用意はできるはずです。敵の出陣を確認したら粘土を路上に散布。雨が降らないようなら大量の水を流し込みます。重装歩兵ならそれで動けなくなるでしょう」
 「そんな足場にしてしまったら我々も動けませんよ?」
 「底が広い、木の皿のようなものを作って履けば動けます。あとは弱って動けなくなるまで待って、重いこん棒かなにかで叩けばいいでしょう。相手の装備も奪えます」
 「本当にそんなもので浮くんですか?」
 「あとで試してみるといいでしょう。沈まなければいいんです」
 「ふむ・・・検討してみます」
 素人考えだが、地形戦としては悪くないはずだ。
 次に攻めて来る時もおそらく相手はこちらをナメてかかってくる。そこを突けば一度くらいは退却させられるだろう。
 「指揮官の首のひとつでも取れたら、王も溜飲が下がるのではないでしょうか」
 「その程度で落ち着いてもらえればいいんですがね・・・どうにも前線に出たがるので・・・」

 行き帰りの移動中に軍の編成について将軍に聞いてみたが、なんというかかなり適当だった。
 王直下の騎馬隊がざっくり300。指揮官は王の下に将軍がいて実質的な指揮をする。その下では有力な名家が子飼いの連中を従えて戦闘する。
 鎌倉武士のようなものか。数については把握すらしていないようだ。
 軍人は屯田兵のようなもので、ふだんは別の仕事をしていて戦争になると甲冑を持って戦いに出る。職業軍人がいてひとつの軍があるという感じではない。ナントカ家という家の名のもとで戦っていて、家同士の連合軍が国難に立ち向かうという印象だ。
 「連携が取れないとなると集団戦が難しいですね」
 「そもそもとして一騎打ちこそが誉れだという感覚があるのですよ。集団で少数の敵を叩くとなるとやる気を失いますね」
 うーん・・・
 国軍として再編成ができないのであれば、せめて軍らしい布陣を使えたらいいんだが。
 五人編成、十人編成、百人編成、という具合に教えた。各部隊には長がいて、長の命令で動く。長が倒されたら副長の指示で動くか、他の隊に編成し直す。   
 数で連携することで、個の強さではなく集団としての強さへと変える。一人で戦うよりも死角は減るし、疲れたら休める。人を集団として捉えて戦うという意識が無いのは、おそらく数字の欠如に因るものなのだろうな。
 古代中国では既に組織化された軍隊があった。だがこの世界ではまだそういう常識は無い。

 「家で管理するのではなく、数で管理して軍を運用するということですか」
 「そうです。家をひとつの塊として考えると戦力が極端にバラつきます」
 「戦場では細かい数では戦えませんよ。戦場の空気というものがありますから。なにより一騎討ちの否定など王は認めますまい」
 そういう側面もあるのだろうが・・・それほど常識化しているというのであれば、組織として動かせればますます効果的だろうな。
 「他国の軍隊でもそういう考え方なのですか?」
 「家が基本であり、武勲は一騎討ちに拘ります。私もできることなら強い相手と一対一で戦いたいですよ」
 ということは、兵の質や組織で負けているのではなく、純粋に武器の質だけで負けているのか。
 強い武器だけ教えて作って今の軍で戦ってもらう・・・いや、大量生産ができないな。一日一個作れても三ヵ月で100個作れるかどうかだ。まともな運用はできない。やはり軍自体を再編させた方がいいが、ここまで頑なな相手にそこまで迫れるのか。
 「・・・少し考える時間をください」
 既に存在している社会制度や通念ほど壊しづらいものは無い。
 変化や破壊には数世代もの時間がかかるだろう。もしくは国が滅びるほどの強いインパクトが変化のきっかけになるかもしれないが・・・
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ピンクの髪のオバサン異世界に行く

拓海のり
ファンタジー
私こと小柳江麻は美容院で間違えて染まったピンクの髪のまま死んで異世界に行ってしまった。異世界ではオバサンは要らないようで放流される。だが何と神様のロンダリングにより美少女に変身してしまったのだ。 このお話は若返って美少女になったオバサンが沢山のイケメンに囲まれる逆ハーレム物語……、でもなくて、冒険したり、学校で悪役令嬢を相手にお約束のヒロインになったりな、お話です。多分ハッピーエンドになる筈。すみません、十万字位になりそうなので長編にしました。カテゴリ変更しました。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...