268 / 282
第十四章
異変
しおりを挟む「──────と、まぁこんな感じじゃ」
記憶の映像が途切れ、再び荒野に帰ってきたところでセンリがそう口を開いた。
以上で、三人の記憶をブレンドした過去視の旅行は終了。
なんだか長い映画を見ていたような気分だ。
今まで曖昧だった原初について実際に目にして、九尾の狐のとんでもない強さを肌で感じた。
解説もありがたかったな………。
参考にするには十分すぎる情報を得られただろう。
「みんな、ありがとう。すごく助かったよ」
「どういたしましてじゃ」
「えへへ~。昔のボクを見られるのはちょっと恥ずかしかったけどね~」
「うふふ、お役に立てたのなら良かったわ」
さて、それじゃあ帰ってイナリの看病を変わらなくちゃな。
皆に任せっきりじゃ申し訳ない。
あいにくと、九尾の狐に関しては"とにかくヤバそう"としか分からなかった。
何かイナリの助けになればと思ったんだが……………まぁ、このまま体調が良くなってくのを見守るしかないか。
「………………」
「?センリ、どうかしたの?」
目的も果たしたので、〈千里眼〉の解除作業に取り掛かろうとしていたセンリが、ふとその動きを止め難しそうな表情を浮かべる。
顎に手を当ててしばらく重巡してから、やはり気になるのか顔を上げ。
「いや…………ちと、違和感を感じての。先程までワシらが覗いていた記憶に、ワシらとは───────」
ビキビキビキッ!!
「「「「 !? 」」」」
弾かれたように、全員が音のした方向に視線を向ける。
遥か上空だろうか。
いや、意外とそこまで遠くないのか。
下から見上げるのでは判断しずらいが、どうも空間自体にヒビが入っているようだ。
記憶映像ではない。
スキルが作り出した空間に、直接ヒビが加えられたのである。
「何者かがスキルに干渉しとる!みな、ワシの手を──────!」
またもやセリフを遮られ、地面が崩壊。
まるでパズルのように崩れ去った大地の裏側は、底の見えない漆黒で埋め尽くされていた。
重力に従い、吸い込まれるかのようにその中に落下していく。
掴まるものなんてあるはずもなく、またスキルや魔法の使用も封じられているため、今は自由落下に身を任せるしかない。
───────────。
いつの間にかセンリも、シュカも、ヤツヒメも消えたひとりぼっちの世界で、何者かの声が聞こえた。
奥からだ。
未だ漆黒以外の何も見えない穴の奥から、確かに声が聞こえた。
女性の声だろうか。
どこかで聞き覚えのある、優しそうな声色。
やっと姿を現した定まらぬシルエットへと、俺はそっと手を差し出して───────。
「マシロっ!」
「───────はっ!?」
目が覚めた。
乱暴に肩を揺さぶられたことで覚醒した意識が、まだ動きたくないと訴えてくるが、気合いで乗り越えて片腕を付く。
容赦なく差す光に目を瞬かせると、遅れて重い頭痛が襲いかかってきた。
まるで質の悪い睡眠をたっぷりさせられたかのような、独特の不快感が体を支配する。
「マシロ、無事かっ!?」
「ああ…………最後のあれは、なんだったの………?」
突如として空中に入ったヒビ割れ。
スキルが崩壊する直前のセンリからは、"何者かの干渉"という言葉が出ていた。
あの声の主が犯人か………?
いや、あれは関係ない。
それよりもだ。
「この気味が悪い気配…………」
「うむ、まずい展開になったのぅ。鬼人のクニが、攻め入られておる」
城を囲むように跋扈する、なんとも気味が悪いヘドロの塊のような気配。
大きいものから小さいものまで大小様々。
どうやら俺達が〈千里眼〉の中にいる間に、鬼人のクニはとんでもない事になっていたらしい。
話しているうちに頭痛は治まってきたので、体の倦怠感は魔法で何とかして窓に向かう。
この部屋唯一の窓を開けると、そこには驚きの光景が広がっていた。
『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!』
ズズゥンッ………とその巨体を引きずりながらこちらに向かって侵攻していたのは、黒いスライムのような何かだった。
その体は城と同等…………いや、それ以上の大きさを誇り、流動体ならではの特殊な動きでのそのそと進む。
攻め入った敵はこいつだけではない。
空を優雅に飛ぶトンビのようなやつに、人型のやつ。
さらには手長足長の巨人型に、四足歩行の動物型。
種類は沢山あれど、全てが一様に漆黒の体を有し、また幽霊のような不安定な気配を発している。
「あれは"妖呪"だね~」
「ようじゅ?」
「そ。言わば怨念の塊だよ。この世への未練で、あの世へ行けなかった妖怪の成れの果て」
俺より前に目覚めていたらしいシュカが、部下の鬼人に指示を出し終えたのか戻って来た。
未練を残して死んだ妖怪の成れの果て…………幽霊みたいなものってことか。
シュカ曰く、妖呪となってしまうと生前の記憶や理性はほとんど失われ、代わりに増幅された恨みなどの感情に従って、ひたすらに歩き回ると言う。
基本的には何かを求めるように歩を進めるのが彼らの習性であり、それだけならば実害はそこまで無い。
しかし、稀に攻撃性能を開花させた個体や、負の感情が強すぎて凶暴化した個体が居るのだ。
彼らの脅威度は中々に侮れないものがある。
「"風魔の陣"」
一番手前で妖呪を率いていた巨人の頭部が、ドパッ!と弾けて黒い残穢を散らす。
頭を失った巨体はそのままぐらりと後ろに傾き、倒れながらサラサラと溶けて消えてしまった。
空中に…………人?
ちょうど妖呪の頭があった位置に、小柄な人が浮かんでいるのを見つけた。
先程の妖呪を倒した張本人であろう。
空中に浮かんだ人物もこちらに気がついたようで、振り抜いた槍を払い、部屋のバルコニーに向かって降下してくる。
近づくにつれ、その人物がよく見知った顔なことに気がついた。
「久しいな、マシロ」
「クラマ!」
槍を携え、ふっと微笑んだ黒髪緑メッシュの若き少年。
名をクラマ。
かつて大天狗としてその名を轟かせた、俺の友人である。
15
お気に入りに追加
572
あなたにおすすめの小説
異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。
~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。
破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。
小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。
本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。
お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。
その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。
次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。
本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】
雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。
そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!
気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?
するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。
だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──
でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!
【物真似(モノマネ)】の力を嫉妬され仲間を外された俺が一人旅を始めたら……頼られるし、可愛い女の子たちとも仲良くなれて前より幸せなんですが?
シトラス=ライス
ファンタジー
銀髪の冒険者アルビスの持つ「物真似士(ものまねし)」という能力はとても優秀な能力だ。直前に他人が発動させた行動や技をそっくりそのまま真似て放つことができる……しかし先行して行動することが出来ず、誰かの後追いばかりになってしまうのが唯一の欠点だった。それでも優秀な能力であることは変わりがない。そんな能力を持つアルビスへリーダーで同郷出身のノワルは、パーティーからの離脱を宣告してくる。ノワル達は後追い行動ばかりで、更に自然とではあるが、トドメなどの美味しいところを全て持っていってしまうアルビスに不満を抱いていたからだった。
半ば強引にパーティーから外されてしまったアルビス。一人にされこの先どうしようとか途方に暮れる。
しかし自分の授かった能力を、世のため人のために使いたいという意志が変わることは無かったのだ。
こうして彼は広大なる大陸へ新たな一歩を踏み出してゆく――アルビス、16歳の決断だった。
それから2年後……東の山の都で、“なんでもできる凄い奴”と皆に引っ張りだこな、冒険者アルビスの姿があった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる